サタンちゃまとサタンの城2 サタンちゃまの記憶
やっと見つけた研究室で俺を待っていたのがギジェルと名乗る白衣を纏い。セミロングでシャギーが入った銀髪の美しい女性。
ただし、美しい薔薇には棘があると言うモノ。彼女の顔右半分が機械化していてちょっと怖いマッドサイエンストな印象。
そんな彼女が俺を待ってたのだが、例のごとく記憶にない。
「す、すまにゃい……記憶が失われているせいであにゃたのこと思い出せにゃいのだ……」
毎度俺に忠誠を誓う部下と再会する度に、この罪悪感を覚える。本当良心が響いて胸が痛いよ。
とは言え一つ疑問。俺はサタンだとして、なんで良心なんかあるのかな?
そもそも悪魔に良心あるのがおかしい。まぁ、その常識が果たして正しいのか分からないよ。
「それは僕たち天使がサタンの記憶を封印したからだよ」
「にゃっ!?」
まだ同行していたガブリエルさんが背後から答えた。
「しかし、記憶の封印を解くことにしたよ」
「サタンちゃまの記憶を?」
明らかに危惧するように目を細めた聖女さまがガブリエルさんに聞いた。
「ああ、確かに過去に悪の限りを尽くしていたサタンの記憶を戻すのは危険だけど、そのために人間に生まれ変わらせ神崎英太と言う良心を埋め込んだのだよ」
ガブリエルさんがサラッと説明したけど衝撃的な事実言ってないかい?
「まぁ、生まれ変わりと言っても君の場合は人工的に作った人間の肉体でサタンに覚醒した時点で消える運命だったんだよ」
「にゃっ!」
またサラッとショッキングな事実を言われた。俺は脳の処理が追いつかないので口をパクパクさせた。
「消費期限十六年の偽りの赤ん坊だった君を政府に連れて来たのが神崎エイジと言うエンジェルゴットだ」
「神崎ってアタチと苗字が同じにゃっ……」
「そりゃそうだろう。名づけたのがエイジなんだ」
「にゃっ……」
だったら今まで俺を育ててくれた行方不明の両親は何者だ?
「そうそう。君を育ててくれた両親は政府機関の職員だよ」
「にゃっ!?」
立て続けにショッキングな事実を俺に告げるガブリエルは鬼か?
メンタル弱い俺は貧血でクラクラしてきたけど、片ひざついて耐えた。まぁ、これが小学校なら、クラス委員長が騒いで保健室に連れて行かれる場面だな。
「じゃあっアタチの両親は?」
「ちゃんと生きて政府の元の職場に戻って仕事してるよ」
「にゃっ!」
残酷な事実を淡々と言うな。それって偽りの両親は一生俺の元に帰って来ないってことだろう。
まぁこれで一つ謎が回収された。
次の謎は俺の悪魔王時代の記憶だ。
「ギジェル悪いが、皆に過去なにがあったのか記憶映像を見せたい」
「……天使に協力するのは正直シャクですが……サタン様のためなら致し方ございませんね」
ギジェルは研究室にある大型スクリーンを起動させた。最初の映像の内容は今から訳1300年前に行われた悪魔軍と天使軍との最終戦争の映像。この頃から鮮明な映像で記録されていたのが驚きだ。
ギジェルが言うには、いわゆる霊界の科学技術はここ物質界より遥かに進んでいるらしい。
しかしそんな大規模な最終戦争が勃発したのに知られていないのは、地獄、魔界、霊界、天界を含めたソウルワールドと言う魂の世界で起きた戦争だかららしい。
そして1000年後再び今度はこの物質界。つまり地球で第二次最終戦争が起きたとガブリエルさんが語った。
戦争を引き起こしたのは俺ことサタンらしい。にわかに信じられなかったけど、映像に映った無邪気に笑って悪魔に命令するサタンちゃまの姿を見て絶句した。
まず地球に侵攻したサタン軍は世界の軍事大国を挑発し、悪魔五将軍を使って返り討ちにして叩き潰して来た。
そしていよいよサタン軍が日本に攻め込んで来た映像が流れた。
空を浮かぶサタン城と巨大な空中戦艦の数々。しかし天使軍が駆けつけ複数の空中戦艦が対抗し、日本で最終決戦が行われた。
映像には日本各地で悪魔五将軍と決闘する天使騎士や並行世界から召喚された戦士の映像が流れた。
中には、約50メートサイズの黒光りするスーパーロボットが巨大悪魔と戦う映像が流れた。
で、以前クエストをこなした愛知県日間賀島での過去の映像が流れた。
五将軍最強と呼ばれる武闘派悪魔のソルトが、束になって襲い掛かる天使たちをたった一人で返り討ちにする映像。
鍛え抜かれた上半身裸で燃え盛る炎の髪に表情が見えない仮面を被った身長約230センチのソルトが腕組みしていた。その態度からかなり傲慢な性格をうかがわせた。
しかし、当時の米軍空母を持ちあげるソルトのパワーは計り知れない。
五将軍最強と呼ばれるのも納得だ。是非悪魔ガチャで引くことが出来たら魔王軍なんて敵じゃないな。
で、五将軍は次々と天使軍に敗れて最後に残ったのが褐色肌のスキンヘッドのオネエ悪魔のヒュドラスだ。
彼と戦う前にサタンが前座にと真っ赤な肉食恐竜悪魔を送り込んだ。
しかも条件は対戦者は人間限定。当然誰も怖気づいて手をあげなかったところ。神崎英治と名乗る勇気ある暴走族の少年が名乗り出て戦い勝利した。
その勇気を神さまに認められた彼がのちに、天使と神のあいのこのエンジェルゴットに転生して赤ん坊の俺を政府に預けたらしい。
だから俺の苗字と一緒なんだな。
それでヒュドラスも倒され余裕こいていたサタンちゃまが、慌てて逃げ出そうとする映像。『にゃあにゃあ』笑って調子に乗っているから追われる身になる。
そんなピンチにあの悪魔騎士クレナが現れるが天使軍に圧倒された。すると空から小さな戦闘機が現れ人型に変形してサタンちゃまを助けた。
なんでもサタン側の並行世界の助っ人で、助けた理由が友達だからと言った。
いつしか頭の中で響いた『トモダチ』と言った声の主はもしかして彼なのかも知れない。
サタンちゃまのトモダチは圧倒的な火力で天使たちを圧倒したが長くは続かなかった。
それは勇者チームが天使軍の最後の助っ人として参戦して圧倒的な勇者剣の力で俺のトモダチに圧勝した。
しかし彼のおかげでサタン城に戻れた過去の俺は逆上して京都に攻め込んだ。しかし、天使軍所属虹不死鳥号艦長ユウキの活躍によって撃沈され、のちに駆けつけたトモダチの背中に乗って脱出を図った。
しかし、待ち受けていた勇者にトモダチが破壊され俺も、よりによって捕らえられてしまう映像で終わった。
もちろんその先の大きな出来事が沢山あるとガブリエルさんが言ったが、この城が記憶した映像はここまでらしい。
「ちょっと……サタンって無茶苦茶悪い奴じゃないの……?」
「確かにな……」
メリーと谷川シェフの会話が俺のハートをえぐった。
しかし、この映像はフェイクの可能性があるからまだ信じないぞ。だって考えて見ろ。巨大ロボに怪獣に神さまだの現実離れした荒唐無稽な映像を信じろと言うのが無理がある。
だから俺は他人事のようにしていた。ガブリエルさんに記憶を戻されるまでは……。
俺の額に手を当てたガブリエルさんが封印された記憶を解いた。
その瞬間。数千年のサタンの記憶が頭の中で洪水のように溢れた。
「にゃっにゃっ…………」
俺は過去にして来た悪行に耐えられなくなって、城を出てからスキを見て聖女パーティーから抜け出した。
逃げ出したのは怖いからだし、なにより植えつけられた良心が罪に耐えられず苦しくなったからだ。
行き場を失った俺は街中をトボトボと徘徊していた。
「お前っ!こんなところでなにやってんの?」
俺に声を掛けて来たのが唯一の親友の松川だった。凄い偶然だが助かった。
なんでめ彼は剣山の一件以来新たな冒険者チームに入ることが出来たそうだ。
それで俺は松川に聖女パーティーから抜け出して来たことを告げた。
「じゃあさぁお前っ俺らのパーティーに入れよ」
「にゃっ!」
なんと言う幸運。
居場所を失った俺は松川の誘いに食いついた。




