サタンちゃまと剣山の大蛇9
前衛に槍タイプのレッドデビルに後衛に弓タイプのレッドデビルを配置。残り剣、棍棒タイプは側面に配置して弓兵をフォロー。またはデビルラビットに乗せて戦わせる。
指揮するのは特殊個体の松尾が担当して、その他星1悪魔は前衛に回す。あとモスマン二体には俺を警護しつつ目玉ビームで後方支援だ。
で、この中で一番戦力のクレナには好きに暴れていいと言ったが、ガンとして首を縦には振らず俺から離れない。
嬉しいけど彼女は少々頑固で困ったものだ……。
「なにを出すかと思ったら、レッドデビルなんて雑魚じゃないの?」
トンガリ帽子を手でクイとあげるとドルチェルが嘲るように言った。
あと気づいたけど彼女はレッドデビルを知ってる素振りだ。確か三百年前に悪魔と戦ったと言っとからな。そうなるとほぼ全員がレベル1だし戦力的に期待出来ないから、皆に悪いが時間稼ぎになってもらう。
実はコッソリシールドピクシーを外に出して、はぐれた聖女さまたちを呼びに行ってもらっている。
クレナがいるとはいえ、果たしてそこまで持つか……。
「サタン様っ魔女に言わせていていいんですかい?」
弓を弾きながらレッドデビルの一人が振り向いて聞いた。
「にゃっ……良くにゃいっ!ここまでコケにされて黙ってられにゃいよにゃ?」
「へいっ!じゃっ一丁やりますか?」
「やるにゃっ!」
俺の掛け声と同時に悪魔たちが雄叫びをあげ一斉に攻撃を開始した。
ちょっと数は把握してなかったけど、これまで回したガチャ分の百五十位の悪魔軍勢が三人の英雄に押し寄せた。
いくら弱いと言ってもこれだけの数が一気に攻撃したら彼らだってタダでは済まない。
と、俺は内心たかを括っていた。
「懐かしいね〜無駄なのに雑魚が押し寄せる光景。ふふっこんな時は」
ドルチェルが右手をあげた。その手には尖端でクルクル回る水晶がついたロッドが握られていて、口元を三日月状に笑うと呪文を詠唱した。
「メガ・ファイヤーバースト!」
ロッドの先から軽トラ一台分の火球が発生して悪魔たちに向けて放った。
『ぐわっ!?』
『ギャッ!熱いっ!』
火球が爆発して下級悪魔たち全員吹っ飛んだ。
「不味いっ皆んな戻るにゃっ!」
まだ息があるけど、このまま戦いを継続したら死なせるのは分かりきっていた。だからすぐにファイルに戻した。ああ、甘いと言われようと、例え雑魚でも俺の大切な部下だから死なせはしない。
しかし一度戻すと半日は使えないし、皆深手を負ったから回復に一週間は掛かってしまうな……。
「あら、消えちゃった。数だけで皆大したことないのね?」
手鏡で自分の顔を見ながら余裕を見せるドルチェル。クソナルシスト魔女かよ。
魔女だけでも強いのに、伝説の英雄とか言うギガロムが剣を鞘から抜刀した。刀身だけでも2メートルありそうな大剣だ。
アレで斬られたら流石に不味い。そう思っているとツルッパゲの厳蔵が『拙僧に代われ』と要求した。そうしてくれるとありがたい。ハゲも強いんだろうけど、伝説の英雄よりはマシかと思う。
「好きにしろ」
「ありがとなギガロム。さて、拙僧の武器はこの肉体のみでゴワス。雑魚相手に本気出すのは大人気ないので手を抜いてやるでゴワスよ」
そう言って厳蔵は背中を向けた。手を抜くとはそう言うことか……俺はモスマン二体にそっと指示を出した。
モスマンが無い首をコクリとさげると、まん丸目玉を光らせビームを放った。
「ハッ!」
しかし厳蔵がバク転宙返りしてビームをかわすと、モスマンの前に着地して正拳突きを入れた。
「ぐふっ!」
「キャアッモス雄さんっ!」
腹部をおさえたモスマンが膝を落とし、横で見ていたピンクモスマンが悲鳴をあげた。
「モス美……奴は強い。に、逃げろ……」
「バカ言ってんじゃないのよっ!」
『にゃっ!』急に始まったクリーチャー同士のメロドラマ。どうでもいいけどお互いあだ名で呼び合う仲に発展してたのか……。
「……メスでゴワスか……なおさら本気を出すのは大人気ないでゴワスなっ!」
「ギャッ!」
厳蔵が容赦なくピンクモスマンの腹部を狙って蹴り飛ばした。
「モス美っ!」
「戻るにゃっ!」
吹き飛ばされたピンクモスマンが地面に叩きつけられる前にファイルに戻した。
これで残るはクレナとモスマンと松尾の三人だ。
「クレニャッ!」
「ハッ!なんとしてもこのクレナがサタン様をお守りします!」
駆け出したクレナが厳蔵に向かって剣を振った。しかしかわされお返しに蹴りが飛んで来た。
「なんのっ!」
蹴りを剣でガードするも後退させる威力。
「我慢出来んっ俺にもやらせろ!」
ツルッパゲの戦いを見ていて戦士の血が騒いだのか、ドレッドヘアーを振り乱してギガロムが向かって来た。その迫力は正にバーサーカーだ。
「くっ!お前たちっサタン様を守れっ!」
「ああっ!」
「ガッテンだいっ!」
クレナを中心にして三人がギガロムにむかえ打つ。
「邪魔だっ!」
「ぐっあっ!」
ギガロムの大剣の一振りが三人を蹴散らした。血飛沫をあげて転がるモスマンと松尾をファイルに回収した。そしてクレナも……。
「戻るのにゃクレニャッ!」
「お待ちください。サタン様……」
片ひざをついて、額から流れる血を押さえ負傷したクレナが左手で俺を制した。
「にゃにを言ってるにゃっ!コレ以上戦ったら死ぬのはクレニャにゃぞ!」
「いいえ、私が引いたら誰がサタン様をお守りするのです?」
「にゃっ……それでもっ!」
「ならんのですサタン様っ!」
「なにをごちゃごちゃと」
お互い一歩も主張が引けなくて押し問答していると、ギガロムが切っ先を向けて突っ込んで来た。
「サタン様っごめんっ!」
「ニャッ!」
謝罪と同時にクレナが俺を蹴り飛ばした。そしてコロコロと転げ起きあがと、肉を斬る嫌な鈍い音が聞こえた。
「クレニャッ!」
突然の事態にクレナを心配した俺は駆け寄ったが、震える左手で制止された。
「だ、大丈夫です。これしき……くっ……」
ギガロムの大剣がクレナの腹部を貫いていた。彼女は気丈に振る舞うも顔面は苦しそうで真っ青だ。
「にゃぜ身をていしてまでアタチを護ったにゃ?」
「フッ……主君の命を護るため当然の行為。そう、かつて勇者からサタン様を命懸けで護った友のように……」
「アタチの友……」
悲しかな、ぼんやりとしかその記憶は残っていなかった。
それよりもう限界だ。俺はクレナになんと言われようと彼女の強制回収を決めた。
「お待ちなさい」
もう駄目だと思ったその時に、モングーラが掘った穴の入り口から聖女さまが姿を現した。
この時ばかりは鬼の聖女さまが光りの女神に見えた。つまりありがたい。
「あら、貴女は確か、白銀の聖女……」
「……そうよ」
ドルチェルが手で指示するとギガロムの動きが止まった。それで剣を引き抜くと鞘に収めた。
「ぐっ……」
「クレナッ戻るにゃっ!」
「も、申し訳ございません……」
クレナをファイルに戻した。これでしばらく復帰は出来ないな。
でも聖女さまが来たからなんとかなるか………。
「あっはっはっは!」
急にドルチェルが笑い出した。ちょっと不愉快だ。
「アンタの仲間大したことないわね〜」
「……それがなにか……」
「いや大ありよ。そんな雑魚仲間引き連れて魔王討伐だなんて笑っちゃうわよ」
「そうですか……」
なんで聖女さまは言い返さないんだよぅ……。
「こんな弱いのなら私たちと共闘する意味ないから金輪際近寄らないでよね。ハッキリ言って迷惑だから……」
「……」
「ギガロムッ厳蔵っ行くわよっ」
俺たちを殺す価値も無い雑魚と判断したのかドルチェルが、仲間を手招きして立ち去った。
しばらくしてから寝ていた竜神さまが起きあがった。
『行ったか……』
「そのようだぞ」
柱の陰から顔を出した谷川シェフが竜神さまに答えた。それから紅蜘蛛とエイトさんが出て来た。
いるなら助けてくれてもと俺は少し憤慨してほっぺを膨らませた。
「アンタの予想通り勇者チームが現れたな」
「そうね。政府機関の指示通り勇者チームに、わたくしたちが弱いと侮らせることに成功したわ」
「しかし、それが今回のクエストクリア条件とはなぁ……」
苦笑いを浮かべた谷川シェフがタバコに火をつけた。『にゃっ!』ガスに引火するかも知れないのに、不用意に地下で火をつけるな!
まぁ、それはそうと死ぬ思いした俺たちは、まんまと聖女さまの作戦に躍らせられたのか……。
「コレでしばらく勇者チームは魔王討伐に本気を出しませんでしょう。その間、確実に戦力アップよ」
聖女さまに怒られると思ったけど、作戦通りだったので俺とメリーは叱られなかった。
しかしあとから聞いたのだが、はぐれるきっかけになった竜神さまの暴走と途中居眠りは想定外の奇行だと判明した。
やれやれ自由過ぎて、ある意味末恐ろしい神さまだな。あとトンボ食うし。
次回いよいよサタンちゃまの過去と秘密が明らかになる京都編です。京都編が終わるとやっと異世界大陸に入る冒険が始まる予定です。




