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サタンちゃま聖女さまの料理を食べる

 

 待ちに待ったお昼タイムの時間だ。とは言っても時計の針がすでに午後三時を回っていた。それじゃおやつタイムじゃないかとお腹がぐーぐーと文句を言った。

 別におやつでもいいけどやっぱりご飯が食べたい。


 そんな訳で冒険の醍醐味と言えばやっぱりその場で作るキャンプ飯だよね。一切体験ないけど。

 なにも出来ない俺はただひたすらご飯が出来るのを待った。


 で、他の二人がなにしているかというと、俺に冷たいメイドさんがテキパキとテーブルと椅子を設置し、聖女さまはなんと食材の肉をナイフで切り分けていた。

 聖女さま料理出来るんだ……。


 俺が目を丸くして見ていると聖女さまと目が合った。


「あらっあたくし自ら料理するのが意外だったかしら犬?」

「……」


 優しく語りかけてきたから安心したら最後に『犬』と呼ばれ、聖女さまの安定したクソっ振りが認識出来た。そう、心の中のもう一人の自分が決して心を許すなと警告している気がする。


 それでも腹が減ってメニューが気になった。だから意を決して聖女さまの元に駆け寄った。


「聖女さまぁ一体なに作ってるんにゃ?」

「見て分からないの?」

「にゃっ……」


 素直に教えればいいのに問い正し、人を試すめんどくさい聖女さま。だからといって反論すると怖いから黙ってるけどね。

 まぁ、見るからに豚肉のブロックとじゃがいもやにんじん、玉ねぎとなるとやっぱり定番のアレだよね。


「カレーだにゃ」

「違うわよっ馬鹿ね。豚肉、じゃがいも、にんじんと言えば豚汁でしょっ?」

「ちが…………」


 豚汁にじゃがいもは入りません。芋は里芋だしごぼうも入ってないし、調味料の味噌も入ってなくて代わりに牛肉入れてる。

 それは最早カレーでも豚汁でもなくホワイトシチューですね。


 やはり聖女さまは異世界人だから、日本料理作りには難があるみたい。とは言え食べる前から判断するのは早計みたいだ。


 一時間ほど待ってからようやく料理が完成した。


「出来たわよ」


 テーブルに皿に盛られたシチューが三つ並んだ。しかも椅子が三脚用意されていた。

 良かった。聖女さまに犬扱いされていたから皿を地面に置かれると思っていたからね。


「頂くにゃっ」


 手を合わせスプーンを握ってシチューを掬って食べ始めた。


「う、うみゃいっ!」


 腹が減ってたから意外にも美味しかった。コレはまぁ一応ホワイトシチューだな……でもなにかが足りない。


「う〜〜ん……」


 思わず首を捻った。

 すると隣でチャリンとスプーンがテーブルから落ちる音が聞こえた。


「にゃっ!」


 刺すような殺気に気づいた俺。どうやら右隣りから来ているらしい。

 ふと右に顔を向けると聖女さまが立って微笑んでいた。しかも手にはスプーンではなくモーニングスターを握り締めて。


「犬の分際であたくしの料理が不味いとでも?」

「んにゃっ!誤解にゃっ決して不味くはないにゃっ!」


 右手を伸ばしビックリして椅子から転げ落ちた。


「不味くはない…………それじゃどうして首をかしげた?」

「あ…………にゃんでかなぁにゃはははっ……」

「笑うなっ!」

「ヒッ!ごめんにゃしゃいっ!」


 聖女さまの激しい剣幕にビビった俺はその場を逃げ出した。


「コラーーッ!!」


 遠くから聖女さまの俺を呼ぶ声が聞こえた。だからといって今更足が止まらない。

 そのまま山の中に入って聖女さまから逃れた。


「ここまで来れにゃ大丈夫にゃ」


 木の陰に身を隠し一息ついた。

 しかし我ながら良く聖女さまから逃げられたなぁと感心した。だって俺の首には絶対服従の首輪が掛けられているのだから。


 恐る恐る首輪に触れて見る。引っ張ってもびくともしないし外れない。

 主人に逆らったのに身体に異常は見られない。つまり直接命令を耳にしないと首輪が機能しないと言うことか?

『にゃるほどにゃるほど……』先ほどの俺を追う聖女さまの声が命令系じゃなかったから逃げ切れたんだな。


 原理を理解したら急に腹が減って来た。こんなことならもっと食べるべきだった。


 グルルルルゥゥゥゥーーーー


「んっ!」


 腹の虫が鳴った。

 それにしてはワイルドなまるで獣の唸り声だ。


 パキッ!


 背後から木の枝を踏み潰す音が聞こえた。


「なんにゃっ……」


 うしろを振り返るとそこには大きなイノシシが俺を睨んでいた。

 多分そんなに大きくない大人のイノシシだ。しかし、幼女の俺にとっては十分巨大で脅威だ。


「ま、待つにゃっ!」


 今のところスキルもなにもない俺はイノシシを打ち負かす術がなかった。

 ヨダレを垂らしたイノシシがジリジリと俺に近づく。確かイノシシは雑食と聞いたことがある。だとすれば身体が小さく柔らかい幼女の俺は絶好の獲物に見えているのに違いない。


 こんな小さな足じゃイノシシから逃れるのは無理だと本能が警告した。


「痛っ!」


 後ずさりして気に背中をぶつけた俺はもう終わりかと観念した。


「グルルッ…………ブオオッ!」


 やっぱり狙いは俺だ。イノシシがこっちに向かって突進して来た。


 ズドンッ!


「ブモッ!!」

「にゃっ!?」


 横から男が現れ手にしたナイフでイノシシの首筋にひと突き刺した。

 たった一撃でイノシシが仕留められた。


「しゅごい……」

「こんな山道に子供が一人とはな……」


 倒れたイノシシからナイフを引き抜いた男が立ちあがり、振り向いた。

 命の恩人だけど男は白い覆面を被りコックの帽子を被りかなり怪しかった。

 右腕には鉄杭を打ち込むパイルバンカーを装備し、背中には鞘に収めた巨大な出刃包丁を背負ったまるで忍者のような料理人。


『どっちにゃっ!?』


 しばらく俺は覆面男と睨み合っていた。すると遠くから俺を呼ぶ聖女さまの声が聞こえた。

 首輪が聖女さまの声に反応して身体が勝手に振り返り、声がする方に向かって走り出した。


 礼くらい言いたかったが仕方ない。

 俺は謎の覆面男がどうなったか知らずに聖女さまの元に戻った。


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