サタンちゃまと蜘蛛の巣遊園地の関係者
天使たちに捕まった俺はそのまま虹不死鳥号で千葉県に連行された。ロープで手首を縛られ、まるで犯罪者扱いだな。
あのユウキ絶対仕返ししてやる。
「行くぞっ」
ユウキ自らロープを引っ張り俺を連れ出す。どうやら夢の遊園地に着いたみたいだ。
広大な遊園地の駐車場が滑走路代わりになり虹不死鳥号が不時着。外に出ると聖女さまたちが遊園地正門前に集まっていた。そこにはアシオンチームとヒューイチームもいるな。
自ら率先して蜘蛛地獄クエストに参加するとは、ちょっと酔狂な奴らだ。それともチバ・フー・フィーが蜘蛛と知らずについて来たのか?
「おいっ、さっさと歩け」
「うみゃ〜っ!」
「なっ、なんだ貴様急にっ!」
温厚な俺もユウトの横暴な態度にキレて唸った。すると俺の思わぬ反抗にユウトが怯んだ。
「やってやるからさっさとロープを解けにゃ!」
「に、逃げやしないのか……」
「ふっ、ふざけるにゃっ、アタチは嘘はつかにゃいにゃっ!」
「……そ、そうか……おいっ、ちびっ子のロープを解いてやれ」
「了解しました」
部下の天使が俺の手首を縛るロープを解いた。しっかし……俺は横目でユウトを見た。
「部下にやらせにゃいで、ユウトが解けにゃ……」
「なんだとっ貴様っ……んっ」
拳を振りあげたユウトだったが周りを見ると拳をそっと降ろした。何故かと言うと、事件を嗅ぎつけたマスコミたちが集まっていたからだ。
「おっ、お、おおいっ写真撮るなっ!」
巨大戦艦から降りて来た美人天使艦長はマスコミにとって注目の的だ。フラッシュ焚かれてクソ眩しいな。ユウトから逃げるなら今がチャンスだ。
「にゃっ!」
「コラッ、勝手に走り出すなっ!」
俺は聖女さまの元に戻ったが……この女も苦手なのを忘れていた。
「……なんで天使軍に捕まっていたのでしょうかね〜ペット?」
聖女さまが笑顔で聞いてきたが、絶対怒っている。普通彼女笑わないし、その笑顔は叱られた時にしか見たことないからな……。
「お座りっ」
「にゃんっ!」
聖女さまの命令に反応する絶対服従の首輪が反応して、俺は強制正座させられた。
まぁ、正座で済むだけでマシなんだけどね。
「このちびっ子が逃げおって」
ユウトが駆けつけて来た。
「ユウト艦長っ私くしのペットがなにか悪戯でもしましたか?」
「いや、そう言うわけではないが、ただ今回のクエストが嫌で逃げたから、一時的に捕まえてたのだ」
「……それはどう言う意味でしょうか……」
首を傾げる聖女さま。本当に蜘蛛退治クエストと知らずに来てしまったんだな。
「ううむ……そうか、と、とりあえず今回のクエストは目の前に建つ遊園地に住み着く魔物を一匹残らず一掃するクエスト。それでな、参加希望者を決めて欲しい」
「分かりました」
聖女さまが首を縦に振った。
んで今回の冒険メンバーは、谷川シェフにエイトさんにパギュールにアルマー、勇者チームからはアシオンとグレイフルにドルチェル。ヒューイチームからはもちろんヒューイにビビットにザレオンだ。
で、当然俺も強制参加だ。
「ふむ、錚々たるメンバーだ。では早速クエストの内容を」
「お待ちください」
「んっ?」
皆に説明をしようしたユウトの前にリュックを背負ったジャージ姿のお下げ髪の女性が話し掛けて来た。
「ここは危険だ。民間人が来ていい場所ではない」
「いえっ、わ、私はこの遊園地のイベント企画課の社員でしてっ、重要責任者ですっ!」
「……イベント企画課の……蜘蛛展を企画した関係者かっ」
「はいっ」
「おいっちょっと待て!」
なにかに気づいたドルチェルが二人に待ったを掛けた。
「今蜘蛛展と言ったな……民間人」
「あっ、は、はい。あっ、申し遅れました。私は夢の遊園地イベント企画課社員のロバート夏子と申します」
慌てた夏子が名刺を取り出しドルチェルに渡した。どうでもいいが、異世界の魔女に渡してもあまり効果はないと思うな。
「んっ……ロバート……ハーフか……」
日本語読めるのかよ魔女。
んで、黒髪に小柄な体型日本人顔の夏子はハーフには見えなかった。
だったら芸名か?
「あっ、ちっ、違いますっ!」
顔真っ赤にした夏子が慌てて手を横に振った。
「ロ、ロバートはアメリカ人の夫の苗字ですっ!」
「国際結婚か……これは失礼した。それより貴女が蜘蛛展の責任者でよろしいか?」
「……あの、その……く、蜘蛛展を企画したのは、私の上司の……ピ、ピエロ部長でして……」
「は?」
また可笑しな名前が出てきたぞ。聞いてたユウトが困惑しているよ。
「あっ、あのっ、ピエロ部長ってのは彼のあだ名でして……私を笑わせるために電車通勤中もピエロのメイクして出勤して来る面白い人で……」
面白いと言うより、危ない男だな。ピエロメイクで通勤って警察呼ばれるぞ。
案の定、ピエロ部長は何度か警察に職務質問され遅刻して来たと夏子が言った。
「しかし、よほど君の気を惹くためにピエロのメイクして来たんだな……」
「えっ! そ、そうだったのでしょうか……?」
バツが悪そうに下を向いていた夏子が、ユウトに言われハッとして顔をあげた。
「間違いない。好きな女以外にそんな面倒なことするか……しかし、アンタは酷なことをする。寄りによって外国人と結婚するとはな」
「……ピ、ピエロ部長のことはその……恋愛対象ではなくて……でっ、でもっいい人でしたよ」
何故過去形なんだろ……ピエロ部長死んだか?
「どう言うことだ?」
「ニ日前の深夜……蜘蛛展の目玉だったアフリカから生きたまま来た巨大蜘蛛チバ・フー・フィーの搬入作業にピエロ部長自ら参加し、檻が落下する事故に巻き込まれて安否不明……」
「なんだと……檻に潰され即死か……それとも巨蜘蛛の餌食に……」
「そ、そんなっ……」
最悪の事態を思い浮かんだのか夏子は顔を両手で覆いヒザを落とした。
「おっ、おいっ落ち着けっ! ま、まだソイツが死んだと決めつけるのは早いぞ」
「で、でも……」
「まだ希望がある。我々が……いやっ、このサタンちゃまがピエロ部長を蜘蛛の巣から助け出してくれるさ」
「にゃにっ!?」
ユウトは行かないのかよ!
「そ、それならわ、私も救出活動に参加させてくださいっ!」
「民間人の君が……それは危険だっ」
「いやっ、私は蜘蛛展の責任者の一人ですっ、お願いしますっ私も同行させてくださいっ!」
「いや、それでもなぁ〜……危険過ぎる」
「ちょっとスミマセン」
突然金髪の白人男性がユウトに話し掛けて来た。まさかこんな時にナンパか?
「誰だ貴様は……」
「あっ、ワタシはそこにいる夏子の婚約者でここの遊園地の警備員のケビンです」
「なにいぃ……警備員のケビンだと……」
『にゃっ!』駄洒落かよ。
「夏子の婚約者でこの遊園地の警備員か……なるほど、園内に関しては誰よりも熟知しているか……分かった。非常に危険だが、君たち関係者が案内してくれると助かる」
「はいっ、よろしくお願いします」
「ああ」
夏子とユウトが握手した。するとマスコミが一斉にフラッシュを焚いて撮影した。
「さて、聞いての通り、この遊園地は巨大蜘蛛チバ・フー・フィーの巣になっている。しかも運が悪いことに、魔物と融合して百匹に増えているそうよ」
「『ぎゃあーーっ! じっ、辞退しますっ』」
蜘蛛と聞いてグレイフルとビビットとザレオンが手をあげ辞退した。普通の女の子なら絶叫して逃げ出す。ああ、俺も逃げたい……。
「ふむ、無理強いはしない。……しかし、君たちは平気なのか……」
ユウトは手をあげなかったアシオンとドルチェルに確認した。他にも見た目美少女な不死姫の身体を借りたパギュールがいたが、俺の部下なんでスルーした。まぁ正解だな。
「蜘蛛など平気であります!」
「右に同じっ我もだ」
怖い物知らずのちびっ子勇者と魔女だ。
「うむ、頼んだぞ君たち……」
偉そうに命令しときながら冒険に参加しないユウトが許せない。そこで俺は笑顔でユウトの前に立った。
「な、なんだ貴様急に……」
「ねぇっ艦長も蜘蛛討伐に参加してよ」
「なにっ………………ばっ、ばかを言うなっ、僕は艦長だぞっ……万が一僕の身になにか遭ったら、誰が艦を動かすのだ……」
「にゃにゃっ♬ 蜘蛛怖いのかにゃユウト?」
「なにっ貴様っ……こ、怖くないが……僕は……イッ!」
記者たちのエアカメラを向けられたユウトがギョッとした。これを狙っていた。全国実況中継されたんじゃ断れないよね。
「き、貴様……は、謀ったな……」
「にゃにゃっ♬ おみゃえも道連れにゃ♫」
「く、くそっ……」
ユウトを巻き込んだ俺たちは警察から許可を得て規制線が張られた入場ゲートをググって園内に入った。そこは蜘蛛の巣ばかりの蜘蛛の巣窟だった。




