サタンちゃまと山道の潮干狩り
二枚貝の殻の中に二本腕が生え宙に浮かぶハーマグリィ原人。そいつが俺たちが騒いだせいで怒り棍棒を握って襲って来た。
経験値稼ぎに丁度いいし、命を守るために戦うしかないよな。
俺は即座にブラックウインズの二人を呼んだ。
たまには男版黒天使に出番をやらないと不公平になる。そうやって俺は部下への気遣いしてる。
とはいえ、全く呼んでない部下もいるが……モングーラとか敵をぬいぐるみに変える妖精とか……。
「おっと、なんだアレは?」
「ハッ、ハマグリに腕が生えてる?」
ガウエルとザウエルもハマグリ原人の姿を見て戸惑っている様子だ。
「サタン様っアレどうやって倒せばいいんすか?」
「そりゃ殻の中身に本体が隠れているから、剣を突き刺せばいいにゃ」
「なるほど……ではやってみるぜっハッ!」
俺のアドバイスを真面目に聞いたガウエルが、迫り来るハマグリ原人に向かって剣を突き刺した。
「やったか? ………………いや、あれっ」
二枚の殻が閉まって剣を挟んだ。そして右に回転し剣を握るガウエルごと振り回した。
「うわっやばいっ!」
「おいっガウエルッ剣を離せっ!」
「ばっ、馬鹿いうじゃねえよっザウエル。オレの大事な剣を手放せるかっ!」
一度剣を手から離したら回収が難しそうだ。だからガウエルは意地でも離さない。
しかしちょっとした絶叫マシン状態で目が回るだろ。俺なら秒で離すな。
「うわ〜〜っサタン様っ助けてっ!」
「にゃんにゃガウエル……」
主に助けを求めるとは情けない将軍だ。まぁ彼はおちゃらけたキャラだから許される。
しかしほっとくわけにもいかないな……剣を挟んだ二枚貝か……二枚貝と言えば殻を開閉させる貝柱がある。それをナイフで切るとパカッと開く。
『そうだ!』閃いた。
「ガウエルッ剣を横に力を入れて引くんにゃっ!」
「えっ、いやしかしっ振り回されてっ」
「そこは足を踏ん張れっ!」
「そうかっオーケーッふんぬっ!」
俺とザウエルの助言を受けたガウエルが両足を踏ん張り回転を止めた。そして挟まれた剣を左に押し斬った。すると二枚の殻が開き本体が現れた。
「コイツがハマグリ原人の本体か……」
『ギギッ! ナカノッムルギュゲッ!!』
殻の奥に小さいボサボサ髪で目を隠した原人が怒っていた。身体が小さいせいか、両腕が異様に大きく見える。殻に閉じこもって身を守るために、身体を小型したんだと思う。
だけどその小さい身体が弱点になったな。
「今にゃっガウエルッ!」
「了解っ本体を狙えばっ」
『ギギッナカノッ!』
棍棒を振り回し抵抗するハマグリ原人。
「おっと! 敵はガウエルだけじゃないっ!」
『ギギッ!』
ザウエルがハマグリ原人の棍棒を握る右腕を剣で斬り取った。
「ナイスッアシストッザウエルッ、さてトドメだっうりゃっ!」
『ナカノッ!?』
ガウエルの剣で突き刺されたハマグリ原人が、謎の叫びのあと消滅した。いったいどこの中野だろうか……。
「フンッ、やりおるな。だがしかし、もっと楽にハーマグリィ原人を倒す方法があるぞ」
ドルチェルが杖を掲げた。
「見ての通り奴らは海から来た。よって火に弱い。あとは分かるな? 喰らえっグレートファイヤーボール!」
『ギッ、ナカノッ!!』
特大火球魔法を喰らったハマグリ原人が消滅した。しかもあっさりだ。これじゃ二人掛かりで苦労して倒したブラックウインズの立場がない。
『仕方ない』誉めてやろう。
「ブラックウインズも良くやったにゃ」
「サタン様〜ありがとうございます!」
「かっーーあっ、お褒めの言葉ありがてーっ!」
ザウエルとガウエルは俺にひざまづいて涙ながら喜んだ。ここまで感激されるとは、なにか褒美をやらないとな……。
「褒美のキスか?」
「『いやいやっ……俺たちロリコンじゃないので』」
「にゃむっ……そうかにゃっ……」
俺もらしくないこと言ってみたが二人に断られた。まぁちびっ子にほっぺにキスなんて、大人な彼らからしたら恥ずかしいよな。
「にゃったらコレ食えにゃ」
「『あっ、い、今はいいです……』」
二人に俺が大好きなうんまい棒ミートソースパスタ味を差し出したら、これも断られた。
あの黒鴉と違って遠慮がちだな。
「あっ! ちょっ、サタン様っ危ないっ!」
「にゃにっ!」
『ギギッナカノッムルギュゲッ!』
俺を呼ぶガウエルの叫びを聞いて振り返ると、棍棒を振り回して襲い掛かるハマグリ原人が目の前に迫っていた。
油断した俺は手をクロスして、しゃがんで防御した。
『ナカッ、ノッ!!』
後方から回転しながら飛んで来たエイトさんが、ジャッジメントアックスで斬りつけハマグリ原人を倒した。
「油断し過ぎだ悪魔王っ…………もしや眠っていたのらか?」
「……それはにゃい」
とろ〜んとした目のエイトに言われたくない。
『ギギッギーーッ!! ナカノッ!』
仲間を討たれ激怒したハマグリ原人たちが一斉に襲い掛かって来た。
「滅っ!」
『ギッナカノッ!』
チヒロが出した銀の糸に縛られたハマグリ原人が消滅した。人間時代使っていた武器が、天使騎士になった彼女の聖なる武器になったみたいだ。
「グレイフルッ! 自分らもっ負けられないでありますっ!」
「はいっ、お姉様っ」
少女の姿になったアシオンが妹のグレイフルを誘ってハマグリ狩りに出る。
皆それぞれのハマグリ攻略法を編み出し討伐開始する。その様子を見ていた俺はソワソワし出した。
この感じは人で一杯の潮干狩りの景色を見た時の焦りとワクワクの高揚感だ。
それで俺は三馬鹿とドラコスを追加で召喚した。
「社長っまた楽しそうな現場にっ」
「サタン様〜〜っ今日は出番無しだと」
「ちょっと〜……絶対! 棍棒で顔殴られたくらないわ……」
「フンッ………………興味ないっ」
ま〜どいつも、クレナを除いて勝手な言い分だ。ちなみに台詞を聞いただけで、誰が言ったか分かるよな?
ピッコン!
『サタンちゃまのレベルが267にあがりました』
あれから数分で皆でハマグリ原人を殲滅すると、俺のレベルがあがった。ステータスチェックはあとでしよう。
障害を排除した。
これで本来の目的の山村にあるコン吉の神社に行けるな。
『村まであと少しコン!』
張り切る眷属の子狐のコン吉が飛び跳ね山道を走り出した。
コッチは疲れているのに勘弁して欲しいな。
とりあえず山道の潮干狩りはクリアだ。
さぁ次は、村人におかしな神託するコン吉の神さまの元へだ。