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サタンちゃまと山の関所

 

「いつもお姉様がお世話になっています」


 ちびっ子勇者アシオンの妹グレイフルが今回のクエストに参加することになり、皆に愛想を振り撒きヒューイのエアカーに乗った。

 この状況を俺が見ているわけで、珍しくエアカーに乗車している。

 ちなみにアルマーは寂しく単独飛行中だ。


「しかし、勇者一行と共に冒険出来るとは光栄だねぇ〜」


 運転中のヒューイが言った。


「こちらとしてもヒューイ殿一行と冒険出来るのは光栄であります!」

「ほ〜う、だとそうだ皆んな」


 ヒューイは魔法使いビビットと女騎士ザレオンに話し掛ける。結局この二人も冒険に参加した。

 しかし、無限レベルアップする俺にとってはこの二人はモブ程度の実力。せいぜい足手まといにはなるなよ。


 あと天使騎士のチヒロは、エイトさんが運転するたこ焼きキッチンエアカーに乗ってる。


「早くクエスト終わらせて、三重観光に行きたいものだな」


 三重観光ガイドブックをめくる魔女ドルチェルがチラリと俺の顔を見た。 

 しかし、この魔女が日本の観光地に興味を示すとは意外だな。とはいえ、三重県と言えば……松岡牛か桑名のハマグリか……どっちも食べたいな。


 だったら午前で終わらせ、午後に観光に行けるかは、俺の頑張り次第だな。さっさとレベルアップして奇跡が起こればいいがな。

 とりあえず腹が減った……。


「無茶言うにゃ……シャクッ……ムシャムシャ」


 唐突にうんまい棒を齧った。しかし山に入る前に、貴重な非常食一本食べてしまった。

 ただ、精神的なストレスを受けた時にはこれに限る。『ただの駄菓子だって?』それは違う。大好きな菓子を食べると気分が良くなり、俺の場合精神安定剤よりよっぽど効くよ。


「おっ、目的地に着いたぜ。今から着陸するから気合い入れてけよな」

「『おーーっ!』」


 俺とドルチェル以外、皆ノリノリに手をあげ返事した。いやいや、もう着いたのかよと、冒険嫌いな俺は頭の血の気が引いて気分が悪くなった。


「帰りたいにゃ……」


 □ □ □


 目的地の稲荷山手前にある駐車場に到着した俺たちは、車から出てそびえ立つ山を見た。

 そこには冒険者たちがクエストに挑戦中で賑わっていた。

 その繁盛した様子を見ていると急に焦りだす。

 この高揚感と焦りの気分はどこかで体験した気がするが、なんだったか思い出せない。


「凄い人にゃっ、急がにゃいと獲物が全て狩られるにゃっ!」

「待て、焦らなくても並の冒険者では手に負えない魔物らしいぞ」


 ソワソワする俺をドルチェルがなだめた。


「そんにゃ強い魔物がこの山にかにゃ……」

「ほら、怪我して下山して来る冒険者たちの様子を見てろ」


 ドルチェルが山から降りて来る冒険者たちを指差した。彼らはホクホク顔どころか、傷だらけで憔悴し切った様子だった。


「……確かに、みにゃボロボロにゃ」

「だろ? この山の魔物は相当手強いと予想出来る。だが、貴様ならどんな魔物が相手でも、余裕で勝てるだろう」

「そんな馬鹿にゃ……アタチを買いかぶり過ぎにゃっ…………いや、にゃははっ♪」

「おっと、なんやちびっ子!急に高笑いして?」


 俺らの会話を聞いていたチヒロがドン引きした。いやまぁ、最初は謙遜(けんそん)したけど、やっぱり自信取り戻して笑っただけだ。


「とりあえず我らも入山するぞ」


 すっかりリーダー気取りのドルチェルを先頭に俺たちは山に入ろうとした。すると入り口に関所があって係のジジイが金取っていた。


「はいっ入山料一人1000円だよ」

「貴様、金取るのか?」


 カチンときたドルチェルがジジイに杖を向けた。


「とりあえず物騒な杖を降ろさんかい」

「……しかし、金取るのは納得がいかん」

「ほっほっ、今どき富士山でも入山料取られるじゃろ? この山も冒険者ギルド三重支部が管理しちょってな、費用として冒険者からもらっちょると言うことや」

「…………なるほど」


 納得したドルチェルがジジイに入山料払った。即納得するとは聞き分けのいい魔女だ。


「お前たちっ、入山したければ自腹だ」

「『え〜〜っ!?』」


 自腹と聞いて皆んな不服の声をあげた。


「お前ら……子供みたいに駄々こねるな」

「だってな〜」


 あのヒューイまで不満気で入山料出し渋る。


「貴様ら早くしろっ!」


 俺たちが関所入り口で停滞していたせいで、冒険者たちの行列が形成されていた。

 だからドルチェルが苛立ち指示した。


「おいっ、さっさと金払って山に入れよ。お前らのせいでこっちは並んで待ってんだぞ!」


 三人組の男性冒険者が文句言ってきた。


「にゃんにゃっ……」


 この三人の容姿が特徴的で見入ってしまった。特に真ん中に立つリーダーらしきイケメン剣士。

 イケメンだけど……ケツアゴ。


「んっ、なにを見てる子供……」


 俺はイケメンケツアゴに向かって指差した。


「おみゃえ残念美形だにゃっイケメンケツアゴ」

「なんだとっ! こっ、このやろガキッ、一番気にしていることを……」


 ケツアゴイケメンが俺にキレた。ちなみに呼び方はイケメンケツアゴでもどっちだっていい。


「待てシンジ。今騒ぎを起こしたら、入山出来なくなるネ」


 ケツアゴイケメンの名はシンジって言うのか……だが、全く持ってどうでもいい。俺の退化した脳みそなら、秒で忘れるワ!


「……ああ、そうだな」


 スキンヘッドで少林寺っぽい黄色い道着を来た仲間が、ケツアゴイケメンの肩に触れなだめた。

 胡散臭いが僧侶か武道家か?


「おみゃえにゃんにゃ?」

「んっ、ああワタシィ、ニポンのサムライアルね」


『ああ、中華系か……』侍なら日本刀なのに、背中に青龍刀装備したなんちゃってサムライだな。

 しっかしまた新手のハゲか……。


 で、もう一人は小太り坊主刈りの男だ。スキンヘッドとはまた違う高校球児ヘアだな。

 んで、俺はそいつの前に立って指差した。


「おみゃえはっ?」

「えっ、あ、ええっと俺は……ま、まだ、しょっ、初心者で……その、ま、まだ、ぼ、冒険者のプロの方とは違いまして……」


 モジモジして気の弱い男だ。幼女の俺から視線をそらした。確かにこの気弱な態度は演技ではない。だから本当に初心者らしいな。

 まぁ、どうでもいい。


「とにかく入山しねえなら退いてくれ、俺たちは一刻も早く実力をあげて成りあがりたいんだ。……おっ! あ、あんたは……」

「んっ、どうしたんだい?」


 ケツアゴイケメンがヒューイに指差した。


「SS級冒険者ヒューイ知ってるぜ。俺たちが一番目標とするプロですよ。いや〜会えて嬉しいです〜是非っ」


 急に腰が低くくなったケツアゴイケメンがヒューイに握手を求めた。間違いなくコイツはクズだ。


「ではっ、俺らは先に行きますので」


 結局俺たちはおかしな三人組に順番を譲り先に行かせた。


「さて、私たちも入山料払って山に入ろう」

「『え〜〜』」


 まだ文句を言う仲間だったが、ヒューイに従い各自支払い山に入った。

 やれやれさて、この山にはどんな魔物が潜んでいるのやら……。


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