サタンちゃまと天草市1
昨日は結局仙台で一泊せずに真っ先に東京に戻った。理由は焦るエイトさんを見た聖女さまが旅の先を急いだからだ。
まぁ、三人の運転手には徹夜運転してもらったのは申し訳ないと思っている。
それで東京に着いたのは午後二時頃か……その前から寝ていたけどもう一度寝た。
翌朝になって、広いとはいえまたも車中泊した俺は目覚めた。聖女さま所有のエアキャンピングカーはざっと中型バスサイズあるおかげでベッドで寝ていたが、それでもウンザリだった。
だってカーテンを開けると景色は殺風景な都会の駐車場だ。極めつけは背伸びして外に出ると、高原なら小鳥のさえずりが聞こえるところがカラスの鳴き声だ。
鳴き声のせいで憂鬱な気分になり下を向くと、首にはめられた真っ赤な絶対服従の首輪が目に止まり、より絶望感が増した。
『ちびっ子なのに早起きで偉いのう』
「にゃっ……」
幼女形態の竜神さまが俺に話し掛けた。
言っとくけど40センチ差のちびっ子の貴女には言われたくない。
まぁ……40センチ差って相当なひらきがあるけどね。
「竜神ちゃまおはようございますにゃ」
『なんじゃお主のそのあざとい猫口調は?』
「にゃっ……ワザとにゃにゃいっそういう仕様にゃのにゃっ」
『……仕様か……仕様なら仕方ないのう』
いやいや、仕様の一言で納得すんなよ竜神さま。当事者の俺は、この不本意な口調のせいで苦労しているんだから。
「ところで竜神ちゃまはいつ竜ノ口渓谷に帰るのにゃ?」
話題を変えた。
昨日から気になってたんだ。『仲間になるー』とかイベント無しに竜神さまがしれっと一緒に行動していることがね。
『なんじゃお主は我が居ちゃ悪いと申すのか?』
「にゃっ!」
竜神さまが急にキレ出した。
プンプン頬を膨らまして全然怖くない。むしろ可愛いと言える。
「そんなことは言ってにゃいにゃっ」
『そうか……それより飯はまだか?』
「にゃっ!」
竜神さまが手で押さえたお腹がグーグー鳴っていた。
もう少し深い話しが出来るかと思っていたが、そうでもなく、とりあえず国会議事堂駐車場に駐車してからテーブルを設置して朝食時間をむかえた。
スッカスカの国の駐車場とはいえ迷惑行為だ。
「またぁ〜〜?」
テーブルに並んだ料理を見てメリーがウンザリした顔で言った。
彼女が指差した料理とは、たこ焼き屋こと天使のエイトさんが張り切って朝から焼いたたこ焼きのことだ。
エイトさんが仲間になってから毎朝たこ焼きが振る舞われたから流石にメリーでも飽きる。
悲しいかな、初めてたこ焼きを口にした彼女の感激した笑顔は遠く彼方に行ってしまった。
「なぁおいメリー」
「なによ谷川シェフ……」
「たこ焼きに飽きたらこう、パンに挟んで食べると美味いぜ」
「無理っムリムリッ!」
メリーが両手を振って拒否した。
まぁ、大阪人でもやらないようなダブル炭水化物だからな。
「ところで聖女さまっ次のクエストはどこになるの?」
バタートーストを齧りながらメリーが聞いた。
「それは分からないわね。なにせ決めるのは依頼主の日本政府ですから」
「あたしは沖縄がいいなーっねえっ沖縄に決めない?」
「…………」
人の話しを聞いてないのかメリー。呆れた聖女さまが黙っちゃったよ。
こうして楽しい朝食を終えた俺たちはサガネさんを残して国会議事堂に向かった。
□ □ □
いつものように身体チェックを受けて許可証を門番に見せてから、ゲートを潜った。
「おはようございます」
エントランスで広報の朱雀さんが出むかえてくれた。
いつも思うのが、異世界事変対策本部の関係者は彼女以外まだ会ってないんだよな。
そろそろ司令官とか挨拶しに来てもいいと思うんだけど……だってクエストクリアの実績だってあるしおまけに天使と竜神が仲間になったんだ。
これだけで世間が大騒ぎするほど凄いことだ。だから上官が顔出さないのは不自然に思えた。
「コチラにどうぞ」
いつものように会議室に案内された。
ちなみに聖女さまに竜神さまを紹介された朱雀さんのリアクションは普通で肩透かしを食らった。
あまり驚かないようにしているのか、それとも竜神とか天使など超常的な存在は慣れているのかな?
『にゃはは……』まさかね……。
朱雀さんが早速スクリーンモニターを出すと、とある島の地図を表示させた。
結構広い島に見えるけどどこだろう……。
「早速ですが、次の目的地は九州地方の熊本県天草でございます」
「天草ァ、あの昔、隠れキリシタンの」
思い出すかのように谷川シェフが言った。
天草と言えば江戸時代の隠れキリシタンの天草四郎が居た場所だな。
しかし相当大昔の話だな。
「えーっ天草って綺麗な海あるのっ?」
手を合わせ目を輝かせるメリーが朱雀さんに聞いた。夏だからついでに海水浴するつもりか?
「でっ、今回の獲物は?」
メリーを差し置いて谷川シェフが本題を切り出した。
「ええ、今回はある意味危険なクエストかも知れません……」
「ほ〜う。そいつはどうして?」
「……今回の魔物はどうやら人型で暗殺タイプとの情報があがってます」
「へへっ人型ってのは魔王の配下か……」
谷川シェフが笑みを浮かべた。
笑みとか言っても楽しそうじゃない。ようやく魔王の配下に復讐するチャンスが巡って来た狂気の笑みだ。
「聖女様」
いつものように朱雀さんが聖女さまに報酬明細入りの封筒を渡した。
それで慣れたもので彼女は『ありがとう』と一言言って、中身を見ずに懐にしまった。しかも横でメリーがブーブー言ってるのに華麗にスルーした。
流石腹黒聖女さまだ。
早速今から熊本に向かうことになった。
だけど二日連続長距離運転は人であるサガネさんと谷川シェフは可哀想だと思った。ちなみに天使のエイトさんは人間じゃないから疲れないらしい。
本当かなぁ……?
それで谷川シェフはヤル気満々で運転すると言ったし、サガネさんも問題ありませんと答えた。
エイトさんはもちろんのこと、この二人は鉄人だなぁとなにもしない俺は思った。
「聖女さま」
俺たちをエントランスまでお見送りした朱雀さんが、聖女さまを呼び止めた。
振り返った聖女さまがニッコリ笑って首をかしげた。
「なにかしら朱雀さん?」
「今回のクエストの場所には住民が住んでいます」
「立ち入り禁止区域ではないのですね?」
「はい。天草市のどこかに暗殺タイプが住民に紛れて潜伏しています」
「それは普通の討伐クエストより厄介ね」
「ええ、くれぐれも気をつけてください……」
なんか朱雀さんから不穏な警告を受けた俺たちは不安を抱きながら、天草市目指して出発した。




