サタンちゃまと新たな仲間
かなり揉めたけど天使騎士エイトさんが聖女さまのパーティーに加わった。なんだか少しづつ強い仲間が増えて勇者チームを超える勢いだ。
しかも人智を超えた天使が仲間入りだ。レベルは不明だけど勇者に匹敵するのは間違いない。下手するとそれ以上かも知れない。
紆余曲折あってバーベキューが再開した。が、一部バーベキューを続けていた者がいたが……。
誰とは言わないよ。( ヒントは普段から騒がしい女だ )
「悪かったな」
純白の戦闘服からたこ焼き屋の姿に戻ったエイトさんが、俺の隣に座って頭を撫でてくれた。
1400年も生きている。物凄い年上のお姉さんだけど、小柄な身長と童顔とほんわかした口調から年上の威厳は微塵も感じなかった。
「エイトさん飲む?」
俺は気を使ってオレンジジュースを注いだ紙コップをエイトさんに渡した。
「………………………子供っ」
「にゃっ!?」
オレンジジュースをしばらく見詰めていたエイトさんがコッチを向いてポツリと言った。
子供扱いされたことが気に入らないのかな?
「悪魔王サタン……」
エイトさんがオレンジジュースを口にしてからその名を呟いた。
「隠された過去を知りたいようだが……止めた方がいいのだ」
振り向くと眠そうな目で警告する。
「どうちて……」
自分の過去を消えた両親と隠された秘密を知るために、これまで頑張って来たのに今さら止められない。
だから俺は泣きそうな顔でエイトさんの顔を見詰めた。
「…………三百年前悪魔王がこの地球でなにをしてきたのか知ったら、君は果たして耐えられるのか……」
「にゃ…………」
これは警告なのかエイトさんは意味深なことを言ってから、正面を向いて肉を焼き始めた。
「ちょっと〜飲んでる?」
タイミング良くメリーが話し掛けて来た。
右手には缶ビールが握られていて、あれだけの騒ぎにも関わらずリアクション担当の彼女が静かだったのは、すでに出来あがっていたからだ。
「メリー大丈夫かにゃ?」
「それはど〜ゆ〜意味よ。ちびっ子?」
「にゃっ!」
顔を真っ赤にしたメリーが俺の肩に寄り掛かると酒臭い息を吐いた。
異世界では十六歳から大人だと言うけど、だからと言って飲み過ぎだ。
酔っ払いに絡まれた俺は笑うしかなかった。
□ □ □
翌朝片付けてから東京に戻って国会議事堂に到着した。そしていつものように異世界事変対策本部広報の朱雀さんが出むかえてくれて会議室に入った。
「中部地方クエスト終了ご苦労様です」
そう労う朱雀さんが聖女さまに封筒を手渡した。中身は支払い報酬の明細書だ。
その横でメリーが目を光らせているのを彼女は知ってか知らずか、澄ました顔で懐に入れた。
「新しいお仲間ですか?」
エイトさんに気づいた朱雀さんが聞いた。まぁ、無視は出来んわなぁ……。
しかし、たこ焼き屋がパーティーの一員なんて朱雀さんは不思議に思っているハズだ。
するとエイトさんが手をあげた。
「今回聖女様の仲間に加わった天使騎士のエイトなのだ。よろしく」
「……広報の朱雀です。よろしくお願いします」
朱雀さんはやんわりと挨拶してエイトさんと握手を交わした。
「にゃっ?」
なんでか気になることが一点。
天使が仲間になったと聞いても平然としていた朱雀さんに、俺は違和感を覚えた。まぁ、ただ単に頭のおかしな女の戯言だと思ってスルーしただけかもな。
「それでは早速次のクエストは東北に行って貰いたい」
「東北のどこでぇ?」
谷川シェフが聞いた。
「宮城県仙台市竜の口渓谷……」
仙台市は知ってるけど竜の口渓谷は初めて聞く地名だ。しかし、食材探しで日本中駆け回る谷川シェフは知っている様子で表情を曇らせ『アソコか……聖女様と天使様がいるから大丈夫か……』と呟いたが、気を取り直し笑顔になった。
「しかしまたスゲーとこ指定したな。アソコは今立ち入り禁止区域だろ?」
「問題ございません。門番に申しつければ渓谷に入れます」
「それならいいが……竜の口渓谷か……上より下の方が断然やべえからな……」
なんか不安になること言って谷川シェフがタバコに火をつけたが、朱雀さんに禁煙室と注意され火を消した。普通考えたら分かると思うが、聖女さまを始め皆非常識な性格だからな。
もっと悪く言えばまともではない。
「で、今回のターゲットは?」
聖女さまが朱雀さんに聞いた。
「ミストサラマンダーでございます。生息ポイントは鉄橋の真下……」
「寄りによって橋の真下かっ!」
橋の真下と聞いて何故か動揺する谷川シェフ。またタバコに火をつけようとしてライターを持つが手が小刻みに震えていた。
ちなみにミストサラマンダーとは全長3メートルから7メートルのサンショウウオ型魔物で、湿った場所を好み猛毒を持っているらしいから嫌な魔物だ。
「ところで他に有力な情報は?」
聖女さまが補足して聞いた。
まぁ、情報収集は冒険者にとって欠かせない要素だからな。
「……今回のクエストとは関係のない話ですが……異世界大陸で覚醒したある少女が着々と英雄たちを仲間に加え真の勇者と呼ばれるのも時間の問題かと……」
口に手を当て報告する朱雀さんの表情が何故か険しい。真の勇者の誕生なら喜ぶべきだし、なんなら俺たちが協力して魔王を倒せばいいと思った。
「真の勇者が魔王軍討伐を開始したら時間の猶予はないのだ……」
エイトさんまで表情を曇らせ呟いた。一体勇者に先を越されてなにが不味いと言うのか朱雀とエイトは理由は語らなかった。
全くもったい振るなと思ったが、これを含め全ての真実を知るには、残りのクエストを終わらす必要があった。
俄然腕が鳴る。
国会議事堂を後にした俺たちは、一夜を過ごしてから明日。東北に向けて出発することになった。




