サタンちゃまと審判を下す斧
たこ焼き屋店主の姿とは見間違えるような美しい天使騎士姿になったエイトさんが、副将プグナと向き合う。
一方、下品な笑みを浮かべるプグナがよだれを手の甲で拭った。
「じゅるりっ天使騎士だぁ? 知らねーなぁ……勇者なら知ってるけどヒッヒッ……」
副将プグナが耳に手を当て、嫌みたらしく言って肩を振るわせ笑った。
「……下品な奴。こっちは時間がないのだ。だからさっさと終わらせるのだ……」
煽りに乗らないエイトさんは虹色の斧を振り回し身を屈めた。
「はあっ!? ダセエ斧でこの俺のファイヤーソードに勝てると思ってんのかチビ?」
「…………」
長身のプグナに比べ身長150センチ位のエイトさんは確かに背が低い。でも身長100センチの俺の方が遥かに背が低いよ。
本当にどうでもいいプグナの煽りにエイトさんは答えない。
「チッ!なんなんだよテメーはっ?」
舌打ちして悪態をつくプグナが聞いた。
「さっきも言ったろ? もう忘れたのか単細胞」
「なにっ!ダセエ斧使いの癖して舐めたマネしやがってもう許さねえっ!」
勝手に頭エキサイティングしたプグナが真っ赤な剣を交差して振るうと炎が出て人の形になった。
計三体の炎の魔人が作り出された。
「へっへっ……ファイヤーソードからファイヤーゴーレムを幾らでも作れる」
「……だから? エイトは時間がないのだ。ヤルなら早く掛かって来るのだ」
エイトさんがプグナに手招きして挑発した。ぼんやりしてるけど意外とやるね。
「チッ!レベル30のファイヤーゴーレムが三体だぞっ並の冒険者でも裸足で逃げ出すぜ」
「……レベルとかあんま意味ないから早く掛かって来て」
「なんだとっテメーっ……チッ!構わねぇファイヤーゴーレムッこの女を焼いちまえっ!」
チンピラらしい汚い言葉を吐いたプグナがエイトを指差し、ファイヤーゴーレムを動かした。
しかし、最初は自分から煽っといてエイトさんに煽られ逆上って怒り耐性ゼロなのかこの魔族は……。
三角の陣形を取るファイヤーゴーレムがジリジリとエイトさんに詰め寄る。
全身炎のゴーレムなので真夏をさらに暑くさせた。しかし囲まれたエイトさんは涼しい顔で汗一つかいてなかった。
「にゃっ!暑くにゃいのかっ?」
「ひっ……悪魔王…………べ、別にこの位たこ焼きの鉄板に比べたらなんともないのだ」
俺が話し掛けると何故かビクつくエイトさん。しかしまぁ、たこ焼き屋ならではの例えだと俺は思った。
一方プグナは独特の雰囲気のエイトさんにイマイチついていけないのか、微妙な表情を浮かべ頭を掻いた。
しかしすぐに気を取り直した。
「へっ強がりやがってよ、いけっファイヤーゴーレムッ!」
『ボウッ!』
喋れない代わりに全身の炎が一段と燃え盛り返事をして、身体の一部が分裂して火の玉となって一斉にエイトさんを襲った。
「よっ!はっ!」
軽い身のこなしで飛んで来る火の玉を斧で斬り落とす。その光景を俺の横で見ていた谷川シェフが『火の玉料理に使えないかなぁ』と呟いていた。まぁ、使えないと思うけど。
「ほいなっと!」
ズバッガシュッザシュッ!
「なっ!」
柔軟な身体で、空中一回転しながらエイトさんが斧でファイヤーゴーレムを次々と斬っていく。
呆気なく倒された下部の有様を見たプグナの開いた口が塞がらない。
「へっ……」
消え去る下部を見届けたプグナが笑うと剣を肩に乗せた。
「オメエ強えな……そうだ。こんな奴らと連むより魔王様の配下になれよ」
「……」
プグナがエイトさんに手を差し伸べた。しかし無言の彼女は答えることなくダッシュして彼に詰め寄る。
「テメッ聞いてんのかっ!」
一歩飛び跳ねたプグナが叫んだ。
ガキィンッ!
刃が弾く高めの金属音が響いて思わず俺は目をつぶり、両手で耳を塞いだ。
「めんどくさいからさっさと死んで欲しいのだ」
「なに言ってやがるテメー頭おかしいのかっ!?」
「ダサい名前の魔王とか言う主人の手下に言われたくないのだ」
確かにそうだ。絵本の物語じゃあるまいし、魔王ってなんだよ?
それに比べたらまだ悪魔王の方がカッコいいな。
「なんだとてめえっ!」
キイイィンッ!
上から斬り掛かったエイトを押し返すプグナ。
「はぁはぁ……チョコマカと……分かったよ。テメエが望む通り一対一の決闘でケリつけてやるぜ……」
焦りを見せる表情を浮かべたプグナが両手で剣を斜めに構えた。
「……」
彼に対しエイトさんは無表情で斧を片手で握り前に向けた。
「ケッ!一丁前にガキが……」
「……子供じゃない」
珍しくエイトさんがプグナの煽りに反応した。
「おっ!へへっ……確かに中々育っているなぁ……へへっ歳は十六、七か?」
イヤらしい笑みを浮かべたプグナが、エイトさんのボリュームのある胸を見ながらアゴを摩った。
「……見かけで判断するの良くない。ちなみにエイトの年齢はざっと1400歳位なのだ」
「なっ!」
『ロリババアかよっ!』しかし天使ならそれ位生きていてもおかしくはない。サタンとしての俺も同じ位生きるかもな……。
「てめえ……1400歳位ってなんだよ。自分の歳ぐらい正解に覚えとけ」
「それは無理なのだ。長い年月を生きると本当今の年齢が分からなくなるのだ」
それはロリババアあるあるなのか?
「単なる馬鹿だろうっ!ああっ無駄な時間使っちまった。さっさとケリつけようぜ?」
お前から見た目について吹っかけてきた癖にその締め方はない。
「……いくよ」
「へっ一瞬で終わらせてやるぜ」
二人が掛け出し交差した。
ザシュッ!
肉が斬れる音がした。
果たして誰が斬られたのか? エイトさんは斧を振った状態で固まり、一方剣をおろしたプグナは振り返りニヤリと笑った。
「全然痛くね〜よ。お前の斧……ナマクラかぁ〜?」
プグナは腹を摩った。
どうやら斬られたのは彼の方だ。しかし言う通りピンピンしていた。
天使騎士と聞いて期待していたが、正直拍子抜けだ。しかし、斧をおろしたエイトさんは振り向き無表情でプグナを見詰めていた。
「太陽天使騎士専用の聖なる武器。別名ジャッジメントウェポン。そしてこれがエイト用のジャッジメントアックス」
なんだか厨二病が深夜に考えたような、カッコいい名前の斧をエイトさんがゆっくりとかかげた。
「へえっ審判を下す斧か……でっその斧になんか効果があんのか?」
「……ある」
「ひゅうっ〜♫ この通り異常はねぇが……」
プグナは口笛を吹いて肩をすくめた。
「……ジャッジメントウェポンの効果は、善人には癒やしの効果を与え、逆に悪人には大ダメージを与える……のだ」
「なんだそれっ? それじゃあぁ俺には無理だなぁ〜へへっ……んっ!」
自分は正義だと思っているのかプグナは半分聞き流し背中を向けた。
しかし異常に気づき腹を摩った。
「なっ!お、俺の腹がっ!」
いつの間にプグナのお腹から十字の斬り口が出来ていて、徐々に拡大していく。
「善人だったら助かったのにね……さようなら」
エイトさんがそう言ってジャッジメントアックスを消した。
不思議な斧は消したり出したり出来るのか。
一方プグナの十字の傷が拡大して、光りの粒子に変えて肉体を崩壊させていく。
「馬鹿なバカなっ身体が崩壊するっ俺が悪だとっ…………グエッ!」
身体が崩壊して首だけになったプグナが絶望しながら消え去った。
浄化されたのか?
「……なんで悪と判定されて絶望するのかなぁ……? 悪なら誇りを持つといいのだ」
ほぼ使わなかった白い翼を消すと勝利したエイトさんが俺たちに顔を向けると、無表情でVサインを送った。
案外お茶目な天使だな。




