サタンちゃまとバーベキューパーティー
無事クエストを終えて日間賀島の港に戻ると、例のたこ焼き屋が待っていてくれた。八ちゃんさんが、俺たちに気づくと律儀にお辞儀した。
「あらっ逃げずに待っていてくれたの?」
斬り落としたビックバードの首を担いだメリーが八ちゃんさんに話し掛けた。
ズンッ!
「!」
メリーが鳥の首を投げるように八ちゃんさんの足元に置いた。すると一瞬驚いた彼女の肩がビクついた。
これはある意味『逃げるなよ』との脅しだ。
「は、八ちゃんは逃げも隠れもしないのだ」
その割には身体が震えているが……。
メリーは『あっそ』と素っ気なく言ってバーベキューの準備を始めた。
「ねぇ、アンタも手伝ってくれる?」
ふと思ったのかメリーが振り返り、八ちゃんさんに聞いた。
招待客に下準備させるのもどうかと思うが、一応彼女は調理師だから手伝いをお願いしたと思う。
「別に構わないのだ」
「そう、じゃあ鳥肉切り分けてもらえる?」
「分かったのだ」
八ちゃんさんがメリーから鳥肉の塊を受け取ると、キッチンカーに戻って肉を切り揃えた。
流石調理師だけあって手際はメリーより遥かに上だった。
一方更にベテランの谷川シェフは自身のキッチンカーで、牛肉の塊をバーベキュー用に切り分けていた。
やることがない俺は仕方ないので椅子に座る聖女さまの元に向かった。本当は近づきたくないけど……。
隣にはメイドのサガネさんが座っていてお茶を一緒に飲んでいた。俺が近づくと睨んできた。
なんで彼女は俺を目の敵にするのかなぁ……いずれ和解出来るといいな。
聖女さまの犬である俺は勝手に座る訳にもいかず、夏真っ盛りの午後で立ち止まっていた。
『シュワシュワシュワ』と暑苦しいクマゼミの鳴き声が更に体感温度をあげた。
「そこ座りなさい」
俺に気づいた聖女さまが正面の席を指差した。
素直に従った俺は正面の席に座った。
「ミルクでも飲む?」
「にゃっ!」
返事すると聖女さま自ら冷えた牛乳をコップに注ぎ渡した。
緊張しながらコップを両手で持って頂く。冷たい牛乳が暑い身体を一時的に冷やした。
「さて、サタンとしての記憶は戻った?」
一息つくと聖女さまが聞いてきた。しかし俺は口に出さずに首だけを横に振った。
「そう……やはり日本政府限定クエストを全てクリアして真実を教えてもらわないと難しいみたいね。しかし……」
そこで発言を中断した聖女さまが口を手で押さえた。
「何故日本政府は勇者ではなくあたくしを選んだのでしょうか……」
「にゃっ!」
俺を仲間にしたからと口に出しそうになったけど、下手なこと言うと怒られそうなので黙った。
「ところで貴女が召喚した悪魔が言っていた悪魔五将軍とは、なに者か覚えてますか?」
「……ごめんにゃ……アタチにゃんにも覚えてにゃいにゃ……」
力になれなくて申し訳ない聖女さま。
「そうですか……貴女の悪魔召喚スキルでいつか出せるようになればよろしいですわね」
「が、頑張るにゃっ……」
期待されるのは嬉しいが、返ってプレッシャーが大きくなる。だからどっちつかずな気持ちの俺は下を向いて足をブラブラさせた。
「皆んなお待たせーっ」
メリーが肉を盛った皿を丸テーブルに次々と置いていく。そしてコンロを設置して缶ビールとジュースが用意されてバーベキューパーティーが開始された。
□ □ □
「俺が用意した和牛と採りたて新鮮なビックバードの肉だ。一杯あるからお前ら好きなだけ食え」
谷川シェフがニヤリと笑うと皿を置いて俺の右隣にドカッと座り缶ビールを開けて、『飲むか?』と聞いてきた。
もちろん断った。幼女に酒を勧めるな!
「谷川シェフ〜ちびっ子に酒は悪い冗談ですよ〜」
「いや、ははっ悪い。冗談だよ」
メリーに注意された谷川シェフが、後ろ頭を掻いて照れ隠しに笑った。
「ハイッちびっ子にはオレンジジュースね」
そう言ってメリーが、俺と左隣に座る八ちゃんさんにオレンジジュースが入った紙コップを置いた。
「…………」
子供扱いされた八ちゃんさんが絶句してオレンジジュースを見詰めていた。確かに幼く見えて年齢不詳だけど、エアカー運転してるのだから少なくとも大人でしょうよ。
「とりあえず乾杯しましょう」
プシュッ
仕切り出したメリーさんが缶ビールを開けた。どう見ても十六か十七歳にしか見えないけどアンタ何歳だよ!
するとやっぱり谷川シェフに注意されたのでメリーが『あたしの世界では十六から成人よ!』と胸張って言った。
こうして皆肉を焼き始めたけど、八ちゃんさんが馴染めないのかまだ箸をつけてない。
そこでメリーが注意した。
「アンタッ!ジュース位飲みなさいよっ!」
「……わ、分かったのだ………んぐっ…………!」
ポトッ……
八ちゃんさんが一口飲むと急に紙コップを落とし、身体を小刻みに振るわせ固まった。
アレッ? 八ちゃんさんは額に脂汗をかき始めた。
「ふっふっ……ベアーアントの麻痺毒が早速効いてきたようね……」
「!?」
悪巧みする笑みを浮かべたメリーが立ちあがった。そして八ちゃんさんの背後に回り、隠し持っていた縄で椅子ごと身体をぐるぐる巻きに拘束した。
「微弱な毒だから痺れるだけで大丈夫よ」
「…………」
「さて、これでじっくり貴女の正体を確かめられるわ」
ピッ!
メリーは八ちゃんさんのマスクを剥ぎ取った。
『 ! 』
思った通り八ちゃんさんの素顔はとてつもない美少女だった。皆その顔を見て目を見開いた。
しかしトロンとした目で若干幼い印象だが……。
「ず、ずいぶんとび、美人さんじゃない……ま、まぁ、あたしほどじゃないけど……」
上擦った声のメリーが負け惜しみを言った。
「さぁっアンタの正体答えて貰おうじゃないか?」
「…………」
メリーは肉を焼きながらドシっと座りじっくり尋問するつもりだ。一方八ちゃんさんは沈黙を貫いた。
八ちゃんさんは中々口を割らない。そんな中バーベキューパーティー終盤に差し掛かった時に空が急に曇り出した。
「おいっまさかっ!」
空気が変わり異常に気づいた谷川シェフが声に出すと、聖女さまがモーニングスターを持って立ちあがった。
「なにかが来るわよっ!」
「えっ!なにがっ?」
聖女さまの警告にメリーが空を見あげた。
暗雲立ち込める空に一人の男がワイバーンの背中に乗って浮かんでいた。
その姿は全身真っ赤な鎧で身を包んだ赤髪ロン毛。偉そうに腕組みして、口角をあげた不敵な面構えで俺たちを見おろしていた。
「ふっ〜」
赤鎧の男が『ニィ〜』と笑うと口を開いた。
「俺は、13構想楽団の死将エンバーテリオン様の副将のプグナだ」
『!!』
初めて見る魔王直属の幹部の登場に皆緊張し固まった。
しかしなんで俺たちの元に現れたのか不明だった。




