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サタンちゃまと冒険者スカウト開始

 

「それでは生徒の皆さん順番に並んでください。今からステータスチェックをしますから」


 係員の男が手慣れた手順で生徒を整列させた。性転換者は俺一人だけらしく、係員に止められ最後尾から離れた場所に隔離された。


 余計目立つだろっ!


 しかしなんで俺だけ性転換だよ恥ずかしい。しかも幼女だから最悪だ。そのためか周りにいる人の好奇な視線をひしひしと感じる……。


『くそっ!』


 高嶺のステータスが気になるから様子を見たいが、いかせん100センチほどの身長の俺がどんなに背伸びしても、生徒たちの背中が邪魔で見ることが出来なかったな。


 ちなみにジャンプしたら係員に怒られた。俺は子供か……まぁ合ってる。


 そしたら前の方が騒がしい。恐らく高嶺が優秀なステータスを叩き出して周りが騒いだんだな。


 最後尾で長らく待ってからようやく俺の番が来た。もうその時は閑散としていて誰も俺のことを注目していなかった。


 嘘だろ……男の子が幼女にTSしたんだぜ? なんでもっと注目しないんだよ。意外と俺みたいな例って良くあることなのかな……いやいやないない。TSが珍しくないってそんな非常識なことあってたまるか。


「あら可愛い」


 ステータスチェックする聖女のお姉さんが身を屈めて、俺の姿を見るとそう言った。鏡を見てないから分からんが、どうやら俺は可愛いらしい。


 お姉さんに可愛いと褒められ嬉しくなった。


「では目を瞑ってください」


 聖女が俺の身長に合わせてしゃがみ右手をかざした。はためから見れば、まるで怪しい宗教儀式だな。すると俺の全身が光りに包まれ目の前に文字が出た。


【職業??? レベル1 魔力?? 力1 戦闘力1 体力1 素早さ1 】



『俺のステータス引っく!』職業もスキルもハテナじゃナニモンか分かんねーじゃねえか。


 しかも能力が軒並みオール1の表示って、こんな情けない数値なら隠しとけよ。


 これじゃ本当に可愛いだけじゃねえか。『うん』可愛さレベル100だな。自画自賛。


 俺のステータス結果に会場が悪い意味で騒ついたな。


『職業不明、スキル不明とアレは駄目だな』

『子供を冒険に連れて行っても役に立つまい。ましてや足でまといだ』


 とスカウト陣から俺に対する散々な会話が耳に入って来た。


『もうやめてくれっ!』もう俺は失敗作だと実感したよ。今からスカウトタイムだって誰も選びやしないよ。


 ああ、絶望だ。早くお家に帰りたい。


 こうしてスカウトタイムが始まった。スカウトする冒険者チームの順番はくじ引きで一番を引いたのは、イケメン勇者率いる太陽の獅子だ。


 ……終わった。


 女好きで有名な勇者は恐らくステータスより自分好みの女子を優先するはずだ。


「ふふっ一番くじを引けるなんて僕は運も一番だね〜」


 自画自賛する金髪のイケメン勇者が一直線で高嶺に向かって歩きだす。

そして高嶺の前に立つと、胸ポケットに刺している三本の赤い薔薇の一つを抜き取り差し出した。


 なんちゅうキザな男だ。しかも三本の薔薇ってことはスカウトする対象が女だ。

 逆に男に薔薇は絶対やらんだろう。いや、漫画やアニメでもそんな奴は見たことない。


 しかし嫌な予感がする。頼む高嶺っ薔薇を受け取るなと、俺は目をぎゅ〜と瞑ってそう念じた。


「わ、私でよろしいんですか……勇者様?」


 高嶺の右手が動く。


「ええ、貴女の魔力、戦闘力、職業とスキルは僕が求めていた基準を優に超えた。是非、僕の太陽の獅子の冒険者になってくれないか?」

「…………」


 口元を手で押さえ躊躇(ちゅうちょ)する高嶺。頼むから断ってくれ。


 しかし、彼女は薔薇を受け取った。


「はい。よろしくお願いします」


 高嶺は勇者に頭をさげた。


 終わった。まさか高嶺がイケメンの誘惑に負けるなんて……いや、諦めるな。枠がまだ二つ残っているから、そこに俺が入れば高嶺と一緒に冒険が出来る。ま、そうなると恋敵が勇者の地獄の三角関係が始まるけどな……。


 しかし考えが甘かった。


 このあと勇者は委員長の中城とボーイッシュな桐川を選んで掻っさらっていった。


 早い者勝ちとは言っても、クラス人気二位と三位の女子まで持ってちゃうなんて酷すぎだろ。


 まさか勇者は高嶺たちを冒険中ナニするつもりじゃねーだろな? いや、女好き勇者ならやりかねないぞ。


 こうしてクラスメイトは順次にスカウトされていき俺一人残った。まさかの売れ残りが自分とは思わなかった。スカウト陣にロリコンがいたら、また違っていたのかも……それはそれで嫌だな。


「え、えーっと…………神崎さんをスカウトしたい方はいらっしゃりますか……」


 困り顔の係員のお姉さんがマイクを片手に聞いた。定員数一杯生徒をスカウトした冒険者チームの大半が、生徒を連れて退席して空席が目立つ。


 なんの嫌がらせか、あの勇者のチームと白銀の聖女さんだけが椅子に座って俺を見ていた。


 その視線は、前者が嘲るような歪んだ目つきで後者が優しい目で俺を見つめていた。


 そう言えば、白銀の聖女さんはまだ一人もスカウトしてないよな。


「そろそろ時間ですので、神崎さんをスカウトしたい方は手をあげてください」


 困り気味の係員さんが冒険者チームに呼び掛けるが、誰も手をあげる者はいない。

 もういいよ。どうせ俺なんか選ぶ酔狂な冒険者チームなんかここにはいない。


 すると勇者が立ち上がって歩き出し俺の前に立った。まさかコイツロリコンかっ!?


「にゃっ、にゃんにゃ……」

「フッ」


 ニヤケた顔で俺を見下ろす勇者が鼻で笑った。


「係のお姉さんが困っているだろ。どうせ君なんか選ぶ奴なんかいないのだから、辞退したらどうだ?」

「にゃっにいぃ……」


 係のお姉さんまで気を使う。トコトンまで女に優しい勇者だな。だけどちびっ子は嫌いらしい。


「はっはっ!こいつは可笑しい。口調まで幼女とはなぁ皆んな見ろっ!」


 高嶺さんが見ているのに俺を笑い者にする勇者。

俺にこんなことを言うために最後まで残っていたとは、つくづく勇者の裏の顔はこんなに性格が悪いとはな。


「……」

「ん……なに黙ってるんだチビ。早く自分から辞退しろ。教会の関係者がお前のせいで仕事が終わらなくて困ってんだろ。コラッ」

「にゃんっ!」


 勇者にデコピンされ額を両手で押さえる俺。


 悔しいけど、無力な俺はなにも言えなかった。


 だけど、握り締めた小さな手が怒りに震えた。


 すると外が急に暗くなり一瞬ピカッと光った。どうやら雷が教会に落ちたみたいだ。


「きゃあっ!なっなにっ!?」


 稲妻に驚いた女子たちが叫んだ。


 このあとなにもなかったが、白銀の聖女パラルが立ちあがった。


 すると優しい顔の聖女さまと目が合った。そして彼女がスタスタと歩き出すと俺の前に立った。


「なんのつもりだパラル?」


 知り合いらしく勇者が忌々しい表情を浮かべ聖女さまに聞いた。すると聖女さまは勇者を無視してしゃがんだ。


「おっおいっこの僕を無視すんなよっ!」

「……あたくしと一緒に冒険しませんか?」


 背中を向け勇者を無視する聖女さまが俺の右手を握った。ちょっとマジで女性と手を握ったのは、小学校の少年の家で女子と踊ったフォークダンス以来だ。


 いやしかし、よりに寄ってなんで聖女様が、幼女姿の俺なんか選んだんだ?


 まさか闇の人身売買組織に売っぱらうつもりじゃねーだろな……?

 いやそれはないか……。


『おい、あの聖女様がマジかよ……』


 周囲がざわつく。


 そうだよ。最後まで選ばれず残った俺を、勇者と同等の実力と知名度の聖女さまに選ばれたのだからな。


 半信半疑の俺は目を手で擦った。


「あらあら駄目よ。そんなに目を擦っちゃ」


 聖女さまはハンカチを取り出し、俺の目の周りを拭ってくれた。優しい彼女は本当に聖女だと思った。


「お前っこんなガキを選ぶなんて正気かっ!?」

「あら、まだ居ましたの勇者様」


 聖女さまの笑顔が一変して冷たい視線で勇者を見据えた。


「ぐっ……なにを企んでいるか知らないが、良く聞け腹黒聖女」

「あら……」


 勇者に腹黒呼ばわりされた聖女さまがうしろを振り向き目を細めた。


「魔王を倒すのはこの僕だっ!」

「あっそう…………」

「チッ!い、行くぞ皆んなっ!」


 物怖じしない態度の聖女さまに観念したのか勇者は仲間を連れ退散した。


「やれやれですわね」


 冒険者チームは退散し、閑散とした会場で聖女さまと俺が見つめ合っていた。そして優しい微笑みを浮かべる聖女さまが俺の頭を撫でた。


「にゃっにゃんでアタチを選んだのにゃっ?」


 どうしても変な幼女喋りに変換される。


「あら可愛い♡ どうしてって貴女……」


 悪戯な笑みを浮かべる聖女さまが耳元で小さく呟いた。


「馬鹿勇者は見抜けなかったけど、あたくしには分かる。君の本当の正体が……」

「にゃんにゃアタチの正体とにゃっ?」

「ふふっ……とりあえず食事に行きましょうかサタンちゃま(・・・・・・)

「…………にゃにっ!?」


 『俺がサタンだと?』サタンといえば誰でも知っている悪魔の総大将だ。こんな幼女姿の俺がサタンだって信じられないよ。

 それと『ちゃま』付けされたのが若干気になったな。


 とりあえず俺は白銀の聖女パラルに選ばれた。まるで彼女は最初から俺を狙ってこの教会に来たような気がする。


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