サタンちゃまとたこ焼きストーカー
北海道クエストを無事に終えた俺たちは車中泊して一夜を過ごした。(別に言いたくないけど、金持ってるのに聖女さまは節約家だ。悪く言えばケチだ) 朝になり東京に戻って向かった先は国会議事堂。
午前はメリーのために土産屋に寄ってそれから帰ったので東京に到着したのが午後四時頃。定時キッチリ帰宅する公務員たちがソワソワし出す時間帯だが……。
異世界大陸対策本部広報朱雀さんと会うのはこれで四度目。いつものように殺風景な会議室で聖女さまが報酬を貰い。次のクエストを言い渡された。
次の目的地は中部地方愛知県知多半島日間賀島。この島はどう言う訳か三百年間立ち入り禁止区域に指定されているいわくの地だ。
それにまた島かとウンザリした。だって昨日積丹半島で散々な目に遭ったからな。
でも仕方ない。俺のサタンとしての過去を知るには政府が指定した日本クエストを全部クリアするしかない。
それで今日は遅いから出発は明日の朝となった。
□ □ □
朝になり目覚めたのがキャンピングエアカーのベッドの中。場所が場所なんでベッドの数は少ない。だから俺はメリーといつも添い寝していた。
俺が起きたのもメリーが先に起きたからだ。(まぁ、俺が目覚める時間はメリー次第だと言え大抵遅くまで眠ってられる。要は寝助だから) しかし、今朝は早起きだったから珍しい。
顔を洗ったメリーは調理場でなにかを作り始めた。不思議に思った俺が聞くと一切答えてくれなかった。
一体なにを企んでいるのやら……。
朝食は食パンと牛乳だ。もう少しオカズが欲しいところだが、朝からたこ焼きよりはマシだった。
聖女さまをつけ回す謎のたこ焼き屋の八ちゃんさん。九人姉妹の八番目だと本人が言うけど、それにしても多過ぎる。
「サガネさん。現在の勇者の動向は?」
紅茶を口にしながら聖女さまがメイドさんに聞いた。矢張り勇者の様子が気になるみたいだ。
すると表情一つ変えないサガネさんは『駄目な勇者かそれとも……』と聞いた。
しかし駄目な勇者とは恐らく女好きのガレオのことだ。
「もちろん本物の勇者の今を知りたい」
「かしこまりました。勇者の力に目覚めた少女は大英雄ガルドと手を組みました」
二人が話す内容はさっぱり分からない。ただ、『大英雄ガルド』名前からして豪傑のイメージが湧いてただ者じゃないと理解出来た。
「よりに寄ってガルドですか……」
眉根に皺を寄せ聖女さまの表情が曇った。すると意を決したのかスクッと立ちあがった。
「こちらも英雄に匹敵する。いや、それ以上の仲間を早く見つけ出さないと」
それなら早く異世界大陸の英雄をスカウトするのが先決だと思ったけど、まだ日本クエストが残っているから出発出来ず。なんだか歯痒い。
朝食後すぐに愛知県日間賀島に向け出発した。安全運転なので到着したのが午後だ。
日間賀島の港にエアカーを駐車すると例のたこ焼き屋が先回りして止まっていた。
「やはり出たわね」
車内のカーテンの隙間から外を覗いたメリーが、まるでオバケでも見つけたかのように呟き、ほくそ笑んだ。
やはりなにか企んでいるらしい。
「立ち入り禁止区域に入って来るなんて明らかに怪しいわね……」
メリーが言った。確かに今回ばかりは偶然で済まされない。理由が商売にせよ。そもそもこの島には住民がいないのだから。
「ちびっ子。一緒に行くわよ」
「にゃっ!」
メリーが俺の右手首を掴んで引っ張って外に出た。
外に出た瞬間、香ばしいソースの匂いがした。出どころはたこ焼き屋だ。
俺の手を引っ張ってメリーは一直線にたこ焼き屋に向かった。
金髪おかっぱ眼鏡の女性店主八ちゃんさんがせっせとたこ焼きをひっくり返していた。
マスクをしているけど美人なんだろうな。いや、どっちかと言うと可愛らしいイメージだ。
「朝から仕事なんて精が出るわね」
メリーが八ちゃんさんに声を掛けた。
「いっ、い、いらっしゃいませなのだっ……」
明らかに動揺している八ちゃんさん。しかも語尾の『なのだ』は余計だ。
「え、え〜〜と……ご、ご用件は……?」
注文以外以外考えられないと思うが……。
「じゃあオススメは?」
本当に注文するんかいメリーさん。しかも代金先払いした。
「……オ、オススメですか…… う、うちは普通のたこ焼きしかないのだ」
「じゃあそれ10パック作って頂戴」
「………………」
まさか一人で食うつもりじゃないよな?
嫌がらせと言うか、メリーが先払いして10パック注文したのは、たこ焼き屋を逃がさないためだと俺は気づいた。
「わ、分かりました……少々時間が掛かるなのだが……」
「別に構わない。その間貴女とお話ししたいわ」
「…………」
メリーの意図に気づいた八ちゃんさんがしばらく沈黙したあと、店仕舞いしようと動いた。
彼女は都合が悪くなると逃げる癖があるみたいだ。
「待ちなさいっ!」
「!」
メリーが呼び止めると、八ちゃんさんの動きが止まった。
「代金支払ったのよ。たこ焼き作らずに逃げるつもり?」
「……わ、分かったのだ。ち、ちゃんと作るのだ……」
観念した八ちゃんさんはたこ焼きを焼き始めた。
「ねぇ聞いてたこ焼き屋さん」
「…………はい」
「このクエストを無事に終えたらこの場所で皆んなとバーベキューを始めようと思っているの」
そんな計画は初耳だ。
「……それは良かったのだ。どうぞご勝手に……」
「アンタも参加して欲しいので、それまでここで待機して欲しいのよ」
「………………………………わ、分かったのだ」
たこ焼きを回す手が止まり。ずいぶんと沈黙してから八ちゃんさんが返事を返した。別に逃げる必要ないしね。
とにかくメリーさんは、たこ焼き屋さんの正体を暴くために、なにか企んでいるのは間違いなさそうだ。
ただ、仮にたこ焼き屋の正体を掴んだとして、俺たちパーティーになんら利益をもたらすか不明だった。




