サタンちゃまと異世界転移10
空き時間を利用してメリーとリオンとで屋台巡りをしてたけれど、現地のお金がないことに今さら気づいた。
それでねだられる前に屋台から離れた方がいいと思った矢先に、リオンに肩を叩かれた。
「にゃんにゃっ!?」
また首絞められるかと思ってビックリした。
「気になる屋台があるのじゃが……」
物欲しそうな目で俺から視線を離さないリオンが、右手だけを背後の屋台に向けた。
その屋台の看板には『サバン焼き』と書かれていて、縦長サカナ型のたい焼き風イラストが描かれていた。
「にゃんにゃ……サバンって異世界のサバのことかにゃ?」
「妾の故郷ムーではかつて同じような横長の魚型の焼き菓子が、屋台で売られていたのじゃっ!」
ヤケに興奮していると思ったら、故郷の菓子と似ていたからだと知った。しかも形が似ているたい焼きにこだわる理由原因がそれだと納得した。
『にゃるほど……』とはいえ金がないからスルーしよ。
「それは良かったにゃっ……」
俺はリオンが気になる屋台を素通りした。
「ちょっと待つのじゃ……おいっこら!」
「にゃっ……」
顔真っ赤にしたリオンが俺に向かって走って来た。まるで怒ると真っ赤に変色するモスマンみたいだな……。
「にゃんにゃリオン?」
「妾には金が無いから、サタンちゃまが代わりに奢るのじゃ」
「それは無理にゃ」
「……な、何故じゃ……」
目を丸くしたリオンが呆然と立ち尽くした。
「何故って現地の金がにゃいから、そもそも一つも買えないのにゃ」
「なんと……だったら妾にサバン焼きを買ってあげることを想定して、大会前に金を稼いでこなかったのか、それは怠慢だと思わぬのかっ?」
「思わにゃいにゃっ!」
何故俺が他人のためにそこまで想定して金を稼いでおく必要があるのかと、一から十までリオンに問いたい。
大体俺はエスパーじゃないのだから、異世界にたい焼き風の菓子が屋台で売られているなんて想定出来るハズがない。
だから俺はリオンに向かって首を横に振った。
「なんじゃと、愚民が鬼か……」
「にゃっ、にゃめろ〜〜お!」
結局リオンに押し倒され馬乗りにされて、首絞められるオチになった。しかし、いい歳したちびっ子同士がなにやってるのだか……。
「どうしました?」
たまたま通ったのか、運がいいことにミルトが話し掛けてきた。
「見れば分かるのじゃろ? 愚民の癖に妾に菓子を奢る金が無いと申したから、こうして制裁を加えておるのじゃ」
「無茶苦茶にゃ言い分にゃっ! 姫さまにゃらその愚民に逆にほどこすべきにゃろ?」
「まだ屁理屈申すかっ愚民が!」
「にゃあっ!」
俺の首を絞めるリオンの手の力が一層強くなった。冗談抜きで本気の殺意を感じた……。
「お二人共はじゃれ合うほど仲が良いのですね」
「どこがにゃっ!?」
「どこがじゃ?」
俺とリオンが同時にミルトにツッコミを入れた。
「ハハ……良かったら僕がサバン焼き奢りますよ」
「なんじゃとっ!」
ピョコンと顔をあげたリオンが俺から離れた。やれやれ助かったよ。
「早よ奢るのじゃっ!」
屋台の前で足踏みしてミルトを急かすリオン。
しかしどんだけたい焼きに熱中してんだか理解不能だな。
「君の分も買いましょう」
「にゃに、いいのかにゃ?」
「ええもちろん。僕のパルナのために勇者チームと戦ってくれるのですから、これ位」
「ありがとうにゃっ」
こうして俺とリオンはミルトにサバン焼きを一本ずつ買ってもらった。
しかし異世界にたい焼きに良く似た焼き菓子があるとは驚きだ。
で、どんな形かと言うと、直径20センチの横長のサバみたいな、とにかくデカイたい焼き風菓子だ。
んで中身はと言うと、流石にあんこではなく、木の実を砂糖で煮詰めた餡が詰まっていた。
それが歯応えあって、甘くて最高に美味い。
で、たい焼き姫はお気に召したかと言うと……。
「うまうま……悪くないぞ!」
「にゃっ……」
でっかいサバン焼きを両手で持って、まるで小動物のように黙々と食べるリオンの姿だ。
「たい焼きとはまるで違うが、これはこれで美味いぞ! うまうま…………♬」
滅茶苦茶気にいったみたいだ。
『…………………まぁ頑張れ』
□ □ □
サバン焼きを食べ終えてから大会開始までまだ時間が残っていたから、俺たちは見るだけの屋台巡りをしていた。
「おいっ! ちょっと待てよ」
すると背後から男に呼び止められた。そろそろ絡まれる頃だと思っていた。
「にゃんにゃ?」
面倒臭そうに振り返るとスキンヘッドの剣士っぽい冒険者がニヤケ面で俺を見おろしていた。ちなみにうしろには仲間らしき男共が九人いた。
どれも雑魚っぽいな。
「へっ、にゃんにゃだと? コイツ猫みてーな口調だなっ?」
仲間の一人の頭にターバン巻いた小太りの男が言ってきた。
「よせシャンゼリゼ」
「へい兄貴済まねぇ出しゃばって……」
『にゃっ……』シャンゼリゼってお洒落な名前と醜い外見釣り合わねーな。
「ところでお前は説明会で余計な質問したガキだろ?」
「魔法と召喚術についてかにゃ?」
「そうだよこのヤロー……お前のせいで魔法がスキル扱いになって、他に使えるスキルが減ったじゃねーかよ」
絡んできた目的が分かったけど、俺に指を差すな……。
「にゃんにゃおみゃえ魔法使いかにゃ?」
「あーー、それに近い魔法剣士だ」
そうは見えんが……。
スキンヘッドの輩は話しを続けた。
「よりに寄って魔法がスキル扱いにされなかったら、俺の目潰し反射スキルと分身スキルが使えたのに、そ・れ・を〜〜、お前が余計な質問したせいでいずれか一つ捨てざる得ない……」
「にゃははっ♬ 」
「テメエッ笑うなっ!」
額に青筋立てたスキンヘッドが俺に向かって白い歯を剥いた。
「ゆ、許さねぇ……この俺を誰だと思っている?」
『どっかで聞いたことのある』カマセが吐く台詞だな。
「にゃんにゃ? たんにゃるカマセにゃろ?」
「こっ! こっこっこっこっこのガキィイィィ言わせておけば……いいか耳の穴よーくかっぽじって良く聞け、俺はこの街を裏で牛耳る泣く子も黙る盗賊団の頭のライトニングってんだ……」
「にゃっ……」
『まんまな名前じゃないか』俺はライトニングのテカッている坊主頭を見て、妙な笑いが込みあげてきた……。
「にゃにゃにゃ……」
「だから笑うんじゃね〜」
『これは失礼』まぁ、どう見積もっても雑魚には変わりはない。
俺に舐められているとは知らずニヤケ面のライトニングは指を鳴らした。
「もしも一回戦に俺らのチームと当たったら、死にたくなければ辞退しろよ」
「にゃにゃにゃ♬ それ自分に言ってんのかにゃ?」
「お、お、なにっ? ……こっ、こいつ!」
脅しにも微動だにしない俺を見てライトニングは戸惑っている様子だ。
「雑魚相手のボーナスタイムにゃのに、誰にゃ辞退するかにゃっ! もちも、おみゃえらと当たったらにゃっ〜アタチ一人でぶっ潰してやるにゃ」
「こっこっこっこっこっこっこんにゃろ〜〜舐めやがって上等だ。ヒッヒッヒ、デカイこと言いやがる……逆にぶっ飛ばしてやるからよ、ぜって〜逃げんなよっ!」
「にゃっ」
怒りで震える手で指差すと、ライトニングは仲間を従えその場を去った。
まお見事なお前が言うなだよな……試合中逆に俺から逃げるなよ。
「ちょっとちびっ子!」
振り返ると腰に両手を当てたメリーが俺を見おろし、口をへの字に結んでいた。
「にゃんにゃメリー?」
「一人で戦うって大見得を切って、本当に大丈夫なの?」
「あのにゃあメリー……今までアタチの活躍どんな目で見てきたにゃっ?」
「……ええ、それはそうね……あの程度の雑魚10人相手でも…………あ〜」
冷静になって考えたメリーだが、『あっ!』と思い出したのか手をポンと叩いた。
「ちびっ子一人で十分だったわね」
「にゃろ?」
問題解決してホッとした束の間、背後からリオンが俺のスカートの裾を引っ張った。
「にゃんにゃリオン?」
「……サバン焼きもう一つ食いたいのじゃ」
「まだ食うのかにゃっ!」
ご飯三倍分位ありそうなサバン焼きをお代わりとはリオンの胃袋はどうなってんだ? 聞いてる俺は胸焼けしてきたよ。
「ああ、大丈夫ですよ」
人が良いミルトがリオンにもう一つサバン焼きを奢ってくれた。
ちなみに俺とメリーはおなか一杯で遠慮した。




