サタンちゃまと異世界転移6
結婚式に乱入した主人公がヒロインを拐っていく展開はドラマだけで充分。
すでに二人の妻がいる勇者アルベートがそれをやったら単なる略奪だ。
過程は知らないけど、苦難を乗り越え結婚を誓い合ったミルトとパルナとの仲を引き裂くのは、勇者だろうと許されない。
俺は勇者の前に立ち睨むように見あげた。
「表にでるにゃアルベート」
「へ〜また僕ちゃんに歯向かう気? どうせ手加減しても、また勝っちゃうけどね〜」
クルリと回り、両手を首に回したアルベートが出口へと向かった。
俺も奴のあとを追うと、座っていたメリーが立ちあがった。
「ちょっとちびっ子。まさか勇者と喧嘩する気?」
心配そうな目のメリーが俺の腕を取った。
「そのまさかにゃ、アイツには借りがあるし……このままにゃ女神パルニャが奪われてしまうにゃ」
「へえ、アンタ悪魔なのにいい奴ね」
「にゃっ……」
『いい奴と褒めることは、悪魔にとって逆に侮辱だぞ』でも悪くはない。
「喧嘩なら助太刀するぜ」
「……」
犬飼とリオンが立ちあがって俺に声を掛けた。
「お前はどうする?」
犬飼が座席の方に振り返ると、時道に声を掛けた。すると無口な彼は黙って立ちあがった。
「あの男、なりは軽いが、かなり腕の立つ……さらに特別な剣を手にすると僕が加勢しないと厄介だぞ……」
勇者剣のことだな。先ほど俺が頭突きでへし折ったのはただの剣だった。確かにかつて俺が受けたあの勇者のスピードは、勇者剣によるもの。
まてよ、今奴の手に勇者剣がないと言うことは……厄介なその剣は教会の外だ。
「にゃんっ!」
「ちょっとちびっ子!」
メリーの制止を振り切って走り出した男はアルベートを追い越し、開いていた出口を通過して外に飛び出した。
「にゃっ!」
すると入り口で待機していた魔法使いドルチェルと半裸のガタイのいい戦士が大事そうに長剣を抱いていた。
『間違い』アレが勇者剣だ。
俺は真っ先に勇者剣を奪うため戦士に飛び掛かった。目的は速攻へし折るためだ。
「む、この子供……」
戦士が俺に気づいた。しかし俺についてはなにも知らないみたいだな。
「アレはサタンちゃま……おいっガルドッコイツはただの子供ではないっ警戒しろっ! 奴の狙いはお前が抱く勇者様の剣だっ!」
「あのサタンちゃまかっ!?」
ドルチェルに言われハッとする戦士。いや、ガルドは抱いていた剣を俺に取られまいと背中に回した。
『問題ない』ガルドをぶっ飛ばして、そのあと勇者剣を奪えばいい。
「にゃにゃっ!」
「ぬおっ!?」
俺は真正面からガルドに向けて頭突きを繰り出した。すると奴は咄嗟に両手で俺の頭をサッカーのキーパーのごとく、両手でキャッチした。
「にゃにゃっ♬ ニャイスキャッチにゃ♪ しかしチャンスにゃ」
ゴトッ!
ガルドの背後から勇者剣が地面に落ちる鈍い音が聞こえた。まさにチャンスで、ガルドが拾う前に俺が奪えば……。
「にゃっ……」
ガルドに頭を掴まれ離脱出来ない。
「子供だと侮っていたが、なんて威力だ……」
「おいっガルドッ! そのままサタンちゃまを逃すなよっ!」
「ああ……」
『しまった!』魔法の杖を俺に向けたドルチェルが向かって来た。
そんじょそこらの魔法使いが使う攻撃魔法と違って、ドルチェルの魔法の威力はケタ違いだ。それを喰らったら、俺でもただでは済まないだろう。
「は、はなちぇ……」
俺はジタバタしてなんとかガルドから逃れようとするが、強靭な両手で頭が挟まれ引き抜くことが出来ない。
「勇者様が来るまで逃すわけにはいかないな」
「くちょーっ!!」
俺はまた勇者に捕まってしまうのかと焦った。
「おいっガルドッ避けろっ!」
「んっ!」
ドルチェルが杖を空に向け叫んだ。するとガルドが顔をあげると同時に、上空を旋回する飛行形態のE-アルマーが無限バルカンを掃射して、奴の足元をかすめた。
俺には当たらない計算だろうけど、それでも危ないなぁ……。
「ムウッ! なんだアレは?」
「気おつけろガルド。アレはいつぞや地球で見た機械式可変ゴーレムだぞ!」
「ほっほ〜面白い。ハッ!」
「にゃにゃっ!?」
なにを思ったのかガルドは俺を空高く放り投げた。
「落ちるにゃっ!」
死にやしないが落下したら痛い。だからとっさにステータス画面を開いて悪魔ファイルをタップして、即座に黒鴉とクレナを呼び出した。
「社長っ飛んでますよ」
「サタン様ぁ!」
「アタチを受け止めるんにゃっ!」
「『了解っ!』」
翼を広げた二人が俺をキャッチしてゆっくりと降下した。
「ほうっ、部下を召喚出来るのか……」
深々と被ったトンガリ棒を人差し指であげたドルチェル。帽子の間から覗く鋭い眼光が、俺たちを捕らえた。
そして杖を俺たちに向けた。
「グレートファイヤーボールよ。悪魔を焼き祓え」
「にゃにっ!」
杖から発生したドルチェルより巨大な火球が俺たちに向け放たれた。
「社長っ単なるファイヤーボールじゃない。レベ違ですぜっ」
「分かってるにゃ黒鴉っ避けるんにゃ」
「ケケッ♬ 焼き鳥になるのはごめんですよね」
「にゃっ」
俺を片手で抱きあげた黒鴉が素早く横に移動した。すると火球が動きに合わせて横に動いた。
「なにっ!」
「フンッ馬鹿め。我のグレートファイヤーボールは自動追尾型だ。敵を仕留めるまで決してその火は消えぬ」
ドルチェルに操られた大火球が目前に迫る。駄目かと観念した瞬間、後方から特大氷の塊が火球にぶつかり消し飛ばした。
「なにっ!」
「伝説の魔女ドルチェル……一度手合わせしてみたかったのよ」
氷の塊を放ったのは、教会の入り口で杖を構えしたり顔の魔法使いビビットさんだ。
ビビットさんはドルチェルより劣るが、大魔法使い同士の夢の対決だ。
「ここらでは見ない魔法使いね……」
「アタシの名はビビットよ。よろしくね先輩」
「……お前のそのスタイル……我の真似をしているのか?」
「ええ、憧れだったのよ。伝説の魔女ドルチェルにさ」
「む……だったらさん付けで呼べ無礼者っ!」
怒ったドルチェルがビビットに杖を向け、即座に大火球を放った。
「避けるんにゃっビビット!」
「分かっているちびっ子。だけど氷魔法詠唱に間に合わない……」
自動追尾型だから魔法で消し飛ばすしか避ける選択がない。だからビビットが杖を向けるがその前に火球が目前に迫っていた。
「くっ!」
ぶつかると思ったその瞬間火球の動きが止まった。まるで火球だけ時間が停止したかのようだった。
するとリオンがスタスタと歩いて火球の前に止まった。
「ちょっとちびっ子っ危ないわよっ!」
「ちびっ子ではないっ! なに、心配はいらん」
ビビットが警告するもリオンは振り向かず、果敢にもシールドロッドを火球に向けた。
「なにをする気だ娘?」
「……黙って見ておるのじゃ、こんな火の玉なんかこうしてくれる」
ボンッ!
「なにっ!」
シールドロッドからエネルギーバリアが展開して、火球を吹き飛ばした。
「なんだ今のは防蟻魔法か……」
左目を大きく見開き驚くドルチェルがリオンに聞いた。
「魔法ではない。これは盾だ」
「盾だと……確かに球体ロッドからエネルギーを放ち火球を弾き飛ばした。だから盾と呼ぶのは間違ってはいない。しかしどのような原理だ?」
「……知らんっ! お主らは普段使っている冷蔵庫や電子レンジの仕組みを理解していて使っているか?」
困惑したドルチェルが首をかしげた。
まぁ、科学が発達していない異世界人に聞いてもチンプンカンプンだろ。
「電子レンジ……良く分からないが知らん」
「だったら聞くな。妾もどう言う仕組みでエネルギーバリアが出るのか分からず使っておるのだ」
「ちょっと馬鹿なのか? それじゃ故障したら治せないんじゃないか?」
ドルチェルの的確な問いに時道が答えた。
「その時は僕が治しますから大丈夫」
「む、お前出来るな……」
時道を見たドルチェルは一目でタダ者じゃないと察知してうしろにさがった。
「ちょっとドルチェル〜〜っこんな奴らになにをビビッてんの? ひゅ〜♬」
ずいぶん遅れて勇者アルベートが、口笛を吹きながら教会から出て来た。
「不味いぞアルベート。コイツらタダ者ではない……」
「大丈夫だよドルチェル。僕ちゃんはなにせ勇者だからね〜〜負ける訳ないじゃん。それにガルドッ」
アルベートはガルドに向かって手招きした。すると意図を察して大事に抱きしめていた勇者剣を勇者に投げて寄越した。
「おっと! 大事な剣投げんなよ。……とはいえ、勇者剣ガルゼロードを手にしたからには、僕ちゃん無敵だかんねー!」
「にゃんと」
鞘から抜いたガルゼロードを両手で構えたアルベートの全身が、黄色のオーラに包まれた。
勇者剣ガルゼロードを使いこなすアルベートの動きがとんでもなく速くなる。
【ゼロ加速】瞬き一回の速度で間合いに入られたアルマーが、かつてこの剣によってバラバラにされたんだ。




