サタンちゃまと異世界転移4
ピンク髪勇者の仲間である豪快冷静僧侶ガイズは、どうやら一人で酒場に立ち寄ったらしい。一時は宿敵の再会にドキドキしていた。
「ところで満席で困っておったんじゃ、助けたお礼に拙僧も混ぜてくれないか?」
別にあんな雑魚三匹は俺一人で十分だったのに、この僧侶は余計なことしてくれてな。
とはいえ俺には気づいていない様子だから、酒の席でピンク髪勇者チームの内情を聞くとしよう。
「むう……椅子が足りぬか……」
ガイズが座ろうとしたが、椅子が足りなくて途方に暮れていた。そこで俺は飛ぶように席を立った。
「おっさんアタチの席に座るかにゃ?」
「童の席がなくなるからいいのか……」
「大丈夫にゃっ」
俺はステータス画面を表示させてから、悪魔ファイルをタップして黒鴉だけを呼び出した。
「黒鴉っ出番にゃっ!」
「社長ワタシだけ呼んでなに用ですか?」
「椅子にゃいから抱っこ〜」
「ちょいっ! ちょいコラーーッ!」
普段陽気な黒鴉がキレた。
「にゃんにゃっ!?」
「にゃんにゃじゃありませんよ。昭和初期のドロドロした猟奇殺人騒動から、ちょっとの間に呼ばれたと思ったら、今度は異世界の居酒屋ですか? で、てっきり喧嘩の助っ人にかと思ったら、なんですか子供みたいに抱っこを要求って?」
「にゃっ……」
ヤケに饒舌に喋るな……口下手な俺には無理な芸当だ。
しかし椅子をガイズに譲ったからには立ちんぼは辛い。だから抱っこは譲れない。
「黒鴉っアタチの言うこと聞けにゃいのか?」
「え、あ……もう分かりましたよ社長〜……、しっかし年々脳みそが幼児に退化してません?」
それはあり得るな……見掛けは変わらなくても一万年生きてきたら、精神が成熟するものだけど、このサタンちゃまはずっと精神が幼いのだ。
「にゃにゃにゃっ♬ 長生きすれば誰もが大人ににゃると思ったら、間違いにゃのだ」
「うわっ開き直った社長に皆ドン引きすよ」
「にゃにゃっ♬ ほにゃ黒鴉抱っこ」
「……本当、社長じゃなければ今頃ブッ飛ばしてたところでしたすよ……」
黒鴉は渋々俺を抱っこした。丁度目線がテーブルの位置になって料理に手が届くぞ。
「召喚魔法とは珍しい……この黒騎士は童の従魔か?」
「にゃんの話しにゃ?」
ガイズが俺に聞いたが無知な子供の振りして答えを濁した。まぁ、スキルや召喚についてはライバルには教えたくないからな。
「無から出した黒騎士についてだ」
「はにゃ……そうにゃのかにゃあ?」
「……そ、そうか、聞いて悪かった……」
会話が通じないと思ったのかガイズは口元を左手で押さえ、右手の平を俺に見せた。高校生男子時代に英語で道を聞かれた外人に同じ仕草されたことを思い出した。
言葉が通じないと困るよな。それに側から見たら俺は、会話が続かないコミ症そのモノだがな……。
「ところで良い匂いだ。拙僧も食っていいか?」
「もちろんどうぞ」
人の良いミルトが鳥の丸焼きをガイズに薦めた。すると彼は一礼すると手を合わせてから、鳥の丸焼きを両手で掴んで齧りついた。
「あ〜〜むっ…………むっ!」
鳥の丸焼き噛んだガイズの目が丸く見開いた。
「せっ、世界ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーー〜〜!!」
「にゃんにゃっ!?」
顔を天井に向けたガイズが突然奇声をあげた。
「にゃんにゃ急に?」
「いや旨い。世界一美味しい鳥の丸焼きだ」
単なる口癖かよビックリした。
「いやぁ美味い。……美しい彼女はただ者でござらんな……」
ガイズが慈愛の女神パルナに目を向けた。その鋭い眼光はまるで獲物を見つけた鷲の目だ。
「彼女はわけあって天界から実体化してやって来た慈愛の女神パルナで、僕が婚約予定の冒険者ミルトです」
「ほう、婚約予定とは式はまだと言うことか?」
「はい……実は明後日にこの街の教会で彼女と結婚式をあげます」
照れながらミルトが言うと、盗み聞きしていた荒くれ者たちが嫉妬の目で彼を睨んでいた。
まぁ恋愛とは無縁そうな強面連中だからな。
「ほうっ、若好みの女神殿なのに残念だ……」
『若って誰のことだよ?』て言うか、素直に二人を祝福しろよ僧侶。
「ところで君たちは見ない顔ですな……」
ガイズの興味が時道たちに移行した。
すると犬飼がガイズが握っていた空の樽ジョッキにエールを注いだ。
「俺たちはこことは異なる世界から来た時の旅人さ……」
「なるほど異世界人か……」
「なんだ知ってるのか?」
驚いた犬飼が半身をおどり出して聞いた。
「ウチのチームに異世界から連れて来られた天使とやらがいるのだ」
「リリカと言う天使騎士にゃろ?」
「おっ良く知ってるな童。チームリーダー勇者アルベード殿は二人の妻がいて、その天使騎士が第二妻と言うわけだ」
『二人も奥さんいるのかよ』あのいかにもチャラいピンク髪勇者が……俺は過去にアルベードに捕まり首根っこ掴まれ『サタンちゃま捕ったどー!』とされた時の屈辱は今でも忘れない……。
今度会ったらぜってーブッ飛ばす。
「ところで勇者チームはなにしにこの街に?」
話題反らしかミルトがガイズに聞いた。
「ああ、丁度この時期の大闘技場で行われる冒険者チーム対抗バトルロワイアルに参加するために参った」
「にゃんにゃっ対抗戦って?」
「そんなこと知らんのか童っ、都では有名な祭りだぞっ?」
「アタチもよそ者にゃから知らんにゃ」
「なるほどそれなら教えてやろう。この祭りは10人の冒険者チーム同士が闘技場で一斉に戦い合い、片方を先に全滅させたら勝利とのルールだ」
順番通りじゃなく、好きな相手と戦い時には仲間と協力しながら勝ち進むバトル内容だな。
面白そうだし、勇者チームが参加するなら以前負けた雪辱を晴らすチャンスだ。
しかし俺とアルマー意外は闘技大会に出る理由がないんだな……。
それより明日は、ギルドに行ってはぐれたメリーたちの行方を探す方が先だな。
「さて……」
ガイズが席を立った。
「おっ、帰るのか?」
「おう」
犬飼がガイズに聞くと彼は陽気に親指を見せた。
「しかし優勝してなんか賞金もらえるのか?」
「……多少の賞金がもらえるが……我々が欲しいのは、一番強い証である勇者トロフィー。つまり強者の誇りだ」
「分かるぜぇ男なら、誰しも譲れない誇りっつーもんがあるからな」
『んっ』酔ってるのか犬飼?
「では失礼するぜ…………おっと一つ忘れていた」
出口に向かって背中を向けたガイズだが、なにかを思い出し振り向いた。
「若は女子好きでこの都に寄ったついでに第三妻を探す予定だ」
ギリ二人目は許すとして、三人目となるとドン引きだな。しかし見境ないな。メリーと再会したら注意した方が良さそうだな。




