サタンちゃまと異世界転移
雲一つないピクニック日和の青空に無数の赤色のワイバーンが旋回していた。
「ひいふうみっ、あっすいませんっまた数え間違いましたー」
目視でワイバーンの数を数えていたが、途中から数え間違えて律儀に謝る真面目と言うか、気の弱い長谷川警部補。
しかし相手はジッとしてくれないので正解な数を数えるのは困難と思える。
だから大雑把でいいんだよ。
「ざっと五十匹位のワイバーンだにゃ」
「数はともかくなんだワイバーンって?」
「にゃっ」
険しい顔した鷹村警部が振り向き俺に聞いてきた。まぁ平成昭和では俺たちは部外者で肩身の狭い思いをしてきたが、今度はよく知るこっち側の世界だから胸張って教えてやる番だ。
「にゃにゃにゃっ♬」
「おいっ! この非常時になに突然笑う?」
あの鬼のように厳しい鷹村警部が俺にドン引きしている。『いやぁ気分がいい』また笑いたくなってきた。
「ワイバーンとは異世界の魔物にゃ」
「異世界〜〜馬鹿も休み休み言えっ! さっきからなんだこの秘境はまさか群馬か?」
「違うにゃ」
『流石に群馬県民に失礼でしょ』しかし真面目な鷹村警部もたまに冗談を言うだな。
「異世界って俺らは平成の日本から、ちびっ子の言う異世界に来てしまったと言うことか?」
腕組みして空を見あげる犬飼が俺に聞いた。
「にゃっ、恐にゃく魔王軍幹部が放った転移魔法のせいでアタチたちは異世界に移動したのにゃ」
「なるほどな……まぁ良く分からねーけど、俺らには知らない不思議なことが起きているんだな」
肝が座っているのか犬飼はこの状況を受け入れて、とりあえずウイスキーを飲んだ。
しかし、四六時中酒を口にする男だ。異世界に来たら大好きなウイスキー売ってないから、底を尽きたらどうすんだろ……。
「なにを納得している。わ、私は認めんぞ、こんな非常時な世界っ」
震える左手でワイバーンを指差す鷹村警部。ほっぺをつねって夢の中だと勘違いしているのかな?
しかし可哀想にこれは現実だ。
「にゃにゃっ♬」
「だから笑うなと言っている。そこの子供っ!」
涙目の鷹村警部が今度は俺に指刺した。
「にゃ〜、いい加減現実を受け入れるにゃ鷹村」
「なにっ……なんだこの子供は大人を呼び捨てにするとは一体どんな教育を受けてきた……」
「アタチが子供〜〜? にゃにゃっ♬」
「おっと! また笑った。何度注意しても言うこと聞かないクソガキだな……」
俺を教育しようとした鷹村警部がサジを投げたみたいだな。それが正しい。何故ならサタンちゃまは誰にも従わない自由な悪魔王なのだ。
「おみゃえ何歳?」
「なんだと……レディの歳を聞く気か……」
鷹村警部は歳は言いたくないらしい。だったら俺が代わりに言ってやるか?
「三十手前ってことだろうから、言いたくにゃいのは分かるにゃ」
「くっ、まだ26だよっ! 私は若くして出世したキャリア刑事だっ!」
「にゃっ!」
我慢の限界だったのか、俺は鷹村警部にゲンコツされた。しかし26って微妙な年齢だな……三十路から片足突っ込んでいるぞ。
「にゃんだおみゃえ26かにゃ……」
「なんだと……お前に比べれば充分大人よ」
「……にゃっにゃっにゃっ♬」
「だから笑うな!」
「いにゃあ、悪い……26歳子供過ぎてつい笑ってしまったにゃ」
「頭イカれてるのかクソガキ……偉そうに言うお前の歳はなんちゃいだ?」
鷹村警部は俺を煽るほど余裕が出てきたな。
「聞いて驚くにゃ、アタチの年齢は1万歳だにゃ」
「嘘だぁ〜」
「にゃっ」
馬鹿にした顔で長谷川っ俺を指差すな。
「……どうやらサタンちゃまの言ってることは真実みたいですよ」
右の義眼を赤く光らせて俺を見つめる時道が言った。確か時の義眼と言って過去と未来が見えるムー大陸の遺産らしいな。ムーってのが胡散臭いがそうらしい。
「そん子供の嘘はどうでもいいがっ、ワイバーンの群の様子がおかしいぞっ」
鷹村警部が空に向けて指を差す。今度は大きく揺れて焦りが見える。
で、確かに旋回していたワイバーンたちがコチラに向かって飛んで来ている。
「まさか俺らを喰う気か……」
アゴに手を当てて呑気に言う犬飼。
「にゃにゃっ♬ 大丈夫にゃっ、ワイバーンごときアタチに任せておくにゃ」
「……そんこと言ってまた三人のネーちゃん出して自分の代わりに戦わせる気じゃねえのか?」
「にゃんにゃっ! 部下を出さにゃくてもアタチ一人でワイバーンごとき片付けるにゃっ!」
「おっと! そんな怒るなよちびっ子。まぁ悪かったな……良かったら飲むか?」
後頭部を掻いて申し訳なさそうな犬飼。なにを思ったのか、ウイスキーが入ったジュラルミンボトルを俺に差し出した。
「要らんにゃっ!」
子供に酒を勧めるなんてぶっ飛んだ倫理観だな。しかもウイスキーなんて苦くて大人でも苦手な人が多いぞ。まぁそれよりも、四六時中口につけているボトルを勧めるなんて中々だな……俺は潔癖症なんで、イケメンだろうと間接キスはゴメンだ。
『クエ〜〜〜〜〜〜ッ!』
一匹のワイバーンが俺たち目掛けて急降下接近して来た。
「おいっ来るぞっ!」
鷹村警部がジャケットの懐から拳銃を取り出し両手で構えた。まぁ拳銃程度じゃワイバーンには通用しないと思う。
「待つにゃ、ここはアタチの」
「あのふざけた頭突きだろ?」
「にゃっ……仕方にゃーよ。手足が短いから、飛んで敵に頭突きをかますしかにゃいのだ」
「……なるほど、そりゃちびっ子キャラの攻撃は最終的に頭突きになるか……」
納得するな鷹村警部。しかし、魔法を使えるならまだしも、飛び道具を使えないなら、頭突きを余儀なくされるちびっ子キャラの悲しき宿命だな。
「たっ、鷹村警部っき、来ましたよっワイバーンがっ!」
腰を抜かした長谷川だ。中々いいリアクションだが、ワイバーン程度でビビっていたらこれからやっていけないぞ。
「ええいっ! ちょっと黙っていろ長谷川」
「はいい……」
「しかし多くの凶悪犯を検挙してきた私でも、こんな化物相手するのは初めてだ……」
額に汗を流した鷹村警部が、迫るワイバーンを目前に弱音を吐いた。まぁ無理するな。
『ここが見せ場だ』と俺が頭突きの体勢で頭を向けた。
『クエッーーギャッ!!』
「なにっ!?」
突如現れた銀髪の冒険者風の男が鞘から抜いた長剣でワイバーンを斬り倒した。
銀色のプレートアーマーを着たいかにも異世界の冒険者風の戦士と、金色のロングヘアーの純白のローブをまとった色白の美人。
「〆☆々%〜€$♪☆♪…………」
「にゃんにゃ……」
男が話し掛けるが、異世界語でなに言ってるのか分からない。俺たちが困っていると上空を舞うワイバーンの群が次々と地上に落下した。
良く見ると、飛行形態のアルマーがバルカン砲で一掃してくれたようだ。
『大丈夫かユーたち』
一周旋回したアルマーがゆっくり降下して俺たちに話し掛けた。
「良いところに来てくれたアルマーッ!」
『ワッツ?』
両手を広げて駆け寄って来た俺を見て、ロボ形態に変形したアルマーが首を傾げた。
『他の仲間は?』
「どにゃらはぐれたみたいにゃ、それよりそこの異世界人の言葉が通じにゃいから、アルマーにゃんとか出来にゃいか?」
『……オーケーやってみよう。言語分析開始………分析完了っ同時翻訳変換Wi-Fi機能発動っ』
「にゃっ……Wi-Fiってにゃんにゃ別にいいにゃ……それより異世界人と会話が出来るようににゃったのか?」
『問題ない。異世界人に勇気を出して話し掛けてくれ』
「……助けてくれてありがとうにゃ、それよりこの世界はにゃんにゃ?」
俺は銀髪の冒険者に話し掛けた。すると剣を腰の鞘に収めた彼が笑顔で口を開いた。
「この世界ブルースフィアを知らない……?」
「にゃっ……」
当然の知識なのか無知な俺たちを見て銀髪の冒険者が目を丸くした。しかしブルースフィアは過去に聖女パルムが言っていた。まさか本当にここは異世界か……。
「アタチたちはどうやら何者かに、この世界に飛ばされて来たみたいにゃ」
「飛ばされて来た? 君たちは異世界人なのか?」
異世界人から見たらそうなるな……。
「そうだにゃ」
「なるほど……それならギルドに行って相談するといい」
『出た冒険者ギルド』いよいよもって異世界転移モノっぽい展開になってきた。
しかしまさか、昭和のドロドロした猟奇殺人から一変して異世界転移モノに展開が変わるとはなぁ……もう滅茶苦茶疲れるわ。今すぐにでもガマハウスのベッドで寝たい。
「おっと、申し遅れました。僕の名はミルト・エルデール。冒険者の剣士です……それと……」
人の良さそうなミルトが愛想笑いを浮かべながら、隣にいる金髪の美女の顔をチラ見した。
すると彼女が目を瞑って手で彼を制した。
「わたくしはミルトと行動を共にする。慈愛の女神パルナですわ」
「にゃっ女神……」
なんで女神が実体化して冒険者と一緒になっているのか不思議に思ったがそれより、パルナってどこかで聞いた名前だ……。
「にゃっ!」
「どうしましたか?」
俺に指を差されたパルナが首をかしげた。
そうか、どこかで聞いた気がしたら、俺に絶対服従の赤い首輪を掛けた性悪聖女パルムと名前が似ていたからだ。
しかも単なる偶然じゃない。彼女が女神なら……隣の男と良い仲なら……子供が出来ても不思議ではない。
ではどう言うことと言いたいのか……つまり、この世界が聖女さまやメリーが住んでいた過去の異世界なら、目の前の女神と人間の間から聖女さまの血筋が生まれてもおかしくはない。
まだ憶測だけど……つまりこの二人が聖女さまの先祖か?
『なんたる出会いに偶然』いやコレは仕組まれた必然なのかも知れないな……。




