サタンちゃまと七斬り様の祟り(終)
パペットが倒されたと同時に木製魔物が消え、操られていた横溝兄の動きが泊まった。一件落着に見えたけど、数名の村人を残してほぼ刀で惨殺された。
「こんな結末なら、依頼など、するべきではなかった……」
返り血を浴び呆然としゃがみ込んだ横溝兄が、血溜まりに映った自分の顔に向けるように呟いた。
未来から過去に来て弟を止めるハズが、意志に反してでも自らの手で殺め、それから弟の代わりに村人を惨殺してしまったから、真面目な彼は相当ショックを受けていると思う。
「時道さん……」
「……」
刀を持って立ちあがった横溝兄がうしろを振り返った。虚な視線の先には過去に案内した張本人の時道が右手をズボンのポケットに入れて立っていた。
すると目が合った横溝兄が半笑いの狂気の表情を浮かべた。
「結局弟も村人も救えなかった……こんなことなら過去に行かなければ良かった。ごんなっ! あんまりだっ…………んぎっ!!」
そう言ったあと横溝兄は刀でもって自らの首を切って倒れ、頸動脈から大量の血を流して涙を流しながらしばらくして息を引き取った。
その様子を表情一つ変えずに見おろす時道。
「……ここまで派手に動いたのにもう一人の時空師はエサに食いつかなかったか……さて、皆さん集まってください」
帽子を被り直した時道が惨劇があったのに、平然とした態度で皆を集めた。
俺は部下たちをファイルに収め時道の側に寄った。
「おいっこの結末はどう言うことだ時道っ!」
怒り心頭の鷹村警部が時道に詰め寄って胸ぐらを掴んだ。
「なにを怒っているんですか鷹村警部?」
「しらばっくれるなよっ、お前横溝と会ったその時からこうなると知ってて依頼を引き受けたな?」
「……ええ、どんな悲惨な結末をむかえようとも、お客様の要望に僕は従ったに過ぎませんよ」
「くっ、お前は目的のためにいつもそうだ」
「……ええ、あの男を誘い出すためには、手段は選びませんよ」
熱い鷹村警部に対して時道は非情に撤する冷酷な男に見えた。しかし、その鋭い瞳は復讐に燃える熱いモノを感じた。
「……ああっもういいっ! お前はいつものことだ。で、この時代の警察が来る前にタイムスリップして撤収するんだろ?」
「ええ、生存者はこれから駆けつける警官に任せましょう。それで我々は元の時代に戻りましょう」
「チッ、納得いかんが、我々はこの時代に居てはいけない存在だ。皆が集まったら平成に戻るぞ」
「ご理解いただきありがとうございます鷹村警部」
時道は帽子を取ると鷹村警部に一礼して皆を円の中に囲むように集め、一瞬にして五十年後の世界にタイムスリップさせた。
□ □ □
「ちょっと寒っ!」
夏の過去から冬の現代に戻って来たから薄着のメリーが身体を震わせしゃがんだ。
それはどうでもいいとして俺は周囲を見渡した。凄惨な現場だった七斬り村は廃墟になっていて、嘘みたいに鎮まり返っていた。
「さて皆さん山を降りますよ」
時道がそう言って山を降り始めた。
確か山道の入り口にエイトさんのたこ焼きエアカーを停めていたんだ。このまま放置していたら、この時代に存在しない空飛ぶ車が見つかってえらい騒ぎになるだろうなと、そう妄想しながら俺は自力で山道を降った。
しかし、舗装された道路と違って石が転がる獣道だから、ちびっ子の足では疲れた。だから黒鴉をファイルに仕舞ったことを少し後悔した。
さて、なんとかエアカーの元に戻った俺たちはタクシーを呼んで、宮崎駅まで帰ることが出来た。
「ちょっと! あたしたちの世界に帰りたいんだけど……」
タクシーが走り去ってから、手をあげたメリーが時道に要求した。
「ええ、あなたたちのおかげで無事帰ることが出来ました。感謝してますので無料で元の世界に送ってまいりましょう」
「無事ではないだろう……」
ビビットさんが鋭いツッコミを入れた。確かに一緒に過去に行った一人が自害してバットエンドだったよな……。
「……詳しい西暦と何月何日、何時何分か教えてもらえますか?」
「なにっ!」
時道の細かい要求に分からないのか、口元を手で押さえたビビットさんが背中を向けた。
自分が居た西暦とか細かいこと気にしないのが異世界人だ。
「帰りたい日にちなら任すのら」
エイトさんが手をあげて時道に言った。眠そうな目なのに天使だけあってしっかりして頼りになる。
「では早速元の世界にお連れ……」
言ってる側からリオンが時道の左手を握って引っ張った。なにか言いたいらしい。
「なんですか姫様……今大事なところで」
「宮崎のたい焼きが食べたい」
『出たよたい焼き姫のワガママ』宮崎だろうが東京だろうが、たい焼きなら大して変わらないとおもうが、マニアはご当地にこだわるんだね。
だが、付き合わされる俺たちは早く帰りたいよ。
「困りますねぇ……」
ワガママ姫に時道が困っている様子だ。『いいぞ』甘やかせず早く未来に帰らせてくれ。
すると時道はリオンの頭を撫でた。
「仕方ないですね。しばらく休憩と参りましょうか?」
結局たい焼き姫のワガママが通って1時間の自由時間を頂いた。しかし、冒険者たちは場違いな格好から自由に外を出歩けない。
その点ドレス姿の俺はギリ違和感がないので時道、リオンと一緒に行動することにした。
たい焼き屋を目指す途中、俺はリオンが持ち歩いている球体ロッドが気になった。なにせ七斬り村での騒ぎの中使用する光景は残念ながらなかった。
だから凄く気になるので聞いてみた。
「にゃあたい焼き姫」
「なんじゃちびっ子、妾のことたい焼き姫とは無礼じゃな」
「にゃんにゃあ……」
『無礼ってなんだよ』死ぬほどたい焼き好きならむしろ、このあだ名は光栄じゃないのか……。
マニアの考えてることは理解出来ないな。
「ところでそのロッドはにゃんにゃ?」
「にゃんにゃじゃと猫みたいに聞きおって……まぁ良い。コレはシールドロッドと言って盾じゃ」
「にゃっ……棒のどこが盾にゃんにゃ?」
「む……言っても分からん童じゃ、口で言っても分からぬのなら実戦で盾である証拠を見せてやるのじゃ」
そう言ってリオンが俺に手招きした。多少乱暴でも構わないらしい。なら構わず俺は盾かどうか試すことにした。
「怪我しても知らないのにゃ」
「童がさっきから言うとるじゃろう。構わず攻撃するのじゃ」
「……そこまで言うにゃら……にゃんっ!」
ちょっとうしろにさがって助走をつけた俺はリオンに向かって頭突きを喰らわせた。するとシールドロッドの球体先端が光った。
「にゃんっ!!」
シールドロッドから発生したエネルギーバリアに俺は跳ね返された。
「どうじゃっこれでも盾と認めないかのう?」
ひっくり返っていた俺の顔を覗き込んだリオンが、嬉しそうに白い歯を見せた。
「コレはにゃんとも参ったにゃ……」
俺は素直にロッドを盾と認めた。
それから俺はリオンに付き合いたい焼き屋に寄って、時間がまだ余っていたので本屋に寄り、この時代で大人気のヒーロー少年漫画全巻を時道に奢って貰った。
それから昼メシのティクアウト品を買ってきて、この宮崎駅前で三百年後の未来に帰ることになった。
「とりあえず鷹村警部と長谷川警部補も一緒に集まってください」
「我々の時代にせっかく戻ったのに、何故私らも呼ぶ? 大体もう関係ないだろ?」
鷹村警部はこれ以上付き合わいとタイムスリップを拒んだ。確かに刑事さんたちはこれ以上俺たちに付き合う理由がないからな。
「確かに…………でも、もう遅かったみたいです…………」
「遅いってなんだ時道……?」
様子がおかしい時道に鷹村警部が怪訝な表情を浮かべた。しかし確かにおかしい……駅前とは思えない爽やかな風が吹いた。
異変に気づいた俺はふと顔をあげた。すると目の前に広がる景色が一変していた。
タクシーとバス乗り場だった宮崎駅前が跡形もなく消え、代わりに草原が広がっていた。
「おいっ! ここはどこだ時道っ!?」
「はわわっ、お、落ちついてくださいよ鷹村警部っ!」
腰を抜かして鷹村警部に抱きつく長谷川警部補。
「ええいっ落ちつけ長谷川っ……しかし、ここはどこだ?」
「へっ、どうやら俺たちはまんまと何者かに、知らない世界に飛ばされたみたいだな」
なにかを掴んだ犬飼が言った。それにしてもヤケに落ち着いて非常時でもウイスキー飲んでる。
「たっ、たい焼きは無事じゃぞ」
どうやら冷めてはいないようだ。しかし妙な世界に飛ばされたメンバーが俺と時道とリオンと犬飼と鷹村警部と長谷川警部補の六人だ。で。他の仲間の姿がない? どうやら異世界チームとははぐれてしまったみたいだ。
すると当然時空師がタイムスリップしたと皆からの視線が時道に集中した。すると彼は帽子を被り直すと空を指差した。
「……どうやら僕たちはまんまと何者かの罠にハマり、異世界に飛ばされたようです……」
「にゃにっ!?」
指刺した空の上をワイバーンの群が俺たちを狙って旋回していた。
「ちょっと待つにゃ……」
これって異世界大陸に戻れたのか……いやしかし、戻れたとして、宮崎駅前から太平洋に浮かぶ異世界大陸との場所が離れ過ぎている。
そんなこと関係なく場所移動させる魔法なら、この異世界は本当に三百後の異世界大陸なのかまだ分からない。
とりあえず現地人に聞いて、はぐれたメリーたち異世界チームを探し合理するのが先決だな。




