サタンちゃまと七斬り様の祟り19
「さっ三郎っ〜〜!」
騒ぎを聞きつけて来た女将が玄関を飛び出すと三郎の首が足元に転がっていたから、とっさに抱きあげた。
「ああ、三郎よ、首だけになって身体ばどこに置いてきた?」
三郎の生首に頬ずりして聞く女将。おかげで着物が血だらけだけど、錯乱してそれどころじゃない様子だ。
すると心配した旦那が女将の肩に触れた。
「止すったい。三郎はすでに死んでおる」
「知った振りしないで貴方っ、あの元気な子が死ぬわけなかばい!」
息子の死を受け入れない女将。まぁ認めたくないと言うか、強いショックから身を守るために脳が現実逃避しちゃっているな。
「横溝恒彦っ! キサマどう言うつもりだっ!」
騒ぎを聞きつけた鷹村警部が右手に拳銃、左手に警察手帳を掲げて横溝弟に向かって怒鳴った。その後ろに情けない顔した長谷川警部補が彼女の背中に隠れるように続いた。
「へぇ、刑事さんだったんだ……もしかして毎年祭りの時期、この村でおこなわれてきた生け贄について調べに来てたの?」
「……それもあるが、キサマが村人を惨殺する行為を止めるために来たんだ」
「へ〜刑事さんなんで分かっていたんですか? もう一人殺しちゃったけど……」
「そんなことはどうでもいい。それよりキサマを殺人の容疑で現行犯逮捕する」
鷹村警部が拳銃の銃口を横溝弟に向けた。
「ちょっと待ってください警部さん。俺を逮捕する前に犯行動機を聞いてくださいよ」
「……分かった。お前は方位されているから、殺害動機とやらを聞いてやる」
刀を足元に置いて両手をあげた横溝弟を村人が囲んだ。
「ありがとう刑事さん。俺がこの村を知ったのが一年前彼女の尚美が丁度今の時期、祭りを見に一人で村に行ったまま行方不明になったからだ。あの時一緒に行ってやればと悔やんだが時すでに遅し、そのあと不審に思った俺は、七斬り村について調べた。するとこの村では、七斬りの祟りをおさえるために旅人の命を捧げていると知った。そこで今回兄と一緒に村に訪れ彼女を探した。しかし中々見つからない。だから口が軽そうで女好きと聞いた村長の孫三郎と接して、彼女を紹介すると誘って山に連れ出すことに成功した」
横溝弟が長々と語った。
鷹村警部は話しを聞き出すまで逮捕を踏みとどまった。
「お調子者のノリで三郎に合わせると、気分を良くした奴がポロッと過去の武勇伝を話し始めた。その内容が、たまに祭りに興味があって訪れる女性を上手く口説いて山に誘い、暴行してから殺害して首を切ってそのまま生け贄に再利用したと」
「なんだとっそれって村人は知っていたんだな?」
鷹村警部がそれを指摘すると、村人が皆バツが悪そうに鷹村警部から視線を反らした。
「チッ、キサマら村人揃って共犯者か……」
「でしょうね刑事さん。しかし俺が知りたかったのはそこじゃない。行方不明の彼女についてだ。そこで俺は彼女については伏せながら、三郎に去年の成果について聞いた。すると馬鹿な奴は自慢気に武勇伝を語った。内容は祭りの日に一人村に訪れた髪の長い女を上手く山に誘って暴行を加えたあと首を絞めて殺害したとね」
「そんなこと良く聞き出せたな」
呆れるように鷹村警部が言うと、横溝弟は『アレは馬鹿だったからだと』呟いた。
「で、彼女は見つかったのか?」
「ええ見つけました。三郎が案内してくれた洞窟の秘密の首倉の無数のガイコツの中に彼女の後頭部がね……」
「腐って判別なんてつきようがないのに良く見つけたな?」
鷹村警部の問いに横溝弟はズボンのポケットからイルカのネックレスを取り出して見せた。
「証拠はコレです。このネックレスは俺が彼女にプレゼントしていた物で、長い髪の後頭部の側に落ちていました。だから多分彼女の頭ですね……」
「その真実を知ったお前が三郎を殺したんだな?」
「ええ、奴が背中を向けて自慢気に他の犯行話しをしている最中に……」
最後まで言う前に横溝弟が足元の刀を足で蹴りあげ右手で掴んだ。
「この刀で背中から心臓狙ってズブリと刺してから首をはねてやりました。このようにねっ!」
「キサマッ!」
横溝弟は周囲を取り囲む村人を刀で斬りつけ屋敷に向かって走り出し、まずは三郎の父親の首を斬った。漫画のようにスパッと切断とはいかなかったが、切り口がパックリ開いて大量の血が噴き出した。
「ぬおおっ!」
「貴女っ!」
三郎の首を放り出し駆けつけた女将が瀕死の彼を抱き抱えた。しかしそこに笑みを浮かべた横溝弟が刀を振りあげた。
「ぎゃっ!」
袈裟斬りで刀の餌食になった女将が倒れた。
「言わんこっちゃない。これは七斬り様のたったたたたっ」
「黙れよババア」
「なんじゃっ…………!」
今度は祟りババアの前に立った横溝弟が刀で首をはねた。今度は悪い意味で首斬りに成功したみたいだが、村長を残してその家族を皆殺しにした。
「残るはテメーだなっ村長っ!」
「ひいっ!」
背中を向けて逃げ出した村長を追い掛ける横溝弟が追いつき、後ろから斜め斬りした。
「がっ…………」
「はぁはぁ……やった……尚美の仇は取った……」
やり切ったのか返り血を浴びた横溝弟が片ひざをついた。あっという間の犯行だった。
結果は最悪だったが、これで犯人の復讐を果たせたのだから、あとは逮捕しても本人は納得するだろ。
「確保だっ長谷川っ!」
「ええっ!? ぼ、僕がですか?」
鷹村警部に命令されて自分の顔に指差しながら動揺する長谷川警部補。まぁ下手すると犠牲者の一人になりかねないからな。
「くっ、来るな……」
立ちあがった横溝弟は刀を両手で構え人を近寄らせない。
「もう復讐は終わったろ恒彦っ!」
未来から来た依頼者の兄の横溝孝典が弟を止めるべく話し掛けた。
「なんだジジイ……気安く俺の名前を呼ぶんじゃねえよ……」
「……信じられない話かも知れないが……」
横溝兄が弟の前に立った。
「私は今から五十年後の未来から来たお前の兄孝典だ……」
「はあっ未来からぁ? なに寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ爺さん。アンタが未来から来た俺の兄貴だって言う証拠はあるのかよ?」
「……証拠なら沢山ある」
「なに……」
待ってましたとばかりに横溝兄がポケットから白黒写真を取り出し、弟に見せた。
「なっ……なんでお前が幼い頃の俺と兄貴の写真を持っているんだ……」
「何故って当然だろ、私がお前の兄だから思い出の写真を大事に取っておいたのだ。そして覚えているか、お前が小学生にあがった頃、夜こっそり家を抜け出して好きだった女の子の風呂を覗きに行ったことを」
「たっ、確かにあったよなぁそんな思い出。だけど誰しも体験した良くある出来事じゃねーの?」
弟の反論に兄は首を横に振る。
しかし、良くある思い出じゃないよな。単にこの兄弟が早過ぎたムッツリスケベだったわけだ。
「いいや、話しは終わっていない」
「なに……」
「あの時、明かりがついていた風呂場の窓をお前と一緒に覗き込んだら、入浴していたのがその家の父親で慌て逃げ出し、その途中お前が肥溜めにはまって、糞まみれになって泣きながら家に帰って親父にこっ酷く叱られたよな?」
「ど、どうして俺たち兄弟しか知らない話を……」
真面目に話しているけど、覗きが失敗したあげく糞塗れの散々な思い出話だな……。
「いっいいや、あ、アンタが親父から話を聞いたんじゃないか?」
「それは違うぞ。だって私とお前は親父に説教食らっている最中、頑なに沈黙を貫き通したじゃないか?」
「……た、確かにそうだ。だけど……」
横溝弟はまだ信じられない様子。すると兄は鷹村警部の制止を振り切り近づき両肩を触った。
「私の顔を良く見ろ。老けているが、額の中心にホクロがあるだろ?」
「えっ……た、確かに兄貴と同じ箇所にホクロがあるんだな……それに良く見るとアンタ兄貴に似ているな……」
「似ているんじゃない。私はお前の凶行を止めるために未来から来た五十年後の兄だ」
「に、兄さん……本当に未来の兄さんなのか……だけどすでに村長家族全員殺しちまった……」
「大丈夫だ。本来ならお前は村人全員その刀で惨殺する運命なんだ。だから今からでも遅くない。その刀を私に渡してもらおうか?」
横溝兄は弟に刀を渡すよう手を差し出した。
「……なぁ兄貴……史実通りなら、犯行後の俺はどうなるか知ってるよな……」
「ああ、一人になったお前はその刀で自ら首を切って自害した……」
「だろうな……それでも兄貴は俺に死んで欲しくないんだな……」
「当たり前だろっ! どんな重い罪を犯しても刑を受けて生きて欲しい。それが弟への兄の願いだ」
「へへっけどよぉ、五人も殺したから死刑は免れねーぜ……」
「それは覚悟の上だ。とにかくこれ以上罪を犯すな! さぁ私に刀を渡してくれ」
「……分かったよ兄貴……」
説得に応じた弟が刀を兄に手渡した。
「確保だっ長谷川ぁぁっ!」
「え〜僕ですか〜っ!?」
鷹村警部に命令された長谷川警部補が弟を確保した。
これで一見落着か?
「さて、最後に弟に言うことはないか?」
気を使った鷹村警部が手錠で拘束した弟を兄の前に差し出した。
「……………」
よほどショックだったのか兄は刀を握り締め、うつむいたまま黙っていた。
「ん…………どうした?」
「危ないっ刑事さんっ!」
「なにっ?」
兄の様子がおかしいと鷹村警部が顔を覗き込もうとした瞬間っ、突然弟が彼女を突き飛ばした。
「ぐっ…………」
次の瞬間っなにを思ったのか兄が刀で弟の左胸を貫いた。
「あ、兄貴な、なんで…………ごぶっ!」
血を吐いてヒザつく弟。そして無表情で見おろしていた兄が『ハッ!』とした顔をあげて我に返った。
「わ、私はなに、を…………」
「へへ……大好きな孝典兄貴に殺されるなら悪かねぇや……」
まんざらでもない笑みを浮かべた横溝弟が倒れ、大量の血を流して動かなくなった。
「恒彦ぉぉぉぉっ違うっ! わ、私の意志じゃない。か、身体が勝手に……うおっ!」
まるで握った刀に引っ張られるように兄が走り出し、目の前にいた村人を斬った。
「なにをやっているぅぅっ孝典キサマァァッ!」
「ちっ、違うっ刑事さんっ、か、身体が勝手に」
「マリオネットじゃあるまいし、子供みたいな言い訳するなキサマッ!」
「ほ、本当ですっ、あわわっ身体が勝手にっ!」
困惑しながら横溝兄はまた一人村人を斬った。逃げ惑う村人に、それを追う彼は本当に何者かに操られている様子。
「なぁちびっ子……あの光景前に見なかったか?」
「にゃっ……」
腕組みして俺の横に立っていたヒューイが聞いてきた。確かに思い当たる節がある。
操り人形のように他者を操る能力の魔物。(あの時はドラゴンだったけど……) そうなると奴は横溝兄の真上で操作しているハズだ。
「真の敵は横溝兄の真上にいるにゃっ!」
俺が空に向かって指差すと黒騎士三人娘が同時に飛び出して、誰もいない空間を斬った。
キイィン!
「『なにっ!?』」
すると剣を弾き音がして三人娘が突き飛ばされた。
「クク……バレたら仕方ないですね。そうですよ。彼を操っていたのは、魔王軍13交響楽団の一人パペットですよ……」
横溝兄の真上から姿を現したのがタキシード姿にハットを被り怪しい三角仮面をつけた魔王軍幹部のパペット。その能力は他者を操り人形のように意のままに操る能力。
しかしまさか昭和の過去にまで俺たちを始末するために追って来たとはな……。




