サタンちゃまと七斬り様の祟り16
お昼は特にやることがないので俺は客間の畳の上で大の字になって寝ていた。年季の入った天井の板をぼんやりと眺めていると、朝にエイトさんが言っていた浮遊する幽霊の話を思い出した。
悪魔王と呼ばれた俺が人霊ごとき見えないのは悔しい。だから目を凝らして天井を見つめていると急にメリーが顔を覗き込んだ。
「出たぁっお化け!」
「失礼ね〜人をお化け扱いしてクソちびっ子。ところでさぁ、今から祭りを見に行かない?」
「祭り……もう始まっているのかにゃ……」
俺は半身を起こした。
「まだらしいけど、屋台はもう営業してるらしいわよ」
「こんにゃ辺境の村で……しかしこの時代のお金がにゃいにゃ」
「そこは大丈夫よ。時空師時道が、この時代のお金用意してるってさ」
「……用意してるってまた奢られる気かにゃ」
「またってなによ? あたし可愛いから何度も奢られても構わないわ」
最近メリーは女の武器を使い始めてるな。なまじ冒険者としての才能がないだけにちょっと心配だ。
とりあえず俺とメリーは時道の元にこづかいせびりに行った。
時道は大広間の隅っこで帽子を被りながら下を向いて座っていた。相変わらずクールと言うか根暗な男だ。
俺が近づくとまだなにも言わないのに時道は左手を出してお金をくれた。
「にゃにっ! まだ言ってにゃいのに……」
「いえ、昨日君の未来が見えてましたので、この時間にお金をもらいに来ると分かってました」
「にゃんと……」
『コイツ超能力者か……』時の義眼とやらで俺の未来を勝手にみたらしい。と言うことは俺が風呂に入っている姿も見たのか、このロリコンめ。
冗談はさておき俺は時道にうんまい棒を渡すと横に座った。
「ありがとう。しかし、この駄菓子は300年先の未来までも残っているとはな……」
どうやらうんまい棒は昭和生まれの駄菓子らしい。となると伝統和菓子だな。
「ところでおみゃえは誰と戦ってるにゃ?」
「僕ですか……言えません」
「にゃにいっ? もったいぶるにゃ」
秘密主義は厨二病の初期症状だな。
「まぁ君たちが戦っている敵とは全く異なる敵ですね。しかしとんでもなく強い時を操る男です」
「にゃっ……」
本当は自分のこと喋りたくてウズウズしてんなこの男。こりゃ厨二病がかなり進行してると見える。
「じゃあ逆に聞きますが、君は誰と戦っている?」
「にゃっ? 決まってるにゃ魔王軍とにゃ」
「魔王とですか? いや、大変ですね」
「にゃっ……」
童話めいた魔王の話題でも、時道に掛かればまるで社会人同士の真面目な会話になるな。
「あっ! サタンちゃま……」
会話の途中にムー大陸の姫王ことリオンが部屋に入って来て、俺を見るなり指を差した。
「にゃんにゃ?」
「今から屋台巡りに行くが妾が連れて行ってやろう。ありがたく思うが良い愚民が……」
「にゃっ……」
『愚民は余計だろ』しかも頼んでもいないのにずいぶん上からの物言いだな。
要するにくっそ偉そうなちびっ子だ。
「丁度アタチも行くところだったにゃ」
なんかムカつくけど、ちびっ子に見おろされてるのもシャクだから立った。
『……』それでも、たい焼き姫の方が若干背が高いのがまぁ屈辱だ。
「たい焼き屋あるかな?」
『知らねーよ!』頭の中たい焼きのことしか考えてないマニアかお前は?
「多分にゃいと思うにゃが、あるかも知れんから今から一緒に行くかにゃ?」
「……ないとかあるとかハッキリせんちびっ子じゃなぁ……」
『同じちびっ子に言われたくない』だったらこの際ハッキリ言ってやる。
「こんにゃ辺境の田舎にたい焼き屋台はにゃい!」
「にゃいってなんだ?」
「……分からにゃんのか? たい焼き屋はにゃいったらにゃいのっ!」
「……絶対だな?」
「にゃっ……」
リオンは謎の球体付きロッドを握って俺を睨んだ。まさかこれで頭をカチ割る気か……このたい焼き姫さまは、キレたらやりかねない。
とりあえず俺とメリーとリオンで外に出ると、ヒューイとビビットとザレオンが待っていた。
するともう一人ヒューイと意気投合した犬飼がカップ酒片手に話し掛けてきた。
「今から屋台見に行くんだろ? 一緒に行こうぜ:4
「分かったにゃが、朝から酒臭いにゃ……」
「いやぁ悪いな、お詫びに飲むか?」
なんの冗談か犬飼は口つけたカップ酒を俺に飲ませようとした。『幼女に酒飲ませる!』コイツの倫理観どうなっているんだ……。
まぁまともじゃなかったら、時道とタイムトラベルの旅付き合わんわな。
「ところで犬飼が肌身離さず肩に背負ってる長尺バックの中身はにゃんにゃ?」
屋台見に行くと言うのに犬飼は約2メートルの黒革製の長尺バックを肩に掛けていたから、気になったんで聞いてみた。
「これは遥か未来で開発された空間をぶった斬る空間断絶剣試作三号機だ」
「ヤバい剣にゃ……」
「だから盗まれたら大変なんで、俺は肌身離さず肩に背負っているわけさ」
「にゃんと……にゃら風呂やトイレの場合はどうするにゃ?」
「ははっ、そりゃもう一緒に持っていく」
「にゃっ……」
『ちょっと大変だな』つうか風呂場に入れたら刀が錆びるだろうに。
こうして俺たちはセミが鳴く暑い中屋台が並ぶ神社へと向かった。
□ □ □
鳥居を潜って境内にはいるとそこに屋台が八つあって以外と本格的な祭りの風景。しかも老若男女の浴衣姿の村人も結構居て賑わっていた。
『う〜む……』楽しそうに祭りを楽しむ女子供も今夜、横溝弟に殺されると思うと信じられないな。
『でも大丈夫だ』奴が狂うキッカケとなるハズの七斬りの刀は没収したからな。
だから安心して祭りを楽しめるな。
さて、屋台の種類はと……一軒目は昔からある焼きそば屋だ。2軒目はお好み焼き屋、三軒目は綿アメ屋で四軒目はリンゴ飴屋で五軒目は氷水に冷やされたラムネ屋、六軒目は香ばしい醤油とイカの匂いがたまらないイカポッポ焼き屋だ。次の七軒目は定番のイチゴとメロンシロップのかき氷屋台だ。
そして最後の八番目の屋台は…………。
「にゃっ…………」
「五軒目屋台見て急に黙ったが、どうしたサタンちゃま?」
五軒目の看板を見て固まった俺が気になったのかリオンが声を掛けた。よりに寄ってお前が話し掛けてくるとはな、八番目だからたこ焼きなら良かったが、そうじゃなかった。
俺が最も恐れていた屋台だった……。
『あー答えたくない』まさか八軒目がよりに寄って俺がリオンに全否定したアレとはなぁ……。
「……黙ってないで早く答えんかちびっ子!」
「にゃっ! わ、分かったにゃ……ええと、た、たい焼き屋みたいにゃ……」
「なんとたい焼き屋とな……あっ!」
『ハッ!』としたリオンが俺に指差した。
「このちびっ子がさっきたい焼き屋は絶対ないと言い切っておったよな?」
「ぜ、絶対とは言ってにゃいにゃ……」
「いや言った。あったじゃないかこの愚民がっ!」
「にゃあっ! にゃめろ〜〜!」
激怒したリオンが俺に飛び掛かって、結局首を絞められるお約束のオチになった。
えらい目にあったが、とりあえず屋台を楽しむとしよう。




