サタンちゃま北海道に行く3
積丹半島の頂上部には草原が広がっていて見晴らしは良好。だからすぐに魔物を発見することが出来た。
爽やかな景色に似合わず魔物の種類はベアーアントと呼ばれる昆虫系の全長2メートルの化け物アリだ。
毒は無いが大きなアゴと群れで行動する習性が厄介。数にしてざっと三十匹群がっている。これからも増えそうでヤバい。
「ふふっ魔石がたんまり貯まるわね」
皆顔が引きつっているのに聖女さまだけはほくそ笑んでいた。
これでまぁ、大っぴらに召喚悪魔育成目的での魔石集めに専念出来るけど、聖女さまの許可なしの使用は不可能になった。
だから低レベル悪魔たちに魔石ねだられた場合断わるのが辛いなぁ……。
俺に新たな悩みが発生してしまった。
だから一丁聖女さまに頼んでみるか。
「聖女さまっ」
「あらっなにかしら?」
「じつにゃそうだんにゃ……」
なんだか緊張するな。幼少期に小遣い欲しさに親にねだった時の心境と一緒だな。
「ふうん……なにかしら?」
「アタチが倒した魔物から出た魔石は、自分のモノにしてもいいかなにゃっ?」
「……ふ〜ん……分かりました。自分で倒し手に入れた魔石だけ許可しましょう」
「にゃった!」
喜びのあまりジャンプした。しかしあの聖女さまがすんなり俺の要望を受け入れるとは、俺は思わず空を見あげた。
晴天で雨は降らないな。
「ちょっとちびっ子!聖女さまと話しするヒマあったら悪魔召喚してっ!」
「にゃっ!」
マリーに急かされ今回はレッドデビル松尾とモスマンを出した。このメンツは星6レア悪魔が出るまで当面お世話になりそうだ。
「キモっ!」
モスマンと目が合ったメリーが言った。
「ハアッ? 俺から言わせれば人間の顔の方がキモいわ!」
「なんですって!この蛾人間」
モスマンとメリーが睨み合った。
眼鏡の大きさならモスマンが優先だな。
「サタン様っ俺に魔石ありませんか?」
「にゃっ!」
モスマンが俺に魔石を要求して来た。確かに星4とはいえ、レベル1では心許ないよな。
やれるモノなら魔石をあげたいが、残念ながら手元にない。全て松尾に使ってしまったからな。
「ごめんにゃのにゃっ今は手持ちにないのにゃっ」
「そうですか……ならば今からゲットすればいいんですな?」
「そうにゃっ……にゃけどレベル1で大丈夫かにゃ?」
「任せてくださいサタン様。俺には頼もしい相棒がおりますので」
そう言ってモスマンは松尾と肩を組んだ。しかしいつの間に意気投した?
「じゃあっサタン様は危ねぇからさがっていてくだせぇっ!」
三叉の槍を両手で握った松尾が俺を残しベアーアントの群れに突っ込んで行った。
「オラッ!」
ギンッ!
松尾がジャンプしてベアーアントの首関節に槍を突き刺した。それでは致命傷にならない。だからどうするのかと見ていたら、怪力でアントを持ちあげた。
「頼むぜ相棒っ!」
「オウッ!喰らえっ目玉ビィィィィーームッ!」
ズドンッ!!
モスマンのまさかの目からビームによる松尾との連携攻撃でベアーアントを倒した。
コロンッ!
消えたアントから青と赤の魔石が転がった。未だに色違いの意味が分からない。
モスマンが早速魔石を拾った。
「サタン様っ魔石食っていいすか?」
「にゃっ!」
良くそんな石に食欲が湧くなぁと思いながら聖女さまの顔をチラ見した。
特に睨まれなかったので了承した。
「へへっでは頂きます。ガブッガリッ……うっうんまーーっ!」
初めて食べた魔石の味に感激したモスマンの白い体毛がピンク色に変色した。
それはなんか温度で色が変わるプラスチックみたいだな。
ピコン♬
『モスマンのレベルが3にあがりました』
そんな一気にあがらなかったけど、レベル1よりはマシだな。
しかしモスマンの目玉ビームは広範囲攻撃が出来て一気に三匹のベアーアントを退治出来た。
しばらく戦闘が続いて合計六十匹のベアーアントを狩ることが出来た。
俺が回収した魔石の数はあとで数えるとして、まずはステータスチェックだ。
あれだけの数を召喚悪魔が倒したんだ。当然俺もレベルアップしたから、ワクワクしながらステータスオープンした。
【 職業サタンちゃまレベル8 魔力85 攻撃力23 力18 体力19 素早さ17 幸運70 特殊スキル 悪魔ガチャレベル7 】
最大レベルはどこまで行けるか分からないけど、順調にレベルアップしてるな。
それと気づいたのが、レベルアップすると使ったMPが回復することだ。
一回MP20として四回回せるな。
「ねぇ聖女さまぁ、アリンコ倒したけどボスは一体どこに居るのかしら?」
メリーが聞いて来た。
「そうね……恐らくベアーアントの女王アリがボスだと思うけど……」
聖女さまは周囲を見渡しアリの巣を探すように指示した。しかし、それらしき巣穴は見つからなかった。
するとシールドピクシーが得意げに舞った。
「だったらアタイが探しに行ってやるよ」
「あら、お願い出来るのかしら?」
「あたぼうよっ任せてっ!」
「……」
癖のある口調でシールドピクシーが聖女さまに返事すると、意気揚々と探索しに飛び立った。
「しかしヤケに酸っぱい匂いがしねえか?」
「クンクン……確かに……」
谷川シェフに聞かれたメリーが匂いを嗅ぐとうなづいた。確かに酸っぱい匂いが周囲を漂わせていた。
どうやら匂いの元は周辺に散らばるベアーアントの死骸みたいだ。
「あ、れ…………?」
不意にメリーがヒザを落とした。
「どうしたメリー?」
「……なんか身体が痺れない?」
「んっ……確かに、俺も……」
谷川シェフも身体を震わせ方ヒザを突いた。
そして異常に気づいた彼は動けるうちに皆を一ヶ所に集めた。
「コイツはヤベェぞ。恐らく死んだベアーアントから発生した揮発性麻痺毒だ。お前らっ鼻を手で押さえろっ!」
谷川シェフが振り向いて叫んだけどすでに遅かった。彼自身と聖女さまとメリーの三人は毒を吸い身体が麻痺していた。
俺はと言うと悲しいかな、全然ピンピンしている。やっぱり悪魔だからなのかな?
隣でなんともない松尾とモスマンが顔を見合わせ不思議がっていた。
「こんな時に魔物に出くわしたら不味いですわねぇ……」
麻痺毒に侵され身動きが取れない聖女さま。
こんな時に毒消しの薬草とか治癒魔法あればとっくに解決していた。しかし聖女さまは薬草も麻痺治癒魔法が使えないと言った。
もうそこは聖女さまの爪が甘いと思ったよ。
三人の麻痺毒が和らぐのを待っているとシールドピクシーが笑顔で手を振って戻って来た。
しかも最悪なことにピクシーを追いかけて来る三倍位の大きさのベアーアントの姿が見えた。
「にゃっ!?」
俺は慌ててピクシーに来るなと手で払ったがもう遅かった。仲間が殺されたと気づいた恐らく女王アリが怒ってこちらに突進して来た。
「にゃっ!」
俺が焦っていると、
「サタン様っコイツはあっしらに任せてくだせえっ!」
「おうっ!」
松尾とモスマンが女王アリに向かって飛び掛かった。
ズバンッ!!
「んおっ!」
「あがっ!」
女王アリの巨大なアゴで返り討ちに遭った二人が弾き飛ばされた。
「松尾っモスマンっ!」
『…………』
俺が呼び掛けるも返事はない。どうやら気を失ってるみたいだ。
こんな時に頼りにならんなぁ……。
凄い勢いで迫ってくる女王ベアーアント。かくなる上は皆んな一ヶ所に集めシールドピクシーのスキルを使うしか方法がなかった。
「ピクシーッシールドを皆んなに張るにゃっ!」
「了解しましたサタン様っ!」
返事を返したピクシーが俺たちの前に飛んで来た。そして両手を前にかざした。
「シールドレベル1展開っ!」
ビカッ!
ドーム状の黄金に輝くエネルギーバリアが俺たちを包んだ。
コレが女王アリの攻撃から防げるか不安だけど、なんとか一安心だ。
それにしても……俺は聖女さまをチラ見した。
「我が信仰する戦女神よ。どうか我々をお守りくださいませ……」
手を合わせ神頼みしていた。
聖女さまピンチになるとすぐ祈る悪い癖だ。こないだみたいに奇跡が起きるハズがないと俺は思ったが……。




