サタンちゃまと七斬り様の祟り10
いくら祭りの準備中で村人が忙しく働いていても、突然現れた俺たちに気づいてヒソヒソと話し始めた。
すると騒ぎを聞きつけて来た数人の村人が俺たちを取り囲んだ。
どうやら旅人を歓迎する気はないらしく、手にはクワや木刀など護身用具を握って俺たちを睨んでいた。
「あんたら七斬り村に何の用だ?」
先頭に立ってリーダーらしき男が聞いてきた。スポーツ刈りで頭にねじりハチマキ巻いた男だ。
「僕たちはこの村で行われる祭りを見たくて東京から来ました」
この手のトラブルには慣れているのか時道が答えた。
「東京と? わざわざこの村の祭りを見にぎゃ来るとはな……まさか他に目的があるんと違うか?」
多分長崎訛りでハチマキ男が疑うように答えた。やっぱり急に俺たち部外者が来たんで、村に隠された宝でも取りに来たと警戒してるのかな?
「例えるなら……村に隠された財宝を探しにとか?」
「ちょっと待て時道っ! 嘘でもそんなこと言ったら武装した村人になにされるか分からんぞ!」
慌てた鷹村警部が時道の肩を掴んで止めた。しかし彼は微笑むと『そんな展開にはなりません』と言った。
「村に隠された財宝…………はっはっはっ! そがん昔ヨタ話を信じてとらすばる東京からこん村に来たんか、まさかこん行動力……アンタら今噂の太陽族か?」
『太陽族ってなんにゃ……』時代性を感じる絶妙にダサい言葉だ。しかし太陽と聞いて関連するエイトさんの顔を見たら彼女は慌てて右手を横に振った。
「太陽族とは、昭和25年から35年辺りに流行った流行語で意味は、その時流行った映画と常識外れな行動する若者をからきてます。不本意とはいえ、ここは僕らは太陽族と言うことにしましょう」
すると時道が小声で皆に解説した。それを聞いた鷹村警部が頭を抱えた。一方異世界組は意味が分からずポカンとしていた。
まぁ太陽族ってことにすれば、俺たちがこれから起きる大量殺人事件を阻止するために村に来たことと、不自然な冒険者の格好も太陽族として祭りを盛りあげるための仮装だと村人に納得させられるな。
とは言え『くそダサいが我慢だ』それにしても時道は詳しいな。
「いやぁ不審者と疑うて済まん。おいはこん村ん村長孫で、名は中鉢三郎。村の消防団団長やっとー」
「そうですか僕の名は時道神。旅の案内人です」
『嘘も法弁』とはいえ確かに案内人の肩書きは間違ってはいない。
「そうと疑うて済まんかった。どじゃ詫びんついでに良かったらおいん家に来て休んでくれんか?」
時道に気を許したのか三郎が木刀をおろして態度を和らげた。すると時道が鷹村警部に顔を向けた。
「どうします鷹村先生?」
「せっ、先生っ? あっ、ああ、どうやら宿もないみたいだし、お言葉に甘えるとしましょうかねえ長谷川先生?」
「……………ええっ! あっ! あっ、ハイッそ、そりゃ〜〜山道をはるばる歩いて宿もないんじゃぁ、三郎さんのお言葉に甘えるしかありませんね〜鷹村先生」
長谷川は鷹村警部の意図を理解したんで調子に合わせた。性格が抜けていても、流石警視庁捜査一課の刑事で頭が冴えているな。
要するに刑事の身分は隠した方がいいと判断して時道がアドリブで鷹村警部を高校教師の設定にした。で、俺たちはその生徒だ。
年齢は幼女からおっさんまでバラバラだが……。
なんとか誤魔化した俺たちは三郎の家にたどり着いた。そこはなんと50年後見た廃屋だった屋敷だった。
「遠慮のう中にあがってくれ」
三郎は玄関の引き戸を開けると俺たちを招き入れた。
しかしこの屋敷が数時間後の惨劇のあとに廃屋になるかと思うと中に入るのに躊躇してしまう。
しかも廃屋の時に一度入っているから『初めましてじゃなく、またお邪魔します』なんだよ。
まぁ無下に断る理由がないから遠慮がちに中を覗くと、鷲の剥製が置かれた立派な玄関に長い木造の廊下が続いていた。どうでもいいけど田舎の屋敷に必ず鳥の剥製飾ってるイメージだよね。
しかし当たり前だが、50年後と違って滅茶苦茶綺麗な屋敷内だ。しかも薄暗くていかにもって雰囲気あるな。
屋敷の思い雰囲気とは対照的に息子の三郎は靴を雑に脱ぎ捨て玄関をあがって行った。
「かぁちゃんっ客人や〜!」
「あら珍んちょか客さん」
三郎が玄関で叫ぶと廊下の奥の右側の襖が開いて和服姿の四十代位の上品な女性が姿を見せた。
「初めまして、私は三郎の母の三和子と申します。良う東京からはるばる来ましたね。祭りん時期は観光客をもてなすとが村のしきたりばいなってますので、ささっおがりくれんしゃい」
三和子は上品で嫌味のない女将だ。しかもずいぶんとフレンドリーだ。しかしそれには裏があって俺たちは七斬りさまに捧げる生贄だから優しいのは表の顔だ。
だからちょっと油断してたら捕まって首からチョンパだ。特に捕まえ易い俺みたいなちびっ子はな。
そのために黒騎士三人娘をファイルに戻さず俺の側に置いた。活動時間は伸びたし、時道がなんとかしてくれるだろう。
俺たちは三和子に応接間に案内された。
そこはいかにも田舎にあるような木製の長いちゃぶ台が置かれた畳部屋。
で、俺たちは自由に座った。すると三和子がわざわざお茶と茶菓子を持って来て俺たちに振る舞った。
裏があるのが分かっていても、無償のおもてなしされて恐縮する。
□ □ □
「ではごゆるりと……」
正座した三和子が俺たちに頭をさげると応接間をあとにした。残された俺たちはとりあえずお茶を飲んだ。
「なにこれ軽石?」
俺の右隣に座るメリーが出された落雁と言う和菓子を手に取って俺に聞いてきた。
なにも知らないメリーが軽石と勘違いするのは無理はない。落雁は小麦粉と砂糖等で混ぜガチガチに固めた伝統的和菓子で石のように硬い。しかし保存性の高さから彼岸とかに良く長期間仏壇に捧げられてる和菓子だ。
俺は食べたことがあるけどちょっと苦手だな。色は白とかピンクで鮮やかなんだけど……味はまぁ、良い砂糖が使われてるのは分かるけど、ちょっとパサパサして甘いだけだな。
「ちょっと〜なにこのお菓子硬いしパサパサして口の中の水分持っていかれるし……かと言ってお茶飲んでも苦いしなんなの……」
タダで招かれているのに文句ばかり言うメリーは通常運転だ。とはいえ落雁は好き嫌い分かれるよな。
しばらくして奥の部屋で三和子が誰かと揉めていた。それからピシャリと襖が開く音がしたと思ったら、ドスドスとこちらに向かって歩く男がした。
そして応接間の襖が開いて和服で白髪の顔に多くのシワが刻まれた老婆が顔を出した。
そして疑いの目で俺たちを見渡した。
「あっ! は、初めましてっお邪魔してますっ教師の鷹村ですっ」
「三和子めっ! また要らん部外者ば家に招き入れやって、すでに羊は二人確保しーとんやけん。それ以上人数は要らんと言うたじょん……」
老婆が独り言を呟いた。二人と言うのは多分すでにこの村に訪問している若き横溝兄弟のことだろう。
しかしこの老婆の無愛想な態度から見て、俺たちを歓迎してないのは聞かなくても分かった。
「悪かこと言わん。死にとうなかれば、早々とこん村から立ち去れぃ!」
老婆はそう言って俺たちに向かって手で邪気に払った。
「なんだとぅババァ……」
「止すにゃ」
俺の左隣に座っていた黒鴉が立ちあがろうとしたので左足を掴んで止めた。
「社長っなんで?」
「未来に帰りたかったにゃら、今はことを荒立てるにゃ……」
「……社長が言うなら仕方ねーか」
素直に言うこと聞いた黒鴉はあぐらをかきながらドスンと座って、『硬くて口に入れるとパサパサ地味菓子好きじゃねーケケッ♬』と酷評しながら楽しそうに落雁を次々に口に放り込む黒鴉だった……。
で、まだババァは入り口で俺たちを睨んでいた。すると応接間の床の間の壁に飾られていた絵巻がパラリと落ちた。
「な、な、なな…………………」
一番驚いていたのがババァで床の間を目を剥いて見つめていた。そして俺みたいに両手をガバッと振りあげた。
「やけん言うたんじゃこりゃきっと……七斬り様のた、た、たた、たたっ……たたっーーーー!」
「にゃっ!」
なにが言いたいんだこのババアはタターって走りたいのか? まぁ違うだろう……。
「たた、たたっ祟りじゃああぁぁぁーーーーーーっ!」
運動系じゃなくソッチ系だろうと思った。しかしベタだな……。
「うるせーババァ!」
「ニャメロ黒鴉……」
黒鴉はすぐ噛みつくよな。と言うかイジリたくてたまらない恰好のネタキャラだな。
『しかしまさかの祟りババア』古き昭和のミステリー映画とかに必ずいたよな。
不吉なこと言ってんのに、なんと言うかいると安心するベタな人物だな。
さて、祟りババアの登場で面白い展開になってきたな。




