サタンちゃまと七斬り様の祟り9
俺が出したグルメガチャを通して本来交わることのない未来人、異世界人、過去人、並行世界人が輪になって食事会を始めた。
これは奇跡であり二度と体験出来ないイベントなのだ。
「たい焼き美味い…………」
俺の左隣に座ったリオンがたい焼きを頭から齧ってしみじみ味を堪能していた。しかし毎日たい焼き食ってるのに飽きずに食べると言うことは、よっぽど好きなんだな。まぁ悪く言えば、なにをどう間違えたのか。たい焼きにこじれた変人だが……。
「本当お前が出した料理はうめーな」
右隣であぐらをかいてハンバーグ定食を食べている犬飼。どうやら俺は、この癖のある二人に気に入られているみたいだ。
「しかし、スキルとかレベルとか俺にはそんなおかしなモノはねーぞ?」
「未来人にそんにゃ仕組みがついたのはここ数年のこと、異世界大陸が太平洋に召喚されてからにゃ」
「お前から詳しく聞いたが、スケールがデカ過ぎて信じられねーぜ。しかし、太平洋と言えばお前の隣に座るリオンの生まれ故郷ムー大陸が沈んでいた海だぜ」
「ムー大陸って本当かにゃ?」
こっちの話も荒唐無稽過ぎてよほど気を許した相手にしか話せない話題たよな。普通なら『頭のおかしな人』とレッテル貼られ会話すら出来ないよ。
でもそれが普通に会話出来るのは皆まともじゃない。
「ところで一億年前に海底に沈んだと言われるムー大陸出身のリオンはどうちて、現代にいるにゃ?」
「それは一億年前ムーの姫王として国を統治していた妾が軍のクーデターによって捕らえられ地下に幽閉されていた時に、未来からタイムスリップして来た時道と出会い意気投合してそのままこの時代に連れて行かれたのじゃ」
連れて行かれたって普通に誘拐だな。しかもクールに見えてロリコンじゃないのか時道は……。
「しかしにゃんで時道はタイムスリップ出来るのにゃ、それにゃスキルの一種かにゃ?」
俺はリオンの隣に座る時道に聞いた。すると彼は無言で革手袋を着けた右手首を握った。
「にゃんにゃ右手の古傷がうずくのかにゃ?」
厨二とか野暮なツッコミは入れなかったが。
「この僕の右手こそタイムスリップ出来る秘密なのです。実はこの右手は義手でして、かつてムー大陸の超化学によって作られた超金属ヒヒイロカネ製の義手型タイムマシン。先祖代々『刻の義手』と呼ばれていました」
「にゃんとそんな秘密にゃ……しかしどうやって付けたんにゃ?」
野暮なことを質問してしまった。生身の腕がないからこそ義手を仕方なく取り付けたのだからな。
「……僕の家族はとある男の逆恨みによって惨殺されました。しかし時空師になるハズだった兄に刀で右腕を切断されて刻の義手を無理矢理付けられタイムスリップの能力が発動し自分だけ生き残りました。その経過最終的に一億年前のムー大陸時代に行き偶然リオン姫と出会った訳です」
中々ハードな時道の過去だ。切り落とされた右腕の他に紅く光る右眼は未来と過去を見ることが出来る『刻の義眼』と呼ばれるムーの遺産らしく、これを付ける際に兄に刀で健全な眼球をくり抜かれて入れられたらしい。
一見非道な行いに思えるけど、亡き兄は弟の時道の命を救うために速急に身体の一部を切り落としムーの遺産を取り付ける必要があったからだ。
しかしそれで手に入れたタイムスリップ能力と壮絶な過去。最初時道を見た時は重度な厨二病かと思って悪かったな。
どうやら時道はこの平成の時代よりもっと過去から来たらしく、同時代の先輩の犬飼とムー大陸のリオンの三人で未来、過去を家族を殺した宿敵を追う旅をしているそうだ。
しかし時道と犬飼は頑なにどの時代の出身か語ることはなかった。
【 職業刑事 長谷川のレベルが1にあがりました 】
「おっと! ななっ、なんですか急にっ?」
食事中急にレベルアップの音声案内がされた。しかもそれが本来システムに組み込まれていない過去人の長谷川警部補からだからちょっと驚いた。
「どうした? 落ち着け長谷川っ!」
「たっ、鷹村警部っレベル1にあがりましたってどう言う意味っすか? 普通レベル1からでしょうから、レベルがあがったならレベル2でしょう?」
鷹村警部の肩を掴んで訴える長谷川警部補。しかし屁理屈だな。そもそも長谷川は最初からレベル0でグルメガチャの経験値でたまたまレベル1に昇格したんだ。
「ああっ!? レベル1のなにが不満なんだ? 大体未熟なお前にピッタリじゃないか?」
「そ、そんなぁ〜……それじゃあ、レベル1のステータスなんか付いてない方がマシですよ〜」
「知るかっ! それより横溝っ過去に行く前に聞きたいことがある」
長谷川警部補とのコントを終わらせた鷹村警部が横溝氏に目を光らせ聞いた。
やっと過去に起きた事件について触れたな。
「なんでしょうか刑事さん……」
「村の中で隠されていた七本目の刀を見つけたお前の弟は、なにをトチ狂ったのか村人の半数をその刀で惨殺したのが事件の全容。そのあと血で濡れた刀で自らの首を切って自害したのが事件の決幕だ」
にわかに信じ難い都市伝説めいた大量殺人事件だな。
「はい。その通りでございます……」
「しかしなんでお前の弟は犯行におよんだ? なにか動機がないと村人惨殺なんてせんぞ?」
「……それがさっぱり七斬り様の呪いなのかは理由は分かりません。だからこそ今回私は時空師さんの力を借りて事件前の過去に行って弟の凶行を止めるつもりです」
「弟から刀を奪って犯行を事前に阻止する。歴史の改変とか未だに信じられないが、亡くなる命を救えるのなら見なかったことにしてやる。しかし、警察の立場としてこの目で見届ける」
「ありがとうございます刑事さん」
横溝氏が鷹村警部に頭をさげた。
今まで疑問に思っていたのが、容疑者の弟だけど別に罪を犯していない横溝に警察が同行することだ。その理由が今知れてスッキリした。
あとは現場に行って過去にタイムスリップすれば問題解決だな。
□ □ □
食事を終えた俺たちは再び七斬り集落跡目指して出発した。
ちょっとその前にやることがあった。
「黒鴉だっこ!」
「社長っ少しは自分の足で歩きましょうよ」
「にゃんで?」
「かあ〜〜ぁ、そんなクリクリした可愛いおメメでワタシに訴え掛けても駄目っすよ。大体タンク形態のアルマーに乗って移動した方が楽じゃないすか?」
「にゃだ。アタチは黒鴉におんぶして欲しいのにゃ」
「かぁ〜〜っ聞き分けの悪いちびっ子社長っすね? もうっ仕方ないっすね。ホラッどうぞ」
「にゃっ!」
背中を向けた黒鴉がしゃがんで俺を誘ったので、俺は喜んで抱きつきおんぶさせてもらった。
で、残り1時間半掛けて集落跡にたどり着いた。そこは噂通り朽ちかけた廃屋がポツポツと点在する気味の悪い場所だった。
「はわわ〜〜なんだか雰囲気ある場所っすね……」
「刑事ならビビるなっ長谷川ぁぁっ!」
「ひいっ! ごめんなさい」
長谷川警部補が思わずしゃがんで鷹村警部に手を合わせた。どうやら不気味な廃村より彼女の方が怖いらしい。『まぁ分かる』俺も聖女さまが怖くてたまらん。
しかし七斬り村はいつ幽霊が出てもおかしくない不気味な雰囲気を漂わせていた。
「おいっ時道っさっさと過去に行くぞ」
何度も時道と過去に行ってるらしい鷹村警部が慣れた様子で、俺たちを手招きして集めた。
普通ならくそ真面目で常識人な刑事が真っ先に否定するハズなんだが流石経験者だな。
廃村の奥を進んで行くと比較的綺麗な廃屋が目の前に現れた。しかも二階建てのかなりの豪邸だ。
「社長っ戸が開いてます。中に入って見ますか?」
「にゃんにゃ黒鴉屋敷に興味あるのかにゃ?」
「ケケッ♬ いかにもお化けが出そうじゃないですか?」
人外黒天使がお化け良くいえるよな。まぁ中を覗くだけにしたが、50年も放置されたとは思えないほど中の状態は良かった。
箪笥や食器にちゃぶ台など当時の生活用品が放置されていて、かつて誰かが生活していたと思うと切ない気持ちになる。
「あらあら〜ここは良くないですわね」
廃屋敷の内部を覗くロウランが言った。
「それはどう言う意味にゃ?」
「えっと、50年間放置されてあまり荒らされていないと言うのは、この屋敷の住人だった地縛霊が怨霊化して守っているみたいですね」
「にゃんにゃ強いのかにゃそのゴースト?」
「……残念ですけど、レッドデビル以下ですわ」
「にゃんにゃ……」
捕まえて部下にしようかと思ったけど雑魚以下なら意味ないな。ただビジュアル的に不気味だろうから、女の子脅かして遊ぶにはもってこいだな。
まぁ、やらないけど。
このあと俺たちは鷹村警部の指示に従って、時道を中心に円になって集まった。
すると時道が何故かスーツの上着を脱いだ。それを見ていたリオンと犬飼が、凍える真冬にも関わらず上着を脱いだ。
「おみゃえら正気かにゃ?」
「……着きましたよ」
「にゃっ……」
人の話を聞けと思ったけど、夜だった景色が一変して太陽が眩しい真っ昼間に様変わりしていた。
「ちょっと眩しいっ!」
メリーは思わず太陽光から右腕で眼をかばった。
しかし驚いたのが昼夜反転だけじゃない。不気味なほどに静まり返っていたハズの廃村が騒がしい。
周囲を見渡すと、朽ち果てていたハズの木造建築物が綺麗な状態で戻り、村人たちがすれ違い祭りの準備の真っ最中だ。
「アッチ!」
鎧で重武装の黒鴉が暑さで発狂しそうに足を踏み鳴らした。確かについさっき真冬の夜だったのに、一瞬にして蝉が鳴く真昼の夏に様変わりしていた。
これが、時道のタイムスリップ能力だと言うのか……。
中芯に立つ時道が帽子を取るとお辞儀をしてから、右眼の義眼を怪しく紅く光らせこう言った。
「ようこそ、過去と言う名の闇へ……」
俺からして見ればクッソ厨二が徹夜して考えそうな決め台詞だ。
とりあえず俺たちは本当に50年前の過去にタイムスリップしたみたいだ……。
次回昭和のドロドロ展開。




