サタンちゃまと七斬り様の祟り2
喫茶店の窓ガラスを突き破って来たブルースライム。体長は20センチほどの初心者向けの小物だ。
思えば冒険者になった当初、聖女さまに戦わされた魔物だったな。
「なんだぁっあの化け物はっ!?」
怯えた鷹村警部が懐から拳銃を出してスライムに向けた。まぁこの時代の人間なら恐れるのは当然。とはいえ狭い店内で銃の使用はいかんぞ。
「お前ら危ないから離れろっ!」
そこは刑事だけあって皆を離れさせ安全を確保してからスライムに向かって拳銃を発砲し見事命中。
『ジュッ…………』
「やったか!?」
『……………』
動きを止めたスライムの様子を見た鷹村警部は勝利を確信した。でもまだスライムはブルブル震えている。多分弾丸をジェル状の体内で受け止め致命傷には至ってないはずだ。
『…………プッ!』
ぶよぶよと震わせたスライムから弾丸が弾き出され、お返しとばかりに鷹村警部を狙って高速で飛んで行く。
「なっ!」
キンッ!
とっさに動いたヒューイが鷹村警部をかばい。間一髪のところで剣で弾丸を弾いた。
そしてすかさずスライムに接近して真上から剣で突き刺し倒した。
「にゃにゃっ!」
いくら雑魚とはいえ流石SS急冒険者で手際のいい倒し方だ。
「あ、あんた…………」
「大丈夫かぃ?」
尻もちをつき唖然とする目で見る鷹村警部に対して、振り向いたヒューイが手を差し伸べた。
「あ…………だっ、だ、大丈夫だ…………」
「そうか、だけど手を貸すぞ」
「くっ…………か、勘違いするなよ……わ、私は刑事として他人の好意を無下にしたくないからだ……」
顔を赤くした鷹村警部がヒューイの手を握って立ちあがった。鬼の女刑事もイケメン騎士に優しくされたらイチコロだな。
「今のは?」
時道がヒューイに聞いた。
「どうやら魔王軍の魔物がこの時代に干渉して来たみたいだね」
そう答えてヒューイが肩をすくめた。
「なるほどどうやら歴史の改変はすでに始まっているみたいですね……」
「そのようだな。おっと! 魔王の手下はこれだけじゃなさそうだ」
ヒューイがそう言うと窓に向かって剣を両手で構えた。するとブルースライムが次々と窓ガラスを突き破って現れた。
「ちょっとぉっなんてことしてくれるんだ。俺の店が滅茶苦茶だぁ〜〜」
マスターがアフロヘアーを搔きむしり発狂するもエイトさんが彼の左手を握った。
「えっ…………俺に気があるの……」
なにを勘違いしたのか非常時にマスターが淡い期待を込めてエイトさんに聞いた。
もちろんそんなことはないのでエイトさんは首を横に振る。しかし勘違いと言うか、思ったことを直ぐ言えるポジティブな性格は見習うべきだな。
「…………ここは危ないから外に出るのら」
「ああ、はいっ……」
エイトさんはマスターを引っ張り入り口のドアを開けて外に避難した。続けて皆外を目指して駆け出した。
俺が最後まで見守っていると、刑事と時道とリオンが心配そうに見てた。
「なにをボサッとしている。早くにげろ!」
「にゃにゃっ♬」
「おっと! なにを急に笑うっ!?」
脈絡もなく笑った俺に鷹村警部が引いた。まぁ初めて見るまともな奴は皆同じ反応だ。
「にゃにゃっ♬ スライムごときにゃら、アタチの頭突きでイチコロにゃん!」
ズバン!
丁度飛んで来たスライムに俺は頭突きを喰らわし一撃で粉砕させた。
「なっ! ちょっと待て、威力は分かったが、何故頭突きなんだ?」
「にゃっ……そにゃあ、手足が短くリーチが届かにゃいから頭突き位しか攻撃バリエーションがにゃいにゃ」
あと猫パンチもだな。
「なるほど確かに威力が絶大だ。しかし、次から次へとスライムが窓から侵入して来る。果たして頭突きだけで対処出来るのですか」
なんだ知ったふうに時道は俺をあおってんのか……。
「……仕方にゃいにゃ〜アタチの最大の武器を見せてやるにゃっ」
俺は決めポーズに両腕を上に伸ばす。
「ステータスオープンにゃっ!!」
「ん、ステータス……」
「おいちびっ子! なに非常時におかしなこと言って……えっ!?」
キョトンする時道と俺にツッコミを入れる鷹村だったが、彼女は空中に現れたステータス画面を見て目を丸くした。うむ、平成の時代にステータスオープンするとは思ってもなかったぞ。
「おいっ! なにを操作しているっまるでゲーム画面じゃないかっ!?」
「うるちゃいにゃ〜ちょっと黙って見てるにゃ……いつものおみゃえに決めたにゃっ!」
俺は迷わず黒鴉を召喚してステータス画面を閉じた。
「社長呼びました?」
「見れば分かるにゃ、とりあえずそこにいるスライム全部片付けるにゃ」
「あいよ〜んっ…………ちょっと社長っクレナとロウランはっ?」
「今回はおみゃえ一人で十分にゃろっ」
「社長まさかわたしと二人きりになりたくて…………」
「にゃっ、そんにゃわけあるかっ! 早よ店内のスライムを一掃するにゃ」
「……了解っ」
黒鴉はいつものようにブラックソードを振り回し、店内のスライムを倒した。
「社長終わりましたよ」
手の甲で額の汗を拭った黒鴉が手のひらを出して報酬を要求した。それでいつものアレをポッケから出して彼女に手渡した。
「……チー牛味っすか……好きっすよね社長っこの味」
「にゃにゃっ♬」
「それより……コイツら見ない顔ですが、誰っすか?」
振り返った黒鴉が怪しむ目で時道たちを指差した。すると一人だけ反応した鷹村警部が拳銃を黒鴉に向けた。
「それはこちらのセリフだっ! 急に出て来て刃物振り回して銃刀法違反で逮捕するぞっ!」
「なんだぁ人間っ、そんなはじきでワタシを倒せると思うなよ」
「んだとっ国家警察を舐めるなっ!」
キレた鷹村警部が銃口を黒鴉に狙いを定めた。
「ちょっと待ってください鷹村警部。今は一刻も早く外に避難すべきです」
「……分かってるよ時道。仕方ないっお前らっ急いで外に出るぞっ!」
俺たちは急いで店の外に出た。外は異世界ではなく、普通の下町の風景だった。
しかし外にも大量の魔物が待ち構えていた。
「ちょっとゴブリンにオークまでいるわよっ!?」
戸惑うメリーが叫んだ。
まぁ奴らはもう雑魚だけど、三百年前の平成の世に出るとは驚きだよ。
「社長っ数が多いっすね。応援に巨ジンでも呼びましょうよ」
「にゃっ!」
周りに美女がいるだけに、女好きなアイツを呼んだら余計ヤバいことになるよ。
ドラコスはよほどヤバい事態にならないと出せない切り札だな。
「おいっ時道なんとかしろっ!」
「大丈夫ですよ鷹村警部。先輩が来たので僕が出る幕じゃないです」
「ああ、アイツ来たか」
『先輩とかアイツってなんだ?』内輪ノリで会話されても部外者の俺はさっぱりだ。
しかし背後から声がした。
「一体どうなったらこうなるんだ?」
俺たちが振り返るとそこに黒髪短髪でややタレ目だがイケメンの若者が立っていた。服装はGパンを履き、革製のブラウンのジャケットを羽織り、左肩に2メートルほどの長物を入れた専用バックを担いでいる。
弓道でもなにかやってんのか?
そいつがゆっくりとこちらに向かって歩き出し、俺の前に立って見おろした。
「にゃっ、にゃんにゃ……」
「ずいぶん小さな子供だなぁ……」
「にゃっ!」
カチンとした。
「そう言うおみゃえの身長いくちゅにゃ?」
「俺か……まぁ、185センチくれーかなぁ……」
「にゃっ……ま、負けたにゃ……」
「おいっ! どうした急に地に手をついて?」
長身の兄ちゃんは落ち込む俺を心配してくれた。案外いい奴だな。
しかしこの男も見覚えがある。だけどどうも一部の記憶が欠如していて、肝心な部分が思い出せない。
「それよりおみゃえはにゃんにゃ」
「にゃんにゃ……妙な口癖の子供だなぁ……」
「子供扱いすんにゃっ! こう見てもアタチは1万年生きるサタンちゃまにゃぞっ!」
俺は両手を振りあげて抗議した。
「1万年……へぇ、ずいぶん長生きなんだなぁ……人は見掛けで判断しちゃいけねえよな。さて、俺の名は犬飼健介だ。よろしくなお嬢ちゃん」
犬飼が爽やかな笑顔を振り撒き、俺に手を差し伸べ握手を求めた。
「にゃっ……」
ちょっと待て……。
「ん、どうした?」
「おみゃえの背が高くて手が届かにゃいんだっ!」
プンプンして抗議したら大抵の大人は応えてくれる。しかし奴はポッケに左手を入れて無言で俺を見おろしていた。
「自分が可愛いと自覚して、ただこねれば周りの大人たちがなんでも言うこと聞いてくれると思うのはお前のおごりだ……握手をしたけりゃジャンプするなり努力しろ」
「にゃっ…………」
なんだコイツ意外とクッソ厳しい体育会系か……。




