サタンちゃまと七斬り様の祟り1
「私の名は横溝孝典と申します。今から50年前に起きた七斬り村村人惨殺事件犯人の兄です」
時道の隣に座る依頼人のおじさんが自己紹介してから語り出した。しかし弟が大量殺害犯って世間じゃ生きていけないだろ。
その顔に刻まれた無数の皺から苦労がうかがえる。
「今から五十年前学生だった私と弟の恒彦は民俗学に夢中で長崎に年に一度真夏に謎の奇祭をする七斬り村の存在を知り、丁度祭りが始まる一週間前に訪れました」
祭り前一週間入りって気合い入ってんな。まるで橋の開通に一番乗りするために一ヶ月前から徹夜するマニアみたいだな。
それかうつむいた孝典が暗い思いで話を続けた。
「村人たちは部外者のはずの私たちを快く受け入れてくれてなんと、宿まで無償で提供してくれたのです」
「殺された村人には悪いけど、なんで赤の他人にそこまでもてなすんだ? ちょっと気持ち悪いと言うか、なにか裏があったと違うか?」
眉間に皺を寄せた鷹村警部が孝典に聞くと残りのコーヒーを飲み干し、カップをマスターに差し出しお代わりを要求した。
「あ、はい……私たちに親切にする村人には確かに裏があったのです……」
「それは生贄か……」
『にゃっ!』いきなりネタバレすんなよ鷹村警部。まぁ刑事だから事件のことは知ってて当然だけどさ、そこは順序を守って欲しいな。
「はいっ……私たちは事前に七斬り村の由来を知りました。それは今から800年ほどの源平合戦の時代。源氏に敗れた平家の落武者が家来と共に財宝を抱えてこの村に逃げて来ました。それで当初は村人が落武者をかくまって親切にもてなしたが、それは表向きで村人は武者の財宝が目当てであり、ある時宴でもてなし。泥酔した武者を捕らえ財宝の有りかを聞き出そうとした。しかし武者は首斬りの拷問されても決して口を割らず、結局七回も斬りつけられ首を落とし命を落とした」
『いかにもベタな落武者伝説だな』しかしそれが真実だとすると、落武者より欲深い村人の方が闇深いな。
とりあえずまだ続きがあるらしく孝典は時折天井を見ながら話しを続けた。
「しかし良く調べると七斬り村の由来は七回斬ったと言うのは間違いでして、落武者の首を斬るまでに六回も刀を交換し、ようやく七本目で切断に成功したからのちに七斬り村と呼ばれるようになったのです」
それだと落武者の首は硬いと言うか丸太クラスだったのか……ちょっと悪魔にスカウトしたいな。
「落武者たちの首を野にさらした村人は腐る前に隠された財宝を必死に探しました。しかし財宝は巧妙に隠され見つからずある日突然村人が謎の奇病に掛かり次々と死んでいきました。それで祟りと恐れた村人は落武者を鎮めるために年に一度祭りを開きしかも、村を訪れた旅人をもてなしスキを見て捕らえて首を跳ねて落武者こと七斬り様に捧げ、人知れず行われてきたそうです」
「ちょっと待て! 八百年前からだぞっ!?」
鷹村警部が立ちあがって孝典に向かって聞いた。
「ええ、そうなりますね……」
虚な目の孝典はひと言みたいに答えた。
「それでどうしたっ?」
「はい、まだ見つからない財宝と七本目の刀と生贄にされた旅人の頭骨がどこかに隠されていると弟は祭りの前に絶対見つけると張り切ってました」
孝典の弟は好奇心と言う欲に囚われたわけだな。その結果悲劇が起きたのか……。
「で、お前の弟は刀を見つけたんだな?」
「にゃっ、またネタバレにゃ」
「はあっ? 黙れ猫耳ちびっ子! 捜査にネタバレとかどうでもいいんだよっ!」
『怖っ』鷹村は拳でテーブルを叩いた。
「ええ、弟は祭りの前日の夜に遂に刀を見つけてきました。しかしその夜から弟は七斬り様に乗り移られたように様子がおかしくなりました。それで私は恐ろしくなり一人密かに村を抜け出しほうほうのていで逃げ出しました。それから翌日の夜……刀を持った弟が村人を虐殺する事件を起こし最後には自害して終わりました……」
「にゃっ……」
凄惨な内容の話を聞いていた皆んなは黙って聞いていたが、しっかし、昭和初期のドロドロしたミステリーとしては満点な結末だな。
しかしそれで孝典は時道を雇ってなにをする気なんだろう……まさか!
「それで私は名を変え五十年余り生きてきましたが、やはり弟を止められなかったのが今でも悔やまれます。だからっ過去に連れて行ける時空師時道さんならっ事件前に戻って弟の凶行を止められるはずだとっ!」
興奮した孝典が最後に立ちあがった。
「ちょっと過去に連れて行くなんて出来るわけないわよね?」
メリーが身も蓋もない指摘した。まぁ非常識な異世界人のお前が言うなと言いたい。
「それがな……この時道なら可能なのだよ……」
コーヒーを一口して苦い表情を浮かべた鷹村が時道を肯定した。まぁ知り合いなら何度もその能力を見てきたと言うわけだな。
『時を操る能力』あり得るな……だって俺の部下の七将軍の一人フェミニムも時を停める力があるからな。
それに、俺を含め並行世界から来たロボや天使や異世界の冒険者がいるだけに、タイムスリップ出来る奴がいても不思議ではない。
「ではお前は過去に戻って弟から刀を奪って犯行を阻止する気だな?」
睨むように鋭い目つきの鷹村が聞くと孝典が下を向いて『へい……』と答えた。
しかしこの行為は……。
「しかし歴史の改変だぞ……」
「…………」
「鷹村警部っそれで多くの命が救われる。多少の歴史の改変許してもらえませんか?」
沈黙する孝典の代わりに時道が鷹村にお願いした。すると彼女は目を瞑って考えた。
「山奥の秘境の村で起きた悲劇だが、直接日本の歴史に影響を与えたかと言われればそんなことなはなかった。仕方ない。今回だけだぞっ!」
「ありがとうございます鷹村警部。では早速宮崎県に向かいましょう」
そう言って時道が立ちあがった。しかし急だな。
「ちょっと待って!」
するとまたメリーが待ったを掛けた。
「なんだぁっまたか小娘っ!」
「鷹村に聞いてないわよっそれより先にあたしたちを元の未来に帰して欲しい」
「なぁにっまだそんな嘘言ってんのかっ? さっさと家に帰れ」
「なっ、なによ、だから帰れなくて困ってるのに……」
怯むメリー。頭の硬い鷹村はなに言っても信じようとしないから大変だな。
「……では向かいましょうか」
「ちょっと待つにゃっ!」
「ん…………?」
俺たちは詰んでいる。今は時道に頼るしかない。だから俺は飛び出し大の字のポーズで時道を通せんぼして、必死にしがみつこうとした。
「アタチらも過去に連れて行くにゃっ!」
「元の世界に帰りたいその気持ちは分かりますが……君たちを連れて行くメリットが見つからないのですが……」
「あるにゃっ!」
「ほ〜う、その根拠は……」
「それにゃ……」
根拠言われても俺たち冒険者に出来ることと言ったら……答えに詰まったその時、突然窓ガラスを突き破り何かが飛び出して来た。
グニグニ……。
「おいっちょっと待てっ、なんでコイツがこの時代にいるんだ!」
そう言ってヒューイが鞘から剣を引き抜き両手で構え、突然現れた俺たち異世界人が良く知る敵に切っ先を向けた。
「ちょっとなんでスライムが出て来るのよ……」
口に手を当てたメリーが困惑気味に呟いた。
そう、現れた敵は俺が冒険始めにお世話になったブルースライムだった。




