サタンちゃまとクリームソーダ
「とりあえず注文でも取るか、マスターッ」
「…………………………」
右手をあげた鷹村警部がマスターを呼ぶが、お盆を持ち背を丸めていた彼は上の空で天井を見つめていた。
まぁ個性的な奴らが一気に入店したから個性的なマスターの存在感が霞んだからな。
「おいっ聞いてるかっマスター?」
「…………あっはいっ! かかっかしこまりましたっ! ご、ご注文はいかがにいたしましょうか?」
タメ口接客だったマスターは相手が刑事と分かると露骨に腰が低くなるな。
「んーじゃあコーヒー四つと……たい焼き姫なにする?」
「妾か……」
鷹村がムーのリオンに聞いた。
たい焼き好きだから『たい焼き姫か……』なんとも面白いあだ名で呼ばれてたのな。
便乗して今度使わせてもらおう。
「またクリームソーダか、子供っぽい飲み物良く飽きないわね……」
『クリームソーダくっそ懐かしい』思えば未来ではやっている店がわずかで全然飲んでなかったな。
これは是非飲みたいが……。
しばらくしてマスターがコーヒーとアイスクリームが盛られたクリームソーダを持って来た。
それを異世界人たちはもの珍しそうに身を乗り出して見てた。
「ちょっとあたしもそれ飲みたい」
「にゃっ!」
メリーが右手をあげて欲しいアピールした。全くうじうじする俺に比べて、考えたらすぐ行動する彼女がうらやましいな。
ただやめとけと言いたい。
「注文はダメにゃ」
「ちょっと邪魔するんじゃないわよちびっ子。お金なら…………」
メリーは懐から巾着袋を取り出し金貨を一枚手の平にのせて見せた。
「これで足りるかしら?」
「えっ! き、金貨ですか……え〜と失礼ですが……ほ、本物でしょうか……」
メリーの手の平を覗きこんだマスターが鷹村警部を見つめ目で判断アピールした。
すると彼女が立ちあがり振り向いてメリーを指差した。
「おいコラッ! この金貨本物だろうなっ!?」
「失礼ね〜〜これは魔物を討伐して報酬としてもらった正真正銘の金貨よ」
「なぁにいぃっ魔物を討伐だとぉぉまだそんな見え透いた嘘をつくきか……しかしそれが本物だとして何故お前のような小娘が金貨持っている?」
「ちょっと! あたしは16よっ異世界では立派な大人っ小娘呼ばわりされる筋合いなんてないわ!」
メリーも立ちあがって反論。二人は睨み合ってどっちも引く気がなさそう。そうなると野良猫の喧嘩と同じで最後は乱闘してどちらかが勝つまで収まりそうにない。
「ちょっといいですか?」
見かねた時道が手をあげた。
「なんだ時道っ今それどころじゃないのよ」
「いえいえ大事な話です。恐らくこの方々はこの時代のお金を所持していないはずです」
「なにぃいっ、まさかお前ら無銭飲食するつもりだったのかぁ?」
鷹村警部は俺たち一人ひとりに指を差して聞いた。が、なんのことか理解出来ない異世界人たちはポカンとしていた。
「ところで今の西暦はにゃんねんにゃっ?」
「西暦ですか……」
『にゃっ!』俺の猫語が通じた。やはり侮れないな時空師時道。
「今は西暦2003年ですよ」
「にゃんとこの時代にゃアタチらの時代から約330年前の世界にゃ……」
「なぁにぃぃ〜〜お前ら未来から来ただとっ? 子供じみた嘘を言うなっ!」
また鷹村が会話に乱入し否定してきた。そのつど説明してたら日が暮れるぞ。
「確かに興味深い話ですね……なるほどサタンちゃまですか……あーっこれはいけませんね……」
「にゃにっ!?」
時道は右眼を赤く光らせ俺を見つめうなづきながら、まだ名乗っていないあだ名を言い当てた。
コイツアタチの記憶でも見えるのか……。
「とりあえずこの方々の分は僕が奢りますから皆クリームソーダでよろしいですか?」
まぁコーヒーよりクリームソーダの方が異世界人は気に入りそうだ。『にゃっ……』今のはダジャレじゃない。偶然そう言った……く、苦しいな。
マスターが全員分のクリームソーダを持って来た。
「へ〜〜いお待ち〜〜」
刑事への態度と違って露骨に接客態度を抜いてきたマスターは、注文の多さからヤケに嬉しそうだ。(あっ! 不本意ながら二度目だがたまたまだ……)
「ちょっと!」
するとまたメリーが手をあげた。
「はいっ、ふう〜なんでしょうか……」
ため息混じりに面倒臭そうに答えるマスター。
なんと言うか上にはペコペコして下には露骨に見くだす分かりやすいクズだな。
「え〜と……ドンブリチーズナポリタン一つ」
「はっ? ねーよっそんなメニュー」
「嘘っだってあたし食べたもんっ! 大繁盛していたこの店の人気メニューだって十代目が言ってたもん!」
「はぁ〜十代目? おかしなことをまた言いやがる。俺は一人でこの店を立ちあげた初代店主様だ。それを十代目などとおかしなこと言いやがって誰もこの店を継がせる気はねぇんだからな」
またややこしくなってきたな。とにかく過去人と未来人との話が噛み合わなくてお互い理解するのに時間が掛かるな。
こりゃ本当に喫茶店に出るまで日が暮れるな。
しかしマスターは腕組みしてニヤリと笑った。
「しかし、おも知れーなドンブリチーズナポリタンか……よっしゃっ今から即興で作ってやろうじゃないかぁ〜おい」
マスターは腕まくりしてどうやら乗る気になったらしく急いでカウンターに戻って調理を開始した。
どうやら『ドンブリチーズナポリタン』の考案者はメリーのようで驚きだ。
当の本人は気にせずフォークを握り締めウキウキしながら待っていた。
「あ〜もう話が始まらんっもういいだろ時道っその男がっ……今から五十年前っ宮崎県の山間部にあった七斬り村村人虐殺事件犯人の兄ってのは確かか?」
鷹村は時道の隣に座る冴えないおっさんを指差して言った。すると時道は『間違いないく彼は僕に過去に連れて行ってくれと依頼してきたお客様です』と答えた。
しかしまさか急に異世界人から昭和のドロドロしたミステリーな展開になってきたな……。




