サタンちゃま北海道に行く1
牛丼屋からコインパーキングに戻ると谷川シェフが自家用車で合流していた。しかもキッチンエアカーで時間があれば出店に使っていた自慢の車だと言った。
「へー凄いじゃない。このキッチンカーがあればなんでも作れそうね」
感心するメリーが無理難題言ってきた。いやなんでもは作れないと思うよ。例えば専門の鉄板が必要なたこ焼きやタイ焼きなどがね。
たこ焼き屋と言えば今日は近くにいないみたいだ。メリーが今度会ったらとっ捕まえると息巻いていたから来なくて正解だったね。
「谷川様。そこまで用意してくださらなくても……」
聖女さまが申し訳なさそうに谷川シェフに話し掛けた。
「気にすんな。俺はシェフだからこの位の調理設備が必要だし寝床にするつもりだ」
確かに聖女さまのキャンピングカーに男性の谷川シェフが寝泊まりするのは気が引けたと思う。
例え聖女さまが良しとしてもメリーが反対するから最善の策だと思う。
「俺は準備はオーケーだ。いつでも出発出来るぜ」
「そうですか、では三十分後に出発いたします」
聖女さまがテイクアウトした牛丼並をサガネさんに手渡した。
サガネさんは朝飯を食べずに留守番していたから当然の配慮だと思うが、細やかな気遣いが聖女さまのいいところ。
俺はとにかく感心した。
出発の時間になってエアカーの車輪がボディに収納され浮いた。ちなみにエアカーは展開した翼と反重力エンジンによって空を飛べる。この技術は一説には交流するエイリアンからもたらされたと、一種の都市伝説がある。
北海道に向けて二台のエアカーが飛び立つ。
サガネさんが運転するキャンピングエアカーが先頭で、後方に谷川シェフが運転するキッチンエアカーがついて行くことになった。
□ □ □
安全運転で北海道の札幌に到着したのが午後一時頃。そして更にここから積丹半島に向けて出発した。
その前にメリーが札幌ラーメン食べてから行くと駄々こねたが、決めるのは聖女さま。ゆるりと却下され積丹半島に向かった訳だ。
しかし、車内でメリーがいじけていたのでクエストクリアの褒美として帰りに札幌に寄ることが決まった。
そこでメリーは蟹とか札幌ラーメン食べると大はしゃぎですよ。
見掛け幼女の俺から見ても子供だと思った。
積丹半島に到着したのが日が暮れる時間帯だったので今日は、キャンプして休むことになった。それで冒険は明日の朝に決まった。
するとメリーが怒り出した。
「もーっ!野宿するならホテルに泊まって早朝に出発した方が良かったんじゃないの?」
確かにそうだけど、全員分のホテル代誰が払うんだ?
「んじゃっ俺が夕食作るぜ」
腰をおろしていた谷川シェフが立ちあがりキッチンエアカーに向かった。
これからは毎日彼に食事を作ってもらえる。しかも一流シェフだからこんな贅沢な話はない。
聖女さまがどんなベテランの冒険者より先にシェフを仲間にした理由が良く分かった。
テキパキと調理する谷川シェフがあっという間に料理を完成させ運んで来た。
「手抜き料理だけど食ってくれや」
そう言って谷川シェフがテーブルに置いた料理がこれだ。
毛ガニのボイルと毛ガニの味噌汁にジャガバターと茹でたトウモロコシだ。確かに簡単な調理法だけど、食材が特に毛ガニが高価だ。
どれも北海道の名産品でどこで手に入れたかと言うと、札幌に到着した時にシェフが市場で買っておいた食材だ。
「へーっ美味そうだけど……なによコレ……」
料理の匂いを嗅ぎ笑顔を振りまいていたメリーだが毛ガニに関しては、指差し露骨に嫌な表情を浮かべた。
こんな高級食材にと思ったが、彼女の世界では蟹を食べる習慣が無ければ警戒するのは当然だと思った。
「にゃにゃっ♪ にゃったらアタチが食べるにゃっ」
ここぞとばかりに俺は毛ガニを取ってまずは甲羅を外した。中にはミソがたっぷり詰まっていて美味そう。
「うえっ!気持ち悪い」
蟹ミソを見たメリーが拒絶した。
いいよいいよ。俺が食べるから君はジャガバター食べてればいいさ。
俺は蟹ミソをスプーンに掬って口に入れた。すると濃厚な海鮮の旨味が口いっぱいに広がった。
子供舌でもはっきりと分かる美味さだ。さらに足をもいで中の身を取り出し食べた。
「うみゃ〜〜っ!」
あまりの美味さに歓喜して叫んだ。しかし言うと、毛ガニを食べるのは今日が初めてだ。食べ方は過去に動画で見た記憶を参考にした。
で、毛ガニを食べたのは俺と谷川シェフとなんとサガネさんだ。彼女異世界出身かと勝手に思ってたけど、蟹食べたから違うのかな?
まぁわざわざ聞くほどのことじゃないけどね。
それから俺はジャガバターとトウモロコシを頂き蟹の味噌汁を飲んだ。どれも絶品で満足して一夜を過ごした。
朝になり俺たちは外でテーブルを囲みコーヒーを飲んだ。
「あっ……」
空を見あげていたメリーが指差した。
「来たわよ。たこ焼きストーカー!」
空飛ぶキッチンエアカーが丁度着陸するところだった。車体に書かれた店名は『天使の八ちゃん亭』だ。間違いない。いつもの怪しい店主のキッチンエアカーだ。
「ちょっとたこ焼きストーカーッ!」
早速腰に手を当てたメリーが、たこ焼き屋の八ちゃんさんにクレームを入れた。
ビクつく八ちゃんさんはメリーに及び腰だ。
「あっ……い、いらっしゃいなのだ……」
「いらっしゃいじゃないわよっこのストーカーッ!」
「…………い、意味が分からないのだ。た、たまたま一緒になったのだ」
苦しい言い訳だ。
仕事で来たってここは前回のように、ショッピングモール駐車場じゃない。商業施設なんてない大自然の秘境の島だぞ。
今回ばかりは言い逃れは出来なさそうだ。
「たまたまこんな辺境の島で一緒になるのたこ焼きストーカー?」
メリーは彼女を捕まえようとジワジワと距離を取った。
「ま、待つのだ。は、話せば分かるのだ……」
「ええ、アンタを取っ捕まえれば秘密が分かるハズよ」
「…………」
「あっ!こら待てっ!」
追い詰められた八ちゃんさんが逃亡した。またいつものパターンだ。今度は逃がすまいとメリーが手を伸ばすが、彼女はたこ焼きパックを置いて囮に使った。
「あっ!たこ焼きっ!」
ガメついメリーは八ちゃんさんが落として行った。たこ焼きをワキに抱えて全て拾った。
そのスキに彼女は運転席に戻りキッチンエアカーを浮上させ逃げ切った。
怪しいたこ焼き屋は俺たちに無料でたこ焼きを提供して姿を消した。結局今回も八ちゃんさんの目的も正体も分からず終いだった。
このままたこ焼き屋にストーカーされるのは目的不明で気になる。だから皆で相談した結果。今度出て来た時には捕まえることが決まった。
右手を握り空を見あげたメリーが誓った。
「次こそは、絶対捕まえてヤルからね。たこ焼きストーカー」




