サタンちゃまと英雄艦長の娘
エイトさんが何度か通信を試しすでに二時間が経過していたが、未だ繋がらない。
しかしエイトさんは諦めずに何度も掛け直してようやく繋がったみたいだ。
『こちら天使軍本部……』
「……こちら銀の塔通信室から八番目の太陽天使騎士エイトからの通信なのら」
『は、八番太陽天使騎士っ? そ、それに銀の塔からってまさか地球からでしょうか?』
通信機から聞こえたのは若い女の子の動揺した声だ。ちなみにこっちの世界の天使の性別は女だけで男は存在しない。だからイケメン天使のブラックウインズは並行世界から来た異なる天使だ。
「そうらっ、速急に空飛ぶ戦艦が地上で必要になったのら、だから艦長がいるなら代わって欲しいのら」
『りょっ、了解しましたっい、今すぐユウト艦長と代わりますっ』
『ユウト艦長?』どこかで聞いた名前だけど、オペレーターは慌てて艦長を呼びに行ったみたいだ。
しかし天使の癖して日本人っぽい名前だな。
しばらくして相手側から返事が返ってきた。しかも通信室の中央に大きなスクリーンがあって画面が映し出された。そこには銀色のロングヘアに四角いフレームの眼鏡を掛けた軍服を着て艦長帽を被った美人さんが座っていた。
初めて見る天使だけど……どこかで見覚えが……だが記憶が喉元まで来てどうにも思い出せない。
すると銀髪の艦長と目が合った。
『何故ここにサタンがいる?』
「そっ、それは色々事情があるのらっ……」
『君はふざけているのか? ちゃんと標準語で話せ』
やはりエイトさんの気の抜ける独特な口調を指摘された。しかしエイトさんは首をブンブン横に振って『仕様だから無理なのら』とどうしようもない言い訳して銀髪女を呆れさせた。
『分かったよ……確か八番目の太陽天使騎士が消息不明と聞いていたが、よもやこんな癖のあるふざけた口調の……いやっ失礼っ大先輩でしたね。僕の名はユウト。三百年前貴女のいる地球を救った英雄艦長ユウキの娘です』
『にゃんと!』通りで見覚えがあると思っていたらこの銀髪女は第二次最終戦争で俺に立ち向かった空飛ぶ巨大戦艦虹不死鳥号艦長ユウキの娘だったのか……今でも思い出す。
黒髪ロングヘアの妙に明るい眼鏡っ娘天使騎士の艦長ユウキ。アイツの活躍によってサタン軍は敗れたと言っても過言ではない。
『しかし何故サタンがそこにいますか……』
「にゃにっ……」
ユウトはそう言って帽子のツバをより深くさげた。
「今は異世界大陸の住人と世界を救うために悪魔王の力が必要なのらっ!」
『ほうっ、噂では聞いていたが、詳しく事情を聞かせてもらいたい』
「分かったのら」
こうしてエイトさんはユウトにことの敬意を独特の口調で説明し、何故戦艦が必要なのか話した。
『了解しました。急いで虹不死鳥号を地球に向かわせます』
意外と物分かりのいいユウトが立ちあがった。
「にゃんにゃお堅いと思ったらミニスカートにゃかよ」
『きっ、貴様そんなことどうでも良くないか……』
「にゃっ……」
顔を真っ赤にしたユウトが俺に向かって指を差した。
『今からこっちに向かってやるから決して逃げるなよサタン!』
「にゃっ……」
戦線布告かよ面白い。
「にゃにゃっ♬ やってみにゃよ眼鏡っ娘艦長にゃははっ♫」
『きっ、貴様…………今の内に首を洗って待っていろよ。いいなっ!』
「にゃははっ望むところにゃっ♬」
『チッ!』
プチッ!
ここで通信が切れた。
結局俺は艦長に喧嘩売って終わった。
「悪魔王…………なんてことしてくれるのらっ!」
「にゃーーあっにゃめろー!」
俺はブチキレたエイトに再度首を絞められた。
□ □ □
祭り会場に戻って来た俺はまず聖女さまに強制正座させられ、長時間こっ酷く説教された。
しかし残念なことに聖女さまのお小言は左の耳の穴から右耳の穴へと素通りして行った。
『にゃはっはっ♬』馬の耳に念仏とはこのことだな。
聖女さまの説教から解放された俺はフラフラ歩きながらメリーの元に寄った。
「ずいぶんと無茶してたみたいね」
「にゃけど天界から天使軍の空飛ぶ戦艦が来てくれるそうにゃ」
「本当に来てくれるの……鉄の空飛ぶ戦艦なんてにわかに信じらんないわ」
確かにそうだが、非常識の代表格の異世界人が信じなくてどうする。これまでだってとんでもないことの連続だっただろうに信じろ。
「ところで忙しそうにゃが?」
メリーはせっせと荷物片付ける谷川シェフの手伝いをしている最中だった。普通なら今頃王国のパーティーに招待されているところだが……。
「あったり前よ。アンタのせいで地竜が邪神に殺され祭りは台無しよ。おかげで急いでこの国から出ないと捕まって処刑されるわ」
「にゃっ……アタチのせいじゃにゃいよ!」
「確かにヤッたのは邪神だけど、それを止められなかったアンタが悪い。しかも邪神がアンタのパーティーに参加してたでしょう。これじゃ言い逃れない事実よ」
「済まにゃい……」
そう言われると流石に反省した俺は両手人差し指の先をくっ付けて誤った。
「もうっ邪魔だから退いてっ! もう少しで出発の準備が完了するからそれまで駄菓子でも食べてなさい」
「にゃんにゃっ!」
段ボール箱を抱えたメリーは俺を無下に退かしてエアカーの元に行ってしまった。
それで一人取り残された俺はベンチに座ってうんまい棒を齧った。
「にゃにゃっうんみゃい♬」
反省しているようで全くそんなことはなかった俺はら両足をブラブラさせた。
「相変わらず楽しそうだな」
「にゃっ……」
仲間を連れたヒューイが俺に話し掛けて来た。
「にゃんにゃヒューイかにゃ」
「にゃんにゃじゃねーだろ。ついさっきまでパーティーメンバーだったのにつれねーなぁ、ところでもう少しお前と付き合うことになるな」
「にゃんにゃおみゃえロリコンにゃったのか?」
「ちっ、ちげぇよ。これから私のチームは聖女さまに日本に連れて行ってもらえるのだ」
確か協力する代わりに、彼はエアカーを買いに日本に連れて行ってもらう約束だったな。
しかし邪神の去り際の忠告が気になる。もし日本でなにかが起きれば関係ないヒューイたちを巻き込む可能性がある。
とは言えなにかが起きたとしてもヒューイたちがいればかえって頼もしいと思ったから、俺は邪神の警告を彼らには黙った。
しかし久しぶりの日本へ里帰りだな。




