サタンちゃまとダンジョン祭り9
「おいおい、なんだこのマッチョは確かに強そうだが、見掛け倒しなんじゃねーの?」
ドラコスに向かって指差し、ダンジョンマスターシロウが煽って来た。
無知とは怖いもので、これまで数多くの白天使を倒してきたドラコスに喧嘩を売るとは殺されても知らんぞ。
とはいえ今はシロウに構っているヒマはない。俺は巨ジンにやる気を出してもらうために黒騎士三人娘を召喚した。
「出るにゃおみゃえら」
「社長っすでに出てますぜ」
「サタン様っもうっ呼ぶの遅いですっ!」
「あらあら〜本当、前まではしょっ中私らを呼んでたのにね〜〜?」
「にゃっ……」
黒鴉、クレナ、ロウランの順に話し掛けられた。と言うより久しぶりにイジられたな。
で、俺は黙って巨ジンに向けて顎をしゃくった。それに気づいた三人娘の視線がマッチョに向いた。
「うわっと! ちょっとドラコスのダンナ。ようやく復活したんすか……」
「黒鴉か……ああ、この通り大丈夫だ」
横に立っていたドラコスに気づいた黒鴉が一瞬引いたがすぐに寄って肩に触れた。
まぁ、上半身裸のマッチョがいたら引くわな。
「……しかしドラコス様っ失礼ながら大丈夫なのでしょうか……」
ドラコスの足元でひざまづいたクレナが様子をうかがった。
「む、俺が現在進行形で異常をきたしているスーパードラコスの弟だからか……」
「おっしゃる通りでございます」
「俺も兄者と同じく暴走した過去があるが、天使に倒されたことによって正常になったから今は大丈夫だ」
「ハハッー〜あらぬ疑いを掛け真に申し訳ございませんぬ」
クレナが土下座してドラコスに謝罪した。ずいぶんと低姿勢だが、相手は味方も恐れるほどの無敵悪魔だから仕方ない。
しかしこれだけの実力がありながら、ドラコスは将軍の地位につけなかったのには理由がある。
『それは異常なほどの女好きだ』とはいえ手当たり次第ナンパするイケメンタイプではなく、敵の美女を見つけると興奮して向かって行く変質者タイプだ。それでいつも暴走してしまうから将軍の地位につけなかったんだ。
「にゃにゃっ♬ 相変わらず変わらにゃいにゃドラコス」
「……サタン様こそ変わりませんなぁ、心も身体も子供でな……」
「にゃっ……それよりアイツ倒して欲しいにゃっ」
俺はシロウを指差してドラコスに教えた。
「…………男は興味ないっ!」
「にゃっ!」
ドラコスはプイッと顔を横に向けた。
まぁ相変わらず女以外興味を示さない本能に忠実な魔人だ。しかし、その特性を活かせば容易にコントロール出来る。
「残念にゃら、奴を倒せば黒鴉がご褒美のキスしてくれるはずにゃったが」
「なに………………………………」
それを聞いドラコスが固まった。
「ちょっと社長っ聞いてないっすよ罰ゲーム?」
「にゃにゃっ♬ ほっぺにチューするだけにゃやれるにゃろ?」
「……んまぁ、それ位なら出来ますけどぉ……なんでワタシなんですか社長っ!」
「にゃっやめろ!」
苛立った黒鴉に背中を取られてほっぺをツネられた。上司の俺に馴れ馴れしい態度するこの女も大概だな。
「しかし社長っあのイキリ野郎程度なら、中流悪魔が相手で十分なのでは?」
黒鴉が俺に耳打ちして聞いた。
「それがにゃあ、奴は受けた攻撃を二倍にして跳ね返すスキル持ちにゃ、だから跳ね返せぬパワーで倒す必要があるにゃ」
「へーなるほど。要するに馬鹿力でチートスキルをねじ伏せる作戦すか……」
「だからおみゃえの協力が必要にゃんにゃ」
「……理由は分かりやした。だからってなんでワタシなんですか社長っ!」
「にゃっキレんにゃ!」
俺は黒鴉に追い掛け回されドラコスの周りをグルグル走り回った。そんな中ドラコスは無言で突っ立って石像のように固まっていた。
『にゃんにゃ?』キスの褒美が嬉しくて脳がショートしたのか……。
「おいおい、そろそろ待ち飽きたんだけどヤル気あんのかそこの木偶の棒は?」
『…………』
「チッ」
ドラコスに無視されたシロウが舌打ちして差した指をおろした。しかしすぐに肩をすくめると口元をニヤリと歪めた。
「考えが変わった。お前じゃ俺には勝てない」
「…………」
決まったと思えたシロウの煽り言葉だけど、ドラコスの耳を素通りした。
「おいっ! 聞いてるのかっ?」
「ふっ…………おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜ぉぉキスか」
ドラコスは今頃ご褒美のキスに歓喜して唸った。まるで痛みが遅れて感じる恐竜みたいだな。(通説)
「クッソ雑魚が俺を無視するとはいい度胸じゃねーかほらっヤレよ」
痺れを切らしたシロウがドラコスの前まで近づき人差し指で胸を押した。
しかし3メートルのドラコスに170のシロウじゃ大人と子供の身長差だな。
「……………サタン様」
「にゃんにゃドラコス?」
「ご、ご褒美のキスはどうすればもらえるのですか?」
「にゃっ……」
人の話聞いてないなこの魔人は……。
それで俺が一から説明してさらにヤル気が出るように閃いた。
「目の前にイキッているチート野郎をぶっ飛ばしたら、そこの黒騎士三人娘がキスしてくれるそうにゃ」
『…………』
「コラッーー社長っ三人って聞いてないんすけど」
「本当ですよっサタン様の可愛いほっぺならともかく」
「あらら〜〜勝手に決めちゃいますサタン様……」
「にゃっ……」
ドラコスが黙り、一方納得いかない三人娘に俺は詰め寄られた。
「おいっ! この俺をぶっ倒すだと? おも知れーやってみろよ木偶の棒」
シロウはカウンタースキルだから、相手から攻撃を受けないと始まらないんで挑発しまくる。だから自分から決して攻撃しない見掛け倒しのチンピラみたいだな。
『……………』
「おいっ! どうせ見掛け倒しのカマセ野郎なんだろっ? ホラッ来いよっヤレよホラッ!」
「おおぉぉ……キスかむうううぅぅんんん………おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ〜〜〜ぉぉぉぉふんっ!!」
『!!』
唸り声をあげたドラコスの気から形成された第三の手がシロウを一撃で叩き潰した。
『………………』
シロウは大の字になって地面にめり込んで漫画みたいに沈んだ。カウンタースキルが緩衝材になってとりあえずミンチは避けて生きているみたいだな。
とは言えダメージがデカく再起不能みたいだな。
「にゃにゃっ♬ 勝ったにゃ♪」
上機嫌に笑った俺はドラコスのふくらはぎをポンポンと叩いた。(だってちびっ子だから手がそこまでしか届かないのよ)
「…………サタン様褒美は」
「にゃっ、それにゃらアイツらにゃ」
「『ちょっと!』」
俺が三人娘の顔を見ると皆ギクッとした表情を浮かべてドラコスから逃げ回った。
まぁ、とりあえずシロウに勝ったし、この先の地竜が居る部屋に向かうか……。




