サタンちゃまと冒険者覚醒儀式
白銀の聖女パラルの入場に沸いた会場が沈静化すると、タイミングを測って入場した司祭を見た生徒たちが皆沈黙した。
ムスッとした表情を浮かべる司祭はジロリと周囲を見回した。聖女さまと比べ自分の不人気差が気に入らないんだろ。
まぁ、司祭とは言っても中年のおっさんだからな。
「ギルド教会にようこそ。ワシは司祭のハルゲルドだ」
ハゲルドが祭壇の前に立ってひとこと言った。名前の頭の通り真ん中がハゲていた。的確な自己紹介だ。
「む……むうおほん!」
「『……』」
しかし生徒たちは無反応。それが気に食わなかったのか、ハゲルドはわざとらしく咳払いをした。
しかしハルゲルドって、名前の通り真ん中ツルツルのザビエルハゲの司祭だ。異世界ではハゲの意味が違うんだろうけどこの頭の一致で、生徒たちは笑いをこらえながら司祭の話しに耳を傾けた。
本当女神様の司祭と聞いて清楚な美女をイメージしたんだけど。現実は口髭生やした小太りおじさんで残念。神聖と言うより首から上は不精だな。
「早速じゃが、冒険者覚醒の儀式を始める」
俺の高校の校長の長いスピーチと違って、司祭は早々に冒険者覚醒儀式を始めてくれるのは助かった。
そして生徒たちは魔法陣の中に集められた。その様子をテレビ局のカメラが押さえる。
この様子は全国放送のニュースに流される。プライバシーの侵害だと文句を言う保護者がいるが、これはある状況証拠のために必要な処置だった。
冒険者覚醒儀式でたまに性別が変わってしまうからだ。生徒の外見や性別が変わってしまったら、実の親はどうするのだろうか?
証拠がなければ変わり果てた子を受け入れることはない。だから不測の事態を想定して映像で証拠を残す。
「女神様っどうか目の前の少年少女たちに女神のご加護をお与えください」
ハルゲルド司祭が唱えると魔法陣が青く光り俺たちを包んだ。
「わっ!」
「きゃっ!」
「なんだっ!」
クラスの皆んなが取り囲む光りの柱に驚いて叫んだ。光は数分で消えた。しばらく沈黙したあと会場が騒がしくなった。
「えっ!?」
「ちょっと委員長っその格好っ!」
委員長の中城さんとボーイッシュの桐川さんがお互い見合わせると、指差し合い驚いてる様子。俺も彼女の姿を見て驚いた。
委員長の姿はウチの高校のセーラー服姿だ。しかし、弓と矢を肩に担いでいた。
まさか矢兵?
一方桐川さんは両腕に鉄のグローブと額にハチマキを装備し制服の上に胴着を羽織っている姿だ。帯の色はもちろん黒帯だ。
ちょっとダサいけど武道家かな?
冒険者覚醒儀式ってのは性転換だけでなく、あるはずのない装備を出現させるんだな。
そうなると気になるのが高嶺さんだ。思った通り注目の的は彼女でマスコミが一斉にカメラを回していた。
「えっ……私……」
うしろを見るためスカートをひるがえし姿を確認する高嶺さん。
まぁ良かった。いつもの高嶺さんだ。もし、TSなんかしていたら、高嶺さんは女子なので男子になっていた。
本当そうならなくて良かったよ。
問題は高嶺さんの冒険者としての職業だ。彼女は日本刀を帯刀していた。異世界に侍がいるか知らないけど、職業は侍か?
でも、セーラー服姿の黒髪美少女に日本刀が似合うな。
さて、俺はどうなんだ?
憧れの女子の結果を優先してしまった。まぁ、俺の場合。大した職業じゃねーよな。
昔からそうだ。宝くじとか雑誌の懸賞とか期待して結局当たらないんだから、それに懲りた俺は過度な期待はしないことにした。
とりあえず身体の確認だ。
最初に手を見た。
「んっ……」
右手がやけに小さい。まるで紅葉のような幼児の丸っこい手だ。
次に胸を両手で触った。
バサッ
「えっ!」
フワッとした服の感触。おかしいな……確か俺は学生服着てるんで、ビタッとして決してフワッとしないはず。
だったらこの違和感はなんだ……
困惑した俺は不意に上を見あげた。
すると、親友の松川が呆然とした表情を浮かべて俺を見おろしていた。
見おろす?
松川と俺の身長はそんな変わらないぞ。
だったら俺がしゃがんでいるのか?
足元を見た。
「んっ!」
服装まで変化していた。
黒生地のワンピースのドレスを着ていた。青いネクタイと腰にベルトを絞め。スカート部は円すい形の優雅なデザインだ。
靴が気になったので下を向いたがスカートが邪魔して足が見えなかった。だから片足をあげ確認した。一応可愛らしい子供用ブーツを履いてるようだ。
『いや待てよ……』頭が混乱した。
だってスカートを履いているってことは女か? 逆に男だったら変態で嫌だなぁ……。
だったら女か……出来れば美少女がいいな。俺は手を見て確認した。
『モミジの葉っぱのような手だ』いや待てそう。俺の手はやけに小さかった。まるで幼児の丸っこい手だった。
つまり俺は……いやいやこれは夢かも知れない。首をぶんぶん横に振った。
ほぼ確定だろうが、結論を出すのは怖い。
「おっ……」
不意に松川と目が合った。
「に、にゃあ、松川っ……ア、アタチの身体に変化はにゃいか?」
『あ、あれっ?』声が幼いし、なんで幼女言葉で喋ってんだ……しかも口調が変だぞ。
まさか……俺は幼女に性転換したのか……いやいやまさか……。
「おっお前まさか、か、神崎か?」
驚愕した表情の松川が震える右手で俺に指差し聞いた。
そうだ。コイツに聞いてみよう。
「そうだ……あにゃっ?」
「そうか……お前幼女にTSしたのかぁ……う〜む」
「……TSいうにゃっ!」
なにやら真剣に考えて専門用語を口にする松川。言っとくがTSと一般人に言っても通用しないぞ。松川の口から幼女とかTSとかまさかのワードが出てきた。
まぁそんなワードを口にする松川がやばいのだがとは言え、いよいよもって不安になってきた。
「しっかしお前っ目がクリクリして可愛いなっ」
「なんにゃっ!?」
『お前はロリコンかっ!?』食い気味に顔を覗き込む松川に恐怖した俺は後ずさりした。
しかし、なんで俺さっきからにゃあーにゃー言ってんだ。標準語を喋っているつもりが何故幼女言葉でしか喋れないと気づいた。
しかも、アザといにゃーにゃー口調だ。いや、狙ってねーからな。
小さな両手で頬をペタペタ触って確認した。ふっくらもちもちした皮膚の感触が手に伝わってきた。
ちょっと待て……俺って本当にマジで幼女に性転換したのか? 意味が分からない。ショックで頭の血が引きクラクラしてきた。
間違いない。俺は幼女に性転換した。
じゃあこの幼女姿の冒険者適正職業とはなんなんだよっ!
可愛らしいからいいだろうって?
冗談じゃない。ロリコンじゃない俺は幼女になっても不便だけで全然嬉しくねーよ。
どうせ性転換するなら、もうちょっと成長した美少女になりたかった。