サタンちゃまと謎の覆面ハンター
「もう一度聞く。お前は魔王軍の者か?」
忍者のような覆面ハンターが、右腕に装着した射出型鉄杭を俺の額に向けた。こんなゴツい杭に刺されたら即死だよ。
それと俺は覆面男に恨まれる覚えがなかった。だから困惑気味の俺は首を横に振った。
「ん…………見苦しい嘘か……そんなに生きたいのか魔族っ?」
「ち、ちがうにゃんっ!アタチは悪魔王サタンちゃまにゃっ!」
一応真剣に訴えた。いかせん声が猫口調に変換されるから、相手にはふざけて聞こえるに違いない。
だから黙っている方がまだ良かった気もするが……。
「悪魔王サタンだと……確か三百年前の天使と悪魔の伝説聞いたことがある……」
なにか思うことがあったのか、覆面ハンターは杭を下に降ろした。
今がチャンスだ。ヒザを突いていた俺は立ちあがろうとした。
ガチャッ!
「動くなっ!」
「にゃっ!」
覆面ハンターが素早く鉄杭の先を俺の顔に向けた。やっぱり逃げられないか。
カチリと引き金の音が聞こえ、観念した俺は目をギュッと瞑ったその瞬間。
ズドンッ!
「にゃっ!」
俺に向かって鉄杭が放たれた。
それは一瞬で獲物を仕留める威力。だからこうして実況出来るハズがない。つまり外した。いや、覆面ハンターが狙ったのは俺じゃないのか?
「にゃっ…………」
ゆっくりと首を後ろに回すとそこに、巨大なフロッグドラゴンの顔が大口を開けていた。
その額に鉄杭が撃ち込まれていた。
「ゲ……………ゴッ」
ズズズンンーーン!
頭から崩れ落ち全身を痙攣させ動かなくなった巨大フロッグドラゴン。
急所の一突きで仕留めるとは凄い腕前だ。
俺がホッとしていると覆面ハンターがドラゴンから杭を引き抜いた。
そして振り向き、セットし直した鉄杭を俺に向けた。
「にゃっ!」
思わず両手をあげる俺。
疑いはまだ晴れてはいなかった。
「お前が魔王軍の手先でない。証拠はどこにある?」
「にゃっ!しょっ証拠にゃっ……」
俺は白だ。だけどそれを今すぐ証明する証拠がないので頭がパニックた。
「どうした……証拠がないなら……」
覆面ハンターが鉄杭に手を掛けた。
どうしてこうなる。彼には二度助けられ、今度は命を狙われている状況だ。
額に角が生えてるだけで魔王軍と決めつけられ、殺されるなんて理不尽だ。
だから俺はまだ死ねない。小さな身体を奮い立たせ覆面ハンターを睨んだ。
「ふっ、強い意志の目だな。しかし……」
ジャキッ!
覆面ハンターが鉄杭の装填レバーを引いて俺に杭先を向けた。
やっぱり許されてない。もう終わりだ。
「待ちなさい」
「んっ……」
うしろから聖女さまが覆面ハンターに声を掛けた。そうだ。俺には仲間がいたんだ。
この時ばかりは聖女さまが救いの神に見えた。
「白銀の聖女パラルがまさかこの娘をかばうつもりか?」
覆面ハンターの問いに聖女さまは首縦に振った。
「この子は大切な仲間。貴方にやられるのを黙って見ている訳にはいかないの」
「なるほど……聖女とあろう者が魔王の手先をかばうとは随分落ちたものだ……」
心底聖女さまに幻滅したのか、覆面ハンターは肩をすくめた。
「魔王軍の手先……貴方勘違いしてるようね。この子が白な証拠を見せてあげるわよ」
「なにっ!」
聖女さまは通信ディバイスを作動させ空間からスクリーンモニターを展開させた。
スクリーンモニターから俺がこの姿に性転換した映像が流れた。チョイ恥ずかしいな。
「なるほど……悪魔族か……」
証拠映像を見終わった覆面ハンターは一応納得したのか、鉄杭の安全装置をロックしてから腕を降ろした。
覆面ハンターが岩の上で腰を降ろすと鋭い目で聖女さまを見つめた。
「証拠と言うが、それが本物と証明出来るのか?」
「……ずいぶんと疑り深いのですねぇ、えっと……谷川シェフさん」
「!」
聖女さまに正体を指摘され、当たっていたのか覆面ハンターの目が見開いた。
俺も怪しいとは思っていたけど、証拠は無いから確信するまでは聞けなかった。それを聖女さまは本人に直接言ったから驚いた。
「フッ流石白銀の聖女様だ。俺の正体を見抜くとはな……」
覆面ハンターが自嘲気味に笑うと被っていたコック帽を脱ぎ捨てた。そして布製の覆面に手を掛け剥いだ。
「ここまで来て隠してもしょうがねえよなぁ……」
やっぱり正体は谷川シェフだった。
彼は鉄杭を外し脇に置いた。戦う意志はないと自己表示してから、懐から取り出したタバコに火をつけた。
あの〜子供の前で吸います谷川さん?
「じゃあさ、とりあえずコイツは俺の物でいいよな?」
谷川シェフは背後に横たわる大型フロッグドラゴンを親指で差した。
「確かに貴方が仕留めたのだから、所有権を主張するのは理解します」
「へぇっ話しが分かるじゃねえか聖女様よ」
谷川シェフが煙りを吐きながら答えた。一方聖女さまは顔一つ変えず微笑みを浮かべていた。
ありゃ〜聖女さま内心怒ってるわ。
「その代わり何故貴方はブルースフィア(異世界大陸)を目指すのですか?」
「なにっ!」
谷川シェフのタバコを吸う手が止まった。流石聖女さま。中々聞けないことをズバズバ質問する。
「何故って……くっくっ……魔王軍に対する復讐に決まってんだろう。野暮なこと聞くんじゃねえよ聖女さんよぉ……」
「…………軽率でした谷川シェフ」
聖女さまは谷川シェフにお辞儀して謝罪した。すると彼は手を横に振って『気にしてねえよ』と言った。
「さて、少し聞いてくれるか俺の過去を……」
谷川シェフはタバコの火を足でもみ消し、憂いを帯びた目で空を見あげた。




