サタンちゃまとゾンビの群れ
迫り来るゾンビの群れの前で、カプセル自販機のハンドルを握る真剣な顔の幼女と聖女とその仲間というシュールな光景。
とは言っても生きるか死ぬかに掛かっている大事な場面だ。俺はハンドルを握る右手が震えた。
「アンタ絶対レアキャラ引きなさいよ!」
「にゃっ!」
絶対とか言うなっメリー。大体ガチャがなんだか知らないで俺を煽っているだろう?
とにかく黙っていて欲しいな。
「なゃいっ!」
ガチャッガチャガチャッ!
気合いを入れてハンドルを回した。勢い良く取り出し口から出て来たのは銅色のカプセルだった。
ハズレだ。俺は落胆して肩の力が抜けた。
「えっ今のはどうなのっまさかレア?」
イマイチ分かってないメリーがはしゃいでるでる。
「にゃあ…………」
だからハズレとは言いづらいじゃないか。
それでカプセルが光ってパカッと開くと中からレッドデビル二匹が出て来た。
同じカプセルに二体入っているのは初めて。なんか得した気分だけど低レアなんだよね。
レッドデビルのビジュアルはこの前当てた松尾とほぼ同じ。赤い皮膚にムキムキの身体にパンツ一丁とちょっと笑ってしまうスタイルだ。
松尾との違いは今回の二匹は皆スキンヘッドだ。やはり彼だけが特殊みたい。
「キャハッ!ちょーウケる。なんでパンツ一丁なのっ!?」
ギャルみたいなリアクションでメリーがレッドデビルに指差し、腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
すると黙っていたレッドデビルがギロリとメリーを睨んだ。
「なに笑ってんだお前殺すゾ」
「ああっ? 文句あんのかアマッ!」
「ひっ!」
レッドデビル二匹に激怒されたメリーが恐怖し、へっぴり越しで逃げて聖女さまのうしろに身を隠した。
これはあとで注意しないといけないな。悪魔たちが言うこと聞くのは、このサタンだけだと。
二回目を回す前にレアリティチェックしよう。俺はレッドデビル二匹のステータスウインドウを表示させた。
【レアリティ星1 レッドデビル剣タイプレベル1 】
やっぱりレアリティ一番低いな。しかし剣タイプって確かに召喚した二体の右手には剣が握られていた。ということは、武器違いがいくつかあるってことだな。
それじゃあもう一回ガチャ回してみよう。今度こそレアが当たるように願ってから回した。
奇跡よ起きろっ!
ガチャガチャッポンッ!
「にゃっ!」
奇跡なんか起きなかった。
目の前に銅カプセルが虚しく転がっていく。
「ちょっとーーっまた低レア引いたの?」
「にゃっ!」
「にゃあじゃないわよ。ここぞという時に使えないガキね」
悪魔にビビってた癖して気を取り直したメリーが、俺を責めた。
なんていうお調子者。聖女チームに入ってプラスになるかと思いきや、返ってマイナスだよ。
お願いだから勇者チームに帰って欲しい。
聖女さまが俺をフォローするように話し掛けた。
「仕方ないわね。とりあえずまたレッドデビルが出ないことを祈りたいわね」
『…………』
『ちょっ!』聖女さまうしろ。悲しい目のレッドデビル二匹が彼女の背中を見つめていた。
悪魔にも感情があるから口には気おつけなきゃね。
パカッ!
カプセルが開いた。引き当てたのは『あっ!』またレッドデビル星1 棍棒タイプだ。
コイツらも二体セットだ。お得感があるが低レアだから戦力は期待しちゃいけない。まぁ、なにかあった場合一度引き当てた松尾を出すしかないか……。
四体揃ったところで彼らが横に整列してひざまづいた。
『サタン様っ久しゅうございます』
「にゃっにゃゃあ……ごくろうにゃっ」
なんか口調のせいで威厳ある台詞が出ない。とにかく厳つい悪魔に慕われるのは慣れないな。
「ちょっと王様ごっこしてる場合じゃないわ。来るわよゾンビッ!」
ガチャに気を取られていた俺たちは、メリーが叫ぶまでゾンビを忘れていた。
しかしちょっと遅かった。俺たちはゾンビの群に囲まれていた。
「ふっ焦らないの。このあたくしに掛かればゾンビなどっ、命を司る女神様……どうかあたくしに聖なる力をっソウルウェイブッ!」
ロッドを構え目を瞑り詠唱した聖女さまがソウルウェイブ(回復魔法の広範囲版)をゾンビの群に放った。
すでに死んでいるゾンビにとって生のエネルギーは猛毒。ウェイブを受けた個体が次々に消滅した。
「流石が白銀の聖女様凄い!こりゃぁあたしもヤル気見せないとねっ!」
そう言ってメリーが駆け出し一体のゾンビに剣で斜め斬りして倒した。そして次々とゾンビを斬り倒していく。
こうしちゃいられない。俺もレッドデビルに指示を送ろう。
「お前たちっゾンビ共をひとりにょこらずヤルにゃっ!」
俺はレッドデビルの前で指差し意気揚々と命令した。
「承知しましたサタン様。では危ないのでおさがりください」
「にゃっ!」
うしろにもゾンビが迫っているのだが……。
「オラァッ!」
レベル1とは言っても魔物のレベル1とは次元が違うらしく、レッドデビルたちはゾンビを次々と薙ぎ倒していった。
「あらかた片付いたみたいね」
一仕事したメリーが額の汗を手の甲で拭った。
とりあえず被害を出さずにゾンビ共を倒した。
「そうね。それでは奥に行きましょう」
「えっ!聖女様っ本気?」
「あら、この廃墟群のどこかにゾンビを生み出すボス級魔物が潜んでいるハズよ」
「ちょっと〜〜マジかよ〜〜」
コレで終わりだと思ってたのか、ボス退治があると知ったメリーが肩を落とし、ため息混じりに言った。
「とにかく奥の方に邪悪な魔力を感じるから行きましょう」
そう言って聖女さまが歩き出した。俺たちは顔を見合わせ仕方なくあとを追った。
歩いている途中ゾンビに出くわしたが単独なら大したことない。レッドデビルが棍棒でぶん殴るとゾンビの頭が粉々に砕け死んだ。
『う〜ん』すでに死んでいるのにこの表現は自分でも納得出来ないが、死んだとしか表現出来ないから良しとしよう。
「止まって」
広い場所に足を踏み入れた時に聖女さまが手で行く手を制した。
目の前には一本の樹齢数百年クラスの大木が生えていた。
「妙な木ね……普通樹木には精霊が宿り命のエネルギーで満ち溢れているのにコレは……」
聖女さまは口に手を当て訝しげに大木を凝視していた。
確かにこの大木には葉っぱが一枚も生えていない。しかし生きている。ただ暗いエネルギーを発しているのを肌で感じた。
「サタン様アレはちいとヤバいでっせ……」
レッドデビルが俺に話し掛けると守るように盾になって剣を構えた。
すると大地が震え大木が地中に張った無数の根っこが動いた。
ジュルジュルジュルッズボッズボッ!
次々と根っこの先からゾンビが飛び出した。
「分かったわ。ゾンビを生み出すボスの正体をっ!」
聖女さまが確信めいた声でロッドを大木に向かって向けた。
「なによ聖女様っ!」
「アレは地中に眠る死者の魂を根っこに宿らせゾンビとして生み出すゾンビプランツよっ!」




