サタンちゃまと幻の草2
作品タイトル変更しました
「スベリヒユ? 変なにゃまえだにゃぁ……」
俺がスコップを背負った冒険者の男に言うと、彼はしゃがんで目を合わせ笑った。
「フッ、コイツは草の名前だよ」
「にゃにっ!?」
「いやまぁ、本名は別にあって……スベリヒユつう食べられる日本の雑草に敬意を表して使わせてもらってる訳さ」
「にゃっ……」
しかし、どこかで聞いたことのある名だと思ったら雑草マニアでは有名な食える雑草スベリヒユのことだったんだな。
スベリヒユと言えば、東北地方の山形県で『ヒョウ』と呼ばれ、普通に食べる風習があると聞いた。まぁ、結構知る人ぞ知る草だ。
しかし、義名にその雑草名を使うとは変なおっさんだ。
「おいっ雑草野郎っ!どうでもいいけど腹が減った。なにか食わしてくれるなら早く用意しろ!」
『にゃっ!』ヤドカリ部長がスベリヒユに飯を催促した。
確かに草野郎だが、それにしても早速口が悪い。
「ああっ、ちょっと待ってなお嬢さん」
侮辱されてもキレることなく草男はリュックをおろし、調理器具と食材を取り出し。調理を始めた。
「まずは飯盒に米を炊いて、その間に食材の下ごしらえだ」
草男は飯盒を火に掛け、根っ子と草をペットボトルに入った水で洗い包丁で切り始めた。
「おいっ!サタン様に雑草と根っ子なんか食わす気か?」
草男が取り扱う食材を見てヤドカリ部長がキレた。
まぁ、雑草食わされると分かったら流石に怒るよな。
一時は飯にありつけると喜んだが、こりゃ期待ハズレか……。
「単なる雑草じゃねーよ。たくぅ、ゴボウも知らんのかよ異世界人が……それとコイツが名前に使わせてもらっている食える雑草のスベリヒユだ」
草男が草の束を握って俺たちに見せた。
茎が少し太くて葉が多肉質の雑草だ。食えると言われればあまり雑草感がないので、うなずける見た目だ。
「騙されたと思って食ってみろよスベリヒユ」
そう言って草男がスベリヒユを包丁で均等に切っていく。しかし、本気で俺たちに草料理を振る舞うつもりだな。
それにしてもスベリヒユは異世界に自生してないと思うけど、ヤケに新鮮なのが気になる。
そう、まるで採りたてのようだ。ちょっと気になるから本人に聞いてみよう。
「その草ずいぶん新鮮だにゃあ?」
「ああこれはなぁ……」
「にゃっ……」
出たよ。草男が得意げに解説始めた。
「俺が異世界大陸中に種をばら撒き、自生させてから収穫した新鮮なスベリヒユだからだ……」
「にゃっ!?」
サラッと白状したけど要は、異世界大陸に外来種をばら撒く迷惑行為じゃないか?
しかも繁殖力旺盛な雑草って、とんだ迷惑男だな。
「おっちゃんっ外来種ばら撒きして大丈夫かにゃ……?」
「誰がおっちゃんだちびっ子!今年で40だが……心は純粋な少年なんだ……」
「にゃっ!」
このおっさんヤバい奴だ。
まぁ、面白いから離れて見る分には構わない。とは言え仲間にするのは結構です。
「ところでオマエにゃ草に詳しいにゃ?」
「チッ!オマエ言うなっガキが……」
『あっ!』感じ悪い。俺が子供だと思って悪態をついた草男だ。しかし、横にヤドカリ部長がいるのに殺されても知らねーぞ。
ガチャッ!
「おいっ!サタン様になんて無礼な口の聞き方っ死にたいのかっ雑草野郎がっ!」
「ひいっ!なっ、なんだお前っ!」
ホラ言わんこっちゃない。立ちあがったヤドカリ部長が槍で脅すと、草男は腰を抜かして怯えた。
「まぁ、待つにゃパギュール。人間ごときにキレたら悪魔の品格が落ちるだけにゃ」
「ハッ!おっしゃる通りですな。流石サタン様です」
俺がなだめるとヤドカリ部長は槍を脇に置いて座った。
「ふうっ〜なんなんだよチクショウ……」
草男はぶつぶつ文句を小声で言いながらスベリヒユをフライパンで炒めていた。
マジで草食わせる気か……。
「ほらっ出来たぞ」
『……』
炊き立ての白ごはんに、スベリヒユとゴボウの炒め物と質素な夕食だ。
しかも雑草が食材って、ちょっと抵抗があるなぁ……。
「どうした? うめーから食べてみろよ」
「にゃっ……」
草男が俺たちにナチュラルに草料理を薦めてくる。それが悪意が無さそうなんで厄介だ。
せっかく料理を作ってくれたんで断り辛いのだ。
「んなもん食えるかっ……んっ!」
啖呵を切ったヤドカリ部長だったが、スベリヒユ炒めから漂う香ばしい香りに誘われ思わず嗅いだ。
「ぬう……ざ、雑草とは言っても……腹が減っては戦は出来ねーしな……こ、コイツは背に腹はかえられぬか……サ、サタン様っ」
「にゃんにゃパギュール?」
「お、俺が毒味するんで、美味かったら食べましょう」
「にゃっ……」
美味かったらってそれは毒味じゃなくて、味見だろ……。
「とりあえず一口……しかし、抵抗あんな……もぐっ……」
しきりに首をひねりながらヤドカリ部長はスベリヒユ炒めを口にした。
作った本人に失礼な態度だけど、初雑草なら仕方ない。
「うむっ!」
口にしたヤドカリ部長の目が見開いた。
不味いか美味いかどっちだ?
「サタン様……ふ、不覚にもイケます……」
「にゃっ!」
その割には意気消沈したヤドカリ部長がそっと俺にスベリヒユ炒めを差し出した。
『にゃっ!』薦めんなっ!俺は白ごはんだけで結構なんだ。
とりあえず食べたよ。
確かに味は悪くない。むしろ美味かったんで完食した。
「どうだ。スベリヒユは美味いだろ?」
「にゃっ……」
ドヤ顔で聞いてくんな!
「ところで……なにか用があって……料理を振る舞ったのじゃないのら?」
「んっ、ないのら?」
エイトさんが癖のある語尾で話すから、草男が困惑してるじゃないか……。
しっかし、天使が抵抗なく草食うなよ。
「ああ、実はな……お前たち冒険者に頼みがあって接触したんだ……」
やっぱりそうか。
いかにも怪しいおっさんが善意だけで、見ず知らずの冒険者に声を掛けて来るとは思えなかったからな。
「ここから西に行った場所に森があって、そこにしか生えない幻の薬草がどうして必要なんだ……」
なんか訳ありに話し始めたぞ。
すると、ヤドカリ部長がギロリと草男を睨んだ。
「おいっ!幻の薬草がどうしたと言うんだ?」
「ひっ!そ、そんな怖い顔で睨まんでくれよ……じ、実はな……俺には難病を抱えたお袋が日本にいてよ……それが例の幻の薬草が難病に効くと聞いて異世界大陸までやって来たと言う訳さ」
「だったら森に行って草摘んで来れば良くないか?」
「そっ、それが出来れば苦労はないさ。なにせその森は魔の森と呼ばれていて、強力な魔物がワンサカいる危険な場所なんだ……」
だから俺たちに接触したのか……しかし、その身の上話は本当か?
「頼むっ!」
「にゃっ!?」
草男が急に俺たちを前に土下座した。
『ジャパニーズ泣き落としスタイル』
「俺一人ではとても魔の森に入ることが出来ませんっ!だからお願い。一緒に薬草探しに付き合ってくれませんかっ!?」
「にゃっ、そんにゃこと言われてもにゃ……聖女さまと待ち合わせもあるしにゃ……」
「そこをなんとかお願いしますよぉぉっ……薬草があれば難病に苦しむお袋を助けられるのですっ、お願いじますよぉぉっ……」
「にゃっ!」
涙と鼻水で顔をくちゃくちゃにした草男が俺の肩を掴んで懇願した。
しかし本当に泣き落としで頼んでくるとはな……ちょっと引いたぞ。
『必死なのは分かるが、とりあえず鼻水拭いた手で触んなっ!』
『う〜む……演技にしては必死過ぎる』マジなのか、この男の言ってることは……。
しかしがない。あと一日位場所移動しても待ち合わせに間に合うか……。
「分かったにゃっ」
「えっ……よろしいのでっ?」
「にゃっ!」
まぁ、どうせ一日やることないから別にいいか。