サタンちゃまと不死身の姫君16
俺に使えし悪魔七将軍の一人ヤドカリの最大の能力は、他人の身体を乗っ取る。
今し方不死身の姫君の身体を乗っ取りに成功して完全体となった。
これで聖女さまに命じられた任務成功かな?
ともかく歓喜した俺はパギュールの元に駆け寄った。
「パギュールッ良くやったにゃっ!」
するとパギュールは手で制して俺の足を止めた。
「にゃんでっ!?」
「ちょっと待ってくだせえサタン様。まだ戦いは終わってませんぜ……」
不死姫姿のパギュールが後ろを振り向いた。
そこにはアヤネが天井に吊るされ、その真下に自ら設置した金属のトゲに串刺しにされあお向けになった指揮者の姿が見えた。
流石に死んだのか?
いや、そんなことはない。
目を瞑っていたコンダクターがカッと見開いたと思うと、トゲを引っこ抜き跳躍して脱出した。
「ふうっ〜まさか己が用意した罠に引っ掛かるとは実に不快。そして……君たちも実に不快だ」
背筋をピンと伸ばしながらコンダクターは、巻きヒゲをいじりながら言った。
それより大怪我しといて、平然としてるのが気になった。
「そう、これは戦線布告だ。だがそれは水に流そう」
「にゃにっ?」
「はっはっ、この程度の傷は半日待てば塞がる。だから気にするでない。それより……」
「にゃっ!」
コンダクターが俺に握手を求めてきた。
「にゃんの意味にゃっ?」
「ふぁっは、なんの意味っ分かるだろ? 我が魔王軍と同盟を組まないかと提案しているのだよ」
「にゃにぃ……」
「ふっはっはっ♬ 君の事情は知っている。今白銀の聖女と離れているのだろう? だから今が離れるチャンスだとは思わないのか?」
「確かににゃっ……」
俺の首にハメられたこの絶対服従の首輪は、聖女さまと離れることによって機能が無効になっている。
だから壊して首から引き剥がすことも可能だし、聖女さまから逃げることも可能だ。
しかし、聖女さまは俺を信頼して別行動を命じた。それを裏切れと言うのかコンダクターは?
それだけじゃない。
これまで旅で共にしたメリーや谷川シェフ他仲間を裏切ることになるではないか。
だから、たった今関わったコンダクターの誘いと、冒険して絆を深めた仲間の重み。
どちらが重いかは明白だ。
ただ一つ。答えを出す前にコンダクターに聞いておこう。
「一ついいかにゃ?」
「ほう〜っ興味を示したか……良かろう。聞きたまえ」
魔王でもない癖に上から目線なのが気に食わない。それが一々気に触るな。
とは言え、引導を渡す前に質問が先だ。
「もし魔王が世界を支配したとして、人間はどうにゃるにゃ?」
「人間……もちろん魔王国建国のために奴隷にして働かせますよ」
「そうかにゃっ……」
魔王の考えは自分とは全く違うことが分かった。俺は人間とは仲良くしたいと思っている。
それは交流する楽しさを冒険で知ったからだ。で、魔王は人間を奴隷にする考えのようだが、一方的に従わせる関係など、どこが楽しいのか疑問だ。
だから俺は魔王の考えには相容れない。
「同盟にゃ断るにゃっ!」
「なにっ……愚かなっ……」
「何度でも言うにゃっ!アタチは魔王とは組まぬにゃっ!」
「そうですか……ならばよろしいでしょう。我が魔王軍に逆らったら命がないことを、後々知り後悔するでしょうな……ではさらば」
手を腰に回し背筋を伸ばしたコンダクターが忽然と消えた。いわゆるコレは転移魔法か?
『ううむ』相手も未知なる能力を隠し持っていると言う訳か、ならより一層警戒だな。
それにしても、漸く再会した将軍の一人パギュールに俺は駆け寄った。
「パギュール良くやったにゃっ!」
「おおっ!サタン様っこちらこそお久しぶりでございます」
「にゃっ♬ 事情は分かってるにゃ?」
「ええもちろん。これまで待機中に復活なされましたサタン様のご活躍を見ていましたから」
だから彼なりの作戦で姫さまに喰われるために、ヤドカリの姿で現れたんだな。
とは言え、全然違う姿で出て来たからビックリしたぞ。
「ヤドカリ部長っ!」
「パギュール様っ!」
黒鴉とロウランがパギュールに駆け寄った。しっかし、前者は上司だろうと、容赦ないあだ名つけるよな。
しかし俺もパギュールと呼ぶより短略化して、これからヤドカリ姫と心の中限定で呼ぼう。
あっ!字数は変わらないか……まぁ、ヤドカリ姫の方が愛嬌あるから別にいいな。
「おいコラッ!誰がヤドカリ部長だっ!?」
「え〜っ駄目ですかぁ、部長……」
「部長じゃねーし……でもいいぜ」
「本当にっ? わあっ嬉しいっ♬」
歓喜した黒鴉がヤドカリ部長に抱きついた。
「おいっ!抱きつくなっコラッ!」
「え〜っだめ〜?」
「……む、だ、駄目とは言ってねぇよ……」
顔を真っ赤にした姫さま姿のヤドカリ部長。しかし、こうして見ると仲のいい百合友に見えるな。
「しかし、天使と共闘か……」
「!!」
振り返ったヤドカリ部長がエイトさんを見つめた。それで気弱な彼女は柱の陰に隠れた。
相わらず天使の癖に、か弱い小動物気質だな。
「まぁ今は地球の危機だからな仕方ねぇ、天使の手も借りんとやっていけねえよな」
「……」
エイトさんはまだ柱の陰で顔だけ出して様子をうかがっていた。
「別に喰わねえからっ!」
「!!」
ヤドカリ部長が怒鳴るからエイトさんがまた顔引っ込めた。やれやれ、二人仲介するにも骨が折れそうだ。
しばらくして別行動していたアルマーとミツヤとユウナと合流した。
「アヤネッ!」
「良かった無事でっ!」
「皆んなっ怖かったよぉ」
無事救出されたアヤネがミツヤとユウナと再会して抱きしめ合った。
一方俺はアルマーに気になることを聞くことにした。
「アルマーちょっといいかにゃ?」
『おおっなにかな友よ』
「んにゃ、一緒に地下に行ったフードの女はどうしたにゃ?」
ツインテールの天使を探していた謎のフードの女だ。
『ああ、途中まで地下を探索していたのだが、フロアをあらかた探すと探し人がいなかったらしく。さっさと城から出て行ったよ』
「そうか、ありがとう」
フードの女は恐らく天使騎士。なにか事情があって同族の女を必死に探しているのは分かった。
それで出て行ったならまぁいい。それに、いずれまた会えるだろうな。
さて、目的を果たしたら聖女チームとはここで合流する手はずだ。
だから三日位野宿かな……。