サタンちゃまと不死の姫君15
「いかにも雑魚な容姿のお前が悪魔軍の将軍だと言うのか?」
悪魔七将軍の一人ヤドカリに対し不死の姫君が見おろすように問うた。まぁ、お前もいかにも見下す言い方だな。
しかし、俺の知らない間に五将軍が七将軍に変更されたのが納得いかない。まぁ、戦力アップは嬉しいけどな。
それにしても、追加された二人の新将軍の性別、容姿、能力とかマジで知らないぞ。
それはガチャの楽しみと言うことか……。
「いかにもへへっ、人を見掛けで判断したら痛い目に遭うぜ」
それに対してパギュールはご機嫌にハサミをパチパチ鳴らした。うむ、侮辱されても言い返す今日メンタルは見習うべきだな。
しかし、本当に姫さま相手にヤドカリの姿で戦う気か……。
「パギュールっ久しぶり〜……って、ずいぶん見ない間に見掛けが変わりましたね。ケケッ♬」
早速黒鴉が飛んで来てパギュールをイジリ始めた。いやいや
確かにそうだけど、外見180度変わり過ぎるだろ……。
しかしコイツも強メンタルで、上司だろうと構わず舐めた態度で接するな。
「このやろ〜黒鴉よ。せめて本部長と呼べ」
「は〜いっ分かりましたヤドカリ部長っ〜」
「こっ、このっ!」
爪をパキパキさせてパギュールが黒鴉に突っ込んだはいいが、余計呼び名が悪化した。
「ヤドカリはないですよね〜って……名前の由来はその能力からくるものですよねぇ……だからってまんまヤドカリの見た目になってダメじゃないですか……」
ロウランの容赦ないダメ出し。
「まぁ、見てろ。俺の実力をな」
「……大丈夫でしょうか……」
「ギギッ♬」
困った顔で頬に手を当てたロウランの心配を他所に、パギュールは笑い姫さまに向き直った。
「ほ〜う……本気で妾と戦う気かヤドカリ?」
「ああ、俺が代表してお前と決闘し、勝利をおさめる」
「なるほど……その身体でも、よほど妾に勝つ自信があるのじゃな。ならばっ!」
冷めた目の姫さまだったが、そこまで言うのならとランサーを両手で構えた。
「この突きをかわせるかっ!?」
姫さまがパギュールに槍を突きつけた。
「おっと!」
ギンッ!
「ムウッ!」
背負った貝殻の中に身を隠したパギュールが攻撃を防いだ。
「なるほど、その貝殻がお前の鎧か……しかし、殻の中に閉じ篭もっていても妾には勝てぬぞっ!」
「確かにそうだなっ!」
バチンッ!
「ぬっ!」
殻をあげて顔を見せたパギュールがハサミで反撃。しかし姫さまは槍でガードして後ろにさがった。
「ギギッ!俺が守りに徹するだけだと思ったら間違いだぞっ!」
「らしいな……だがっ!今の気の抜けた攻撃はなんだっ? まるでその辺の魔物と変わらぬぞっ!」
確かにパギュールの攻撃はその辺の魔物と変わらない動作だった。中級悪魔ならまぁギリ許せるレベルだけど、将軍の一人がこの体たらくだと問題だぞ。
なにか考えがあってのことだと思いたいな……。
そして、姫さまが槍を構え再び急接近。
「その偉そうな口が本当か、今ハッキリさせてやる!」
姫さまが槍を持つ右手を引いた。
「ああっ、俺が上ってことをなっ」
「だったら妾の渾身の一撃受けてみよっ!」
「おっと!」
ズギンッ!
爪をパチパチ鳴らして偉そうに言い返したパギュールだったが、槍を放つスピードに対処し切れず殻に閉じ籠り攻撃を防いだ。
メキッ……。
「ギッ……」
いや違う。槍が殻を砕き中まで到達した。
「フンッ!所詮はカルシウムで出来た強度。砕けぬ訳がないっ!トドメだっフレイムランサーッ!」
「ギッ!!」
ランサーが真っ赤に発熱してパギュールを炎で炙った。
「ギ……ギギッ……ば、馬鹿な……」
ズンッ!
全身真っ赤に変色した蒸し焼き状態のパギュールが身を崩した。
ちょっと雑魚ねヤラれ方だから拍子抜け。まさか本当に終わりじゃないよな……。
「……どうした。これで終わりかヤドカリ?」
「……」
姫さまの問いに対して反応がない。
やはり死んだ?
「口だけとは呆れる者じゃ……しかし、妾と戦ったその勇気に讃えて貴様を」
そう言って姫さまはパギュールの左爪を掴んだ。
「食ってやるのじゃ!」
バキッ!
「……」
前足をもぎ取られても反応しないパギュールは本当に死んでしまったのか……。
『ちょっと待て!』せっかく苦労して引き当てた。初めての星6最高レアがあっけなく死ぬだと?
なぁ、これは作戦の一部で、死んだフリだと言ってくれよパギュール。
「口だけは達者じゃったが、実力は下級魔物程度じゃったな。これじゃと、他の将軍もたかが知れているな……ガリッ!」
なんと姫さまはマジでパギュールを食い始めた。
バリッバリッバリッむしゃっ……。
せめて殻は剥けて食べろよ。
「ふむ……図体がデカイだけあって、食いごたえはある。そこはモグ……褒めてやるぞ」
「……」
姫さまは、俺のグルメガチャスキルでたらふく食べたにも関わらず。さらに人間サイズのパギュールをほぼ完食した。
恐るべきは胃袋だけど、良く得体の知れないヤドカリ食えるな。
「部長が喰われたケケッ♬」
「あらあら〜中の蟹味噌まで食べられて……」
「ケケッ!それを言うならヤドカリミソだろっ?」
ヤケに楽しげに会話する黒鴉とロウラン。
あのな、一応上司が喰われたのだから少しは悲しめ。
「さて、妾がお主らの期待の将軍とやらを倒してしまったが、次は誰が闘う?」
「『……』」
あの不死身の身体と異常食欲を見せられて名乗りをあげる部下はいなかった。
それに、黒鴉とロウランはもう一度再戦を願ったけど、姫さまは一度敗退した者とは闘いたくないそうだ。
「……誰もこの妾と闘いたい勇気ある者はおらぬか……ならばっ皆殺しじゃ……ぐ……」
姫さまが俺たちに死刑宣告を告げたあとに歩き出したが、不意に足を止めた。
ガインッ!
「……身体がおかしい……」
姫さまの槍を持った右腕がだらりとさがり、全身が震え出した。
まさか悪い物食ったからか?
食当たりの原因は言わんでも分かるな……。
「ぐぬっ……足の先から上に向かって、妾の身体が痺れて言うこと効かぬっ……」
油汗を滲ませ引きつった表情の姫さまが焦り始めた。
「おいっ!どうした不死姫っ?」
隣で様子を見ていた魔王軍幹部コンダクターが心配して彼女の肩を揺すった。
「グッ!馬鹿なっ!ぬあっ!わ、妾の頭の中に声がっ!不快な笑い声が響いておるっ……」
「おいっ!本当に大丈夫かっしっかりしろっ!?」
『……』
しかし、優勢だったのに、姫さまはうなだれ完全沈黙した。
良く分からないが、攻めるなら今がチャンスだ。
「お前にゃっ今がチャンスにゃっ!」
「ケケッ♬ 確かにっ!」
「そうねっ、不死身のお姫様が眠っているスキにっ!」
「『おおーーっ!!』」
今がチャンスとばかりに俺たちは腕を振りあげ反撃の雄叫びをあげた。
「待ちたまえっ!」
するとコンダクターが俺たちを呼び止めた。
「ふふっ、忘れたか……君たちには人質がいることを」
含み笑いを浮かべたコンダクターが、自慢の巻きヒゲを手でイジリながら告げた。
そうだ。人質にされ天井に吊るされたアヤネの真下に、鉄トゲの先端が光らせていたんだ。
これでは反撃は出来ない。
「お前にゃス、ストップにゃ……」
「社長っ!」
「済まんにゃ黒鴉に皆んにゃっ……人質のアヤネはアタチの大切な友だちにゃのにゃ……」
「ケケッ♬ にゃーにゃー水臭いこと言わないでくださいよ社長。分かりやした。ケケッ♬ 」
黒鴉が剣を床に置いて胡座をかいて、ドンと座った。
すると他の部下たちも座り武装解除した。
「くく……よろしいでしょう。実に賢明な判断だ。しかし、それでは足りない。そう。そこのサタンちゃまっ!」
「にゃっ!」
俺はコンダクターに指差されビックリした。『いやぁ〜』注目されるのは苦手だな。
とは言え、コンダクターに手招きされたんで従って出向いた。
「にゃんにゃヒゲ?」
「こっ!このお子様がぁぁ……いや、おっほん!舐めた口聞いて、己の立場が分かっておらぬようですなぁ……」
「にゃっ!」
咳払いしたコンダクターがアヤネを指差した。
『ちくしょう』卑怯な奴だ。
「人質の命が惜しかったら、今すぐ自害せよ」
カランッ!
「にゃっ!」
コンダクターが懐からナイフを取り出し俺に向かって放り投げた。
自ら死ねと言うのか……仕方ない。とりあえず俺はナイフを拾った。
「社長っ早まんなっ!」
「そうよっサタン様っ!私が代わりに命を差し出しますわ」
黒騎士二人に止められた。
そうは言っても、あのヒゲ野郎が許すハズなく……。
「なにを勝手なことを言っておる。私はそこのサタンに自ら死ねと命令してるのだ」
「にゃにゃっ……」
終わりだ。
アヤネの命はもちろん大事だけど、俺は正直死にたくない。大体ナイフで首を掻っ切るなんて怖くて出来ない。
「んっ、どうした? 早く自ら死ね。でないと人質の命はないですぞ」
『急かすなっコンダクター!』しかし、まだ手はないのか……だ、駄目だっ時間がない。
俺はナイフを震える両手で持って首元に刃先を向けた。
『ちくしょう』ここまでか……。
「にゃっ、にゃあぁ〜っ!」
「クク……いいですねぇ〜っさっ、ザクッといってくださいよ。ザクッと……」
グサッ……。
顔を下に向けて沈黙していた姫さまが突然っ、手にした槍をコンダクターの胸元を貫いた。
「ガッ!なっ、なにをトチ狂いましたかっ不死の姫君っ!?」
「なにって、死ねよ。ヒゲ野郎っおらっ!」
「ぐおっ!」
ニヤリと笑みを浮かべた姫さまがコンダクターを持ちあげ、そのまま投げ飛ばした。
そしてその先には鉄トゲが待ち構えていた。
「ぐはあぁっ!?」
まんまと鉄トゲの下に落下したコンダクターが串刺しにされた。
しかし急に俺たちの味方した姫さまは、一体どうなっている?
それに口調が悪くなっているし……。
「まさかにゃっ!」
「クク……サタン様っその通りですよ。このポンコツ姫がまんまと俺を食ってくれたおかげで体内に侵入することが成功。そのまま神経に取り憑き。心も体も乗っ取ることに成功したぜ!」
「にゃっ!おにゃえっ中身パギュールかっ!?」
「へへっ、取り憑くなら美女に限るぜ」
確かに汚い口調はパギュールそのものだ。
なるほど姫さまの身体乗っ取りに成功したんだ。
しかし、パギュールの乗っ取り方法が良く知らなかったけど。自ら喰われることで神経伝達細胞に取り憑き、支配するんだな。
なんだか分からん内に俺たちの勝利か?