サタンちゃまとたこ焼き屋の天使
目的も済んだんで聖女さまの元に戻った。すると彼女はエカカーの中のソファーに座りくつろいでいた。
「聖女さまっ言われた通りちびっ子勇者を煽って来たにゃ」
「そう、ご苦労様。あとはお祭り当日までゆっくりしてね」
「……にゃんでにゃ……」
「あらっ、いつも嫌々戦っていた貴女が珍しくヤル気なのね……」
「にゃっ……」
俺の額に手を当てるな。
別に熱なんかないよ。
「違うにゃっあれだけちびっ子勇者を煽らせ、ガチャ禁止の魔力温存させておいてにゃのに祭りのメンバーにアタチを入れにゃいんにゃ?」
「にゃーにゃーうるさいわねぇ、特に意味はないわよ」
「……」
あくまで当日まで秘密を貫き通す気か聖女さま。まぁなんとなくちびっ子勇者関連の企みを感じるからよほど黙っておきたい意図を感じるな。
それに作戦全てを俺に言った場合。俺がうっかりちびっ子勇者に言ってしまうことを危惧して黙っているんだろう。
仕方ない。お祭り当日までのんびりしとこ。
□ □ □
祭り前日の夕食は城下町の定食屋だ。
参加メンバーはアルマーとワン☆ころ以外だ。気難しい俺のペットがブツブツ言ってたが、流石にメカとペットは入店NGなんだ。
で、北アメリカ合衆国CIAエージェントのダシキとロメヤも食事に参加した。
恐らくとっておきの情報でも用意したのかな?
テーブルに豪華な海鮮料理が並んだ。しかしヤケに蟹やら海老やら甲殻類の塩茹でが大皿に盛られていた。
エビカニ好きだけど、ちょっと見慣れないのも混じってんな……。
それをメリーが掴んで見せた。死んでるとはいえ、お前触っても平気か?
「ここの領地内にある海水が混じった湖で良く捕れるレッドクラブにトゲシュリンプよ」
いわゆる汽水湖ってヤツだな。
で、問題はお前が握っている普段口にしない甲殻類だ。
「でっ、特に美味しくて名物なのがこのシェルクラブよ」
異世界ではまんまなネーミングだな。
で、これは大きなヤドカリで日本の一部地域でも食される甲殻類。味は蟹に近くて美味らしい。
「美味しいわよっ食べてみて」
そんなこと勧められても見た目がちょっとな……しかも俺の悪魔五将軍の一人。ヤドカリを思い出してな……。
俺のために戦い散って行った奴を想うと流石にヤドカリは食えないな。
「ところでここから、ロストプロスパーまでの距離は分かりますか?」
聖女さまが唐突にダシキに聞いた。
何故今そんなことを聞くのだろうと皆不思議そうに聖女さまを見つめた。
なんだか嫌な予感がするな……。
「不死の姫君が治める亡国のことか……オーケー。ビックソウルからロストプロスパーまでの距離はざっと1400kmだ。分かり易く言うと、北海道から博多までの距離だ」
「……」
「意味が分からないわ……」
ダシキの説明を聞いた聖女さまとメリーは困惑気味に顔を見合わせた。ちょっと異世界人にはサッパリ分からない例えだったな。
しかし何故、聖女さまはロストプロスパーまでの距離を聞いたのだろうか?
益々嫌な予感がするなぁ……。
「今からエアカーで向かうとしましたら、到着時間は?」
「妙なことを聞く。安全運転でざっと2時間半だな……」
「戦闘機なら到着時間を短縮出来ますか?」
『にゃっ!?』ちょー嫌な質問する。聞いてる俺は何故か身体が震えだした。
「それはマッハ20で飛ぶ戦闘機なら尚更短縮可能だ」
「マッハ?」
マッハと聞いてメリーが首を捻った。まぁ彼女は知らなくていい知識だな。
マッハ20とかトンデモないGが掛かるよ。
「まさかっ!?」
嫌な予感がした俺は思わず立ちあがった。
「なにやってんのよちびっ子。行儀悪いわね〜座りなさいよ」
「にゃっ……」
メリーに注意されて座った。しかし身体が震えてコレ以上食べ物が喉に通らなかった。
ああ、もう分かっちゃった。聖女さまが俺を祭り参加メンバーから外した意図が……。
こりゃ祭り以上に過酷な任務を命じられるに違いない。
『今の内に逃げようかな……』
□ □ □
お祭り当日の朝が来てしまった。
昨夜は要らぬ心配を抱えて一睡も出来なかった。それはちょっと不味いぞ。下手すると乗り物酔いする可能性が……。
これは非常に不味い。眠くてフラフラする。
かくなる上は……。
「ちょっといいかにゃ?」
外に出た俺は久しぶりにたこ焼き屋に声を掛けた。すると気弱な店主がピクリと肩を震わせた。そんなに幼女にビビるなよ。
しかし、まず悪魔の俺が天使に声を掛けるなんて滅多にないからな。言ってしまえば犬猿の仲だ。
しかし、今の俺はワラをも掴む気持ちで八っちゃんさんことエイト。いや、エイトさんに話し掛けたんだ。
「悪魔王っ!!」
「にゃっ!」
案の定エイトさんが俺に怯え距離を置いた。本当セブンさんと同じ太陽天使騎士なのに臆病だな。
だからなにもしないよ。
「……エ、エイトになにか用なのら?」
「ちょっとジャッジメントアックスでアタチを斬って欲しいにゃっ」
「ちょっと正気なのらぁ!?」
馬鹿っぽい口調のアンタに言われたくないよ。
「にゃっ正気だにゃっ」
「狂ってるら……」
「もうっ!聖なるアックスなら疲れた身体を回復出来るにゃろ?」
「……それは確かに出来るら……でも悪魔には……」
なにを躊躇してんだよ。コッチは時間がない。
「やってみなくちゃ分からないにゃっ!」
「相変わらず強引なのら悪魔王は……」
しばし考えてからエイトさんは覚悟が決まったのか、眠そうな目を擦ってから顔を向けた。
「分かったのら、やってみるけど死んでも自己責任でお願いするのら〜〜」
「にゃっ……」
エイトさんが馬鹿っぽい返事してから、ジャッジメントアックスを出して両手で構えた。
無害と分かっていても斬られるのは恐怖でしかない。それに斬り役がエイトさんだからなおさらね……。
いやいや、覚悟を決めるしかない。
俺はほっぺをペチパチ叩くとエイトさんの前に立った。
「斬ってくれにゃっ!」
「……分かったのら……ほいなっ!」
「にゃあっ!!」
エイトさんが間髪入れずにいきなり斧を振りおろしたんで、思わずビビッて避けてしまった。
相変わらず心臓に悪いよ……。
「避けちゃダメなのらぁ〜」
「わ、分かってるにゃっ!しかしちょっと待つにゃっ……」
一発目外したと言うか避けたせいで、二発目が余計怖くなった。でもコレ以上長引くと祭りが始まってしまう。だから俺は意を決して斬られることにした。
でも、両目を手で覆って震えながら挑んだ……。
「……怖いなら無理強いしないのだ……」
「これはっアタチなりの覚悟にゃのだっ!だから遠慮なく斬るのにゃっ!」
「……分かったのらぁ、じゃあいくのら〜…………」
「にゃっ!」
溜めが長いな……。
ジャリッ……。
キタ!
「サタンちゃま覚悟っチェストオォォッ!」
ズバッ!
「にゃあっ……ありゃっ……にゃんともにゃい。むしろ……眠気スッキリにゃっ!!」
斬られたおかげでだるい身体が身軽になって眠気も吹っ飛んで元気になった。
流石ジャッジメントシリーズの善には癒しを与える効能だ。
しかし、悪魔の俺が喜んでいいのか微妙な気分だ……。
とりあえず今から聖女さまに無理難題強いられても大丈夫だな。




