サタンちゃまと訳アリ姫王さま
「それにしても可笑しなメンツじゃの〜」
呪いによって幼女の姿になったピコロ姫いや、王さまが俺たちを見て唸った。
そりゃ驚く。なにせ幼女三人に、ロボと長身男に天使とくノ一ペットのワン☆ころときた。マトモなのは聖女さまとメリーと谷川シェフだけだな……。
「実にオモロい。特にそこのお子様っ!」
「にゃっ!?」
立ちあがってトタトタおぼつかない足でピコロ王が俺の前に近寄って指差した。
いつも思うが……俺はどこ行っても絡まれるな。やっぱこの幼女の姿が舐められるのか……。
「にゃっにゃんにゃお前?」
「貴様っ!ピコロ陛下にその口の聞き方は無礼だろっ!」
「にゃあっ!」
俺の態度に激怒した騎兵隊長アドロニクスが剣を鞘から抜いた。悪気はなかったんだが、ちょっとパニックだ俺。
「別に構わぬ。さがれアドロ」
「ハハッ!出過ぎた真似して申し訳ありませんでしたピコロ陛下っ!」
お辞儀して謝罪したアドロニクスが一歩さがった。
いやしかし、ちびっ子王さまの性格が寛大で助かった。
「お主が勇者ガレオを倒した噂のサタンちゃまか?」
「にゃっ!?」
こんな小国にまで俺の噂が知れ渡るとはなんとも複雑……。
しかし正直に答えるか。
「いかにもアタチが悪魔王サタンちゃまにゃ」
俺は左右の握り拳を腰に当てて堂々と名乗った。
「悪魔とはこの世界には存在しなかった魔物じゃな……」
「ちょい待つにゃっ!」
「なんじゃ急に指差してちびっ子?」
お前には言われたくないわ!
「……悪魔をそこいらの魔物と一緒にするにゃっ!」
「なんじゃ違うのか?」
「そうにゃっ」
俺は目を閉じてうなづいた。
外野の天使が一緒だとやかましいが、無視した。
「ふう〜む……勇者ガレオとの因縁……面白いのじゃっ!良しっアドロッ今すぐガレオを呼んで来るのじゃ」
「ハハッ!分かりました」
「にゃにぃ……」
ひざまづいたアドロニクスが立ちあがり、王の間をあとにしてガレオを呼びに行った。
しかし早速厄介な事態に巻き込まれそうだ。
しばらくして廊下を走る騒がしい靴音が段々近づいてきた。で、足音の主は馬鹿でも予想出来るだろう。
勢い良く扉が開かれ勇者ガレオが姿を現した。
そしてキョロキョロと見回すと俺と目が合った。『うわっ!アイツと目が合った……』
「サタンちゃま〜〜っお前のせいで若き嫁を失い。名声に泥を塗られ散々だ。どれもこれも原因はサタンちゃまのせいだ……」
「にゃっ!?」
人のせいにするのは良くない。
案の定ガレオが俺に逆恨みしてた。
しかしここで疑問。
以前会ったフルフェイスヘルメット男の正体がてっきりガレオかと思っていたが、素顔で現れたこのクズを見てたらどうやら別人らしい。
だったらあのフルフェイス男の正体は一体……まっ、どうでもいいな。
次行こう。
「にゃにゃにゃっ♬ 久しぶりにゃガレオ。今一人かにゃ?」
「こっ!このっクソお子様が言いやがる……言っとくが僕一人じゃねーよ。前の三人は僕から去って行った。だから急いで新たに三人の嫁もらったから……」
「にゃっ……」
この男の女子冒険者仲間は所詮皆嫁扱いかよ。見事なまでにクズい勇者で安心する。
それにしても、ユウナにアヤネとミツヤのパーティーは今頃どうしているか気になるな。
「おいっ!サタンちゃまっ」
「なんにゃっ!?」
ガレオはまだ俺に言いたいことがあるらしい。全くしつこい男だ。
「お前なんかに負けたせいで僕のこれまで築きあげた名声が一瞬で地に落ちた」
「だからなんにゃ?」
「……きっ、君はまだ分からないのかっ!?」
「にゃっ!にゃめろっ!」
ガレオに襟首掴まれた。
「言っちゃあ悪いけど、こんなクソガキに負けた僕から仲間が次々と去り。挙句陰口を言われ夜も眠れない日々……全てサタンちゃまのせいだ。だから賠償しろ!」
「にゃっ!?」
言ってること無茶苦茶だな。結局人のせいにかよ。
「手を離すにゃっ……誰にゃ賠償にゃんかするかよ。ゴミ勇者」
「おっ!お、おおぉぉっなぁあぁにぃぃぃ、このガキィィッぶち殺すぞっ!」
激怒したガレオが俺に手をあげた。
「にゃにゃっ♬ ぶつなら打てにゃ反撃されてハジさらす勇気があるにゃら」
「こっ!こっこっこいつっ!」
ガレオが右手を俺に向かって振りおろしほっぺにビンタした。『ににに、痛くにゃい♬』これで先に手を出したガレオが悪い。
さぁ反撃だ。
「にゃんっ!」
「ブッ!」
ガレオの顔面に頭突きをかましてやった。
「ぐっ……ガッ……馬鹿なっ……」
「にゃにゃにゃっ♬」
一発でガレオをノックアウトしてやったよ。
「サタンちゃま……」
「にゃっ……」
聖女さまが怖い顔して俺の名を呼んだ。どうやら勇者を倒して褒めてくれる訳ではなさそうだ。
「お座りっ!」
「にゃんっ!」
やはり叱られたか、俺は強制お座りされてお仕置きされた。しかしなんで……。
俺は抗議を込めて彼女を見あげた。
「にゃんでにゃ聖女さまっ!?」
「分からないの? 余計な波風立てないで欲しいわね」
「にゃっ……ごめんにゃ……」
聖女さまに褒められると思ったのに逆に叱られて、俺はションボリした。
「あっはっはっ♬ おもちろい余興じゃったのじゃっ♫」
「にゃっ!」
ちびっ子姫王さまが近寄って俺の背中をポンポンと軽く叩いて激励した。全く調子のいいのじゃ姫だ。
「それはそうと、お前たちも二日後に我が領地で行われる祭りに参加するのじゃな?」
「それは祭りの内容によりますが……」
「なんじゃ聖女。やけに慎重派じゃのう」
「……」
「ワッハ!冗談、冗談じゃよっ」
「……」
もうっ聖女さまは繊細なんだからイジっても絶句するだけで、会話が続かない。
ちょっと俺と性格が似てるか? いやいや、それはないか……。
「フンッ!祭りの内容はな領地内に大量の魔物をばら撒き、参加する冒険者チームが倒した数を競うルールじゃ」
だから逆に魔物が領地内から出ないように壁で覆ったのか……意味が分かってスッキリした。
しかし、祭りのために魔物を大量にバラ撒くなんて大胆なこと考える姫王さまだ。
「でじゃ、もちろんお主らも参加するじゃろ? にひひ……♬」
「……」
手を後ろに組んだ姫王さまがニッと笑顔で聖女さまの周りを歩いて聞いた。
「ええもちろん参加しますわ」
「おっ!ノリがいいね〜こりゃあ、勇者ガレオもちびっ子勇者も参加するし。きっと祭りが盛りあがるぞっニヒヒヒ……」
姫王さまが子供みたいにほくそ笑んだ。いや、本当に身体は子供だけど、心も、子供だなこりゃ……。
「んじゃ部屋を用意するので今日は城でゆっくり休むが良い」
「ありがとうございますピコロ陛下」
「良い良い聖女。苦しゅうない」
玉座に戻ってぴょんと座った姫王さまが紅葉みたいな右手をヒラヒラさせた。
これで今日の謁見は終了だ。
『しかし、色々あって疲れたにゃん……』




