サタンちゃまとメリーの出生の秘密
喫茶店でメリーが自身の出生について語り出した。
「あたしの出身地は今回の目的地のロストプロスパーから南にある小さな集落チレコドン出身よ」
「にゃっ!怪獣みたいにゃ村の名前にゃっ!」
「うるさいわねっこのちびっ子!」
「にぁやっ!」
俺に故郷を馬鹿にされたと思ったメリーにほっぺを指でツネられた。でも本当怪獣みたいな名前じゃないか? 子供ならではの素直な意見を尊重してほしいな。
「実はあたし……チレコドン村の教会の地下室で眠っていたところを育ての親が見つけこれまで育ててくれたのよ」
いきなり重い過去を語り出した。
しかしまさかアホのメリーにそんな過去があるとはな……。
「しかし本当の両親はどこ行ったにゃ?」
「人の話し聞いてんのかちびっ子!あたし地下で眠らされていたから本当の両親の行方なんてわっかんねーのよ!」
「にゃあっ!」
また俺のほっぺをツネんな!
「それは何年前のことなんだい?」
会話に入ってくんなっフルフェイスヘルメット冒険者。
「それはぁ……」
もじもじしてなんだか言い難そうなメリー。
ちょっと面白そうだから煽ってやるか……俺は椅子の上に立って目を輝かせた。
「なっ、なによちびっ子……」
「なんにゃメリー訳ありかにゃ?」
「こっ!」
俺の無神経な指摘にメリーは眉根にシワを寄せた。大人だったら一発殴られてもおかしくないが、俺は無邪気な子供だから許される。
だから小さくて不便な身体だけど、大人が聞き難い質問がしやすいのは利点だな。
「こんの〜ちびっ子ぉぉ……」
「にゃにゃにゃっ♬」
「お座りっ!」
「にゃんっ!」
見かねた聖女さまに俺は強制正座させられた。流石に行儀が悪かったか……。
「言い難い過去なら、それ以上喋らなくてもいいのよ」
「聖女様……ううん、うんっ!」
メリーは首を横に振ってから縦に振った。
「あたしは育ての親に拾われてから約三十年……」
「にゃっババアじゃんメリッ」
「見た目は十六歳のピチピチお肌の美少女よっ!それに三十路でババア呼ばわりなんて許せないわよちびっ子ぉぉ」
「にゃあっ!」
激怒したメリーに両方のほっぺをツネられギューっと伸ばされた。もう幼女虐待だ!
しかし、メリーの告白が本当なら、彼女は聖女さまより歳上になると、今後扱いし辛いだろうな聖女さま……。
「三十路には見えない美少女だな……」
「でしょう……」
またフルフェイス男が振り返り会話に割って入った。飲み屋でいるよな、そう言う常連。
しかしメリーも意見に賛同するな。
仮説だけど、メリーがエルフで不老と考えればこの若さは納得いくが、エルフ族特長のトンガリ耳ではないんだな。
だから直接彼女に聞いてみよう。
「まさかメリーはエルフの血を引いてるのかにゃ?」
「馬鹿かちびっ子。両親の顔も知らないのにそんなこと分かるかっての!」
「にゃっ……にゃあ地下室で寝ていたメリーはにゃんさいだったにゃ?」
「相変わらずズケズケと無神経な質問するちびっ子ね……はぁ〜にゃんさいだぁ? あたしが六ちゃいだとか答えると思ったか?」
「にゃっ……」
マジになって幼女に詰め寄るな!
「正直ににゃるにゃメリー」
椅子から降りてメリーの側に駆け寄った俺は彼女の肩に触れた。
「こっ……このちびっ子マジではっ倒したい……」
「にゃにゃ♬」
拳を握り締めてグッと我慢するメリー。俺は年上の姉ちゃんを苛立たせるプロだよ。三百年前捕まった時、天使のお姉様をおちょくって苛立たせたな……。
「チッ……地下室で目覚めたあたしは今と変わらない姿だったそうよ……」
「にゃっ、かなりの年月が経っているのに、歳を取らにゃいとは、どう考えてもおかしいにゃっ、メリーは本当に人族かにゃっ!?」
ガタッ!
メリーが立って俺の胸ぐら掴んで詰め寄った。やり方チンピラ。
「そろそろそのうるさい口黙らそうか……?」
「ご、ごめんにゃちゃい……」
メリーがキレてちょっとびびった。
「そこの語尾はにゃんでしょっ設定忘れんな!」
「にゃんっ!」
謎のダメ出しされて俺はメリーから解放された。
「話を聞く限りメリーは普通の人間ではないようね」
「絶対様……そのようです……」
「貴女の血筋の秘密を解く鍵はチレコドン村にあるみたいね。分かりました。不死の姫君の件を終わらせたら、ついでに寄ってみましょう」
聖女さまが席を立った。
まさかお茶会は終了か? 俺はてっきり聖女さまの身の上話を聞けると期待したのだが……まさかメリーの出生の秘密を聞けるとは驚きだった。
「ところで聖女さまぁ〜っ」
俺は聖女さまに可愛く駆け寄った。たまには媚び売っとかなきゃな。効いているか知らんけど……。
「あら、サタンちゃま。媚びても小遣いあげないわよ」
「にゃっ……」
流石カンが鋭い聖女さまだ。しかしいつもながら彼女の財布のヒモはきつく締めてるな。
悪く言えばケチだ。
『おっと!』彼女に気になる質問するの忘れるところだった。
「これから帰るのかにゃ?」
「……なにを言ってるの……今からクエストに挑むわよ」
「にゃっ!」
聖女さまが指に挟んだクエスト依頼の紙を俺に見せた。それはなんとS級難度のクエストだった。
「ほうっS級のこの先の洞窟に棲みついたゴブリン殲滅の依頼か……」
うしろから勝手に覗き見るなよフルフェイス男。とにかくさっきから俺たちに絡んでくるな。
まさか異世界のストーカーか?
とりあえず俺たちは喫茶店をあとにした。
するとフルフェイス男も会計を終えて店から出て来た。やはりこいつは……。
「ちょっとマジなんなのよアンタ?」
こう言う時すぐに言ってくれるメリーは有能だ。
「俺か……俺は、過去の栄光を捨てたさすらいの黒騎士だ……」
フルフェイスヘルメットの黒騎士が、赤いチェーンソーを握って訳ありっぽく呟いた。
『にゃっ!?』それ剣じゃないぞ。なんかイタい感じだし、色々勘違いしてそうだ。
「あら、黒騎士様でしたか」
お世辞だろうに、そんな高尚な騎士さまに見えないだろ聖女さま。
「ああ、俺はそんな大それた騎士ではない」
『そうか?』聖女さまに言われて黒騎士は、まんざらでもない感じだ。
「しかし槍もお使いになられるのですね……わりかし槍にしては短めですが……」
「ああっこれか!」
聖女さまに聞かれた黒騎士は左肩に掛けていた長物カバーをおろして、その中身を見せた。
ジャキッ!
「どうだカッコイイだろ? コイツがあれば、ゴブリンなんかイチコロだぜ!」
「にゃっ!」
カバーの中身はなんと猟銃だった。そして黒騎士が猟銃を両手で構えてスコープに覗き込んだ。危ない奴だな。
しかし兜がライダーヘルメットに武器がチェーンソーと猟銃と無茶苦茶な武器を使う冒険者だ。
まさかその正体は日本人?
それとも異世界人で現代文明かぶれか?
とにかくヤバい奴と言うのは分かったから、早く側に離れた方がいいな。
だったら俺が聖女さまに男から離れるように誘導するしかない。
「早くクエストに行こうにゃっ聖女さまぁ」
俺はとてとてと歩いて、聖女さまのスカートの裾にしがみついて急かした。『にゃにゃっ』おっさんなら通報モノだけど、子供なら許される。
「そうね……」
「それなら丁度俺もそこの洞窟に用があるんだ。近道を教えるから一緒に行こう」
「……」
『ほらほらっ』警戒して聖女さまが黙っちゃったよ。しかし本当にストーカーぽいしまさかな……。
『う〜ん』警戒すべきはゴブリンより、この男かもな……。




