サタンちゃまゴブリンを狩る
かつて富士山の樹海と言えば自殺の名所と心霊スポットとして有名だった。
そのため樹海には、心霊好きや自殺志願者があとを立たなかった。
だけど半年前にゴブリンが住み着いてから樹海は、冒険者以外立ち入り禁止になった。
怖がりの俺は一人で樹海に入るなんて絶対無理だった。しかもお化けより怖いゴブリンもいるしな。
だけど俺は、召喚したウサギ悪魔ユニコーンラビットの背中に乗って樹海の中を疾走している。
今の俺には、頼もしい部下がいるから全然怖くないんだ。
大分奥深くまで入った。
疾走中のユニコーンラビットにまたがる俺は、指でチョンチョンと背中を叩くと従順に立ち止まってくれた。
俺はうしろを振り返ると聖女さまから離れたことに気づいた。大分先に進んでしまったようだ。
改めて俺は自分の首に掛けられた赤い絶対服従の首輪を触って見た。
聖女さまの声が届かない今なら逃げられる。
だけど首を横に振って良からぬ思いを否定した。俺は逃げない。
だって逃げても両親と家が消えた今、帰る場所は聖女さまの元しかないから。
「しゃて……」
風が吹き木々が騒めき空気が急に変わった気がした。
ユニコーンラビットは鳴けない分、白い毛が総毛立ち警戒し知らせた。
四方八方から倒木を踏みつける複数の足音が聞こえた。
俺は一番安全なウサギの背中にしがみついてじっとしていた。
森の奥から複数の赤い目が光って見えた。
四方八方からゴブリンたちがワラワラと現れた。
全長は150センチ位で皮膚が緑色。顔は尖った鷲鼻に耳まで裂けた口から鋭い牙が覗かせていた。
ゲームで良く見るゴブリンのイメージそのモノだった。
ゴブリンの群れに囲まれていた。一斉に襲撃されたらひとたまりもない。
だから一点突破して立て直す。
「ユニコーンラビットッ前方のゴブリンの群れに向け突進にゃっ!」
緊張してるとにゃーにゃー言ってる場合じゃない。だから噛まずに上手く命令出来た。
「プープーッ」
ユニコーンラビットは鳴けない代わりに鼻息で返事を返すと、角を向けゴブリンの群れ目掛けて突進した。
「ギッ!」
「ギャッ!」
5、6匹いたゴブリンをまとめて吹っ飛ばした。ユニコーンラビットは急停止するとすぐに向き直り威嚇した。
前方に10匹程度のゴブリンが棍棒を握り締め詰め寄って来た。
「にゃっ!なんとするにゃっユニコーンラビット!」
「プスーッ!」
バリバリバリッ!
鼻息で返事をすると額から生えた角から稲妻が放たれた。
「ギャッ!?」
「ギーッ!」
稲妻が10数匹のゴブリンをまとめて一掃した。ゴブリンたちは黒焦げになって昇天したみたい。
ピコーンとレベルアップの電子音が聞こえた。早速ステータスを開くとレベル3になっていた。
ちょっと期待ハズレ。だって16匹のゴブリンを倒したからもっとレベルがあがると思ってたからね。
それだけレベルがあがり難いってことだな職業サタンちゃまはな……。
詳しくステータスチェックした。
【職業サタンちゃまレベル3 魔力25 攻撃力8 力5 体力6 素早さ6 幸運12 特殊スキル 悪魔ガチャレベル2】と他は駄目だが、魔力と幸運だけ突出して数値がアップしていた。
これは……ガチャと関係してるのかな?
とりあえず周辺からはゴブリンの気配は感じられない。だから安全を確認した俺は下に降りた。
ゴブリンの亡骸から色鮮やかな宝石が落ちていた。俺は側に寄って拾ってみた。
6センチ位のダイヤモンドカットされた赤、緑、黄、青の綺麗な宝石だ。
遠くから聖女さまの俺を呼ぶ声が聞こえたので、慌てて宝石をドレスのポケットの中に隠した。
ま、別に見られて不味いモノじゃないが、あの腹黒聖女さまのことだ。見られたら絶対没収されるはずだ。
それにしても……俺はユニコーンラビットを見あげた。
ステータスをチェックすると、ゴブリンを倒した立役者にも関わらずレベルは1のままだった。
「おかしいにゃあ……もしかしたにゃ、召喚悪魔のレベルあげは別にゃ方法にゃもしれにゃい……」
「ちょっともーっ!」
俺は退化した脳みそをフル回転してると、ようやく追い着いた聖女さまに声を掛けられた。
息も絶え絶えヒザに手をついて、聖女さまが額に滲んだ汗をハンカチで拭った。
大人気ないレベル120の聖女さまにしては体力ないかなと思ったけど、蝉がジージー煩い夏真っ只中。
彼女は慣れない日本の夏が苦手なのかもしれない。
「はぁはぁ……にゃーにゃー言って思わず逃げ出したかと思ったわよ。アチィ……もー日本の夏死ね!」
日本の夏に毒づく聖女さまに俺は珍しく共感した。まぁ、俺はウサギさんの背中に乗って風を切っていたから涼しかったよ。
「ところでそこら辺に転がっているゴブリンはアンタが殺すの?」
「にゃ……」
口の悪い聖女さまが、足で黒焦げゴブリンの死骸を転がし調べた。
そして周辺を手探りで念入りに調べた。
「おかしいわね……」
「なにがかにゃっ聖女さま?」
「見当たらないのよ。魔物を倒すと必ず出るカラーダイヤモンドが」
ダイヤモンドって皆リッチな魔物たちだ。それより……滅茶苦茶心当たりある。
だけど今さら言えない。独り占めバレて聖女さまにゲンコツ食らう予感がしたからだ。
「…………し、知らにゃいにゃっ……」
「……本当ですか?」
「にゃっ!」
聖女さまが優しく微笑み俺の顔を覗き込む。凄いプレッシャーだ。
「はぁ〜外れですかぁ……仕方ありませんね」
「にゃっ!カラーダイヤモンドとはなんにゃ?」
「そんなことも分からないの? まぁいいわ。無知な犬に特別に教えて差しあげるわよ」
「……」
聖女さまがため息混じりにいかにも恩着せがましく言った。
相変わらず絶好調ですね聖女さま。
「カラーダイヤモンド実は用途がハッキリしてないのよ……」
結局アンタも分からんのかっ!
「でもね……この宝石は高く売れるのよ。うんっ!初心者だった昔のあたくしもお世話になったのよ」
その身の上話しが本当なら、聖女さまは都内の豪邸を建てるためにどれだけ魔物殺したのかね?
想像したら寒気がしてきた。
「んっ!ちょっと待って」
聖女さまの通信デバイスにメイドのサガネさんから連絡が入ったみたいだ。
「ふんふん…………分かったわ。今すぐ犬を連れて戻るわ」
「……」
俺のこと犬言うな聖女。
通話を終えると聖女さまは振り返った。
「予定より早く勇者チームが到着したわ。だから今すぐ駐車場に戻りますよ」
「にゃあ……」
まだレベル3だよ。
もう少し経験値稼いでから勝負挑みたかったな。
とりあえず俺と聖女さまは樹海内を引き返した。




