サタンちゃまと首都プロスペラ
夕食後俺たちは明日に備えて軽いミーティングを開いた。
「いよいよ明日勇者と初対面になりますが、エイジ様から聞いた話を説明して果たして、魔王討伐の座をわたくしに譲ってもらえるか神のみぞ知るでございます」
聖女さまが祈るように手を合わせて言った。
勇者は十六歳の少女だと言われているし多分男よりは話が分かるんじゃないかな……俺はそう願いたい。
「でもさーもし勇者に聖女様の提案を拒否されたらどうなるのよ?」
「メリーの言う通りだ。もし悪い方向に話が進んだらどうするつもりなんだよ聖女様よ」
「それは……」
メリーと谷川シェフの問いに聖女さまはそっと合掌する手を離した。
そして立ちあがると真剣な顔で皆の顔を見回した。
「その時は勇者チームとの死闘も辞さないわ」
「なるほど、ふう〜そのための戦力集めか……」
納得した谷川シェフがコーヒーを飲むとため息混じりで空を見あげた。
しかしまぁ、俺たちの敵は魔王軍以外に勇者チームも想定内ってことか……。
「勇者チームかぁ……敵に回したら手強いぞ〜ガブッ」
「にゃっ!?」
情報屋のジョニーがいつの間に俺たちの輪の中に混じってトンボフライを齧っていた。
「いや〜美味いね〜この海老フライは」
「にゃっ!」
ほぼ竜神さま以外手をつけていなかったトンボフライを、ジョニーがバクバク美味しそうに食べている。
味は確かみたいだな。でも虫だと思うと食べるには抵抗がある。果たして彼に真実を言うべきか……。
『良く食うのうジョニー』
「ええまいどっ竜神様っしかし、こんなに美味しいのにこんなに余っているなんて不思議ですね」
『……ところでジョニーよ。虫は好きか?』
「虫っ? そりゃあもう大嫌いですよ。考えただけで虫唾が走りますよ」
『そうか……』
納得した竜神さまが何故か俺に向かって『黙っていろ』と目配せした。
もちろん本当のことを教えるつもりはありません。これ以上カルマを増やす訳にはいかないからな。
「いやぁ、美味い美味い。皆んなこんな美味しい海老フライ食べないなんてもったいないでっせ。くちゃくちゃ……」
「『…………』」
『トンボ咀嚼すんな』皆んな黙ったじゃないか。
「ところでタダで来た訳じゃございませんよね?」
「おうっ流石聖女様っカンが鋭い。ウップ……なんだ……別にいいか……」
トンボなんか爆喰いするから胃腸が拒否してんだぞジョニー。
「実はベルガ王国に勇者チームが向かっているらしいですぜ」
声を潜めてジョニーが聖女さまに手の平を差し出した。でもその情報はちょっと遅かったな。
一通り聞いた聖女さまが目を瞑って首を横に振った。
「話になりませんね。その情報はわたくし共もすでに存じております」
「なんでぇ〜じゃあ情報料は?」
「ございません。それどころか逆に貴方がさっきから食べている食事代を頂きたいところですわ」
「はあぁ〜?」
大きく口を開いたジョニーが立ちあがった。
しかし基本無料で手に入れたトンボフライの料金をちゃっかり請求するとは、流石ドケチ聖女さまだ。
「申し訳ございません。今日のところはお引き取りを……」
「くそッ!あとで後悔すんなよっ!」
捨て台詞を吐いたジョニーが悔しそうに立ち去った。しかしちょっと可哀想。ここまで来たのに無報酬とは銀貨位渡せばいいのにと俺は同情した。
それから夕食を終えた俺たちは各自寝床に戻って、明日に備えて眠りについた。
しかし今日は色々あって疲れて案外熟睡出来そうだ。
□ □ □
翌朝食事を済ませた俺たちはベルガ王国目指してエアカーを発進させた。道筋はナビに任せて時間にして半日掛けて王国に辿り着いた。
しかし着いたのは入り口付近で、城がある首都プロスペラまではあと一時間を要するらしい。
で、プロスペラまでエアカーで上空を飛んでいると、住民たちが物珍しそうに見あげていた。
「相変わらずベルガ王国は大きいわね」
「ところでメリーの出身はどこにゃ?」
メリーの隣で景色を眺めていた俺が間が持たないので苦し紛れに聞いてみた。
無論会話のキャッチボールを維持する自信はない。
「あたしは隣国のトラペズ王国の片田舎パルディ出身よ。なにもない静かな農村だけど住むにはいい村よ」
「だったらにゃんでメリーは村を出たんにゃ?」
「痛いとこ突いてくるわね〜ちびっ子」
「にゃっ!」
何故かメリーに睨まれた。
触れられたくないよっぽど嫌な過去があって村を出たのかな……これ以上詮索するのはやめておこう。
で、そうこうしているウチに首都プロスペラに到着して城下町にエアカーを着陸させた。
そこにはもちろん駐車場などない。だから広場に停めた。すると物珍しいのか人々が集まって来た。
「おいおいっゾロゾロ来たぞ」
大事なエアキッチンカーのボディに傷をつけられちゃと谷川シェフは気が気ではなく、野次馬たちを警戒してこの場を離れないでいた。
それを見かねた聖女さまが少数で参りましょうと言った。
「では国王様に謁見するメンバーはわたくしとメリーとセブンさんと座敷童さんとサタンちゃまにしましょう」
『にゃっ?』聖女さまは何故にワラちゃんと俺を選んだ? 子供なんか連れてもトラブルしか起きないと思うけどな。
「なんでちびっ子二人も連れて行く訳?」
メリーも疑問に思っていたみたいで聖女さまに聞いた。すると彼女が微笑むと足元にいたワン☆ころを持ちあげた。
「国王様の警戒心をなくすための戦略よ。だからこの子も連れて行くわよ」
「にゃっ!」
ワン☆ころは見た目は可愛らしくても以外とエゲツない高ステータス持ちだ。しかもそれがレベル1 と言うから末恐ろしい。
しかし俺のペットを王様との謁見に参加させるなんて、聖女さまはなにを考えてるのだか……しかも憑依スキルなんてヤバ目なスキル持ちだし本当になにが起きても知らないよ。
「では参りますので留守番を頼みます」
「ああ任せろ」
谷川シェフに会釈をした聖女さまが俺たちを連れて城へと徒歩で向かった。
まぁ、この中で強キャラはセブンさんだけでいざと言う時聖女さまを護れるか不安だけど、その時は俺の優秀な悪魔を呼び寄せれば心配なしだな。




