サタンちゃま初めて悪魔ガチャを引く
俺の意志とは関係なく勇者チームと対決することになった。
聖女さまが低俗な勇者の挑発に乗ったのは疑問が残るが、彼女なりの考えがあってのことだから冒険について行くしかない。
勝負の場所は富士の樹海。
今から半年前の樹海に住み着いたゴブリン。いわゆる外来種ならぬ異世界種だ。
勝敗のルールは、無数に生息するゴブリンを日が暮れるまでに多く仕留めたチームの勝ち。
外来種ならぬ異世界魔物だ。
冒険の準備を済ませた俺たちは樹海に向かった。
聖女さまのエアキャンピングカーのおかげで一早く富士の樹海前の駐車場に到着した。
「サガネっ勇者チームはまだ到着してないの?」
「はい。彼らが乗る馬車だと半日は掛かるかと……」
「あっはっはっはーーっ!馬車ぁ? アイツら勇者の癖してまだ馬車なんか使ってるの?」
聖女さまとは思えないやな感じの高笑いするパラルさま。
もう慣れたけど彼女の本性だからね。
「ふふっ……こっちの世界を甘くみて科学の力を借りないから無駄な苦労するのよ。それはそうと、今のうちにサタンちゃまを鍛えるわよ」
「にゃっ!?」
「なにびっくりしてるのよ。アンタ全然弱いんだからさっさと悪魔召喚スキルを試して経験値稼ぐわよ」
めちゃ強い聖女が一緒だから後ろで見てるだけでいいと、余裕こいていたらこれだ。
やっぱり聖女さまはそんなに甘くない。
「早速悪魔召喚して」
無茶言うな。マニュアルもなしにいきなり召喚しろと言われてもな。
とりあえず聖女さまが睨んでいるからそれっぽく右手を伸ばした。
「にゃ…………にゃにゃっ……出ろにゃ……」
右手に意識を集中させて見るが悪魔なんて出やしない。そもそもやり方が分からないからなぁ……。
「なにやってるのよサタンちゃま」
「ごめんにゃっ聖女さまっ!アタチは悪魔召喚の仕方が分からないにゃっ」
「チッ使えない犬ね……」
「にゃんと……」
聖女さまからの俺の呼び名が、サタンちゃまから犬へとランクダウンした。
どっちも侮蔑だけどな。
そんな中俺は半ば諦めていると、ピコンと電子音が鳴った。何気にステータス画面を出すと特殊スキル 悪魔召喚ガチャ表示下に赤い文字で【ガチャ1回回しますか?】とご丁寧に表示されていた。
「あらっガチャ……馬鹿っぽい」
俺のステータスを覗き見した聖女さまが言った。
まぁ、馬鹿っぽいのは否めないけどこれが馬鹿に出来ないスキルじゃねーの?
よく見ると初回ガチャ無料だと?
やっぱり馬鹿っぽい。2回目以後はまさか課金ガチャか?
それはなんかやだなぁ……。
とりあえずガチャボタン押して見よ。
「にゃっにゃあ……回すにゃっ……」
ガチャボタンを押した。
『無料ガチャを回します』
『おおっ!』それっぽい。
しかも驚いた。
目の前に巨大なカプセル自販機が出現した。
300年前からある伝統リアルガチャを回したことはないが、硬貨を入れハンドルを回して中のカプセルを出すのはなんとなく分かった。
でも肝心の硬貨入れ口が見当たらない。
そうか、お金の代わりに魔力を消費してガチャを回せるのだな?
さて、滅茶苦茶緊張するがハンドルを回してみた。
ガチャガチャッ……ポンッ!
「にゃっ!?」
野球ボールサイズの銅色のカプセルが飛び出した。
ガチャ自販機の中身は残念ながら見えないから他のカプセルの色が分からないけど、多分銅色はハズレ枠だと思う。
まぁハズレでも悪魔召喚出来るだけで凄いけどね。
カプセルが小刻みに震え全体が光りパカッと割れた。
シュトン!
「にゃあっ!」
カプセルから巨大な白ウサギが現れた。
全長3メートルくらいで額にツノを生やした白ウサギだ。
ステータスにはこう表示された。【ユニコーンラビットレベル1のカードを獲得しました。何度でも使えますが、現出一回につき使用時間は5時間。なお、カードはカードボックスに収納されます】
なんと分かり易い説明付きだ。しかも一度引けば制限時間有りとはいえ、何度でも使えるようだ。
俄然やる気になった。これで弱っちい俺でも召喚悪魔の力を借りればゴブリンを狩れる。
「ふむ…………正直悪魔に実力は未知数なのよね……」
「なにゃんだ聖女さにゃっ悪魔知らないのかにゃ?」
「なによっ偉そうに殴られたいの犬っ!」
「にゃにゃっ!」
聖女さまにゲンコツされそうになった俺は、思わずユニコーンラビットの背後に隠れた。
初対面の化け物ウサギなのに大人しい。いや、俺を守るように赤い目で聖女さまを睨んだ。
「なっなによ……レベル1の癖に……」
怯んだ聖女さまが思わず後退した。
ユニコーンラビット。悪魔とは思えない神聖なたたずまい。レベル1と言ったって異世界の魔物のレベル1とはそもそも質が違うのかも知れない。
しかもレベル1ってことは今後育成可能かも知れない。そこまで本当ゲームそのモノだ。
「聖女様っ樹海の手前にゴブリンの気配がします」
メイドのサガネさんが聖女様に異常を知らせた。
「あちらから来てくれるとは手間が省けますわね。では勇者チームが到着する前に犬の経験値稼ぎ始めるわね」
モーニングスターを装備した聖女さまが俺の背中を押した。分かっていたが、甘えず一人で狩れってことだな。
ちなみに聖女さまが同行するのは、俺が逃げないように監視するためだ。
「に、にゃあ……とにゃかくよろしくにゃっユニコーンラビット」
『…………』
ユニコーンラビットは無言だ。確かウサギの鳴き声聞いたことないしな。
その代わりしゃがんだ。
「にゃっ!まさかにゃ上に乗れってことにゃか?」
『…………』
鳴いて返事しない代わりに首を縦に振った。
「わ、分かったにゃ…………うんしょっ!」
なんとか俺はユニコーンラビットの背中の上に登った。
そして意を決して、
「行くにゃっユニコーンラビット!」
樹海に向けて指差し命令した。
ユニコーンラビットは立ちあがると首を振って駆け出した。
目指すは樹海に潜むゴブリンの群れだ。




