サタンちゃまと二人の騎士
しばらく気を失って目覚めた俺は見知らぬ木屋の一室で、椅子に座られロープで身体をがんじがらめにされていた。
確か暴走した竜神さまを追い掛けて山中で迷い、背後から何者かに後頭部を殴られ気を失っていたんだ。
犯人は恐らくこの山に出没すると言う山賊。
しかもその主犯格は山中で再会したギルドフロンス支部長のザビーに間違いない。
そんなヤバい状況を理解した時、入り口のドアが開いて5、6人の男たちが入って来た。
皆知性を感じさせない粗暴な輩たちだ。
「目を覚ましたか、まぁ、丁度いい」
輩たちの奥から聞き覚えのある中年男の声が聞こえた。すると男たちが左右に整列して中央に道が出来た。
そこからふくよかな体型の口髭を生やした見覚えのある男が、両手を腰に回し現れた。
間違いない。本人はウィークポイントかも知れないけど、後頭部中央に輝くザビエルハゲが印象的なザビー支部長だ。
「にゃっ!?」
「ほほ……何故自分がと言った顔で驚いているようじゃな」
「……そうにゃ、にゃぜギルド支部長がアタチにゃんかにそんにゃことするのにゃ?」
言ってる側から輩たちに笑われ『猫みたいににゃーにゃー言ってんじゃねーよ』と野次られた。
もう猫口調のツッコミは慣れたから気にしないけど、支部長が俺を拉致した動機が知りたい。
「ほっほっ、最初にお前が間違えていることが二つある」
ザビーが俺にピースサインいや、二本指を見せた。
「にゃっ?」
「一つはワシはギルド支部長ではない。この山で暗躍する山賊団の頭じゃ、それと二つ目は、お前は聖女から身代金を頂くための大事な人質だから、最初から狙っていたのじゃ」
「にゃんと……」
「ほほ……何故自分がって言う顔しおってワシが直々に教えてやる。ワシらも昨日の決闘において、ショウに賭けていたんじゃ」
「にゃっ!?」
ザビーが言わんでも俺を誘拐した目的が見えてきたぞ。
「ショウが勝てば、聖女が掛けた1000ゴルドの大金を山分け出来たのに……それを、それをこんなガキが勝って賭け金がパーで手に入れるハズの大金も……とんだ番狂わせじゃ許せん……」
メロンパンみたいな肥えた右手を握り締めたザビーが悔し涙を流した。
ショウといいザビーといい、ここの大人たちは子供みたいに泣くんだな。
ザビーがキッと正面を向いて俺を睨んだ。
「許せんっ!こんなガキのせいで儲けるどころか大損じゃ、だが儂は考えた。お前を誘拐して聖女から身代金を頂こうとな!」
「にゃっ!」
思った通りの分かり易い動機だった。
ベタ過ぎる展開に、呆れた俺は空いた口が塞がらない。
「これから聖女に身代金を要求する。その間お前はここで大人しく待っておれ……もし逃げたり、身代金請求が失敗したら……命はないと思え」
「にゃあっ!」
そう言ってザビーは背中を向けると、薄笑いする輩共を従え部屋から出て行った。
バタンと閉まり施錠される音が聞こえた。
□ □ □
暫く時間が経って冷静に考えた。
俺は山賊に身代金要求のため、山小屋でロープに縛られ軟禁されている。
こりゃまた絶対絶滅のピンチだ。
「……にゃははっ♬」
『なぁに、そんなことはない!』俺は一人笑うと小さな両足をバタバタさせた。
俺には心強い悪魔の部下がいる。
あの決闘の時、聖女さまにスキル使用を禁じられたのが幸いして山賊団に気づかれなかった訳だ。
もし俺の悪魔スキルを知っていたら警戒して監視を一人つけていただろう。だからあの時スキルを禁止してくれた聖女さまに感謝しかない。
改めて俺の運の良さを実感したな、さて……。
「ステータスオープンにゃっ」
俺の目の前に、声に反応したステータスウインドウが表示された。
その中に悪魔ガチャスキルの項目があるが、今巨大カプセル自販機を呼び出す訳にはいかない。
天井を突き破る音で山賊に気づかれるし、出したところで手足が縄で縛られガチャを回せないからな。
だったらどうするか……ここから逃げ出す策はまだある。
とっておきのな……。
『悪魔カードファイル』ガチャで引き当てた召喚悪魔をカード化して保管する機能で好きな時に呼び出せる。
で、ファイルをタップすれば呼び出せるのだが……生憎指が届かない。
『だったらどうする? 諦めるか?』いんや、指が使えないのなら、舌を使えばいいじゃないか?
「にぃやっ……」
精一杯首をステータスウインドウまで首を伸ばした顔は舌を使ってタップし、悪魔カードファイルを開くことに成功した。
あとは召喚済みのカードを選んで舌でタップするだけだ。
「にゃっ!」
俺は迷わず二つのカードを選んでタップした。
これは俺が現時点で最も信頼するカードで二枚で充分だ。
ファイルから二枚のカードが飛び出し実体化して目の前で整列した。
「お久しぶりでございますサタン様……」
正面から右に立つ悪魔がひざまづき俺に忠誠を誓った。
「身体の傷は癒えたかにゃクレにゃ?」
「ハハッー〜ーッおかげ様でこの通り」
「にゃっ、それは良かったにゃ」
長い黒髪が美しい悪魔騎士のクレナだ。
そしてもう左にいる一人が長い黒髪の女騎士が笑った。
「ケケッケ♬ サタンさまなんでロープで縛られてんの?」
「そ、それにゃ……」
「まさか、人に言えないプレイ?」
「にゃっ!? そんにゃことあるかっ! アタチは山賊に捕まり、聖女さまから身代金を要求するために人質にされているからにゃっ!」
「ケケッ!もちろん知ってます。冗談ですよサタンさま〜♬」
「にゃっ……」
俺を小馬鹿にするように目を細めて笑ったのが黒天使の黒鴉だ。
クレナ同様長い黒髪に黒い翼を生やした超美人騎士だが、前髪で右目を隠した陰キャ風。
しかしその性格は生真面目なクレナとは対照的で陽気。しかも卑怯とイタズラ好きときたもんだ。だから主人である俺すらも小馬鹿にする少々困った部下だ。
でも決して裏切ることはない。頼れる部下の一人だ。
「しかしウケる。で、これからどうすんのサタンさま?」
「にゃっ!? 笑ってるばにゃいか黒鴉っ早く縄を解くにゃ!」
「ケケッ!わっかりましたー♬ じゃあ早速縄を斬るね♫」
ジャキンッ!
黒鴉が腰に装備した剣を鞘から引き抜いた。
「に、にぃやぁぁっ!!」
「大丈夫。サタンさまが着ているドレスが身体を守ってくれるから」
だからと言って思い切り剣でロープを斬るつもりか?
「おいっ黒鴉っサタン様が嫌がっているではないか?」
「ケケッ!だからって悠長にロープを解く時間はないよ。この騒ぎを聞きつけた山賊共の足音が部屋に近づいて来てるぜ」
確かにドタバタと部屋に近づく複数の足音が聞こえる。て言うか、黒鴉が騒いだからだろ?
「う、ううむ……やむを得ん斬れ……」
「にゃっクレにゃっ!?」
「ケケッ!そんじゃ急ぎますよ。覚悟はいいですかサタンさま?」
黒鴉が剣を両手で持ち上段で構えた。
ロープを剣で斬るのはいいが、大丈夫なんだろうな黒鴉の腕前は……どうせなら真面目なクレナに斬って欲しい。
ドタドタッ……ガチャガチャッ!
山賊がドアの鍵を急いで開ける音がする。
「キタッーー〜ーー!」
焦ってはいない。むしろ楽しむように黒鴉が叫んだ。
そして剣を振りおろした。
「チェストォォッ!」
「にゃああっ!!」
バツンッ!
見事黒鴉はロープだけ切断した。
まぁ、おかげで自由になったが、正直ビビって生きた心地がしなかったな……。
ガチャッバンッ!!
『おっと!』血相変えた山賊共がドアを乱暴に開けて部屋に雪崩れ込んで来た。
人数は十名ほど、しかし頭のザビーはそこにはいなかった。
「このガキッどうやってロープを……」
その代わりスキンヘッドの男が俺を見て顔を歪めた。奴は確か……酒場で絡んできたツルッパゲの冒険者だ。
おかしいと思っていたが、コイツも山賊団の一員だったんだな。
「んっ……ほ〜う……」
二人の黒騎士に気づいたハゲがニヤついた顔でアゴを撫で回した。
「へっへ……いつの間にこんな美人を……」
「兄貴っ頭に報告しますか?」
「いや待て」
耳打ちする小太りの部下にハゲが手で制した。
「身代金は山分けだが、目の前にいる女は想定外だ。あのタヌキ親父に黙って頂いても問題はあるめぇ……」
「ですよねっ兄貴ぃぃっ♡」
「馬鹿野郎っ俺がまず先だっ!」
肩にしがみつく小太りをハゲが罵倒した。
しかし、二人の正体を知らない輩共は本気で乱暴する気か?
「心底下劣な奴らだ……」
「ケケッ!サタンさまっコイツら殺していい?」
「にゃっ!?」
二人を怒らせたとも知らず山賊共がニヤケ笑いしていた。
まぁ、殺すのは許可しないが、俺にこれだけのことをしたんだから、タダで済むと思うなよ。
だから俺はそっと目を閉じこう二人に命じた。
「粗暴な輩といえど、決して殺すにゃ……しかしにゃ、半殺しまで許すにゃ……」
「ケケッ♬ だ・と・よ?」
身を屈め黒鴉が笑いながらハゲの顔を見つめた。
「なっ……なんだコイツ……い、今から俺たちに蹂躙されるのに、ヘラヘラ笑いやがって……」
人数にして山賊側の方が圧倒的に有利なハズだ。しかしハゲ輩が後ずさりしていた。
本能的に二人の黒騎士には勝てないと察知したからだろうか?




