サタンちゃまと新たなガチャスキル
「落とし穴掘るったって10分じゃ無理でしょ?」
お馬鹿メリーでも分かる無理難題。標的である身長3メートルのジャイアントゴブリンに合わせた穴のサイズは最低でも4メートル深く掘る必要がある。
で、それを10分で済ませろと言うのだから普通なら諦める。
「にゃっ……」
だけど俺の脳裏に穴掘りのスペシャリストの姿が浮かんだ。しかも二名。(正確には一匹と一機だな)
俺はステータスを開いて悪魔カードファイルを選んだ。どころどころ空きがあるが、ズラリと並んだカードの中から一つだけタップした。
「モングラー出るにゃ」
ファイルからカードが飛び出し立体化したモグラ型悪魔だ。
「サタン様……」
横目で不服そうに俺を見つめるモングラー。
『ちょっと待って』俺がなにかしたか?
「モングラー今すぐ4メートルの縦穴を掘って欲しいのにゃ」
「…………」
「にゃっ!?」
何故無視するモングラー?
「どうしたにゃモングラー?」
「……サタン様いい加減にして欲しいですな……さっきから僕のことモングラーと間違えて呼んでます。いいですか正確にはモングーラですっ!ちょっと言いたかないですけど前回も間違い指摘したのに、また何度も何度も言い間違えるなんて酷くないですか?」
「にゃっ!」
そうか、彼の名前はモングーラだった。
ずっと間違えた名前を繰り返した俺が悪かった。だけど相変わらず気難しいモグラだな見た目が可愛いだけに……。
「社長っモグラに穴掘らせるなんてナイスアイディア」
落とし穴発案者の黒鴉が舌を出して親指を見せた。
見た目は陰キャだけどノリがいいな。
「おいっコラッ黒鴉っモグラ言うなっ!」
「おっ……なんか文句あんのかモグラ?」
「き、きさま……」
「ケケッ♬」
二人が衝突すると思ったよ。
でも黒鴉は悪気のない挨拶程度で喧嘩する気はないみたいだな。まぁ、彼女の悪意がないっていうのがまたタチが悪いんだけどな。
「10分以内に掘れって絶対無理ですよ……」
「あらっ頑張って掘れたらちびっ子から褒美にこの駄菓子貰えるわよ」
そう言ってメリーはさっき俺がやったステックスナックのうんまい棒をモングーラに見せびらかした。
「そんな安い駄菓子で騙されますかよ」
「えっ……安いの?」
『コラッモングーラ』メリーにネタバレすんな!
「とにかく僕一人じゃ無理だからね」
『ならミーが手伝おう』
「はっ?」
空から声がした。
俺たちが見あげると戦闘機形態のアルマーが宙に浮いていた。
「アクセレレイションホームッドリルタンクモードチェインジッ!」
ガインッ!!
空中でタンクモードに変形したアルマーが着地した。
相変わらず派手でカッコいいな。やっぱヒーローロボに決め台詞は必要だよな。
「なんじゃコリャ?」
「オヤジこれ欲しいっ!」
「アルマーは売り物じゃないぞ成り金親子』言ってる側からドラ息子札束握り締めるな……。
『ミーと一緒に掘ろうモングーラよ』
「仕方ないですね……掘りましょう」
「にゃっ!」
なんだこの会話は……とりあえず二人が穴を掘り始めた。
流石二人共穴掘りのプロだけあってたったの5分で穴掘りを完了させた。
「ケケッ♬ あとはアタシに任せろ。ちょいなーっ!」
黒鴉がジャンプして木の枝を剣で切りまくった。
世界遺産の木勝手に切っちゃ不味いだろ……もう切っちゃったから手遅れだけど。
それで木の枝で穴を塞ぎ上から土を掛けて、落ち葉でカモフラージュして落とし穴の完成だ。
所要時間は穴掘り含めて9分とやれば出来るものだな。
『んっ来るゾイ』
一早くターゲットに気づいた竜神さまが森の奥を指差した。
「んじゃっ皆んな隠れろーっ♬」
ノリノリだな黒鴉。
まぁ巨大な何者かの足音が響いて来たので俺たちは岩陰に身を隠した。
『ぐ、お…………』
森から姿を現した巨大ロン毛ゴブリンがキョロキョロと周囲を見渡した。
鼻が効くのか匂いで気づかれたか?
「う〜ん……気づかれたか……」
「ちょっとー黒鴉の作戦駄目じゃないの?」
「……黙れ小娘」
「ちょっとキャッ!」
なにを思ったのか黒鴉がメリーを蹴飛ばした。責められキレた訳じゃなく考えた末の行動だからまさか……。
『ぐ、ぐぐぐおおおーーっ!』
「キャアッ!?」
メリーに気づいたジャイアントゴブリンが突進して来た。やっぱりオトリだな。
しかし上手く誘導出来た。
『ぐおっ!?』
スッポリ落とし穴にハマった。
「今だっ!皆んなボコれーーっ♬」
真っ先に飛び出した黒鴉が剣を振りあげた。俺を差し置いてノリノリだな。
「仕方ないわねー」
『止むおえんのうしかし、ワシも手を貸すゾイ』
『フルオープンミサイルで支援する』
味方まで当てるつもりか止めろアルマー。
そんなことでアルマーだけは待機してもらって、石を投げつけたりして全員でジャイアントゴブリンをボコッて倒した。
全員と言うことは成り金親子も楽しげに参加した。遊びじゃないんだから金取るぞ。
『レベルがあがりました』
「にゃっ!」
黒鴉がジャイアントゴブリンを倒した経験値のおかげでまたレベルアップした。
早速ステータスを開いてチェックした。
【 職業サタンちゃまレベル134 魔力1059 攻撃力422 力405 体力202 素早さ308 幸運1596 特殊スキル 悪魔ガチャレベル24 魔石ガチャ16 *New! 魔人具ガチャレベル1 サタンちゃま属性闇 】
「にゃっ!?」
ステータス画面のNewの赤表示に目が入った。
なんと新スキルを習得した。
それにしても魔人具ガチャってなんだ……恐らくだけどアイテムガチャかな?
「……」
一回回すのに魔力100消費か……今は回せないことはないけど高額ガチャかよ。
とりあえず百聞は一見にしかずだ。試しに一回回してみよう。俺は空に向かって両手を掲げた。
「魔人具ガチャスキル発動にゃっ!」
ガインッ!!
「キャアアッ!!」
突然落下して来た三台目の新たなカプセル自販機にメリーが驚きすっ転んだ。
「危ないじゃないのちびっ子!出すなら先に言いなさいよっ!」
「ごめんにゃ……」
お尻を摩って起きあがったメリーに本気で怒られた。
「でもなによ……見たことないガチャ機ね……」
「にゃにゃっ♬ 見たかメリー。これがアタチの新たなガチャスキルの魔人具ガチャにゃ♫」
「おっ!流石社長っ♬」
「にゃにゃっ♬」
黒鴉に乗せられヤンチャだった昔を思い出し調子に乗ってしまった。
危ない危ない。過去の人格は封印していたんだ。今の人格は消極的だった頃の高校生新崎英太だ。
「と、とりあえず一回回すにゃ……」
魔力100消費してハンドルを回した。
ガチャッガチャガチャッ……ポンッ!
「にゃっ!」
初っ端からプラチナレインボーのカプセルが飛び出した。
「ちょっと初めてなんじゃない?」
「落ち着くにゃメリー……まずにゃモノを調べてからにゃ」
パカッ!
カプセルが開くと中からドライヤーが飛び出した。
虹色の綺麗なドライヤーだが用途は不明だ。だから俺はメリーに頼んで鑑定してもらった。
「しょうがないわねーうんまい棒もう一本追加で許してあげる。んじゃ調べるわよ。鑑定スキル発動っ!」
メリーが虹色ドライヤーに手をかざした。
【 魔人具コレクション1 星6再生ドライヤー (用途) 壊れた無機物に風を送ると再生させることが出来る魔法のドライヤー。なお、無制限に使用可能だが有機物は対象外 】
「ちょっとコレヤバくない……」
効果のヤバさに気づいたメリーが思わず口を手で押さえた。
生命は不可だけど無機物を何回でも再生可能なドライヤーとは確かにとんでもない性能だ。
いきなり当てた初めての星6だ。
その魔法のドライヤーを握った俺の手が震えていた。
こんな凄い道具を悪用されたら大変だ。
俺は後ろを振り向いた。例の成り金親子は談笑中でドライヤーには気づいていないようだ。
特に強欲そうな親子だから俺はドライヤーをそっとポッケに入れ隠した。
『とりあえず帰るか……』
「困りますね〜せっかく私が蒔いた魔物を駆逐されますとは……」
「!?」
『今度はなんだよ?』上空から優し気な男の声がした。それで空を見あげると、白いスーツ姿で七三分けの眼鏡の男が手を後ろに回して宙に起立していた。
「誰だお前っ!?」
黒鴉が謎の男に向かって剣の切っ先を向けた。すると優し気な表情を浮かべた眼鏡の男が振り向いた。
「皆さんこんにちは、私くし魔王軍13交響楽団幹部の一人。チェロと申します」
「にゃっ!?」
楽団繋がりの名前。
コイツか日本中に魔物をばら撒いていた奴は……それにしても優し気なサラリーマンにしか見えないな。
まぁ、空に浮いているからタダ者ではないのは確かだ。




