サタンちゃま新国会議事堂に行く
朱雀と名乗る女性エージェントに俺たちは案内され国会議事堂に着いた。議事堂の隣にギルド教会が建っている。
つまり来たのは二回目だ。
しかし朱雀さんは隣にあるギルド教会には寄らず、真っ直ぐ議事堂に向かって歩いて行った。
俺と聖女さまはメイドさんを車に残し、朱雀さんのあとについて行くことにした。
「お入りください」
朱雀さんが会議室のドアを開けると中にどうぞと勧めたので、俺と聖女さまは中に入った。
会議室の中はパイプ椅子が三脚あるだけで殺風景な雰囲気。
まぁ、究極の無駄を省いた作りとも言える。
「改めて初めまして、私日本政府直属異世界対策本部広報を務めさせてもらってます朱雀です。よろしくお願いします」
正面に立った朱雀さんがお辞儀をしたので、俺も釣られてお辞儀した。
そのあと聖女さまに『政府の犬に気を使わなくてもいいよ犬』と釘を刺された。
聖女さまは俺と広報どっちも犬に見えるらしい。
「まず初めにこの議事堂が三百年前に再建された歴史はご存知でしょうか?」
「知ってるにゃっ!」
朱雀さんの質問に俺は立ちあがり手をあげた。
そしてチラリと横に座る聖女さまの様子をうかがった。どうやら異世界人の彼女は知らないらしい。
「にゃはっ♬」
初めて聖女さまに知識で勝った気がした俺はニンマリして笑った。
「にゃっ……」
その直後悪寒が走った……。
「うふふ……その笑みはどういう意味でしょうか? サタンちゃま……飼い犬、いや、飼い猫」
「にゃっ!」
聖女さまは満面の笑顔で会話の最後に毒吐く。
俺は恐怖で硬直した。彼女が怒る時は満面の笑顔だからすぐに機嫌が分かる。
じゃあ普通の時ってなんだと言ったら笑顔が誤差程度なんだけど、慣れてくるとその誤差で彼女の喜怒哀楽を判別出来る。
「あの〜大丈夫ですか?」
事情の知らない朱雀さんが心配して声を掛けてくれた。だから俺は無言で頭を縦に振った。
「大丈夫にゃん! えっと確か三百年前に隕石の落下とかで議事堂が倒壊したらしいにゃ、その後立て直したわけらしいにゃ……」
教科書にも載るような議事堂の歴史。ただ妙に頭の中でそれは事実ではないと思うことある。
まっ、知らんけど。
さて、つたない言葉で説明していると、つまらなそうに足を組んで頬杖をついた聖女さまが横で、『区切り区切りににゃーにゃー挟んで聞き取り難い』とケチをつけた。
『仕方ねーだろっ!』この幼女の身体が俺の思考に追いつかなくて声が幼児言葉に変換される仕様なんだから。
本当、聖女さまに俺の猫口調があざといとかイジられるけど、果たして冒険が終わるまで何回突っ込まれのやら。
「はいっ良く言えました。確かに学校の歴史の授業では三百年前に、国会議事堂が隕石の落下で潰れてると教えて来ました。でも本当の事実は違います」
朱雀さんはそう言って人差し指を口に添えてウインクした。
真面目そうに見えて案外軽いノリの女性だ。
「はいっ!にゃったら本当にゃっ議事堂にゃ隕石で倒壊した訳にゃにゃいのだにゃ?」
俺が手をあげ朱雀さんに質問すると聖女さまが『はい六回言った』にゃーにゃーカウントした。
ヒマだからって人の口癖数えんな!
「ふふっ……そうですね。でも質問の答えは教えません」
「にゃんでにゃっ!?」
勿体ぶってそれはないだろう。俺はオーバーにひっくり返ってリアクションしてやろうと思ったが、聖女さまに怒られるからやめた。
しかし、そうなると消えた両親についても教えてもらえるか不安になってきた。
「ふふ……神崎君のその顔は、消息不明のご両親の行方が気になって仕方ない様子ね」
「む……」
サタンちゃま呼ばれに慣れた今、苗字で言われるとなんか気持ちがむず痒いな……。
しかし、まさかここまで来て両親の行方も秘密にする訳じゃないよな朱雀さん?
「えーっ消えた神崎君の両親の行方については既に把握済みです。しかし、今は言えません」
「にゃったらにゃんで呼んだのにゃっ!?」
思わせぶりに国会まで連れて来て両親の行方は秘密だ。
ビックリ仰天した俺は立ちあがって、朱雀さんに指差しツッコミを入れた。
『…………』
幼女にツッコミを入れさせるなよ。全く不本意だ。
「ふふっそう言うと思ってました。はいっちょっとこのモニターをご覧ください」
朱雀さんが指を指すと空間からスクリーン映像が表示された。
映像の内容は各地が色分けされた日本地図だ。
「北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、沖縄とそれぞれのエリアにボス魔物が生息しております」
なるほど、色分けの意味がそれか……しかし、そのあとのお姉さんの話しを聞かんでもなんとなく展開が予想出来た。
聖女さまが不意に立ちあがった。
「つまり全てのエリアのボス魔物を退治しろと言いたい訳ね?」
「……その通りです。流石は聖女様ですね」
「その位分かりますわ」
朱雀さんに一目置かれ、鼻高々な聖女さまは鼻を鳴らすと座った。
彼女は聖女さまの扱い方俺より上手いじゃん。今度真似しよ。
「その依頼受けて立ちましょう。なに、丁度ウチの犬の育成ついでに全国制覇して差しあげましょう」
「うにゃっ……」
そう言って聖女さまは俺の頭を撫でた。全く人を猫とか犬とか言って酷いご主人様だ。
「で、報酬は?」
「あら抜け目がないですね聖女パラル様……」
「当たり前でしょう。こちらは別に慈善事業で冒険者やってる訳じゃないのだから」
聖女さまは気づいてないけど態度がまるでチンピラだ。
やっぱり気を許した時に素が出るんだね。
「それは当然、それ相応の報酬を差し上げる予定です」
「あらっ…………別にいいのに…………でっ、報酬とは?」
興味のない素振りでおしとやかに微笑む聖女さま。と思わせといて食い気味で聞いた。
お口を手で隠し、微笑みながら右手の平を差し出す聖女さまに、朱雀さんは苦笑いを浮かべた。
「報酬は隠蔽された三百年前に起こった真実を教えて差しあげます」
「へえ……まさか報酬が情報とはねぇ……てっきり金かと思ってました。しかし、その情報が金貨より貴重だとおっしゃりますの……」
「ええ、その情報は、今後貴女方が異世界大陸を冒険する上で有利となりますでしょう」
朱雀さんが聖女さまに近づいて握手を求めた。
「ふふっそんなに貴重な情報なら悪くないわねぇ」
聖女さまは立ちあがりと朱雀さんの手を握った。俺の意志とは関係なく契約が成立した。
それはいいとして俺の消えた両親の行方は?
朱雀さんの姿が滲んで見えた。すると彼女が俺に気づいて振り向いた。
「あらっそんな泣きそうな顔して大丈夫よ神崎君。もちろん行方不明のご両親の情報も報酬に含まれているわ」
そう言って朱雀さんは俺の目線までしゃがみ頭を撫でてくれた。
優しいなぁ、どっかの聖女さまと偉い違いだ。
『良しっ!』一丁甘えてみるか。
「朱雀のお姉さん。今じゃダメなのにゃっ……?」
どうしても語尾に猫が見え隠れする。
「ふふっ……駄目よ」
『駄目なんかいっ!』ケチ!
朱雀さんは悪戯っぽく微笑みウインクすると、人差し指でお口にチャックのジェスチャーした。
『同情作戦は駄目かぁ……』
なんか体良く誤魔化された気がした……。
しかし、彼女の言ったことが本当なら、三百年の間隠蔽されてきた歴史。
本当の歴史とは俺でも気になるな。
「それでは早速関東地域のボス魔物の討伐に向かってもらいましょうか」
こらこら朱雀さん。勝手に話を進めるな。
「ふっよろしいですわ。で、場所は?」
自慢のモーニングスターを握り締め聖女さまはヤル気だ。
「分かりました。ボスの位置は把握してます。場所は神奈川県ネオ横浜跡地……」




