サタンちゃまと新たな旅立ち前日譚2
翌朝ホテルの客室のシャワーを浴びてから一階のビュッフェで朝食を食べた。
この次なる旅立ちに期待しながら食べる朝食は格別だ。
ちなみにメニューは和食で味噌汁と白飯と鰯のみりん干しと海苔の一見質素に思えるが、これが味噌汁を一口啜ると濃い出汁の旨味が口に広がって驚いた。
これは大量のカツオ節で出汁を取った。一流ホテルならではの味噌汁だと思った。
プロの料理人の谷川シェフも感心しながら味噌汁飲んでたな。
で、西洋系異世界人のメリーは『くっそ質素』とか食う前からコキおろしていたけど、試しに一口入れたら評価が上向いた。
「ちょっと地味だけど美味いわよ」
結局彼女は完食してお代わりないか聞いてきた。それで残念ながら一流ホテルだから食べ放題形式ではないと説明した。
「えーっもっと食べたい」
ワガママ言うな。そこは妥協してコンビニのおにぎりで我慢しろメリー。
朝食を終え準備を終えた俺たちは東京に戻る前に、エイジに挨拶しに鞍馬山に寄った。
「おうっ……東京に戻るのか……」
パイプ椅子に座っていたエイジが振り返った。しかし一年も同じ場所で座っての監視作業大変だから、せめてもっといい椅子に座ったらと思った。
まぁ、エイジの性格からして気にしないのかもね。
「ええ、東京に戻って翌日にフェリーに乗って小笠原諸島に向かってそこから隣りの異世界大陸に入ります」
「そうか……魔王討伐は残り幹部十一人を倒してからだから一筋縄ではいかないぞ聖女」
「ええ、分かっております神様」
「まぁ、一年以内に魔王討伐を成功させる鍵は三つだ」
正面を向いたエイジが三本の指を立てた。
「一つは強い仲間をもっと増やすこと。そして二つ目がそこのサタンの最強の悪魔五将軍を全てガチャで引き当てること。で、最後に三つ目は希望なんだが、勇者と手を組むことだ」
「勇者ですか……複数いるのでなんと言っていいか……」
俺が最初に会った女垂らしの金髪の勇者ガレオとか、自称勇者とか他にも複数いるらしい。
まぁコイツらは名声と富と女を求めた偽者が大半らしいけど、ただ一人本物がいるらしいな。
三百年前魔王を倒し俺を捕まえた勇者の子孫のピンク髪の少女。
詳細は不確かだけど、勇者に目覚め英雄たちを仲間にして魔王討伐の準備中らしい。
エイジが言った三番目の魔王討伐の鍵なんだけど、彼女と会ってみないと分からないのが現実。
勇者なら魔王は倒せる。しかし、倒せるのは肉体だけで魂は滅することが出来ないらしい。
倒せるのは神か、神の血を引く聖女さまだけらしい。もしも、神の資格を持たない者に魔王が倒されたら、その殻に閉じ籠った魔王魂は百年間休眠に入る。
その間は神であっても殺すことが不可能らしく、Sドラコスを討伐する術を失い世界は終わる。
『もし勇者と同盟を結べなかったら、お前らの新たな旅は厳しい物になるだろうな』とエイジが付け加えた。
「まぁ、俺の肉体を維持出来る期間が一年だから頑張れ。その間だけはSドラコス を監視してるから任せな」
「頼みます神様」
「ああ、こちらこそ頼んだぞ」
お辞儀する聖女様にエイジは手を振って『本来なら俺が直接異世界大陸に乗り込んで魔王を殺せばいいのだが……いかせんSドラコス の回復が早くてこの場を離れられねぇ……』と言って背を向け監視作業に戻った。
「では出発しましょう」
「ああ、いよいよだな」
「任せるのだ」
聖女さまの一声に、谷川シェフがキッチンカーにエイトさんがたこ焼き屋台に乗り込んだ。
一つ疑問。
谷川シェフのキッチンカーは異世界大陸の旅に必要だとして、果たしてたこ焼き屋台は役に立つのであろうかはなはだ疑問だ。
□ □ □
京都から半日掛けてエアカーで東京に到着した。フェリー出航が明日なので政府が用意したホテルに一泊だ。
「お土産屋に行くわよちびっ子!」
「にゃっ……」
俺の手を引っ張るメリーが早くもウキウキだ。地方のホテルに泊まると一階に必ずある土産物コーナー。これが楽しくてついつい無駄遣いしてしまう。
「土産屋どこよ……」
メリーがキョロキョロして土産屋を探していた。まぁ、洒落た東京のホテルだと無かったりする。
「にゃいみたいにゃが……」
「嘘……楽しみにしていたのに、これじゃさきイカ買えないじゃないの……」
メリーは肩を落とした。
『さきイカっておっさんかよ!』まぁ、旅館で食べる酒のつまみは美味しいのは同意する。
しかし無い物はない。
あきらめ切れなかったメリーは俺を連れて、近くのコンビニで酒のつまみを購入した。
もちろん酒は当然買わなかったよ。
「ところで犬、いや猫……」
「にゃっ……」
客室に入ると聖女さまが話し掛けて来た。
わざわざ言い直したけど、どちらも間違いだよ。猫口調だけど俺はサタンちゃまだ。
「魔力は戻った?」
「ぼちぼちにゃっ」
「……それと負傷した召喚悪魔の様子は?」
「え〜とちょい待つにゃ……」
ステータスを開いて悪魔ファイルをタップした。カード表示された悪魔に斜めの赤い線が入っていた。赤線入りの悪魔は修復中だ。
その中で、一番の主力の悪魔騎士クレナがもっともダメージが酷く赤線入りだ。
「そうなると現時点で使えるのは雑魚位かしら?」
「にゃっ……」
レッドデビルたちが泣いてるぞ。雑魚言うな聖女さま……。
「異世界大陸に入ったら、ガチャスキルを使う機会が増えると予想されますから、魔力の温存をすることいい?」
「分かったにゃ」
「フッ賢いわね。ヨシヨシ……」
「にゃっ……」
『聖女様が俺に賢いと褒めて頭を撫でるな!』これは飼い主が猫を褒めるやり方じゃないか。
まぁ、いいけど俺は聖女さまに期待されている。だから素直に嬉しいよ。
このあと皆んなで夕食を取ってから、お風呂に入って明日に備えて寝た。
いよいよ明日はフェリーで小笠原諸島だな。




