サタンちゃまと新たな旅立ち前日譚1
「よおっ、帰って来たか」
鞍馬山に戻るとパイプ椅子に座る新米神さまのエイジが振り向いて、俺たちに声を掛けた。
前世が暴走族総長だけあって攻撃的な目つきだ。しかしすぐに前を見すえて黒光りする鉄球を睨んだ。
視線の先には真っ黒な球体が地面から50センチほど浮かんでいた。
鉄球の正体は、空から降って来た魔王レプリカことSドラコスの強固な殻に包まれた魂。
魔王が生きている限り巨ジンは二十四時間以内ランダムに復活する。これが何回倒しても魂がある限り永遠に再生されると言うから厄介な話だ。
だからエイジは寝ずに見張ってるみたいだ。
俺たちはエイジの元に近づいた。
『一人で見張りとは大変じゃのう』
「そんなことねぇよ竜神様」
案外元気そうなエイジがアゴをしゃくった。
周囲には彼女をサポートする軍人や政府スタッフが慌しく働いていた。
「別に疲れやしねぇが、眠い時は寝る。あ〜心配ご無理。なにかあったらスタッフが起こしてくれるから安心なんだ。ん……ちょっとだけ待ってくれ……」
不意に会話を中断したエイジが立ちあがった。
そして視線の先にはSドラコスの魂の核。それが振動していた。
『こちら第六機動部隊っターゲットの再生活動を検知っ警戒レベルSから、警戒レベルSSSに変更っ速やかに行動せよっ!』
慌ただしく無線連絡する兵士たちの声が聞こえ、現場に緊張感が走った。
ちょっと不謹慎だけど、このリアルな現場の緊張感が厨二病を刺激するな。
「慌てるこたぁ……ねぇよ」
慌てふためく現場に対して気だるそうなエイジは首を鳴らし、球体に近づいた。
そして右手をあげ、金色の手甲を装着した。
「んご……お、おお、おお〜〜〜〜お、おおーー……」
グネグネ動いた球体が見る見る人型になって3メートルの巨ジンが再生され唸り声をあげた。
『ヤバいぞ』世界を破壊する巨ジンが蘇る。
「よう、ずいぶん早い目覚めじゃねーかドラコス?」
「…………………………………………」
エイジの声掛けに反応しないSドラコス 。どうやら刺激的な彼女の身体に目が釘付けだかららしい。
「んっ……どうした? ガン見して俺の顔になにかついてるか?」
「おお、おおぉぉぉぉおおぉぉっ……………たぎる!」
「…………てめえ…………俺見てたぎってんじゃねえぞコラッ!!」
「グオッ!?」
視線の先が自分と気づいたエイジがすかさず『ゴッドナックル』を奴の土手っ腹に打ち込んだ。
たった一撃で吹き飛ばされた巨ジンの身体が壁に激突して砕け散った。
『ほっほっ……流石はスサノオの弟子じゃ、ワシが出る幕じゃなかったゾイ』
俺の隣りで見ていた竜神さまが肩を震わし笑った。まぁそう言うけど、竜神さまでも奴を相手にするのは少々厳しいんじゃないかな……相性とかあるし。
「いや……まだまだっスよ竜神さま。奴の肉体を破壊出来ても、魂までは破壊出来ねぇ……」
『ふむ……』
バリンッ!ジワジワ……
奴の肉体がチリと消えても魂が瞬時に強固な殻に覆われ休眠に入った。こうなると神であっても殻を砕けないそうだ。
しかし短い眠りだ。
次の目覚めは二十四時間以内と言われている。まぁ復活する時間に法則があれば苦労しないんだけど、ランダムにいつ復活するか分からないから、四六時中エイジが現場に張りついて見張るしかないらしい。
『大変じゃのう……』
「なに……平気っスよ」
席に戻ったエイジが竜神さまに同情され、座って肩をすくめ答えた。
まぁ、神さまだから疲れないのかも知れないけど、それにしても余裕のある態度だ。
エイジの周りにはサポートするスタッフがいるから寝る時間はある。それでも俺たちが魔王討伐するまでずっと見張っているのは大変だな。
「巨ジン位……俺に掛かればワンパンスよ。しかし……魔王と繋がっている限り魂は壊せねぇ、だからよ」
「にゃっ!」
エイジがギロリと俺を睨んだ。
「おいサタン。お前が過去にやったことは認めねぇが……神の血を引く聖女の力になってくれ」
「……分かったにゃ……」
「おうっ!頼むぞサタン。さて今からバーベキューでもするか?」
「にゃっ……」
ヒザを叩いて立ちあがったエイジが急にフレンドリーに接した。
俺に敵意を向ける天使に比べて彼女はちょっと普通と違い。心が柔軟だ。
「飯なら俺が用意するぜ」
いつの間にか現場に来ていた谷川シェフがニヤリと笑った。
「おおっ!丁度いいっ谷川っ用意してくれるか?」
「ああ、任せなエイジ」
二人はハイタッチした。
お互い似た性格なのかすでに意気投合していた。
そのあと聖女さまたちが合流して日本クエスト最後の夕食が開始された。
で、俺は腹が減ってないが、スタッフも参加する大規模なバーベキューパーティーとなった。
「俺が焼くから、どんどん食べてくれ」
肉奉行を勝手出る谷川シェフが肉を焼き始める。香ばしい肉の香りがして食欲をそそるが、それはなんの肉なのかな?
皆んな気にせず食べているけど魔物の肉だったりして……。
『ふむ、美味そうな匂いだな』
俺の横にいる戦闘機形態のE-アルマーが言った。
「ところでお前は食べれるのかにゃ?」
俺は素朴な疑問をアルマーに投げ掛けた。
『残念ながらミーはロボだから食事を必要としない。しかし、匂いはセンサーで感知出来るぞ』
「そうかにゃっ……悪いこと聞いたゃ」
『なに気にするな。それよりミーに構わず肉を食べろよトモよ』
「にゃっ!」
そうは言ってもさっき洋食食べたばかりで腹が減ってないんだ。
だけど神さまを交え、皆と一緒に食事をするのは楽しいな。
その後俺たちはバーベキューを楽しんだ。そして明日の東京に向けて、ホテルに戻り就寝した。




