ふて可愛悪魔王サタンちゃま天界で裁かれる
ふてぶて可愛いの略(ふて可愛)
天使軍が管理する天界にある刑務所に、罪を犯した悪魔たちが大勢収監されている。
地獄に刑務所を作ればいいと思うのが普通だが、悪魔の場合下層に行くほど闇力が増してしまうので、光が強い天界にあるのはそのためだ。
その天界の刑務所内で最大級に警戒されているのが、地上界で天使軍とサタン軍との戦争最終戦争を2回起こした悪魔王サタン。
見掛けは幼稚園児クラスな女の子。可愛らしい外見から、サタンちゃまの愛称で呼ばれている。
そんなサタンちゃまが天界の刑務所に収監されたのは約300年前。その間厳重に監視された刑務所の奥の牢獄に閉じ込められてきた。
そして現在刑務所の通路を、軍帽を被り軍服を着たキラキラ輝く銀色のロングヘアに、端正な顔立で知性を感じさせる眼鏡を掛けた美しいな女性が拳を握り締め、音を立てながら歩いて行く。
彼女の名は天使騎士ユウト。
第二次最終戦争で大活躍した天使軍の戦艦虹不死鳥号の二代目艦長だ。
そんなユウトが刑務所の最深部中央に辿り着き足を止めた。鉄格子の扉の左右に天使騎士二人が警備していて、ユウトに気づくと敬礼した。
「サタンに用がある。扉を開けてくれ」
「ハッ! しかしユウト艦長っ十分に気をつけてください。サタンちゃまは相変わらずイタズラ好きでして」
「サタンにちゃま付けはよせ! まぁそのために用心して部下を連れて来たのだ。大丈夫だ」
「ハッ、では」
警備兵が鍵を開け扉を開いた。
部下より先にユウト自ら牢獄の中に入った。すると突然ピンクウサギのぬいぐるみが飛んできた。
ユウトは無表情でぬいぐるみを叩き落とす。今度はクマのぬいぐるみがユウトの顔を狙って飛んできた。しかしまた叩き落とす。
すると懲りずにゾウのぬいぐるみが飛んできたのだが、ユウトは首をそらして避けた。
「このにゃろ〜……避けんにゃ!」
牢獄の奥から幼い女の子の声がする。しかしその口調が猫みたいであざとく可愛い。
しかしユウトはニコリともせず、ぬいぐるみに囲まれたベッドに座るちびっ子を睨んだ。
身長は100センチ前後で水色ハーフアップのロングヘアに、戦うニチアサ魔法少女アニメに出てきそうな黒いドレスを着て。エメラルド色の大きくクリクリした瞳と色白肌の非常に可愛らしい女の子だ。
しかし頭に小さな二つの角が生えており、腰に先端が鍵型の黒い尻尾を生やしている。
そんな可愛らしい幼女を見たらニヤケてしまうのが普通だが、ユウトの場合人差し指で眼鏡のブリッジを押して、大きくため息ついたあと眉間に皺を寄せた。
「おいっサタンッ!」
「何だ?」
「チッ、ぬいぐるみ投げておいて『にゃんにゃ』じゃないだろ。ああ忌々しい悪魔王サタンめ……本日キサマに対し天界裁判所で判決が下される。さっさと準備してついて来い!」
「にゅっ……にゃんにゃとふじゃけるにゃ……」
どちらかと言うとふざけているのはサタンちゃまの猫口調だが、ワガママなちびっ子の小さな拳が怒りで震えていた。
「いいから抵抗せず大人しくコッチ来いっ」
「あのにゃっ、それが人にお願いする態度かにゃ」
「うるせえっ悪魔っ! グダグダ言わず来いって?だろっ、このチビ助っ!」
「にゃっ……」
ユウトに怒鳴られ一瞬固まったサタンちゃまだったが、ベッドの上でスクッと立ちあがりピョンと飛び出すと、ユウトに向かって突進して来た。
「このにゃろ〜〜っ」
「クッ、貴様っ」
ユウトから1メートル距離を詰めた瞬間ジャンプして頭突きを繰り出した。
「にゃんっ!」
「おっと!」
戦車さえ横転させる威力のあるサタンちゃまの頭突きを、ユウトは両手でキャッチした。
「舐めんな……ちびっ子っおりゃあっ!」
そのまま振りかぶりベッドに叩きつけた。バウンドして倒れるちびっ子。
「にゃにっふにゃあっ!」
「はぁはぁ……もう見切ってんだよっクソが!」
知的なユウトは頭に血がのぼると口調が荒くなる。がっ、ちなみにサタンちゃま限定だ。
だがサタンちゃまは直ぐに起きあがった。
「……このにゃろ〜〜」
「なにっ!」
めげずに起きあがったサタンちゃまはユウトに向かって再度突進し、頭突きを繰り出す。
「にゃんっ!」
「また頭突きかっ見切ったって言ってんだろっ! 舐めんなっおりゃっ!」
再度キャッチしてベッドに投げ飛ばす。
「にゃむ〜〜……ふじゃけるにゃっ!」
「なにっ!」
逆さまになっていたサタンちゃまが起きあがりまたユウトに突進して来た。
「チッ、なんてタフなちびっ子だ」
技を破られ痛めつけられても、何度も立ちあがり向かって来る強靭な精神力にユウトは舌を巻いた。
「にゃにゃっ♬ アタチをその辺のちびっ子と一緒にするにゃよ」
「くっ、来るなっオラッ!」
「にゃっ!」
ユウトはちびっ子相手に本気のストレートパンチを繰り出し殴り倒した。
「ふにゃあっ!」
頬を殴られ転がるサタンちゃまが壁に激突し、下を向いて動きを止めた。
「……」
「はあっ、はあっ……流石に黙ったか……」
するとサタンちゃまが顔をあげた。
「なにっ!」
「このにゃろ〜ユウト」
「なっ、本気で殴ったのにまだ起きあがるのかっ、しかもまだ起きあがるのかっ!? 普通子供なら今頃大泣きするのにケロッとしてる……お前本当ちびっ子の癖にタフだなぁ……」
倒しても倒しても向かって来るサタンちゃまに根負けしたユウトが、疲労で床に膝を付けた。
「にゃにゃっ♬ もう終わりかにゃユウト?」
「くっ、僕はキサマと遊ぶために来たんじゃない。本日キサマの罪が天界裁判所でくだされる。だからさっさと来い!」
「にゃにっ……ふじゃけるにゃこにゃー!」
「なっ……!」
サタンちゃまが両手をあげてユウトにキレた。まさかの逆ギレに呆気にとられたユウトだったが、冷静を取り戻しズカズカとサタンちゃまに近づく。
「いつまでも子供みたいに駄々こねてないでっ、大人しく裁判所まで来いっ!」
「嫌にゃっ! 誰がおみゃえの命令にゃど聞くかにゃっ! あのにゃ〜、仮にアタチに命令出来るのは唯一育ててくれた猫師匠しかいにゃいにゃっ!」
「なんだよ猫師匠ってこのっ!」
「ふにゃっ!」
ユウトはサタンちゃまの後頭部を殴った。
ちなみに猫師匠とは、過去大天使ミカエルに敗北し田代島に落ちたサタンちゃまの世話した猫神のことだ。サタンちゃまが猫じゃないのに猫口調なのは、猫師匠の影響が原因だ。
「子供に酷いことする女にゃ……」
後頭部に両手をつけて涙目のサタンちゃま。
「ざけんなっなにが子供だ。弱者のフリするのもいい加減にしろよ。大体推定年齢1万歳のキサマに僕は決して騙されないぞ」
「にゃむ〜……もう参った。アタチを煮るなり焼くなりしろにゃ……」
「おいっ、そこで寝るな立て」
「……少しは休ませろにゃ……パクッムシャムシャ……」
渋々起きあがったサタンちゃまだったが、ポケットから棒菓子を出して齧った。
「お前っ、なに食ってる!?」
「にゃにって、アタチの大好物うんまい棒チェダーチーズ味にゃっ、ムシャムシャ」
「だから食うなって! チッ、次裁判中食ったら殺すからな……」
「にゃにゃっ♬ 知るかよにゃっ!」
「……クッソ太々しい子供だ。見た目が可愛いだけに憎たらしさ100倍だな……ほら出ろ」
こうして手錠させられたサタンちゃまは、天界裁判所に連行された。
果たして判決はいかに……。
□ □ □
天界裁判所に到着して法廷に立たされたサタンちゃま。天使たちが見守る中、裁判官を務める黒髪ショートカットのボーイッシュな女性。その正体は大天使ガブリエルだ。
「早速だが、被告人サタンちゃまに判決内容を言い渡す」
「ちょっと待つにゃっボーイッシュ天使。いきなり判決決めるのにゃ早過ぎるにゃっ! ちっとはアタチの言い分聞けにゃ」
「なっ、ボ、ボーイッシュだと……見たまんまの印象で言うな……おほんっ静粛に、もう君のやるべきことは決まっている。三百年前に君が地上界で起こした第二次最終戦争で多くの人命を失った。我々天使軍もな……だからその罪を償ってもらうよ」
「ちょっと待つにゃ、その罪を償うためにアタチは300年間牢獄に閉じ込められてたにゃ」
サタンちゃまの言い分に、ユウトは『いつも食っちゃ寝していて』反省してなかったろと思った。
「うるちゃいにゃ〜外野は黙ってろにゃ、……パクッムシャムシャうんみゃい棒うみゃっ♬」
「サタンッ法廷中に駄菓子食うな!」
原告側のユウトがサタンちゃまに指差し批難した。しかしどこ吹く風かちびっ子は構わず2本目の駄菓子を取り出し齧った。
「そうかもね。だけど事態は急変した。君が捕まってる間、大天使ミカエルが人類を削減するために軍事行動に出た。その行為に反対するラファエル軍と激突し、その後仕組んだ物質界太平洋に設置された銀の塔こと、異世界大陸召喚装置が発動する日が間近に迫ってきた。あと13年後にだ……」
「大陸が突然出現したら大変だにゃ」
「うんっ……世界中大津波が押し寄せ第二次最終戦争の比じゃない位の被害者が出るね」
「にゃにゃっ♬ 人類終わったにゃ」
悪魔にとって天界に味方する人類の滅亡は、願ってもないチャンスなのだ。
不謹慎に笑うサタンちゃまに天使たちからブーイングの嵐が巻き起こった。
「にゃっ! うに〜〜……パクッムシャムシャ」
批難の嵐にパニクったサタンちゃまは現実逃避するためうんまい棒を齧った。
それが更に批難の嵐となった。
「皆様静粛にっ!」
「『……』」
ガブリエルの静止に皆静かになった。
「まぁ、そこは対策をとってある。異世界大陸が召喚される時に被害が出ない様に、神々に頼んでいるからね」
「被害を出さにゃいって、神々でも可能にゃのか……?」
「ああ、そのために天界全ての神々が物質界に降臨する。だけど問題はそのあとだ。異世界大陸は剣と魔法と魔物の世界だ。特に魔王も一緒に召喚され、配下の魔物たちが世界中に散らばり大変な被害に遭うだろう」
「にゃるほど……でっ、アタチににゃにをさせる……まさか魔王軍と戦えとにゃ?」
「察しがいいなサタンちゃま。神々が口々に言った。この危機を救えるのはなんとお前らしい」
「にゃっ……」
「にわかに信じがたいが、神々の声を信じることにした。それで13年後異世界大陸が召喚される。その前にサタンちゃまには人間の男に生まれ変わってもらって、のちに現れる白銀の聖女と手を組んで魔王軍と戦ってもらう。それが判決だ」
「可愛いアタチが人間の男に生まれ変わるにゃんて意味不明にゃ」
「ふう〜っ、見て分からないか? 君は非常識過ぎるから、男に生まれ変わって常識を学びたまえ」
「いっ、嫌にゃっ」
「君に拒否権はないよ。被告人サタンちゃまはこれまで多大な人命を失わせた罪により人転生の罰を与える」
「ちょっと待つにゃ! 多大な人命を失わせたってアタチはただ遊んでただけにゃ……それににゃ〜部下が張り切り過ぎたせで、そこまでやれとは……」
部下のせいにする口籠るサタンちゃまはまるで秘書のせいにする悪徳政治家みたいだ。
それに戦争した理由が遊びと言うのがまた肌迷惑な話しだ。
そんなサタンちゃまの言い分をガブリエルが聞き入れるハズもない。
反省する様子が見られないサタンちゃまに法廷内がザワつく。
「皆様静粛に、では被告人サタンちゃまには、これまでの罪を償わせるために一切の記憶を無くさせ、平均より低い能力の日本人男性に転生させる刑に処す」
「ちょっと待てにゃっ……寄りによってモブ以下の能力の男に生まれにゃくちゃいかんのかにゃ……」
ガブリエルはモブ以下とは言ってない。
土壇場まで駄々こねるサタンちゃまだったが、天使騎士に引きずられ転生神殿に連れて行かれた。
こうしてサタンちゃまは男として生まれ変わり、運命の日まで平穏に暮らすのであった。
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