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いざ、王都へ

その日の夕食はいつになく豪華であった。

メインはマッシが捕ってきた大鳥の姿焼き、大鳥は大陸で最もポピュラーな主食肉で、名の通りに大きな七面鳥に似た鳥である。

家畜化はされていないが、繫殖力に優れており、ポコポコ増える。


飲み物はワインやエールが用意されており、苦手な人はぶどうジュースレベルまでに薄めたものが用意されている。

ミリア嬢が樽ジョッキで煽っているのは恐らくそれだろう。


あとは、蒸した芋やパン、干し肉や果物などがテーブルに並べられている。


「やあケンジ君、楽しんでいるかい?」


「ダロランさん…楽しんでますよ、肉はうまいしワインも薄めてですが頂いています。」


「それは良かった、君の歓迎会も兼ねているからね。

明日の朝にはアケラさんと一緒に王都に向けて出発するんだろう?

3日もかかるからね、その間の食事は必要最低限の質素な物だ、今のうちに食べておきなさい。」


「はい、ありがとうございます。

あの、ダロランさんは王都からこちらに来られたのですよね?

ゴルド国ってどんなところですか?」


「うーん、まあ、分かりやすく言うと不自由のない国だね。

貿易を盛んに行っていて、商人が多いね食うにも寝るにも困らないね。」


「素敵ですね。」


「ただし!この国の王はあの光の王、ゴルド・オーラン様が治る国だ、悪事は働けない。」


「?、働けない?許されないではなく?」


「そうだ、わが祖国ゴルド王国には常に結界が張られており、王が認めぬ物事や言動はすべて!その場において厳罰が下る!!」


「アケラさん!!…かなり飲んでます?」


「うむ、聖騎士時代は基本禁酒だからな、飲める時に飲むに限る。

話を戻すが、王都には結界があってだな、国全体を覆うものだ、これは悪を排除する光魔法でな。

まあ、悪の判断はすべて結界を張った者の裁量で決まる、つまり王様が悪と思った者はその場で罰せられる。」


「ひえ…その罰とは?」


「私が見たことがあるのは、その場で気絶や光の輪による拘束など、犯行後数秒で起こった出来事だ。」


「それは、凄いですね…」

(どういう原理だ?)


「まあ、逆を言えば罰を受けないことはすべて合法ということだ。

売り物も闇市は存在しないし、違法な物の取引も持ち込みも出来ない。」


「なるほど、安全といえば安全なんですね。」


(と言うか、やはりファンタジー世界。魔法が存在するとは。

それも国丸々覆うほどの結界を張るとは。)


「魔法か…」


「明日、馬車でゆっくり教えてやる、記憶喪失の君にこの世界のノウハウを教えてあげよう。」


頼もしい限りである、今のところこの世界に自分の前世を知る者はアケラただ一人。

ヨヴィもそうだが、彼女は現世に降臨しないので省く。

アケラには今後、かなりお世話になるだろう、明日からの王都巡りも彼女のおかげでもある。

彼女のために働こうとケンジは意を決した。


「おうケンジ!!飲んでるか?」


絡んできたのは酔ったリガ。

彼女の肌色は濃いグレーなので頬が赤くなっているのが分からないが。

目が座っているので恐らく酔っているだろうと思う。


「いいかぁ!?お前はアケラ村の代表補佐として王都に行くんだ!

舐めた真似してくる奴がいたら、国の外連れ出してボコボコにしろ!!」


(リガさん見た目細いのにめちゃくちゃ脳筋だよな。)

「ははっ、穏便に行きます。」



こうしてケンジは豪華な晩餐会を過ごしたのだった。



◇ ◇ ◇ ◇



「おはようございます。」


朝起きて顔を洗い、一階のバーカウンターに座る。

そこにはバーテンのジギが朝食を用意してくれていた。


「お前は偉いな。

しっかりと朝起きてくる。」


昨日は夜中まで騒ぎ通しだったので、おそらくミリアとケンジ以外は二日酔いだろう。


「農家は朝が強いんですよ。」


前世でも、野菜配達や早朝収穫などで日が出る前に起きる事なんて普通だったのでこのくらい余裕である。


「はいよ、大鳥のサンドだ。」


「ありがとうございます。」


ジギが出してくれた朝食を食べ終えると、いよいよ出発しなければならない。

今日の朝食は大鳥を焼いたものをパンに挟んだシンプルなものだ。

味付けにワインが鶏肉に染み込ませてある。


「ありがとうございました。」


「おう、気をつけて行けよ。」


この世界には『いただきます』や『ご馳走様』と言った食前の感謝を唱える文化が無いので。

食べ始めや食べ終わりに作った人に感謝を告げる事にした。

信仰深い人は、祈りを捧げたりするらしいが、ケンジの場合は一般人を装いたいのでなるべく珍しい行為を避けている。


食事を終えると荷物をまとめてギルド前に集合する。

荷物と言ってもシスターのラシにもらった紙をまとめたもの(日記にしてる)と初仕事でもらった給料(100G、¥10,000程)

のみである。


「ではすみません、行ってきます。」


「あいよ。」


他の職員は寝てるので特に何も言わずに行く事にした、たった2週間程の出張みたいなものだしな。


ギルドを出ると、金髪ショートボブの女の子が待っていた。

ミリアちゃんだ。


「あ!ケンジさんよく眠れましたか?

いよいよ出発ですね!!」


「ミリアさん!お見送りありがとうございます。」


目の前にはすでに馬車が着いており、アケラの侍女のメメが荷物を積んで紐で縛っているところだった。

アケラはすでに馬車に乗ってるようだ。


「ケンジさん!もう同じ仲間なんですから!

堅苦しい言葉遣いはやめて下さいよ!

私は年下なんですから、ミリアちゃんと呼んでください!!」


ケンジはおそらく見た目からして25歳程だと思われている、前世では47歳まで生きた。

どのみちミリアはまだ17〜8歳程と思われるので年下には変わりはない。


「了解、ミリアちゃん、じゃあ行ってきます。」


「お土産、期待しています!」




◇    ◇    ◇    ◇    ◇




「さて、では改めてだが今からお互いの情報を交換しようじゃないか。

とは言っても、君の異世界の知識と、私のこの世界の知識をあるだけ提供しよう。」


馬車に乗り、中で待っていたアケラと朝の挨拶を交わすや否やいきなり提案された。


「安心してくれ、侍女のメメは口が堅い。そしてこのことはここにいる3人しか知らない事だから情報が洩れたらすぐにわかる。」


チラリと馬車の横窓からメメさんの様子をうかがう。

どうやら荷物の固定が終わったらしく、こちらに気が付き優しく微笑んできた。


「アケラ様、いつでも出発できます。」


「分かった、では出よう。

1か月もかからない軽い出張だ、別れを惜しむまでもないだろう。」


そう伝えるとメメは運転席に乗り、我々を運んでくれる馬2頭の手綱を握り、ゆっくりと馬車を出した。


ここから王都まではおよそ3日かかるとのこと、約600km程と思われる。


「さて、では情報交換会を始めようじゃないか。

まず、何を知っていて、何を知らないのかをハッキリさせたい。」


そこでケンジはメモ用紙に箇条書きで今までに聞いた話などを、アケラに分かりやすいようにまとめた。



・この世界は剣と魔法の世界である

・魔物もいるし、エルフなど人外もいる

・ゴルド国と魔王国は昔は仲悪い、今は仲良し。

・ゴルド国生産性が乏しい、輸入に頼りがち。

・旅人、冒険者、ギルドの関係性


など様々なことを書いた。


「なるほど、君の元の世界は全くもって別世界だな。

文化も発展してるし、種族こそあるものの言葉や見た目しか違わないのだな。」


渡したメモと数回の質疑応答をし、アケラは大まかな世界の違いを把握した。


「うーむ、何から説明しようか。

とりあえずは魔法から行こうかな。」


「おねがいします。」


「よし、まずは見せよう。」


そう言うとアケラは右手を前に出し、手のひらを上に向けた。


「今から見せるのは光魔法だ、この世には光と闇、そして自然の精霊魔法が存在する。」


アケラの右手にうっすらと蛍の光の様なものが集う。


「自然は火、水、木、土、風などが代表的なものがある、私は光と相性が良い。」


そしてアケラの右手のひらには野球ボールサイズの光の玉ができあがった、優しい光だ。


「おぉ、綺麗ですね...」


「だろ?これは一番簡単な足元や周囲を照らす光魔法だ。

まぁ、生憎私は魔法使いではないので原理原則は知らないがな、知ってるのはコツと効果だけだ。」


「専門的な話は魔法使いに聞いたほうが良いって事ですね?」


「そうだな、精霊がどうのこうのとは言うが、見たことないからさっぱり分からん」


どうやら魔法を研究している専門家がいるらしく、よく言う『魔法使い』と呼ばれる存在だそうだ。

会ってみたいが、王都などの一部都市などにしか在籍していないらしい。


「魔法はかなり個人差があるから、一度魔法省に行ってみると良い。

基本的な魔法の知識を授けてくれる。」


「それは興味がありますね、いつか行きたいと思います。」

ケンジはそう言うと紙に魔法省の名前を書き留めた。


この様に少しずつ異世界の知識をアケラから教えてもらいながら王都への道を進んでゆく。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ヴっっ、頭がっ...」


朝、正確には昼前なのだがとあるギルド2階、職員様寝室で目を覚ました女性が1人



「飲みすぎたな...久しぶりに。」


彼女はこの村で事務局長を務める、リガ・アルヘオ。

優秀なエルフの女性である、とは言っても肌が灰色のいわゆるダークエルフと言われる種族だ。


彼女は少し寒い部屋で身震いをしながら着替えをし、一階へと降りる。


「おう、ねぼすけだな、朝食出来てるぞ。」


バーテンダーのジギと軽い挨拶を交わし、朝食を取る。

いつもの硬いパンとスクランブルエッグだ。


今日の予定はまだ何も決めていない、出来れば村の整備や道を作りたいところだが...

人手が足りないのでケンジ達が帰ってくるのを待つしか無い。


「もう行ったのか?」


「ん?ケンジ達か?あぁ、行ったぞ。

朝一番にな、お見送りはミリア嬢がしてた。」


「そうか、帰ってくるのは3週間後かな?」


馬車で3日、滞在がおそらく10日程、その後3日かけての帰路となるから。

おそらく何事もなければそのくらいで帰ってくるだろう。


「だろうな、そうだ。

ダロランが呼んでた、飯食い終わったら会いに行け。」


「わかった。」


おそらくケンジ達が人を連れてきてくれるまでの期間の我々の仕事の話だろう。


朝食を済ませた後にギルド長室へと向かう、とは言ってもただの事務室だが。


「マスター、入るぞ。」


ノックして入室すると、事務机に座り書類を眺めているダロランの姿があった。


「なんか様か?」


「あぁ、道の整備の話が出たので話ておこうと思ってな。」


道の話とは、アケラ村から伸びる魔王国領への道とゴルド王都までの道の事である。

双方とも重要な道であるにもかかわらず、でこぼこしてたり生い茂っていたりと整備されていない。


「道の件だが、その前に見てほしいものがある。」


「見てほしいもの?」


ダロランは机の引き出しから一通の便箋を取り出した。


「これは…。」

リガが受け取った便箋には『北の村様』と書かれており、職員宛というよりは村そのものに要件があるような書き方だ。


「送り主は…?」


『魔王国領南部地域 貿易担当』


「ま、魔王国…。」


リガとダロランはどうにも悪い予感がしだした。


1か月に1回更新を目安に頑張らせてもらいます!!

気長にお待ちくださるとありがたく思います!!

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