異世界会議
「君、異世界人だろ。」
2人きりの会議室で、領主アケラから突然飛んできた質問に心臓が飛び跳ねる。
(え?なんでバレたの?何か不自然な点があった?やっぱり1日で花壇を綺麗にするのは怪しすぎたか!?)
冷や汗が噴き出るケンジをよそに、アケラは口を開いた。
「慌てなくていい、私も大天使ヨヴィ様に会ったのだ。大まかな事情は聞いているし言及するつもりは無い。」
「へっ?」
情けない声が出てしまった。
「まぁ、順を追って話そう、座ってくれ。」
「は、はい。」
対面に座り面接の様な形で座る。
「私がドラゴンを倒した話は知っているかな?」
「あっ、はい。教会の方から聞きました、魔道具とかを使い仲間の力を借りて倒したと。」
「うん、大体合っている、真実を話そう。」
『騎士の心』と言われるペンダントを取り出す、楕円形の鉄塊に十字架と剣が二本クロスしたものか刻まれたものだ。
「これを使えば歴代騎士の心構えと強さを引き継ぐことができるとされている。」
「はい、自分もそう聞きました。」
「実際は違う。」
どういう事か聞き返す前に答えは返ってきた。
「これは使用すると死に至る、特級マジックアイテムだ。」
◇ ◇ ◇ ◇
時は半年ほど前に遡る。
場所はアケラとドラゴンが対面し、『騎士の心』を使用した瞬間。
「....ここは、私は死んだのか?」
アケラは真っ白な空間に居た、先程までドラゴンと対峙していたのに、気が付けば見慣れぬ神秘的な場所。
「まぁ、死んだと思うのが普通よね。」
「誰だっ!!」
剣を抜こうとしたが抜けない、びくともしない。
「おっと、ここは私の空間、武力なんて無効だよ。」
話しかけて来るのは真っ白な人、いや、背中に生える大きな翼は人とは呼ばない。
一般的には天使というのが普通だろう。
「何者...」
「こんにちは、私の名前はヨヴィ、アストログロブ・コーネリア・ヨヴィ、一応君たちの世界では信仰対象だよ。」
「!?っ!!」
思わず後退りする、嘘をついている可能性もあったが、未知の力、神秘的な場所、美しき姿。
そしてその言葉には不思議と説得力があった。
「...どうしたの?黙り込んじゃって?こっちきて座りなよ。」
「...はい。」
不思議と落ち着く声をかけられ、アケラはおずおずと机の前に座る。
「ちょっとまってね、書類探すから。」
アケラの目の前にいるのはあの【アストログロブ教】で信仰されている、あのアストログロブ・コーネリア・ヨヴィ!?
もし本物なら神と対面している様なものだ、実のところアケラは熱心な信者では無い。
騎士の仕事で教会と関わりがあった程度だ。
だが、それだけの関わり、知識でもこの事は大事だとわかる。
この世を作りし存在にして、生きる者の生と死の管理者。とされている存在だ。
「はい、お待たせしましたっと、アケラ・グラディウスさんね。」
「は、はい!!」
「じゃあ要点だけを話していこうかな、今仮死状態だから早くしてしまおう。」
「っ?えっ!?」
「君の使用したマジックアイテムだよ、アレは使用者の死後にその力と知識を貯める物だっけ?」
「はい、使用した際にその力を貸して頂けると聞いてます。」
「表向きはね。」
「はい?」
ヨヴィはペンダントをちゃぶ台の上に置くと詳しい説明をしだした。
「これはね、使用者を一回殺してトクトクプロジェクトを効率良く循環させるために作られた物さ、前の代の先輩方の仕業だろうね。」
「??と、トクトクプロジェクト?」
「まぁ、早い話一回死んで蘇るアイテムだよ、その際に神の恩恵を授かるって話。」
「まさかっ!先代の騎士団長や隊長らのみが使えた技と言うのは!!」
「ちょっと名前と顔は思い出せないけど、何人か騎士の人を対応したのは覚えてるよ。」
「...なるほど。」
(過去の騎士団長らは一度ここに来て力を授かり、その力で我々を守っていたのか)
「で!とりあえずなんだけど仮死状態だから早いとこ能力を授けて早く戻らないとね!
じゃないとほんとに死ぬ。」
その後ヨヴィからトクトクプロジェクトの話を聞き、半分くらい理解できないまま話が進んでいく。
「まぁ、とりあえずはどんな能力が良い?君達の場合、人の命助けてばかりだからポイント多いよ。」
「...でしたら、戦闘特化のものを。」
「了解、今ドラゴンと戦闘中だもんね。
はい、つけたよ。」
「早っ。」
「じゃあまた教会とかで祈ればお話しできるから!!早く戻りな!」
アケラの体が薄く光ってゆく、体が重くなり夢から覚めて行くような曖昧な感覚を覚える。
「あ、あと!ケンジって青年が北の魔王国との境界付近の村にいるはずだから、その子の事頼むね!!彼も君と似たような転生者だ。
異世界からだけどね......」
薄れ行く意識の中でヨヴィの声だけが頭に残る。
◇ ◇ ◇ ◇
(......)
目の前にはドラゴン、先ほどまでの事は走馬灯のような感覚で一瞬脳裏に蘇った淡い記憶のような感覚だった。
(幻覚か?いや、体が軽い、今ならドラゴンすら一撃で屠る事が出来そうなほど気分も良い。)
どうやらアケラとヨヴィのやり取りの間は時間が止まっていたかのように、戻った時はアケラがペンダントと剣を掲げて意を結したタイミングだった。
(先程のが幻だったとはいえ、やるべきことに変わりは無いな。)
(その心構え、良し。)
(!!!???)
突然脳裏に声が響く。
ドラゴンか?と思ったが、ドラゴンは変わらずこちらを警戒して居る。
(私はこの騎士の心に誓った騎士の1人、其方の力になろうぞ)
(私も居るぞ、大戦により散ったこの命、貴様の力になる事を約束しよう)
アケラの頭はもうパニックパニック、現実世界の数秒間に大天使と転生を体験した後に、先代が脳に語りかけて来るとなると混乱するだろう。
が、幸運なのかヨヴィが先を見据えてたのか。
先ほどの転生の間には『精神安定魔法』が掛かっているのは覚えているだろうか?
かって転生直後のケンジもお世話になった魔法である。
アケラは今そのお陰で驚くほど冷静である。
(なるほど、先代の知識とはこういう事か。そして神より授かりしこの『力』。
今使わずしてどこで使う。)
「...フフッ」
少し微笑むと剣を力強く握り、顔の横に水平に構える。
「...参るっ!!」
◇ ◇ ◇ ◇
「と、まぁこんな感じで今に至る、生憎授かったスキルを直ぐに使いこなせずに左手を食われてしまったがね。」
「そ、そんな軽々しく...」
自分と似たような境遇の人に出会えた喜び半分、その衝撃な体験に驚愕が半分といったところだ。
アケラはこの世界の人物なので正確にはケンジとは違うが、同じヨヴィを知るものとして、おのずと親近感が湧く。
「あのっ、自分はこの世界の人間では無いですが、今後の余生はこの世で過ごすつもりです!ゆっくりと農業をしたいと思っています...ですので...。」
「あぁ、分かっているよ。君の事は誰にも言わないよ、こちらにメリットも無いしね。
ついでだが、私の事も他言厳禁でな、おそらくこのマジックアイテムの事を知るのは当事者のみだろうから。」
「ですね、そんな事広まれば力欲しさに『騎士の心』を乱用する人も出て来ると思います、ポイントによりますが転生やスキルを手に入れる事が出来ますから。」
と、だいぶ打ち解けてきたと思った矢先に、
会議室の扉が開かれた。
「おや?領主様、ケンジ殿、お早いですな。」
入ってきたのはギルドマスターのダロラン
(そう言えば、さっきの顔合わせの時に後から会議室で今後の方針を決めると言っていたな。)
「あ、ダロランさん...」
「む、そろそろ会議するのか。」
「はい、今後の方針を決める為にギルド職員一同と領主様でお話を、と。
ケンジ殿とお話しの最中でしたかな?」
「いや、王国の方でも何件か行方不明者が居てな、ケンジもその内の1人かと思ったのだが、違った様なので良い。」
「なるほど、王国騎士団も大変ですな。」
「ふっ、もう元、騎士だがな。
さて、会議をしようか、入って来てくれ。」
◇ ◇ ◇ ◇
「えー、では、ギルド職員のマッシが欠席ではありますが、特に支障は無いので会議を始めさせていただきます。」
(マッシさん、出会った事ないけど扱いが雑だな。どんな人だろ。)
「進行を務めさせていただきます、事務局長のリガ・アルヘオと申します、よろしくお願いします。」
軽く拍手が起こる、会議室には
ギルドマスター、ダロラン
受付嬢、ミリア
事務局長、リガ
領主、アケラとその侍女のメメ
新人職員、ケンジ
この6人で会議を行う、バーテンダーのジギさんは基本ギルド事務に関わりを持たないので不参加。
「えーっと、ではですね。今後の方針を決める前に村の名前を決めたいと思います。
今まで『北の村』や『廃村』呼ばりされてましたので、領主様が着任したこのタイミングでハッキリ決めてしまいたいと思います。」
(あ、この村、名前無かったんだ。)
ケンジは村に到着してから一度も村の名前を聞かなかった事もあるが、そもそも大戦の際に集まったキャラバン(商人の一団の事)から発展したものなので今まで正式な名前は無かったのだ。
「私はシンプルに『北の村』でも良いと思います、ここはゴルド王国でも最北端に位置する村ですので分かりやすいです。」
「リガ君、それも良いがいささか安直過ぎないかね?ここは新しく着任した領主殿の名前、『アケラ村』が良いと思うのだが。」
「あっ、あの、ギルドマスターの案も良いのですが、ここは魔王国領土とも近い土地、ここから魔王国との交流などをゆくゆくはすると思います。
なので願いを込めて『平和村』とかどうでしょう?」
リガ、ダロラン、ミリアが続々と案を出す。
わちゃわちゃと話し合いが始まった。
「ケンジ、君はどう思う?」
いきなり白羽の矢がアケラから放たれた。
「えっ!僕の意見ですか!?」
「うん、君の意見も聞きたい、まずは全員の意見を聞きたいからね。」
(うーん、村の名前かぁ。日本だと土地の特徴や昔の大名の名前がそのまま残ったりするよな。
そうなると『アケラ村』がしっくりくる気もするよな...)
「そうですね、個人的にはアケラ村を推したい所ですが...シンプルな北の村も捨てがたいですね。」
「そうか、良し、『アケラ村』にしよう。」
「「「え?」」」
あまりにも早い決断に侍女のメメ以外一同声を上げた。
「なんだ?不満か?私は領主だぞ、なら私の名前の村で良い。決まりだ、次の議題を出してくれ。」
「あ、はい。」
領主がそう言ってしまうとそうなってしまうのだ、誰も口出しできる訳が無い。
実際自分の案がすんなり通ったダロランは満足顔だし、ミリアやリガは少し不満そうだが領主が決めた事に文句は無かった。
「っと、では村の名前は『アケラ村』となりました、後ほど書類を本国に送ります。
次の議題は今後の主な方針と役割です。」
「それについては私から話すとしましょう。」
ダロランが席を立ち話し始める、同時にリガは席に座る。
「えー、今いるギルド職員はそのまま職務を継続します。
リガ君は事務、主に依頼や冒険者の管理を。
ミリア君は受付と事務補佐を。
マッシ君は村周辺と警備と調査、それと物資調達を。
ギジ君はそのまま飲食提供をしてもらいます。
そして、新しく入ったケンジ君についてですが...。」
心臓がドキドキする、入社式の様なものだ。
自分は農業系の会社などとしか関わりが無かったが、農業以外の事を任されたら出来る気がしない。
どうしよう、モンスターや賊を相手にする仕事に着かされたら!!
「...彼は農の才に長けています、領主殿もご覧になられたと思われますが、このギルドの植木や花は全て彼1人がたった半日で仕上げたものです。」
(!!)
「ほぉ、半日で...」
チラリとアケラがこちらを見る。
(見ないで〜。)
「彼は荒れた地を緑に変えることができると、私は確信しております、ここはかっての戦でかなり荒れ果てた農地が放置されております。
いかがでしょう、彼にこの地の農業を任せてみるのは。
実際本人の口からも『農業には自信がある』とも聞いております。」
「口挟み失礼、私からも推奨させていただきたいです。
最初、素性も知らない青年が来た時は、無理難題を押し付け、追い返そうと思ってました。」
(え?リガさんそんな事思っていたの?)
唐突なカミングアウトに少しショックを受ける。
「しかし彼はその無理難題を私が思っていた何倍ものスピードで、しかも美しく庭を仕上げました。
この才は捨て置くには勿体無いと思います。
どうか、彼に任せていただきたく思います。」
(リガさん...)
「私は最初から只者では無いと思ってましたよ!!」
(ミリアさん物事を言うタイミング悪いな。)
「ん、わかった。承諾しよう、ケンジにはアケラ村の農作物生産と土壌改良の件を任せよう。
期待してるぞ。」
アケラは目を見て微笑む。
「あ、ありがとうございます!!」
ケンジは少し恥ずかしながらも異世界に来てはじめての役割に胸を躍らせたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「では、以上を持ちまして、アケラ村会議を終わります。
お疲れ様でした。」
皆それぞれ席を立ち、業務に戻ってゆく。
「ケンジ君。」
ダロランから声がかかる。
「あ、よかったですこちらもお話がありまして。」
こちらからも、今後のことや具体的に何をすれば良いのか分かっていなかったので尋ねたかったのだ。
「今後の事かな?それなら私も同じ用件だよ、とりあえず、歩きながら話そう。」
2人で歩きながら話を続ける。
「つまり、荒廃農地(長年人の手が入らず、客観的に農作物栽培が不可な農地)があるわけで、課題はその農地を作物が育てられるようにしたいわけですね。」
「左様、今この村には商人や放浪の冒険者しかいない、ゆくゆくは定住者を増やしていきたい、そうなると食糧問題が出て来る。」
「なるほど、この村も発展してゆく必要がありますしね、教会のシスターもこの村の発展には協力的でしたよ。」
「おぉ、シスターと知り合いか。彼女は唯一のこの村出身の子だ。
昔、村に人が住んでいた時に生まれた子でな。」
(そう言えば、ラシさんはこの村が故郷といってたかな?)
「彼女はこの村で生まれ、王国で育ち、修道女修行をした者だ。
少しは国の地理にも詳しいだろう、聞いてみるといい。」
「了解しました。」
(少しどころか、大学教授バリの熱弁してましたよ...)
「あと、重ね重ね悪いのだが、村を出て少し行ったら焚き火がしてあると思う。
その周辺にマッシ君が居ると思うので今回の会議結果の書類などを渡してきてほしい。」
そう言うと、冊子を渡された。
どうやら野外活動をしている職員に届け物をしてほしいらしい。
「あの、マッシさんって方はなんのお仕事されてるんですか?」
「彼は周辺地域の調査だよ、魔物や採取出来る物の調査、あとは地図の作成だね。」
「はぁ、なるほど。
調査があるのであまり村に帰ってこないんですね。」
「そうゆう事だね、まぁ、とりあえずはみんなに情報共有をして来ることが正式な初仕事かな。」
「了解しました、では行ってきます。」
◇ ◇ ◇ ◇
「この村に来る時の焚き火はマッシさんのものだったのか。」
村から出て街道をしばらく歩くと焚き火後とキャンプ地のようなものが見えてきた。
簡易テントに焚き火痕、近くに人影らしきものはなかったので、もしかすると仕事から帰ってきてないのかも知れない。
「周辺の地域の偵察と地図作成と言っていたかな?
となると森とか?」
ちょうど近くに森があるのだ、マッシさんはそこにいる可能性が高い。
(しかし、右も左も分からない奴が森に入るなんて自殺行為だし、すれ違う可能性だってある。
魔物がいるのか分からないけど、ドラゴンが居るんだから魔物だっているだろう。)
そんなわけでキャンプ地で待つことにした。
ただ待つだけも悪いので周囲の小枝を集めたり、草抜きをして待つことにしていた。
「おい、何してる。」
「はっ!!」
抜いた草を一箇所に集めたところ、良い感じのベッドのようになったので寝てしまっていた。
「これは...お前さんがやったのか?」
周囲の草を抜いたせいで、焚き火跡を中心に半径3mほどの綺麗な円状に平らな土地が広がっていた。
分かりやすいならグラウンドの様な地面になっていた。
「あ、いや、すいません、荒らすつもりはなくて!!」
「ああ、いいよ。むしろすっきりして良い、君は誰かな?」
「私はアケラ村のギルドから来ました、ケンジと言います。ダロランさんから資料預かってます。」
「アケラ村?村の名前が決まったのか、ん、資料をもらおうか。」
「どうぞ、マッシさんですかね?」
「...そうだ、君は農業担当者か。
よし、あらかた理解した。
俺はマッシ、この地域の森林や土地の警備などをしてる。」
背丈は180ほどある男で30代くらいの人物だ、赤髪に少し生えた顎髭。
鋭い目つきだが、声色からしたら優しい人物だと思われる。
マッシは手を差し出す
「改めて、私はケンジと言います、よろしくお願いします。」
2人は握手をする。
「農業担当とは思えない綺麗な手だな。」
転生したので身体は若い男性の体になったケンジの手は、まだ労働者の手になっていなかった。
「あはは、じつは事務作業しかしたことなくて、知識は有りますよ!」
(そうゆう事にしとこう。)
「なるほどな、よしそれじゃ村に戻ろう。森と周辺の調査が大体終わった所だ、報告せねばならん。」
「分かりました、では一度戻りましょうか。森や土地のお話を聞きたいので歩きながら質問しても?」
「いいぞ、なんでも聞け。」
こうしてアケラ村に全ての職員が集まることになった。
投稿遅れました(汗
本業の農家が秋の収穫シーズンに入り多忙です、今後も少し遅れますので月一の更新になると思います。
冬は更新頻度上がります!作物無いので!!
もう少し本文ながいほうがいいのかな…。