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領主アケラ・グラディウス

「っと、ドラゴンを前に勇敢に立ち向かう英雄、それこそが今のここの領主アケラ・グラディウス様なのです」


「ほぇ〜。」


村が最近出来たと言うよりかは、前からあった土地が領主が一変したことにより、改めて新しく作り直そうと言う話らしいのだが。

ラシが語った話の内容の9割は新領主の武勇伝だった。

「つまり今新しい領主って事は、そのあとドラゴンに勝ったって事ですか?」


「そうなんです!かなりの深傷を負いながらも、見事ドラゴンを倒し、ゴルド国王にその実績を認められ、この領土の主権を得たんです!!」


ラシは興奮気味に話す、手を忙しく動かし、その勇姿を見たかったなどと盛り上がっている。


「って事は、この村はまだ出来たてで、名前も無ければ住民も少ないと。」


曰く、市場などの人はほとんど商人と移住を考え偵察に来た人で、滞在している者は前から村に住んでいた古参の人々のみらしい。

ラシもそのうちの1人である。


「昔は戦争があり、その補給地区としてこの辺りは栄えてました、冒険者も沢山来ました、この村の規模であの立派なギルドがあるのはその名残です。

戦争が終わった後はどんどん廃れてゆき、ほぼ廃村になっていたところにきていただいた感じですね。」


「なるほど...」


「でも!ココからですよ!!今は新しい領主様の元で村もだんだん人が増えてます!!

ケンジさんもそのうちの1人です!

この村の発展のためなら!私!なんでもやるつもりですよ!

目標はこの村を大きな町にする事です!

ぜひケンジさんもご協力下さい!」


ざっくりとした目標、『農業をやりたい』としか思っていなかったが町を作る、という大きな目標があると聞かされたケンジは心を躍らせた。

(この世界に来て何すれば良いか分からなかったけど、大きな目標を持つのも良いかもしれない。)

「ぜひ、その町作り僕も関わらせていただきたい。私の得意分野は農作、きっと大きく町に貢献できると思います!」


「本当ですか!ぜひぜひ!私共でこの村を発展させて行きましょう!」


バァン!!!!


勢いよく協会の扉が開かれる

「ケンジ!ここに居たか!」


入って来たのはギルド職員のリガ、眉間にシワを寄せながらこちらに歩いてくる。

「おい!帰るぞ、任務ができた。」


「え、あっはい。」


「おやおや?聖なる家に虫が入り込んできましたね。」


「あん?汚ねえ修道女が何言ってる?...うちのに変なこと吹き込んでないだろうなぁ!?」


とても険悪な空気に包まれる。


「おいケンジ!帰るぞ!」

腕を引かれ引きずられるような形で教会をでる。

「ケンジさ〜ん、また来てくださいね!」


「あ、あの。」


「なんだ、言っとくが教会と関わるとろくなことが無いぞ。」


「え?」

宗教的な問題か?それとも種族的な奴かもしれない、リガ・アルヘオは黒肌のエルフ、いわゆるダークエルフだ

教会はもしかしたら人種以外はよく思わないのかも知れない。


「まぁ、そうか記憶喪失か、仕方ないな。」


「すみません、何から何まで...」

教会からギルドまでの道をリガと教会の歴史を勉強しながら歩く。


◇ ◇ ◇ ◇


「なるほど?つまり教会は一つの国として扱う感じですか?」


「お前はほんと話しやすくて助かる。」


教会は双子の王の戦、その時から存在する。

正確には光の王ゴルド・オーラン側の勢力になる、教会は光の王を崇拝し、闇の王を嫌悪する。

過去の話だが、闇の王の勢力の中にダークエルフが居た。

その事もありダークエルフは教会からすると過去の敵になる。

今はゴルド国王と魔王国との同盟が続いており、民の敵対意識も段々と過去の話として認知されてゆき

今ではダークエルフなどと呼ばず、主な出身地の山岳地帯から名を取り山エルフなどと呼ばれてる。


「ダークエルフって呼び方は差別的になるんですね。」


「そうだ、未だに敵対視してる教会の人間や信者はダークエルフと呼んでくるがな、まぁ、私は気にせん。」


(なるほど、この世もやはり宗教問題と差別などの問題があるんだな、どこも変わらないな。)


「まぁ、差別的だけならまだマシだが、裏の仕事や規模がヤバいんだよ。」


リガ曰く、戦争の際に暗躍したのは教会暗部の者たちだ。

情報をいち早く味方陣地に持ち帰り、負傷者を治療し、敵を暗殺する。

教会は人類の為ならなんでもやると言ったスタンスで規模を拡大し、今や魔王国以外は教会の手が回ってると思っても良い。

無論、この名もなき村もその対象である

ゴルド国と魔王国との国境近くのこの村は、教会が活躍する最前線に近かった。


しかし当時はこの村も栄えたが、今では用済みとなり廃村まっしぐらであった。


そんな時にドラゴン殺しの英雄の誕生と共にこの領土も復活の兆しが見えた。

と、大体の流れはこんな感じである。


「まぁ、教会としては手を広げたいからこの村の発展に力を入れるのは本当の事だろう。」


「僕も、手伝おうと思ってます!」


「うん、まぁ、悪いことでは無いんだがなぁ。あまり教会側にどっぷり浸かると後々面倒ごとに巻き込まれやすいから気をつけてな。」


(リガさんは過去のことから教会に苦手意識があるんだろうな、面倒ごとはこっちも願い下げだから、あんまりお世話になりすぎるのも良く無いな。)

「ところで任務って何です?」


「そうだった、領主さんがこの村に来られるらしい。」



◇ ◇ ◇ ◇



領主、アケラ・グラディウス。


元騎士団隊長であり、竜殺しの英雄である。

竜を倒した後の彼女は悲惨な目に遭った、まず先の戦いで負った傷が酷いものだったのだ。


左手を食われ、腹の骨は折れ、全身に酷い打撲跡、1ヶ月は動けなかった。


ドラゴンを倒せたのは奇跡とも言えた、先に死んだ仲間達がかなり体力を削ってくれていたのだ。

最後の力を振り絞った突きは、見事に竜の心臓に到達した

その際に噛み付かれ左手を失った。


これだけでも十分悲惨だが、その後も災難は続いた。

まず荷物が破損してしまったこと、その事についての責任を問われた。

そして多くの仲間を殉職させてしまったこと、逃げる手もあったのでは無いかと問われた。


さらには『日頃の偵察が甘いからドラゴンを見落としていた』

『最初から『騎士の心』を使用していたら被害は最小限だったのでは?』

など、第三者が批判してきたのだ、中には国の大臣や貴族などからも責任を問われ、非常に立場が危うくなった。


そこで国王からの鶴の一声。

「北の地の廃領土の管理と、その周辺村の復興、復興した暁には税を納める事。」


これが王として精一杯の事だった

領土を与えるのは竜殺しの褒美

北の廃領土に飛ばすのは今回の件の罰として。

どちらとも取れる提案だ。


このことが可決したのはアケラが目覚めてから1ヶ月のことだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「お身体の方は(さわり)ないですか?」

「あぁ、ありがとう。何ともないよ、まだ骨は痛むがね。」


北の地の田舎道を少し良い作りの馬車が通る。

中にはアケラとその侍女【メメ】アケラが本国から持ち出しを許された数少ない中の侍女、つまりメイドである。

「にしても、ど田舎ですねココ。本国から3日かかるし、田舎すぎて魔物も全然いない。」


「いいじゃないか、平和で。私の余生を過ごすにはピッタリだ。」

アケラは少し卑屈になっていた。

無理もない、一生を捧げるつもりでいた騎士団を追い出され、国にも居れず、追い出されるかの様に領土を復興しろと言われたのだ。


「まぁまぁ、アケラ様、そんな暗いこと言わないで下さいよ!昔は結構栄えた村があるらしいですから!

まずはそこに行き、新領主として!どでかい町を作りましょうよ!」


「ふっ、隻腕の役立たず領主か...」


「…も、もぅ〜アケラ様〜!!」

メメとしては苦笑いするしか無かった。



◇ ◇ ◇ ◇



同時刻、村のギルドにて。

「えー、では最終確認としてマッシ君以外は全員ギルドの正面玄関で整列してくれ、マッシ君は戻って来れないらしい。」


ギルドのホールでマスターのダロランが点呼と領主への挨拶の練習をしていた。


「ミリア、ネクタイが曲がってるぞ。」


「リガさんも埃ついてますよ。」


皆も身だしなみを整えて新しい領主を迎える準備をしていた。

ケンジもギルド支給のギルド服を着させてもらった。

黒と緑の落ち着いた色で、ところどころに黄色のポイントがついてる、見た目はスーツであるが、動きやすい作りになっている。

(異世界の服か、かなり上質だなサラサラしてるし、この服が作れるくらいなら割と文明レベルは高いのかな?)


そんなことを思っていると、先程、領主がこちらに到着すると連絡があった、馬に乗った従者の人の伝言であと1時間以内に着くそうな。

ある程度準備は終わった状態だったので従者の人とお話しをしとく事にした。


「はじめまして、つい最近雇われましたケンジと言います、よろしくお願いします。」


「あっこれはどうもご丁寧に、私はアケラ様の従者の1人です、名前はありませんのでお好きにお呼びください。」


「え?お名前が…」


「ケンジ」

後ろからリガが声を掛ける。


「説明してやろう、領主やある程度の貴族階級になると義務として奴隷を所有しなければならない、恐らくそのうちの1人だろう。」


(なるほど奴隷階級...実際にあるのか...)

「なるほど、分かりました。すみません記憶喪失を患っていまして...」


「いえいえ!お気になさらず。大変ですね、記憶喪失とは...あ、来られました、アケラ様の馬車です。」

(記憶喪失設定めちゃくちゃ便利だな。)


そうケンジが思っていると、村の外れの道に馬車が走ってくるのを見れた

村の周囲は林と森があり、石垣などで多少の道の整備などがされているが、やはり人手不足と長年の放置によりガタが来てる。


今この村に滞在しているのはギルド職員と教会のシスター、廃村になる前に住んでいたが、戻ってきた住民

あとは新しい村ができると聞いてめざとくやってきた商人とその噂を聞いた旅人や冒険者などだ。

つまりはまだ村としてはほぼ機能していない。


ケンジが初日に訪れた市場だってここ数週間だけの話だ、新しい領主を一目見たらある程度は少し離れたところにある町に戻るらしい。


(ダロランさんやリガさんに聞いた感じだと、ラシさんの言う『町にする』ってのはかなり難しいんだろうな。

第二の人生だし、のんびり出来たら良いな。)


そうこう考えていると目の前に馬車が到着した。

扉が開く。

先に出てきたのは先程会話した従者の人と同じ格好の人、いや、少し違うが豪華な黒と白のメイド服。

馬車の荷台に収納されていた足場を出し、馬車から降りやすいようにセッティングする。


そして降りてきたのは...

左手のない隻腕の領主。

落ち着いた赤のスーツで色だけで見ると派手に見えるが、全体を通すと黒や白の刺繍などが丁寧に施されており、派手さが無い。


顔もこれまた美形で、リガのようなツンとしたエルフ顔とはまた違うキリッとした感じの。

いわゆる戦士顔、隙のない目をしている。


その目はゆっくりとギルド職員を見渡すと、ケンジを捉えた。

(...?)

目を逸らすのは無礼だと思い目を逸らせなかった。

しばらく見つめ合う2人。


「この度は新たなる領主をお迎えすることができ、我々ギルド職員一同、感極まる思いでございます。

改めまして、ようこそお越しくださいました、領主アケラ・グラディウス様。」

ギルドマスターのダロランがお辞儀をすると職員一同礼をする。

ケンジも合わせて礼をする


「あぁ、頭を上げてくれ。

改めて挨拶しよう、この度領主として参じたアケラ・グラディウスと申します。

つい半年前まで国の騎士団隊長を務めていた、領主になったからにはこの村、いや、この地をより良く住みやすくすることを誓おう。

そのためには君達の力が必要となる、どうかその力を貸してほしい。」


さすが、とケンジは思った。

騎士団の隊長を務めるだけあってこちら側の心を掴むのが上手い。

これがカリスマ力って奴かな?

顔を合わせて数秒でかなりの信頼を寄せるほどに。


「ありがたいお言葉、我々ギルド一同、惜しむ事なくこの力をこの領土の為に使わせていただきます。」


「うむ、よろしく頼みたい。」


と、こんな感じ

先ほどからチラチラとこちらを盗み見る形で見てくるアケラさんを除けば何も無い紹介だった。


◇ ◇ ◇ ◇


「少しいいかな?」

皆、一旦解散して夕方に今後の方針を決める会議をする方向で話終わった後に、アケラから声が掛かった。


「少し気になることがあってな、着いてきてくれるか?」


「...?はい。」

初対面だし、無礼をしたつもりもない。

リガにアイコンタクトを送るが首を振られた、素直に従えとの事だろう。



「ケンジさん、何かやらかしました?」

ミリアがリガに尋ねるが。

「いや、分からん。もしかするとケンジの記憶を無くす前に面識があったのかも知れん。」

「厄介ごとじゃないと良いのですが...」



ギルドの一階奥の部屋、ギルドマスター室の隣には少し大きめの会議室がある。

そこにいるのはケンジとアケラ。


「さて、急に呼びつけてすまない。」


「い、いえ!して、気になる事とは何でしょう...私、実は記憶喪失でして...」

あくまで相手が国王だろうが魔王だろうが転生者とは名乗らないつもりだ。


「なるほど?記憶喪失か。うまいこと考えたな。」


「へ?」


「君、異世界人だろ。」


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