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収穫

ゴルド王国は夜になるとほとんど静まり返る。


しかしある通りだけが夜も明るい。

飲み屋通りである。


「本当に先ほどはありがとうございました。」


「いやいやいいよ、ああいうややこしい話しは慣れるしかないよな。」


飲み屋の角、丸いテーブルの上に額を押しつけ深々と謝罪するポルン。


先ほどの失言を謝罪する言葉を述べていた。


白服として仕事をしてはいけない今回の任務、だが報告の際にポルンは白服として報告してしまいそうになっていた。


下手すれば処刑の可能性もある大失態である。


「でも大丈夫、しばらくは動かなくていいかな、いや動けないが正しいかも。」


「?」


「魔族が裏に居た事が明確になった訳だけど、今の状況だと動きすぎると向こうの警戒を高めてしまうかな。

下手すればまた戦争になる、ここは慎重に情報を集めるのと情報が出ないようにしないとね。」


「なんだか、慣れてますねバラモさん。」


「あの戦争を経験しているからね、新しい白服たちはこれを機に経験してほしいな。

昔ほどドロドロしてないし血も流れないだろうから。」


「…血が流れそうですか。」


「うーん、向こうの出方次第だよね。

両国とも軍はないけどそれに相当する力はあるからな。」


「それは…。」


「まぁ!あとは上が考える事!今日は後輩のお金で飲もうかな!!」


「ほ、ほどほどにお願いします。」


その後

大樽を1本丸々消耗したバラモは上機嫌になり、ポルンは予想外の出費に涙した。



◇     ◇     ◇



「お邪魔するよ。」


教会の敷地から少し離れたところにある研究棟、厳重な扉を開けると強烈な薬品の匂いが鼻腔をつく。


「来たか。」


奥から少し高い男の声が聞こえる、今にも崩れそうな本や調薬器具などの間を縫い声の主の所まで歩く。


「ルーシー、また面白いことをしてるな。」


眼鏡をかけた白い肌のエルフが顔をのぞかせた。


「ダミス、何かわかった?」


白い髪に白い肌、とんがった長い耳から森エルフだと分かる。

肩まで切りそろえた髪はさらりと動き、妖艶な雰囲気を漂わせる。


「バラモの皮膚から採取したサンプルだが、非常に興味深い。

4種類の神経毒のほか、炎症を引き起こすのと致死性の高いものもあった。

バラモでよかったな、他の奴なら死んでたぞ。」


「それは何より、でもそれだけじゃないでしょ?」


「あぁ、聞きたいことかある。

これらの毒は冒険者なりたてでも知ってる有名な猛毒だ、だが…お前にも分かりやすく説明するならAの猛毒とBの猛毒は調合すると中和して無毒になってしまう。

私が知りたいのはこの調合方法だ、なにかバラモからヒントとなる様な事を聞いてないか?」


「あ~、トカゲの様な魔族にで吐かれたと言っていたな。」


「ん?吐く?ブレスか……なるほど。」


ダミスは眼鏡を押し上げ深く考え込む。


「いや…魔族なら可能か。」


立ち上がり黒板に勢いよく図を書いてゆく。


「ブレスで代表的な生き物と言えばドラゴンだ、そしてそのブレスも種によっていくつかの方法に分かれる、魔法で吐く奴もいるが恐らくは油を吐くタイプが分かりやすいだろう。

燃料である油を貯める臓器がある種は、油袋と着火する火打石のような歯でブレスを吐く。」


「ふむ、つまりはこの構造をした魔族が居て、油の代わりに毒物を蓄えていたと?」


「あくまで可能性の話だな…知ってるか?牛や羊は胃が4つあるらしい、消化効率を高めるためにな。

ここで先ほどの油袋の様にブレス用の袋が4つあったとしたらこの猛毒も納得がいく。」


猛毒どうしは組み合わせにより効果がなくなる、しかしそれは調合後数分後の話であり、調合直後はまだ効果は出る。


「へぇ、つまり毒袋を4つ以上持ってる魔族が器用に同時に吐くと?」


「瞬間的だが世界最強の猛毒ブレスの完成だ。」


黒板に難解な毒物の名前を書き綴りチョークを置く。


「先ほどトカゲのような魔族といったな?

トカゲか…バラモに詳細…あいつは戦闘と酒以外の興味が薄いからな、分からんか。」


「気になる事が?」


「もしかしたらトカゲではなくドラゴンかもしれんな…。」


「…ドラゴンか、最近やたらと聞くな。」


「まぁ、俺は管轄外だな、あとはお前が調べろ。」


「たまには動かない?」


「『不動』の俺に動けというか。」


「はいはい、また調べときますよ。」


「そのトカゲ魔族の死体が手に入ったらもってこい、調べてみたい。」


やれやれといった困り顔で研究棟を後にしたルーシー、おおよそ200年近い付き合いだが未だに彼の頭の仲が分からない。


長命種で他種族と交流する者は変わり者が多いと言うが、彼はその筆頭だろう。


森を捨て、家を捨て、人の国に属する。

そんな変わり者である彼はその貢献が認められ、異例の男性の白服としてその地位に就いた。


白服序列2位

『不動』ダミス




◇     ◇     ◇     ◇     ◇





魔王国特製カレンダーが11月のページになった。


「いやぁ、ドキドキだな。」


日が昇っても少し肌寒いが今日はいよいよジャガイモの収穫だ。


株の葉が少し黄色がかってきており、丁度良い時期だ。


手伝ってくれた村人の子供や知り合いも呼んで、過去最高人数が畑に集まっていた。


木箱を等間隔で並べ、いよいよ収穫が始まる。


「今日は集まって頂きありがとうございます、では手順を説明しますね。」


ジャガイモの収穫は簡単だ。

株を掴み揺らしながら引き抜く、この際周りの土をほぐしながらする。


そして収穫後は周囲の土を掘り起こし取り忘れがないかを確認する。


「基本的にはこの流れで大丈夫です、収穫したジャガイモは箱に入れたら倉庫に運んでください、日の光に当てると緑色になって皆さんの良く知る毒が発生します。」


うんうんと頷き話を聞く農民たち、その眼差しは今から収穫するジャガイモが楽しみで仕方ないといった思いが見て取れる。


「ではお願いします!!」


こうして初めてアケラ村でジャガイモの収穫が始まった。


ケンジは手始めに畝の端から収穫を始めた。


だが収穫出来たジャガイモはある意味ケンジの予想通りの出来だった。


「うん、ちいさいね。」


収穫されたジャガイモは小ぶりで、種芋に使った芋より一回り小さかった。


「うーん、やっぱり栄養不足だよな。」


畑は耕しただけで、肥料などはいっさいやっていない。


「どうだ?」


リガが横から顔をのぞかせる。


「そうですね、大体予想通りのサイズですね。

大きな病気などもなく、虫食いもたいした被害もなかったです。」


未知の病気や虫の被害を恐れていたが、杞憂に終わった。


「まだまだ改良の余地がありますし、ジャガイモは今の季節より春の季節に植える方が大きく育つので…次回はより良く出来ると思います。」


「そうか、それは良かった。

みんな収穫を楽しんでいる、また魔王国へ納品する分もこの感じだと大丈夫そうだな。」


「木箱で言うと5箱分です?」


「そうだな、通常なら5箱じゃ全然足りんだろう。

魔王国は物質より繋がりが欲しかったんだろうな。」


「なるほど。」


「アケラ村で安定した農業ができるようになればこの村も発展する、もしかしたらそのうち魔王国と貿易を行う貿易都市になるかもな。」


「それは夢がありますね。」


同じ畝でジャガイモを収穫しながら雑談をする。

だが村人が総出で収穫をしているためすぐに終わってしまった。


どうやら畝の端側が主に小さかったらしく、畑の中央あたりのジャガイモはこぶし大の大きさの物が収穫できていた。


「なぁ、そういえばエルフの国へ行くんだって?」


「えぇそうです、セティさん同伴で見学ができたらなと。」


「そうか、土産は要らんぞ。」


「そうですか?なにか買ってこようとは思ってましたが…。」


「森エルフの土産はなぁ…味が薄いというか、素材の味というか。

あと肉も食わないからな…山エルフと生態がかなり違うんだよ、信仰も違うからな。」


「分かりました、その分しっかりアケラ村に貢献できるように勉強してきますね。」


こうしてジャガイモの収穫が終わり、計30ケースもの量のジャガイモが収穫ができた。



「皆さんお疲れさまでした!!おかげさまですごく早く終わりました!!」


倉庫の前で村人が集まり皆そわそわしている。


リガが前に出て住民名簿を片手に声を上げる。


「では今より家庭ごとに配布を行う!!一列になって順番を待ってほしい。」


村人らは待ってましたと言わんばかりに素早く喧嘩せずに列をなす。


本来ならばアケラ村から村認定の商人に卸し、そこから村人へと販売するといった形だ。

しかし今回は村人が総出で水やりや草引き、見回りや土寄せなどを行い栽培したものになる、故に一家族当たりへの報酬として袋に詰めた約20キロほどを配ることになっていた。


「ご苦労様です。」


「ありがとうございます。」


「風通りの良い日陰に保管して、1~2日経ったら食べれますが14日程熟成させてから食べるのもいいですよ。」


「分かりました、試してみます。」


アケラ村の住民は最近少しずつ増えている、まだまだ空き家が目立つが着実に人口は増えている。


ゴルド王国は税金が高いことでも有名だ、アケラ村も税はあるが王都みたいな高額ではないので住みやすいとの事で移住してくる者が多いのだ。


「だいぶ住民も増えましたよね。」


「そうだな、冒険者の数はまだ少ないがな。

辺境の地だからこそ静かなところで過ごしたいと思ってる人が多い、あとは訳アリだな。」


「訳アリ?」


「村に来た人物はすべて把握している、今住んでいる者はすべて調べている。

その中には犯罪者ももちろんいるさ。」


「え?それはどう…。」


「もちろん捕まえてるさ、まぁ教会に回してるがな。

そのうち余裕が出来てきたら警備団などの組織を編成してもいいかもしれんな。」


現在アケラ村には警備員などの人員はおらず、犯罪者に対して心細い警備だ。


「ありがたいことに白服が居てくれてるからまだ良いが、これ以上増えてくると人手が足らなくなる…そろそろ領主館が完成するらしいから、それが終われば詰所でも作ってもらうか。」


「あ、領主館そろそろ完成するんですね。」


「配り終わったら見に行ってみるといい。」


領主館が完成するとアケラの住居になるだけでなく、今までギルドで行っていた村の業務や外交などは領主館で行われる予定だ。


もちろん業務はアケラとメイドのメメだけでは不可能なので何人か人を雇うだろう。


願わくばギルド職員も数を増やして欲しいところだ、現在はまだ足りてるがそのうちミリアだけでは受付窓口がすぐに限界を迎える。


王都のギルドでは受付嬢だけでも10人程で対応している。


「もっとギルドに人が来てほしいですね。」


「そうだな…もっと魔王国との連携が取れれば魔王国側でも冒険者が活動できる機会が生まれると思うが。

近くにダンジョンでもあればな。」


「ダンジョン!?ダンジョンって存在するんですか?」





ダンジョン


正確には戦時中に作られた地下洞窟やドワーフの根城に魔物が住み着いたものを皆そう呼ぶ。


昔、戦時中敵から鹵獲した武器や財宝などが隠されてるというウワサが立った。

その時にダンジョン攻略と言ってギルドが宣伝を行い一時期大ブームになった、各地から冒険者やドワーフが集まり血眼になって探した。


だがいくら探索してもそれらしき物は出なかった。

皆が諦め、ダンジョンブームが少し冷めてきた頃…ある一報が王都を駆け巡った。


『奇跡の宝剣発掘!!田舎出身の冒険者が一攫千金!!』


その宝剣は見事な装飾で宝石がちりばめられており、それ一つで土地が一つ買えるほど見事なものだった。

更にその価値を高めたのがその剣に付与された『奇跡』の力である。


奇跡の力がある武器は全奇跡の中でも少ない。


発見された剣には「魔法の威力を増幅させる」といった奇跡が付与されていた。

初級魔法を使えば中級魔法に、魔力の少ないものでも威力のある魔法が撃てるといった代物だった。


発見されたという話は風よりも早く全国を駆け巡った。

発見されたジュゲ大山脈の麓には大勢の冒険者が集まり、小さな集落が出来た。


この事からわかるように、未知のダンジョンが発見されるという事はその周辺が栄える事を意味する。




「っていう事があってだな、この村の北に位置する黒王樹の森はまだ本格調査がまだなんだ。

もしかしたらまだ未発見のダンジョンがあるかもしれない…もともとここら辺は最前線だったんだ、地下洞窟があっても不思議ではない。」


「夢がありますね!!」


「だがその地下洞窟が魔王国側と繋がっていたら面倒くさい事になる…発見された場所によって所有権が変わるからな。

その話が進めれば良いな。」


「な、なるほど、ややこしい話しになりそうですね。」


ケンジは権利や土地などのややこしい話は極力参加したくない、この世界の事に詳しくない者が口を挟むと禄でもないことになるからだ。


ただでさえ教会の監視の元で過ごしてるのだ、これ以上厄介事に巻き込まれに行く必要はない。


ただゆっくり異世界で野菜を作れたらそれでいいのだ。


「すみません!ケンジさんおられますか!?」


その時勢いよく倉庫に入ってきたのはアケラ村で牛舎などを担当しているレイリリ君だった。



◇      ◇      ◇



「急に呼び出されたときは何事かと思いましたが、なるほどそういった事が。」


レイリリ君が急いでたのは牛糞の山から煙が出たとの報告だった。


「ケンジさんに言われた通りに屋根のあるところに大きな布をかけて保存してました、周囲に火の気はなく時々水をやったりしてたのですが、今日言われた通りに混ぜたらいきなり煙が!!

湯気みたいにもわっと出てきて山自体も少し熱を帯びているんです!!」


興奮気味に話すレイリリ君だが、ケンジはその現象を知っている。


「これは『発酵』している証拠ですね。

まぁ分かりやすく言うと…自然に発生する魔法みたいなもので、熱を出すんですね。

その熱で湯気が出てるんです。」


「へぇ、魔法ですか。」


「けどその魔法は知ってる人がほぼほぼいないので皆には内緒で。」


「あぁ、聞いたことありますよ。

未発見の魔法とかを公にすると魔法学校からの圧力やらで行方不明になったり、丸め込まれたりとか…魔法学校も貴族が経営してますからプライドが高いらしいですね!!」


「あ、あぁそうだね。」

(そういう事にしておくか、にしても怖いな魔法学校。)


予想以上に早い期間で牛糞堆肥ぎゅうふんたいひの完成が見えてきた。


だがここからが長い


現代だと化学肥料や施設が整っており約2か月もあれば良質な堆肥が出来るが、ここにはそんな設備はない。


熟成して、堆肥の山をひっくり返し空気に触れさせる。

この繰り返しを半年ほど続けると理想的な肥料になる。


牛糞堆肥は完熟し乾燥すると匂いは少なくなりサラサラしたものになる。


畑に撒き、土と混ぜれば作物の栄養になり、土をふかふかにする効果も見込める。

酸性になった土地を中和させる働きもあるのでいいこと尽くしだ。


「いやぁ、ありがたいですこの肥料があれば作物の出来が非常に良くなること間違いなしです。」


「うれしいですね、こうしてお役に立てる日が来るなんて。」


「では引き続きよろしくお願いします。」


「はい!任せてください!!」


ニコっとさわやかな笑顔を作るレイリリ、今後、彼の肥料はこの村を救う起爆剤になるだろう。


「火元はどこだ!!??」


「「あ。」」


その後

大慌てで水壺を担いできたリガには報告の大事さと問題が無いなら無いで言いに来いとこっぴどく怒られた。



読んでいただき誠にありがとうございます!!


X(旧Twitter) @yozakura_nouka


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